温暖化世界に暮らすための備忘録
『ファクトフルネス』(2019年)で、著者のハンス・ロスリングは、心配すべき5つのグローバルリスクとして、感染症流行、金融危機、世界大戦、極度の貧困と併せて、地球温暖化をあげています。2009年にTED会場で、アル・ゴアから「二酸化炭素の排出量がこのまま増え続けたら、最悪の場合どんな悲惨なことになるかをバブルチャートにしてくれないか」と頼まれ、地球温暖化に急いで手を打つ必要があることには100%賛同するが、「恐れを煽るのはいやだ」と断っています。2006年のドキュメンタリー映画『不都合な真実』をはじめとするアル・ゴアの活動は、地球温暖化問題を世界に知らしめ「パリ協定」採択の下地を作り、世間の思い込みをあぶり出すハンスの質問においても、「地球が温暖化している事実」の認知度は高くなりましたが、ハンスは、指摘します。「(恐れを煽ってでも)世間を説得する段階はもう終わった。これからは、問題解決に向けて行動することに力を注いだ方がいい。今すぐ行動を!という訴えには、データを改善することから始めるのが一番いい」と。
2015年に開催されたCOP21(第21気候変動枠組条約締約国会議)。 196カ国が参加して「パリ協定」を採択し、アメリカ、中国、日本も批准。世界は「平均気温上昇を産業革命以前に比べて、2°Cより充分低く保つとともに、1.5°Cに抑える努力を追求する」ことに取り組んでいます。
日本では、10月26日、菅首相が「温室効果ガス排出量を2050年までに(人為的な排出量を森林等の吸収による除去量と均衡させる)実質ゼロとする」目標を宣言。12月25日に、脱炭素社会に向けた生活者目線でのロードマップと、それを実現するための政府・自治体連携の在り方を検討、議論する「第1回国・地方脱炭素実現会議」を開催。今後のスケジュールとして、この1〜3月に、小泉環境大臣主催で、上記会議の参加者以外の自治体や、企業、金融機関、市民グループからのヒアリングを実施。特に、若年層や女性の視点をとりいれることができるように努め、4月に第2回を開催、5−6月に第3回で取りまとめるとしています。
市民が地球温暖化について多いに学び、議論すべきこのタイミングで、世界の注目と英智が感染症に占められてしまっているのは、極めて残念です。2017年には、トランプ大統領による「パリ協定」からのアメリカ離脱宣言があり、バイデン次期大統領のグリーンニューディール政策は、分断され疲弊しきった事業者や雇用状況下での取り組みとなります。そして、最大の二酸化炭素排出国のアメリカと中国は、人権と覇権を巡って対立、自然に対峙する前に、人間社会の難問山積み、前途多難ではあります。
「第1回国・地方脱炭素実現会議」の資料における日本の状況。旧安倍政権では空欄だった「長期目標」が埋まったことは1歩前進。中期目標の「現状(2013年は原発停止により火力発電がフル稼働状態)からの効果積み上げ方式」から、戦略的削減目標への転換ができるかどうかが問われます。
さて、感染症の終息はまだまだ見えませんが、地球温暖化も待った無し。基本知識の勉強から始めましょう。国立環境研究所が、昨年3月に3回に渡って生放送&録画公開している以下の動画【ともだちに話したくなる!地球温暖化のリアル】が分かりやすく、よくまとまっています。
内容を抽出するとこんな感じ。
第1回「地球温暖化のウソ?ホント?」
・科学的データを示しながらの温暖化の進捗
・その主な原因が人間の活動によること
・シミュレーションとの比較検証
・なぜ二酸化炭素に注目するか
・太陽活動の減少による寒冷化、地球の氷期との相殺の可能性
・グリーンランドの氷床の融解と海面上昇の現状、など
第2回「温暖化ってヤバいの?」
・地球温暖化で何が起きるか?
・日本では何が起きる?
・異常気象が増えるのは温暖化のせい?
・「対策なし」と「パリ協定達成モデル」気温変化シミュレーション
・温暖化暴走の可能性(永久凍土の溶解によるフロンの放出など)
・誰にとって一番ヤバい? 経済弱者への影響のしわ寄せ 気象正義視点
・温暖化への適応は始まっている(お米の高温対応品種改良など)
第3回「 じゃあ、どうしたらいいの?」
・「私たちにできること」は?
・市民の「自助」努力だけでは温暖化は止まらない
・2050年には、世界全体で二酸化炭素排出の実質ゼロが必要。あと30年
・化石燃料からの脱却、脱炭素社会の実現は政治家や企業に任せるのか
・グレタさんのメッセージは、「社会システムの変革が必要!」
・「実質ゼロ」は、我慢で達成できる目標ではない
・「生活の質の向のため」と言った意識の大転換が必要
・30年前には無かった生活習慣は、スマホ他たくさんある
・自助に加えて、社会を変えるメッセージにつなげて仲間を応援していこう
・SDGsで世界がよくなっていけば、温暖化対策も好転していく
ジャーナリズムからのアプローチで面白かったのは、Choose Life Projectによる生放送の録画公開『9/24 私たちはまだ気候変動を止められる。地球のために今からできること』と『12/17 #まだ気候変動は止められる Vol.2 2030年までに今からできること』の2本。用意されたアジェンダとはちょっとズレた議論でしたが、9/24版では、FridaysForFutureの若いパネリスト3人に藤原しおり(旧ブルゾンちえみ)さん、国立環境研究所の江守正多さん、経済思想家の斎藤幸平さん、MCはフォトジャーナリスト安田菜津紀さん。12/17版では、FridaysForFutureの若いパネリスト3人に、クリエイター兼古着屋さんのeriさん、国際環境NGOの荒尾日南子さん、環境政策対話研究所の村上千里さん、MCは哲学研究者の永井玲衣さん。両動画ともMCの進行が小気味良く、若手と専門家が同じテーブルで議論していていい感じです。
こういう議論が広がり、重なっていく中で、意識変革は見えてくるのかもしれません。
上記の対談でも紹介されたキャンペーンはこちら。昨年の12月10日より、日本政府に気候エネルギー対策の強化を求めるキャンペーン『あと4年、未来を守れるのは今〜環境と未来を守るための署名に参加してください〜』が始まっています。以下は、キックオフ記者会見の動画。多様な賛同者が、自分の思いを数分ずつスピーチしていて、生のドキュメンタリーとして非常に興味深い内容になっています。
発表者は、魚が獲れなくなって危機感を持つ漁師、気象災害被災者、アウトドア愛好家、温暖化対策研究者、子供の未来を懸念する母親、IT関連企業社員、3.11後の福島から北海道に移住した町の隣町が核廃棄物処理受け入れに手をあげて子育て世代会議を立ち上げたライフスタイル活動家、企業の責任を問う元パタゴニア日本支社長、クリエイター兼古着屋さん、環境活動家(が必要な状況)を無くしたい環境活動家(大学を休学して中高生対象に環境問題の講演活動をしている)、グレタさんのアクションをきっかけに広がるFridays For Future Fukuokaの大学生。司会は、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの石川せりさん、事務局、350.org Japan 荒尾日南子さん。
上記全ての動画を見ると8時間近くかかってしまいますが、地球温暖化=気候変動という共通かつ今ここでの自分たちの課題に向きあっている、1人1人の思いに耳を傾けるのは、ちょっといい経験でした。
2021年1月15日
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