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コンテンツの消費速度における考察

年々、コンテンツの消費速度が速まっている気がする。
(※広義な意味でのコンテンツとする)
少し前まで鬼の首を切ろうと奮起していたかと思えば、
いつの間にか闇を祓っていて、スパイ一家の一員となり、
気が付くとチェーンソーを振り回している。

アレが流行っていると思えば、気が付くと違うソレが流行りだしている。
面白いモノもそうでないモノも次々に消費されていく。
まさしく、忙しない現代人そのもののようにも思える。

西で火が出たと聞きつけて、「どれ、見に行ってみるか」と腰を上げれば、その道中で、「東で火が出たぞ」という噂を耳にする。そんな気分だ。

そうして東奔西走することが悪いと言うつもりもないし、
そのスタイルを否定する気もない。
ただ、目の回るような激しい消費によってコンテンツが擦り切れ、
旬を過ぎた古いモノから、ないがしろにされていくのではないか。
そんな一縷の不安がどうしても拭いきれない。

若者の本離れ・活字離れというのもその一つだと思う。
本というのはコストパフォーマンスの面で考えれば非常に優秀なコンテンツであると思う。ワンコインから購入できる本も多くあるし、古本屋であればそれ以上も期待できる。

ただ、タイムパフォーマンスやエフォートパフォーマンスとでも言うべきなのだろうか。時間や、労力(この場合読むという行為そのものに要する活動力のようなモノ)の面で本は忌避される傾向がある気がする。

確かに、文字情報だけよりも、映像・音声などが複合的に組み合わさった情報の方が数段分かりやすいし、面白いと思う。
プレゼンテーションなんかもそうかもしれない。
iPhoneの説明スライドが流れるだけでもダメだし、ただひたすらにジョブズが喋るだけでもいけない。
そのどちらもが同時にもたらされる事に意味があるのだろう。

主題から逸れている気もするが、もう少しだけ続けさせてほしい。
思うに、現代人は「ファスト」を求めすぎている気がする。
(ここでいうファストは単に”速い”というだけでなく、”手軽”という意味も包含していると思ってほしい)
ファストファッション、ファストフード、ライトノベル、tiktokのようなショートな動画…etc。
別にそれを選択することを過ちだとは言わない。
ファストフードもファッションも、時代のニーズによってもたらされたモノであると思う。
忠実にニーズを満たしてきた結果が現状であるとすれば、正直、致し方ない部分もあると思う。

「ジョゼと虎と魚たち」(以下、ジョゼ)という作品がある。
無論、知ってるという方も多いかもしれない。
というのも、直近の2020年の12月にアニメ映画化されている。
また、少し遡った2003年には実写映画化もされている。
原作は田辺聖子氏による短編小説であり、初版の発行は昭和62年(1987年)と記されている。
私事ではあるが、上記3つのコンテンツ全てを拝見済みである。

ここにこそ、コンテンツの根幹のようなモノがあるのではないか。
昭和、平成、令和の三つの時代を跨ぐコンテンツである。
このジョゼという作品は、時代によって形を変えたという表現が当てはまる気がする。
というのも、アニメ映画のジョゼは賛否両論あった。
その一因として、実写版や原作と毛色が大きく違ったという点があった。
(個人的には現代風ジョゼといった趣で、面白かったが…)
ただ、3作品に共通していたのは個人差はあるだろうが、
面白かったという点。もしくは、評価されているという点である。
(アニメ映画ジョゼも、多くの作品賞などを受賞している)

原作者の田辺氏は第50回芥川賞受賞作でもある自著の『感傷旅行センチメンタル・ジャーニィ』のはしがきにてこう記している。

読んでいたら登場人物の会話がおかしくって笑っちゃうっていうような。そう言う小説を書きたいと思っていたの。難しくて、漢字ばっかり続いたりするようなものでなく、みんなが疲れ直しに読むようなね、慰めになるような小説を。

『感傷旅行(著:田辺聖子)』

これを読んだ時、コンテンツの本質とは娯楽であると思わされた。
コンテンツは楽しむモノなのだ。
そう思うと、コンテンツの消費という呼び方そのものに違和感を覚えた。
消費は主に「使ってなくすこと」の意を持つ。
消えるという字が使われていることもあって、物悲しさを感じる。
コンテンツを目いっぱい楽しむ。
そのコンテンツの持つ面白さや魅力を余すことなく味わう。
それは、コンテンツの消費ではなく、いわば「コンテンツの賞味」ではないだろうか。

正直、どこまでいってもコンテンツをどう扱うのかというのは人の勝手である領分を抜け出せないと思う。
ただ、一人でも多くのコンテンツ供給者が、
消費から賞味へと変化してくれれば、何となく嬉しい気がする。

人生は思ったよりも長いし、もっと味わってみても良いのではないか。

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