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本の棚 #66 『塩の街』

『塩の街』
有川浩


ある日白い隕石が東京湾に落ちてきた。

それは一瞬にしてあたりを「塩の世界」に

変えてしまった。

建物、道路、そして人間までも。

塩害と呼ばれるそれの被害は日を増すごとに拡大し

発症したら最後、身体が塩に蝕まれ、命を失う。

ウイルス?地球外生命体?なんなんだ?

治療法も、ワクチンもない…

この世界のなかで人はどう感じ、どう受け止め、

そしてどこに向かおうとするのか。

どこかコロナ禍と重なる部分のある世界観を

それでも前に向かって生きていく物語。


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「誰かに優しくするとき、怒るんです。そういう人なんです。」

秋庭さんはいつも怒っている。

でもそれは照れ隠しなのだ。

自分が関わった、関わってしまった人を気遣う

そのずば抜けた優しさや愛がこの人にはある。

「関わってしまった」がポイントで

普段は道行く人にそういう態度ではなくて

あくまで自分の身の回りの人限定。

ぼくはそれでいいと思う。

世界を、日本を幸せにするという志は

否定しないし、応援するけど、それよりまずは

となりの人に優しくする

この連鎖が続いていくことも大切だよな。


「元々世界なんかお前が思っているより適当でいい加減なもんだぞ」

世の中はこうだ、なんて画一的な解はない。

もっとあやふやで変わり続けている。

だから今が苦しくても、それがずっと続く確率は

案外低かったりする。

秋庭さんが真奈に伝えたこのコトバは

「こうじゃないとだめだ」

「これが当たり前なんだ」

という固定観念を自覚しなさいよ、と教えている。

大体人間がつくったルールなんだから

未来永劫完璧なわけないじゃないか。

適当でいい加減と思っておくことで 

心にゆとりや余白ができて生きやすくなる。

何とかなるのかどうかは分からない。だが、少なくとも自分が手を伸ばす自由はある。手は動くのだ、自分が伸ばそうとさえ思えば。たとえ、それが届かなくても。ーーー恋は恋だ。

あぁやっぱりな、そりゃそうなるよね。

茶の間で煎餅食べて熱めのお茶を飲みながら

ぼやく主婦のごとく思った。

有川さんの作品はまっすぐだと思う。

うそだろ?!冗談やめてよ!

みたいな展開やストーリーではなくて

ほぉら、やっぱりそうでしょ。

となるような、

しっかりバックスピンのかかった純粋なストレート

だからこそ突き刺さる、ホップアップする。


世界は突然変わってしまった。その変わってしまった世界の狭間にいるということは、とても得難い機会だ。

もうコロナじゃないか。

そしてぼくらもその世界の狭間にいる。

もとに戻ろうとするのは、後ろを振り返ること。

それではこの先の難ルートは進めない。

しっかり前を向いて一歩一歩でいい。

手を伸ばす自由を自覚して

自分の責任で人生を選択していく。

次は『空の中』読もう。

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