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祖父たちのストーリー ② 〜 幽霊の帰還 〜

父方の祖父、第十のお爺さんについて書いている。2年の兵役を終え、インドシナ半島から無事帰ってきたお爺さん。

しかし、2度目の召集令にて、幼い子どもと身籠った妻を残し、今度は北へ、満洲の関東軍に配属された。そして終戦間際、味方と思われたはずのソ連軍に攻め込まれる。そこで祖父は、

「凄まじい銃撃戦でなぁ、、」

と左スネをさすりながら喋った。

その銃撃戦で負傷したのだ。ソ連兵の銃弾が左足のスネを貫通したらしい。

「ここに穴があいてな、、、」

とここで何故か笑顔の第十のお爺さんは、幼い僕に優しく説明してくれた。

話を終戦の満州に戻そう。戦後の関東軍の末路は、悲惨な運命をたどることになる。

戦争が終わっても、ほとんどの兵隊は帰ることが出来ず、ソ連軍に拘束され、連れて行かれた。お爺さんは、

「いつもな、靴下を3枚履いておってな、それを順ぐり交換しよったんよ」

と極寒のシベリアに連行され、3年もの間、強制労働させられる。
そこでは何人もの仲間が、飢えと寒さで亡くなった。

昨日まで共に働き、隣で寝ていた青年が次の日の朝、凍った状態で見つかることもあったという。

しかし、祖父は日本に残してきた妻と幼い子供たちを想えば、死ぬ訳にはいかなかった。

「絶対に祖国へ帰る」

と強い意志を持つ者だけが生き残った。


一方、徳島にいる第十のお婆さんは、終戦から3年が過ぎても何の音沙汰がないので、

「じいさんは、もう死んでしもうた」

と思っている。そして集落の人が再婚を勧めてきた。ちょうど世話人と、お見合いの段取りをしている所に

「ただいまー、今、帰りました」

とひょっこり、第十のお爺さんが帰ってきた。村じゅうが大騒ぎになったそうだ。

「ゆ、ゆう、幽霊が出たー」

痩せ細り、古びた軍服を着て、玄関に立っている祖父の姿は、まさしく幽霊のように見えたであろう。

「あ、足はついておるけん」

と家の人達は、幽霊には足がないと、信じ込んでいたが、左足を引きずりながらも、健気に歩く祖父の姿を見て、感激したのではないか。

幼い頃、この一連の出来事を笑い話として、何度も聞いた記憶がある。

そして帰還した祖父母の間に和歌山の伯母さんが生まれ、末っ子として親父が生まれた。

今でも実家の写真にベレー帽をかぶり、お婆さんと寄り添う様に並んでいる2人の姿が、目をつむれば浮かんでくる。


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