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青山泰の裁判リポート 第17回 「小さな女の子なら抵抗しない」増加する性犯罪の卑劣さ。

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被害少女Aちゃんは、当時10歳の小学4年生。
加害者は、信頼していた整骨院の先生だった。

肩を痛めたAちゃんは、治療のために整骨院に通って、背中のマッサージなどを受けていた、という。
整骨院内で2人きりになったとき、先生は目をつぶっているAちゃんの陰部を直接触り、唇にキスをした。
Aちゃんは、「下着の中に手を入れられ、おしっこが出るところをなでるように触られました。シャツを上げられ、パンツも下げられた。頭のマッサージの時、何回もチューされた。
帰るときに『このことは誰にも言わないでね』とも」
 
「お母さんに言いづらかったし、話したら先生から何か悪いことをされるかもと思って怖かった。
次の予約をキャンセルしたけど、お母さんに言えずも言えず、あいまいな返事をしていた」

Aちゃんが母親に話したのは、犯行の2週間後。
「どうして整骨院の予約をしないの」と言われ、行きたくない理由を話さなければいけなくなった。

被告人は完全否認。
被害少女の証言が唯一の証拠に。


被告人は完全否認していて、Aちゃんの証言が唯一の証拠になった。
検察官は、被害者の供述が信用できることを強調した。
「『おしっこが出るところを直接触られた』『唇にチューされた』という少女なりの表現は具体的、自然で合理的。
被害者の供述が変遷したのは、最初は男性捜査員から聞かれたので、最小限の告白しかできなかったから」
被告人は他人に見られても言い逃れができるようにタオルで覆って、犯行を行っていた。

被害者に信用、信頼されて
いることを悪用した。


「被告人は、『Aちゃん♡なぜこんなに可愛いの』と、被害者にメールを送っている。
被害者に信用されていること、信頼されていることを悪用した。
被告人には、児童売春の過去がある」
検察官の求刑は、懲役3年6か月。

弁護側は主張した。
「被害者はパンツの中を直接触れられた経験がなく、その状態をかゆさがなくなったと表現。目をつぶっている時にチューされたというが、キスをした経験がないので、指が触れた可能性を排除できない。
どうして被害を受けているときに目を開けなかったのか?
抵抗できなかったのはわかるが、確認しなかったのはなぜか?」と。

判決は、懲役2年8か月。
裁判官は、被害者の主張を全面的に支持した。
「被告人は、被害者が13歳未満であることを知りながら、下着の中に手を入れ、陰部をなでるように触った。シャツを上げて、パンツも下げた。頭のマッサージの時、何回もキスをした。
触られたのは直接見ていないが、感触でわかったという被害者の説明は具体的で、信用できる。その日はいていたパンツも覚えていた」
 
思春期前の少女は、自分が受けた性的被害を的確に表現することが難しい。羞恥心や罪悪感から、告白できない場合も多い。
また性的被害を受けたことを、自分自身で自覚できないケースもある。そして大人になってから、その行為の意味に気づき、思い悩むことも……。
 
少女の未成熟さ、純真さにつけこんで“チャイルド・グルーミング”する大人の悪質さ、卑劣さは許しがたい。
だから16歳未満の子どもに対する性的行為は、相手がたとえ同意していたとしても犯罪になる(2023年に対象年齢を13歳未満から16歳未満に改正)。
 
 

道を尋ねるふりをして
11歳の少女に声をかけた。


 
 
大学4年生の小牧信一被告(仮名・21歳)は眼鏡をかけ、長い前髪を垂らしている。黒のセーターにベージュのニットパンツ姿で、痩せていて年齢より幼い印象を受けた。
 
事件が起きたのは、東京都江東区のマンション敷地内。
ライブを観た後、午後9時前に駅で小学5年生の女の子Bちゃん(当時11歳)を見つけて追跡。
道に迷ったふりをして「駅はどこですか?」と、話しかけた、という。
Bちゃんが駅の方向を指差すと、「わからない」と、目の前にスマホを指し出した。
 
周りに人がいないのを確かめてから、腕を回して体を密着、お尻と太ももを着衣の上から触り、両方の胸をもんだり撫でたり…。
その後、「かわいいからマスクを取った顔を見せてほしい」と言ったが、「嫌です」と拒まれて立ち去った、という。
 
