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社会は「まぐれに支配された能力の評価」でできている

「アメリカのチップシステムは意味がない。不公平さをカバーする為の集団行動の意味を理解したいなら、チップへの誤った理解を知るのが近道だ」最近好きなThe Atranticのライター、デレック・トンプソンの最新記事。

アメリカではサービスへの対価としてチップを支払います。サービスが良ければチップも高額になるというのが”本来の”チップの意味ですが、最近はチップを支払うのは「そうしなければならないから」という集団行動に変わった、とトンプソンは指摘しています。

チップの起源はよく分かっていないようなのですが、イギリスの貴族達がホテル滞在後、余分にお金を置いて去ったのが始まりではないか、と考えられています。それがレストラン、散髪屋、靴磨きなど、アメリカ中のありとあらゆる場所で一般消費者が貴族のように感じるられるサービスを提供し始め、その対価としてチップを支払うことが浸透したようです。

チップはより良いサービスを提供し、労働者の賃金をより効率的に保証するものとして機能していると推測されていましたが、Uberの最新調査はこの推測は間違っていると結論付けました。

Uberの創設者トラビス・カラニックはUberのアプリにチップシステムを導入することに否定的でした。チップシステムはUber乗車時に心理的な”摩擦”を生み出す可能性がある、と考えいたようです。しかし、Uberの財務部長に就任したジョン・リンクはチップシステムに積極的でした。そして、創業者カラニックが2017年にUberを去ったのをきっかけに、Uberはチップシステムを導入しました。

現在、シカゴ大学で教授をしながら、Uberのコンペチター(競争相手)であるLyftで財務アドバイスをしているリンクは当時をこう振り返っています。

「チップシステムは全く納得できない、ごく僅かなデータをもとに研究されていたんだ。チップが本当はどう機能しているのかUberのチップシステムを使ってアメリカ全土で調査したんだ」

リンクは、Uberドライバー達のサービスを向上させる為にチップシステムを導入しましたが、サービス向上とチップの金額は比例しないことが判明しました。

リンクが行った調査では、まず第1に60%のドライバーが一度もチップを貰えなかったことが判りました。第2に、ドライバーのサービスに関わらず、乗客側の金銭事情でチップが左右されていることが判りました。行き先が、空港や出張など「経費精算」できる場合、乗客は自分自身のお金ではないのでチップを弾むことが判明。そして第3に若い女性ドライバーが1番チップを貰えることが判り、男女間でチップの支払い金額に多少の違いはあったものの、男性が若い女性ドライバーに支払うチップ金額が1番高かったそうです。

つまり、これら3つの要素を取り除いたものが「サービスの品質」として適正に評価されているという結果になりました。

この記事を書いたトンプソンはチップの無意味さを「チップ発祥の地ヨーロッパでは、レストランのサーバー達はチップに頼らずとも生活できるように「living wage」「生活賃金」が支払われている。アメリカはいつまでも貴族”ごっこ”をしながら、企業の在り方を見直さず、いつまでも貧困層からチップを吸い上げている。Uberの調査はチップとサービスの質はイコールでないことを示している」とし、

「様々な経済の側面がそうであるように、我々はまぐれに支配されている”何か”を説明する為に、能力に見合った報酬を貰っている、という誤った考え方を繰り返している」と記事を締めくくっています。

懐事情の厳しいミレニアル世代のトンプソンならではの着眼点と冷静な分析が面白い!

以前読んだ「日本社会のしくみ」という本の中で

人間の社会は、その社会の構成員に共有された、「習慣の束」で規定されている。遺伝子で決まっている訳でなく、古代から存在するものではないが、人々の日々の行動が蓄積され、暗黙のルールを形成する。

という一節があるのですが、日本だけでなく、どの国も出来上がってしまった「習慣の束」を壊すことは本当に難しい。それでも、できあがった「習慣の束」が万能でないことを訴え、新たな「習慣の束」を作り出す原動力がトンプソンの記事にはあるように感じます。

アメリカは貧富の差が拡大し、状況は悪化していますが、状況が変化し痛みが強くなると、すぐさまマーチしたり記事を書いたり行動を起こし「変化」を求めるのが早いのもアメリカの良いところ。ポッドキャストなどでも「変化」を求める内容が増えていて、「持続不可能な古い習慣から、持続可能な新しい習慣へ」風向きが変わりつつあるのを感じます。


Bibliography :アメリカのチップは意味がない









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