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貨幣なき里山暮らし

 2080年の八ヶ岳山麓での暮らしを漫画化する『星降るまち空のふもと2080』。前半(野辺山-白州・夏秋編)では、ネットワーク・ウイルスによって貨幣価値が消滅した「貨幣なき世界」を、後半(諏訪地域・冬春編)では「貨幣復活に苦悩する世界」を描けないかと思っています。[*世界からどう貨幣が消滅してしまったかは、→こちら]その暮らしを描くには、いろんな人の知識と視点、知恵を集めるオープン・シェアワールド[*→こちら]方式で揉むのが効果的なんですが、とりあえずは、思いつくままたたき台を書いてみました。

冬を越せるのか
 野辺山の標高は、1,346m。冬は、マイナス12°Cまで冷え込みます。貨幣が消滅し、石油や石炭の輸入が止まり電力も停止、暖房は「薪」に頼らなければなりません。薪の切り出し、運搬、薪割りも人手で行う必要がありますので、暖房が必要な9月から5月までの9ヶ月間は、協働がムラのルールとなっています。その間は、南牧南小学校にムラの全員が集まって集団で暮らし、食糧や資材の備蓄も学校の校舎が利用されています。
 南小学校が、夜間早朝の冷え込む時間帯に備えた建築になっているのか、周辺の原木を切り出す森林が遠いのではないかとか、いくつかの疑問もあるので引き続き検討が必要かな。

移動・物流・交通
 
石油、石炭の流通停止は、全ての産業を直撃します。トラックや鉄道も停止し、移動・物流手段は、石油・石炭文明以前に後退してしまいます。一部の自然エネルギーによる発電を充電できる仕組みを用意できたムラのみが、電気自動車を充電し移動手段として使えます。人々は各ムラの集団(共同作業)に強く依存して暮らしており、ムラから出ると自分の食糧を自分で確保しなければなりません。ムラ内での双方向の互酬価値の貸し借りは、ムラの外では意味を持たず、人々をムラの中に引き留める強い誘引力として作用しています。
 人がムラをまたいで移動・交通する意味が見失われた世界。あえて、外の世界を徒歩で観に行くのが、主人公のカントとキナ、東京からやってきたアトゥイになります。そんな中で、小淵沢ムラのニタイは、ちょっと特別。馬を使って八ヶ岳山麓を自在に移動しています。

生活物資の入手
 
衣料や食器、医薬品などは、ディグ(前世界の商品を発掘する作業)で入手します。海の口や清里、大泉の別荘地やペンション、ホテル、レストランなどは無人化しており、また、街道沿いの放棄された店舗や医院から入手できることもあります。いずれの場合も、「個人所有」の概念が昇華されており、必要なものを必要なだけ入手することに罪悪感はありません。必要なものを必要なだけ使うことが正義=自然に認められた権利であり、他人も必要とする物を独り占めしたり横取りすることは悪=自然の摂理に反する行為とする倫理観が浸透しています。ディグで物を入手した場合は、入手証書を残します。また、美術館や博物館、図書館における収蔵品は、その放置が保存に適しない場合をのぞき、持ち出さないことも暗黙の了解となっています。
 貨幣価値の消滅により、全ての経済活動や情報通信が停止した世界では、「個人の所有」は過去の遺産でしかありません。所有概念が昇華され、全てのモノが、自然の一部として「そこに在るモノ」として捉えられる価値観に対応できた人々のみが生き残っています。

農業共同体 
 商品市場が消滅していますので、農産物や乳製品を商品化して対価を得るという生業は成立しません。原則、自給自足。米作が可能な畑は稲作に転換、豆類や麦、芋類、トウモロコシ、野菜類など自分たちが消費し、天候不良に備える備蓄分を生産しています。酪農は、牧草によるホルスタイン種で継続。ロールベールサイレージを作る重機は使えないので、冬場の牛舎近くの小屋が牧草置き場になっています。
 農産物や乳製品は、学校に持ち寄られ、それぞれれ必要なものを必要なだけとることができます。物々交換ではありません。当初は、ムラの合議による分配制でしたが、生産力と人口のバランスがとれてからは、それぞれの生産の担当者は、不足しがちな作物の増産につとめ、人気のない作物を減産します。市場のように活気がありますが、貨幣がないため値段の交渉や駆け引きは存在しません。何が必要か、必要なものを満たすにはどうすればいいのか、作付けの時期やこういう作物はどうかなどの議論が交わされ、草取りや収穫など人手が必要な場合の労力調達が行われます。
  農業が中心の暮らしのため、種まきや育苗、収穫などの季節との関わりが強くなり、月や星空を見上げ、読み取ること、早霜や遅霜の予測、雨量の多少への対応など、自然を観測し感じとる能力が高まっています。

食べ物

 農産物や乳製品が中心。ミルクやバター、人参、じゃがいもを使ったシチューなどが食卓に並びます。主食はお米を炊いたご飯や、パン、麺類など。
交配F1種の供給が止まり、その地方にあった固定種の種子が手に入らない野菜は、F1種の種子から50年、50世代をかけて自家採種を繰り返し、品種改良に取り組んで、多様化と固定化が進んでいます。同じ野菜でもムラごとに匂いや食感や味に違いがあります。味噌や醤油、ワインやビールなどもそれぞれのムラごとの味となります。
 鶏や豚の飼育、キナのようにパチンコによる兎やキジ、弓矢や罠による鹿の捕獲によりお肉が食卓にあがることもありますが、数は多くありません。当初猟銃による狩猟も行われましたが、すぐに銃弾が底をつきました。
 塩やコショウは希少品なので全体に薄味。コーヒー豆はまだ、しばしばディグで発掘されます。 

オマケ
 
小淵沢のエフエム八ヶ岳では、太陽光発電を大量のスマホに蓄電し、ラジオ放送してたりするかもですね。

2020年11月5日
※タイトル画は、旅立ち初日の夜、月光の清里フォトアートミュージアム

『星降るまち空のふもと2080』

(1)コンセプト編 →(略)60年後の暮らしを考えてみる
https://note.com/yatsugatake_blue/n/n31745ba587e4
(2)キャラ設定編 →キャラ設定編(1)
https://note.com/yatsugatake_blue/n/n6d11dcb684b1
(3)キャラ設定編 →キャラ設定編(2)
https://note.com/yatsugatake_blue/n/n1c0d1cef2b35
(4)エピソード編 →エピソード編
https://note.com/yatsugatake_blue/n/nc4e5e7ecfb04
(5)前日譚考
https://note.com/yatsugatake_blue/n/nc9890f10a432
(6)練習版(8頁)
https://note.com/yatsugatake_blue/n/n4d0e35a6fc9f
(7)登場人物の名前を考察する
https://note.com/yatsugatake_blue/n/n358bd6cbdd7c
(8)漫画における感情表現
https://note.com/yatsugatake_blue/n/n25bb08dd45bb
後半(諏訪地域・冬春編)→準備中

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