『リゼロ』に学ぶ鬼がかったラノベの書き方!!
スバルの機転/主人公・普通キャラの魅力的な描き方
『リゼロ』『このすば』両作に共通するのが「小説家になろう」にて掲載していたWeb小説発の作品であることです。
よく言われる、異世界転生する「なろう系」作品でありながら、この2作品には明らかな差別化要因(オリジナリティ)が存在します。
それは、
主人公は、頭が良い。そして、主人公よりも頭の良いヤツが登場する
……ということです。
ともすると「なろう系」作品では、主人公よりも「頭の悪い」キャラクターしか登場しません。
「おお!君はなんて天才なんだ!」
……と褒められ、承認されまくるだけの作品がとても多い。
これは『転生したらスライムだった件』などを表層的に真似して書かれた作品だからでしょう。『転スラ』ではリムル様はことあるごとに畏れられ、尊敬され、賞賛されます。
ですが、『リゼロ』では主人公・スバルよりも頭の良いキャラクターたちが数多く登場します。
また、スバルも機転が利いて、とても頭が良い。
そこで、今回の構造解析です。
頭が良いキャラクターは、作家自身、頭が良くなければ書けないのでしょうか?
そんなことはありません。
キャラクターが「頭が良くみえる」技術は存在します。
このnoteでも紹介している、天才の描き方がその一例です。
今回は『リゼロ』から魅力的なキャラクターの描き方の技術を抽出していければと思います。
まずはスバルの機転、彼の頭の良さをどのように描いているのかを構造解析していきます。
1巻の以下のエピソードを例にとってみましょう。
ミーティアと徽章
無一文という圧倒的不利な状況にいるスバル。ケータイを魔法アイテム(異世界ではミーティアと呼ばれる)として売り込む機転を働かせる。
盗品を買い取るロム爺はミーティアとしての価値を認め、スバルが欲している徽章との取引において、むしろケータイの方が高値である可能性を示唆する。
エミリアのために徽章を取り戻したいだけのスバルは不利でもいいからそれで交渉を成立させたい。
しかし! そこまでスバルに言わしめる徽章。もしかしてもっと高値で売り込めるのではないか、と考えるフェルト。彼女はエミリアから徽章を盗んだ張本人。
フェルトはスバル以外の取引相手(エルザ)に対し、報酬をつり上げる交渉をし、それがダメだった場合、スバルに売りつける約束をする。
スバルは機転を働かせて徽章を奪還しようとしますが、それを上回るフェルトの皮算用によってうまくいきません。
相手の方が一枚上手というか、伊達に貧民街で生き延びてきたフェルトではありません。そんな主人公よりも頭が回るキャラクターがいるから、徽章を取り返せるのかどうか。ハラハラする(夢中になる)のです。
このエピソードひとつとっても、スバルがただ異世界で承認されまくるほかの「なろう作品」とはことなり、頭脳戦を繰り広げていることがわかります。
2巻では、機転を働かせるスバルの頭の良さを、とても魅力的に表現しています。
「俺を雇え」
王選資格者のエミリアを救ったスバル。その報酬に何を望むのか? エミリアの後見人ロズワールから訊ねられる。
ここでの過分な要求は政治的問題を含む。なぜならば、その要求がためにエミリアに接近したのではないかという疑念を呼ぶ可能性がある。
そんなことに頭を回しつつ、エミリアの側にいて異世界での生活基盤をも確保する、唯一の現実的解決策としてスバルが要求したのが——使用人としてロズワール屋敷で働くこと!
上記のような思考過程を経て、「使用人として働く」という報酬を要求するスバルに対し、ロズワールは「なかなかに頭が切れる」と評価します。
有象無象のなろう作品との差別化要因がここにあります。
『このすば!』『リゼロ』といった主人公たちは、思考過程をちゃんと論理的に語るのです。
だ・か・ら!
頭がよく見える(実際頭がいい)。
これは「こうこうこういう理由でこうする」ということを、読み手に説得している作業とも言えます。
読み手が「なるほど」と説得された瞬間、ロズワールも「頭が切れる」と評価する。
これが「俺はそうは思わねーなあ……」と読み手が感じているのにロズワールが「すごい」と褒めても、読み手は「はあ?」です。スバルもロズワールも「バカ」に見えます。
ただ、ここで注意したいのは……発想方法と描写は別だと言うことです。
長月達平先生が、「こうこうこういう理屈でスバルは使用人として働かせることにしよう」と考えついたとはとても思えません。
「ラム・レムとお屋敷で楽しく働くシーン書きたいよね……」
……という逆算から、言わば「屁理屈」をひねくりだして描写しているのです。
上記『魔法科高校の劣等生』もことあるごとに、そこに屁理屈で説明をつけていきます。故にとても頭がよく見える!