 

「以前から、小中学生の
女の子に興味があった」


 
 
小牧被告は被告人質問で、「以前から小中学生の女子に興味があった」と証言した。
――なぜこのような犯行をしたのですか?
「性欲が抑えられなかったからです」
――小さな女の子は性的対象になるのですか? 
「はい」
――成人した女性には? 
「あります」
――なぜ、小さな女の子を? 
「小さな女の子なら抵抗しないから」

 
――追跡したのはどのくらいの時間ですか?
「駅で見つけてから、数分くらい」
――道を尋ねたふりをしたのは、なぜ?
「大声を出されないように」
――被害者は抵抗しましたか?
「抵抗しませんでした」
――どうしてだと思いますか?
「怖くて、抵抗できなかったんだと思う」

 
 

被害少女は、「気持ち悪い」と
強い恐怖感と嫌悪感を。


 
 
Bちゃんの親切さにつけこんだ卑劣な犯行だ。
帰り道で被害にあったBちゃんは、強い恐怖感と嫌悪感を抱いた、という。
「気持ち悪い。友達も同じことをされるとイヤだと思った」とも。
母親も「事件直後はとても怖がっていたが、しだいに落ち着いてきている」
 
小牧被告は就職活動がうまくいかず、事件の1年前からストレス、精神的不安を感じていた、という。動悸や不眠症の症状があり、精神科に通っていた。
診断は不安症、不眠症。病名がついたわけではないが統合失調症の傾向があると。
 
精神科医には、過去の犯行のことは話していない。
今後は、話したうえでカウンセリング、心療内科を受診したい、と。
 
「卑劣で自分のことしか考えてなかった。完全に間違っている考えでした。
被害者は傷つき、苦しんで…。
以前の事件が、頭の中から消えてしまった。相手がどんな思いになるのか、想像力がなかった」
以前、被告人は少女に道を尋ねてわいせつ、つきまといなどの非行行為4件を起こし、少年院に入ったことがある。
 
 

母親は、消え入るような声で
「更生したと思ってました」


 
 
法廷で、被告人の母親が証言席に立った。
母子家庭で、祖父母と同居している、という。
「大丈夫だろう、更生しただろうと思っていました。愚かな行為だったと。
しっかり監督して、二度とこのようなことが起こらないように……」
母親は、消え入るようなかぼそい声で証言した。
うつむいて聞いていた被告人は目に涙を浮かべていた。
 
「母を裏切ってしまった。
大変申し訳なく思っています。

また新たな被害者を生み出してしまいました」
 
被告人は実名、顔写真付きで報道されて、就職は辞退した。
大学は除籍の可能性があると。
 
裁判長から質問が。
――変えなきゃいけない部分はなんだと思いますか? 
「ストレスを感じたときの対処法。家族や友人に相談するとか」
――相手の気持ちを考えることは苦手ですか? 
「想像力、共感力が足りなかったと」
 
検察官は懲役2年が相当と主張。
「きわめて悪質。道を尋ねてスマホを顔の前に出し密着するなど、計画的。年少者への性犯罪で結果は重大、被害者の今後にも悪影響がある」
 
弁護士は、執行猶予付き判決が相当だと。
「被告は反省している。再犯の可能性は高くない。精神科への通院を家族に話すことができなかった。実名報道されて、就職を辞退するなど、社会的制裁を受けている」
 
最後に、被告人は謝罪した。
「自分の行為は絶対に許されるものではなく、深く反省しています。
性的嗜好が女の子に向いていました。
更生プログラムに参加して一定の効果がありました。今は、グループワークを始めたばかりで、今後は専門家の力を借りながら、更生していきたい」
 
 

「同じ犯行を繰り返さないために
何が必要か考えてほしい」


 
 
判決は懲役2年、執行猶予4年で保護観察付き。
裁判官が判決理由を述べた。
「母親が、専門家の力を借りて監督すると証言。前歴はあるが、前科はない。
同じことを繰り返さないために何が必要か考えてほしい。
ストレスがたまったとき、どうすればいいかをこれから考えてほしい」
判決を聞いて、小牧被告は深く頭を下げたのだが……。
 
将来、この性的被害が、少女の“心の傷”にならないことを願うばかりだ。

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