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将棋小説『宗歩の角行』(光文社)に出てくる実在の人物紹介

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新発売の将棋小説『宗歩の角行』(光文社)

は、歴史小説と時代小説の間くらいの小説で、実在の人物と非実在の人物が半々くらい出てきます。非実在の人物については本作のギミックをかなり多く含んでいるため説明はできないのですが、実在の人物もかなりの数いるので、本日は作品紹介かたがた、歴史上の人物でもある登場人物を紹介して行けたらと思っています。

十一代大橋宗桂

 天野宗歩の師匠にあたる人物で、大橋宗家、大橋分家、伊藤家のいわゆる将棋三家の筆頭、大橋本家の跡取りです。宗歩を見出した人物とされているのですが、将棋では芽が出ず、むしろ後世ではその筆まめさで知られ、『大橋家文書』という史料の幾割かはこの人の筆によるものと言います。そのおかげで幕末期の将棋家について知れていることも数多く、そういう意味では本作の陰の功労者といったところでしょうか(私信、悪し様に書いてすみませんでした)。

加藤看意

 将棋指しです。早い時期の宗歩の棋譜に登場する人物で、あまり人物像などは明らかではありません。そのため、本作においてはかなり脚色強めに書いてしまった感があります。

石本検校

 盲目の将棋指しで、この人も宗歩と数多くの激戦を繰り広げている人物です。石本検校については宗歩に黒星をつけた記録もあれば、大橋柳雪(後述)と大勝負を繰り広げたりとこの時代の将棋指しにあっては「キャラ立ちした」逸話でもって知られています。それもあってか、菊池寛が彼を主人公に小説『石本検校』を書いていたりもします。

大橋柳雪

 病で耳を悪くし、江戸を離れて上方で将棋を広めていたとされる人物です。横歩取りの研究で知られ、石本検校との大勝負(ちなみに柳雪の圧勝)で知られてもいます。宗歩はこの柳雪になついていたようで、実際に対局した記録が残っています。

宗歩最初の妻

 本作では「龍」という名前にしていますが、実際には伝わっていません。そして人となりについてもほとんど知られておらず、その死後、歩兵を象った墓を建てられたという逸話のみが彼女を知るよすがとなっています。

伊藤宗印

 最期の家元制名人として名高い人物です。明治期に入ってからもその実力は折り紙付だったらしく、なかなか平手で指す機会がなかったという逸話もあります。幕末期、実際に宗歩と対局していますし、宗歩の代名詞である「遠見の角」を引き出した相手でもあります。

大橋宗珉

 天野宗歩を巡る逸話の中でも特に有名な「宗歩吐血の一戦」の主役です。負け越していた宗珉がなんとしても宗歩に一矢報いるべく、妻と水垢離をして勝負を挑み、宗歩の失着を見逃さずに悲願の勝利を収め、その反動で寝込んでしまったという人物です。なお、負けたショックで宗歩は血を吐いたとされているのですが、この逸話をどう料理したのかは本作をご覧ください。

大橋宗珉の妻

 この人物も「宗歩吐血の一戦」の主役でしょう。夫宗珉とともに水垢離をして夫を支え、その後その一戦がもとで発狂してしまうという、壮絶な逸話が伝わる人物です。

山崎屋清七

 天野宗歩の棋書『将棋精選』を出した版元(今で言う出版社)の主として知られています。

宗歩後妻ふさ

 宗歩が江戸に戻ってきてからの妻で、子供もいましたが早世してしまったようです。この人物にもあまり逸話はありません(し、後半生、宗歩は東北を旅するようになったので、逸話が残っていないのも致し方ないのかも知れません)。

12代大橋宗金

 十一代大橋宗桂の子。明治初年に大橋宗家の家督を継ぐものの、明治期の将棋家解体、崩壊に際している。あまり棋力が高いとはいえず、それゆえに名人に選ばれることもなかったとされています。ただ、家元名人制と実力名人制の橋渡しをした人物の一人として知られています。

市川太郎松

 宗歩の一番弟子とされる人物で、今残っている宗歩の棋譜のなかでも最期の棋譜がこの太郎松との一戦です(なお、指しかけで終わっている)。どうやら宗歩と並んで素行の悪い人物だったらしく、宗歩と共に賭け将棋に参戦し大負け、大橋宗家に泣きついたなんて話も。

長坂六之助

 東北に住んでいたとされる、野の将棋指しです。宗歩との駒落ち将棋の棋譜でのみ知られる人物と言っても過言ではないでしょう。解説書によれば、定跡をつまみ食いしている形跡がある(意訳)由。

ここからわかること

 たぶん皆さんも察してらっしゃることと思いますが、本作の登場人物は、あるいは宗歩すらもそうですが、今ひとつ年譜が明らかでありません。はっきりいって、宗歩との対局でのみ名が残った例すらあります。もちろん本作は歴史小説の側面もあるので史実に関してはある程度参考にしましたが、史実の網はかなり粗で、それゆえにかなりわたしの着想や想像が含まれていますよ、と明言しておきます。
 でもですね、小説というのは作家の妄想を楽しむもの(要出典)です。その点、よい妄想ができた作品なんじゃないかと個人的には思ってますよ。

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