保管庫①『空蝉を抱きしめる』
日奈が私に向かって口を開いていた。私はそれを眺めている。彼女が何かを喋っているという事は分かるのに、私の耳には、肝心なその声が全くと言っていい程に聞こえなかった。どうしてだろうか。私は疑問に思うのだが、それは彼女が目の前にいることに対してなのか、声が聞こえないことに対してなのか、よく分からなかった。或いは、その二つは私にとって、ちょうど同じ塩梅で入り乱れていた。その真ん中に私は立っていた。
絶えず、なおも日奈はしゃべり続けた。それはまるで、無声映画を見ているかのようだった。