転職アスリート ③ 〜 大工の弟子 中編 〜
一人前の大工さんになるための修行だと思っていたが、親方が請負で取ってくる仕事にトイレのリフォーム工事があった。
それは補助金の工事で和式のトイレから洋式スタイルに変えるのが主な仕事内容である。
タイル張りで昔ながらの和式トイレをツルハシで解体し、バリアフリーの床を造り、洋式の便座を据え付ける。
これが主な工事の流れである。ほぼ肉体労働なので、体力に自信があった僕は即戦力になっていたと思う。
ある日、トイレのリフォーム工事で新しい便座を固定して、最後にリモコンを壁に取り付けようとしていた。親方が便座に座り、
「この辺がいいかな、リモコン取ってこい」
と言われた。リモコンはプチプチの緩衝材に梱包されており、まず僕は梱包をはがそうとしていた。すると親方が、
「何やってんだ、早くしろ!」
と今日はいつもより機嫌が悪い。
僕は仕方なく緩衝材に包まれたリモコンを手渡した。その時、何かを指で触った感覚があり、
「ピッ」
と音が鳴った。そして、
「シュ、シュワーーー」
親方はリモコンを両手で持ち便座に座っている。そこへ勢いよくウォッシュレットの水が飛び出てきた。
「バ、バカやろう! み、水を止めろ!」
と親方が必死の形相で、こっちを睨む。
「親方、そのリモコンで止めましょう」
と僕は彼が持っているリモコンを指さした。
「お、おう、、」
しかし、プチプチに巻かれたリモコンは、どのボタンを押せばいいのか、よく見えない。
「どれが停止ボタンだ?」
と親方は新しい床を、いきなり水浸しにする訳にはいかない。
適当にボタンを押しては、水の勢いが強くなったり、違う方向から水が出たりした。もうズボンどころか、パンツの中まで、びちょびちょの状態である。
最後に僕がウォッシュレットの電源コードを抜いて、ようやく水は止まった。
続
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?