また、スバルの頭の良さを表現している技術として、「状況整理」が挙げられます。
よく推理劇で名探偵が「死亡推定時刻は何時。○○さんにはアリバイがあり……」というように、犯行時刻のタイムライン情報を整理するシーンがあります。
『リゼロ』でもスバルくんは死に戻り(デスループ)によって得た情報をタイムラインに沿って整理していきます。
そうです。スバルくんは名探偵と同じように、起こった出来事を順番に組み上げていくという作業をしているのです!
ちなみに、順番に言葉を並べていったものが論理(ロジック)です。
スバルくんの機転をどのように表現しているか、おわかりになったかと思います。
ここからは、主人公としてのスバルくんを魅力的にしている技術を見ていきます。
※以下からは2巻・3巻の重要なネタバレを含みます。
ぜひ長月達平先生の原作を3巻まで読み進めてからお目通し下さい。
アニメ版を観たことがある方も、ぜひ一度、文字ベースでどのようにキャラクターを、ストーリーを物語っているのかを確認してみて下さい。
でなければ、「書く技術」は身につきません。
熱さの演出/主人公・普通キャラの魅力的な描き方2
スバルくんは現実世界では最弱のニートでした。
そんな最弱なスバルくんが主人公として熱く行動する——『リゼロ』の魅力のひとつです。
では、そんな魅力あふれる主人公として、長月達平先生はどのように書かれているのでしょうか?
まず、主人公としてふさわしいキャラクターとして演出する方法に、「Save the Catの法則」というものがあります。
それは、
誰かを助ける
……というものです。
ライト文芸においてはより狭めて——
幼女を助ける法則!
……といえるでしょう。
『リゼロ』以外にも『化物語』では八九寺真宵(幼女)を阿良々木くんは助け、『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』でも咲太くんは迷子の幼女を助け、『オーバーロード』でも少女とより幼い少女をモモンガ様が助けます。ちなみに、『仮面ライダークウガ』第一話でも迷子の子供を五代くんは助けます。
幼女、ではありませんが『ノーゲーム・ノーライフ』でもステフという困っている女の子を主人公・空が助けます。
いずれの作品においても、主人公にふさわしい人物として描くのに「誰か(特に幼女)を助ける」ことでそれを成していることがわかります。
そんな「困っている人(動物)」に優しい主人公をより「アツく」する演出方法が、「欠落の回復」です。
『リゼロ』1巻、2巻、3巻、各巻でズバルは一度「精神的な死」を経験します。
1巻では、自分の救ってくれたエミリア。彼女への恩返しのためにデスループを繰り返して徽章を取り戻そうとしているのに……? 3周目、彼女と信頼関係もないままに「サテラ」と呼んでしまい、嫌われてしまいます。
2巻では、初デートの相手で信頼関係を築けたと思っていたレム。しかし、スバルは魔女の匂いをさせていて、実は彼女から嫌われていたことが判明。しかも、彼女に殺意を向けられてしまいます。
3巻では、元々が底辺ニートだったのにも関わらず、陽キャを演じて無理が祟って精神的に死にます。
このように、各巻でスバルくんは「精神的に死んでいる」のです。
各巻を通じて、読み手はスバルくんが死に戻りによって大切な人びととかけがえのない時間を築いてきたことを知っています。
しかし、死ぬ度にリセットされているので、本編に登場しているキャラクターたちは「そのことを知りません」。
読み手が知っている情報(スバルくんはデスループしている)と、キャラクターたちが知っている情報(デスループを知らない)との間に落差がありますよね?
これは「情報格差」という技術で、アニメーション監督の神山健治さんは「構造」と呼んでいるものです。
神山健治さんの書籍では、『ルパン三世 カリオストロの城』を事例に取りあげていらっしゃいます。
ルパンとクラリスとの間にあった「過去」を知っているのは、当事者と観客のみ。これが物語をアツくさせています。
『リゼロ』も同じように、「読み手はスバルくんが何度も死に戻りしていることを知っている」状態です。
読み手とスバルくんが「秘密」を共有している状態。
これを「共犯関係」と呼びます。
するとどうでしょう?
秘密を共有すると……主人公に感情移入しませんか?
そして、感情移入したスバルくんが「精神的に死んだ」ら、読み手はどう思うでしょうか?
「スバルくんがんばれ!」
……と応援したくなるのではないでしょうか。
これが「欠落の回復」です。
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