第21回:岸田政権下で社会保障政策が大きく動く
1.全世代型社会保障構築会議とはなにか
岸田政権下では、いくつかの新しい会議体が作られています。
新しい資本主義実現会議については、第16回:岸田総理の「新しい資本主義」を読み解くでその位置づけを理解し、選出された民間議員のバックグラウンドなどからこれから重点を置かれる政策を読み解きました。
今回は全世代型社会保障構築会議(以下、岸田会議)を取り上げます。
同様の会議は、菅政権下でも置かれていました。全世代型社会保障検討会議(以下菅会議)といいます。今回は、これをリニューアルした位置付けです。岸田政権になって看板、構成が変化したということです。
岸田会議の議論内容はどう取り扱われるかについては、はっきりとした説明はされていませんが、岸田会議の担当である山際大臣によれば、
・年内に中間とりまとめ
・議論の内容を来年6月にまとめられるであろう骨太の方針に盛り込む
予定であることが明らかにされています。
議論の内容は「看護、介護、保育などの現場で働く人の給料引き上げ」が具体的なトピックとして挙げられています。また、全世代型社会保障についても議論される予定だとされています。
でも全世代型社会保障といっても何のことをいっているのか、はっきりと理解できる方はいないのではないでしょうか。
その答えを探るために、これまでの政府内での議論や岸田会議での委員の発言を整理したところ、岸田政権と菅政権の社会保障に対するスタンスが大きく違うことが浮かび上がってきました。
2.会議の出席者で政権のスタンスが分かる!?
菅政権が岸田政権になったことで、実現したい政策の方向性、重視する業界も少し変わったように感じます。
菅会議の民間議員(有識者)は以下のような陣容でした。
遠藤久夫 学習院大学経済学部教授
翁 百合 株式会社日本総合研究所理事長
鎌田耕一 東洋大学名誉教授
櫻田謙悟 SOMPO ホールディングス株式会社グループ CEO 取締役 代表執行役社長
清家 篤 日本私立学校振興・共済事業団理事長
中西宏明 株式会社日立製作所 取締役会長 兼 執行役
新浪剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長
増田寛也 東京大学公共政策大学院客員教授
柳川範之 東京大学大学院経済学研究科教授
経済同友会幹部や経団連幹部など、経済界から3名(太字)選出されています。
経済同友会は企業トップの、経団連は大企業の業界団体です。業界団体は会員の意見を政策に反映させるために存在しているので、企業よりの意見が政策に色濃く反映されることになります。
さらに、教授の構成を見てみると、遠藤教授、清家教授、鎌田教授は社会保障・労働分野が専門ですが、柳川教授は企業の経営に関する研究が専門です。
また、翁さんは、規制改革会議などで長く委員を務めてきた方です。比較的経済重視といってもよいかもしれません。
社会保障を考えるうえで、企業の意見を踏まえることは重要です。
企業も社員の年金や医療保険のための保険料を負担(社会保険料は企業と社員で折半している、という建前になっています)しています。企業経営からすると、こうした社会保険料は人件費に付随した経費となります。また、意欲のある高齢者が働き続けるための定年延長等の政策を実施する場合は企業がその分の費用を負担しなければいけません。
社会保障制度が変われば企業も影響を受けることになるので、企業が社会保障のあり方に意見をいうことはおかしなことでは全然ないですが、会議に企業サイドの構成員が多いほど、企業にお願いできる役割や金銭的な負担は軽くならざるを得ない、ということになります。
会議の人員構成には、政権が会議にどのような議論を期待しているか、ということが現れるのです。
会議の構成員の約半分が、企業の業界団体や企業経営の専門家であるということからすると、菅会議は社会保障政策について、経済界の意見を重視して検討していく、というスタンスだったといえます。
一方で、岸田会議の有識者の構成はどうでしょうか。
(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)
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