見出し画像

オオカミ村滞在記 ⑧ 〜 日裏 〜

妻と子供を連れて、日裏という集落に行った話を書こうと思う。

東吉野村は鷲家口から丹生川上神社がメインの通りで小学校、役場、こども園などがある。神社から上は高見川と四郷川の二手に分かれ、その川沿いを県道が走っている。

一般的に知られているのはそこまでだ。キャンプ場とつくばね発電所があるので、もしかしたら、日裏川の下流域までは訪れた人がいるかもしれない。

つくばね発電所から5キロ以上、日裏川沿いにその道は続く。途中は急勾配の上り坂や、ヘヤピンカーブの連続である。

日裏へ行くことになった、いきさつを少し触れておこう。大豆生(マメオ)にT爺と呼ばれる長老がいる。

「ワシは昔、ヘリコプターに乗っとった」

と山行きで、材木を搬出する仕事に就いておられたらしい。ふるさと村の食堂でお酒を飲んでいる席にご一緒させて頂いた。

ここで日裏からお嫁にこられた奧さんの話を少し聞いていた。

5月になり再会したのが、三尾の田中酒店でT爺は一人で飲んでおられて、

「よう走る兄ちゃんやな」

と声をかけられた。そして一緒に飲んでいると日裏の話になった。いろいろ聞いていると、ほんとに日裏を見に行きたくなってきた。

「T爺、明日迎えに行くから、一緒に行ってくれる?」

とお願いしたら、

「いいよー」

と二つ返事で返してくれた。

翌日、日裏への道をひたすら上っていると、左手に開けた土地が突如あらわれる。ヘリコプターの発着場で公衆トイレも見えた。

そこを少し過ぎると天一神社が右手にあり、車を停め家族3人とT爺で参拝した。境内には300年は優に超える巨木がある。

大人4〜5人が両手いっぱい広げて囲める程の幹は、天に向かって聳えていた。

境内だけではなく、周りを見渡せば何本も巨木が聳えたっており、神秘的な雰囲気を醸しだしている。


参拝を終え、車でカーブ2つを超えると集落が現れた。天に一番近い集落。周りの山が目線より下にあるので空が広く、日当たりは最高である。

「いや〜、懐かしいの〜、10年ぶりじゃ!」

奇しくもこの日は端午の節句で、4才の息子が陽気に走り回っている。区長とその隣の家で山行きの仕事をされている方と世間話をした。

この日は居なかったが、すぐ上の家にお婆さんが一人で住んでおられ、全部で3軒が日裏で残っている在所であるという。

東吉野村の中で標高が1番高い在所であろう。夏は涼しくて過ごしやすそうなので、8月にもう一度、訪れたのだが、扇風機も要らない快適さであった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?