日本語の重音節による韻②/重音節の後部要素

 こんばんは。Sagishiです。

 今回は、以前の記事を別の観点から書いていきます。




1 重音節の特殊モーラを置き換えても響く

 以前から日本語で押韻をしているときに、特殊モーラを含む音節(重音節)の後部要素を、別の特殊モーラに置き換えても、「響き」が感じられるな、と思っていました。

A:酩酊 mėetėe
B:全然 zėnzėn

※母音上部のドット付きは音節核を示す、ない場合は非音節核を示す

※特殊モーラ
「長音(-)」「撥音(n)」「促音(,)」「二重母音の後部要素」のこと。
 重音節とは、特殊モーラを含む音節のこと。

 「酩酊/形成」のように、同じ要素をもつ重音節のペア同士(かつイントネーション同じ)の場合に響くのは当然ですよね。でも、「酩酊/全然」のように、特殊モーラ要素が異なる重音節のペア同士でも響いています。これはなぜでしょうか。

 実際のところ、「なぜ響くのか」という理由は明らかになっていません。おそらくは、非音節核(特殊モーラ)は「響き」の認知上では重要視されないため、別の要素で置き換えができるのだ、ということだとは思いますが。

 いずれにしても、私たちは「酩酊/全然」のような特殊モーラ要素が異なるペアに「響き」を感じることができますし、実際にこういったズレがあるのに、rhymeとして使っているラッパーは非常に多いです。

 まず、本当に「重音節の特殊モーラを置き換えても響く」のか、より多数の例を出して確認していきましょう。

A:酩酊 mėetėe
B:全然 zėnzėn
C:劣勢 rėQsėe
D:決戦 kėQsėn
E:粘性 nėnsėe
F:生前 sėezėn

 A~Fの例を準備しました。A~Fのイントネーションはすべて同じものに揃えています。

 A~Fを、それぞれをペアにして発声してみます。「酩酊/劣勢」は響くか、「酩酊/決戦」は響くか、「酩酊/粘性」は響くか……「粘性/生前」は響くか……。という風に発声して、「響き」を確かめてみます。

 私はA~Fをそれぞれペアにして発声したときに、十分に響きのレベルが高いと思いました。心理学実験として、100人以上の統計を取れれば、これはしっかりとした論文になりそうですね。

 仮説段階ですが、「重音節の特殊モーラを置き換えても響く」というのは私個人の体感レベルでは実証できているのではないか、と考えます。

 私はこのような日本語の重音節を利用したときにだけ起きるようなrhymeのスタイルを、『重音節韻』と定義します。


2 アクセント曲線を変えるとどうなるか

 余論ですが、A~Fと異なるイントネーションを持つ例とペアにしてみるとどうなるかも確認してみましょうか。

 A~Fはすべてのモーラでイントネーションで下降しませんが、下降する例と比較をしてみます。

・4モーラ目にイントネーションが下降する例
G:先生 sėnsėe
H:テッペン tėQpėn
I:0点 rėetėn

・2モーラ目にイントネーションが下降する例
J:接点 sėQtėn
K:平米 hėebėe
L:天性 tėnsėe

 A~FとG~Iをペアにして発声してみます。「酩酊/先生」は響くか、「酩酊/テッペン」は響くか、「酩酊/0点」は響くか……「生前/0点」は響くか。

 イントネーションが異なるからだと思いますが、第4モーラの部分は若干「響きが弱いかもしれない」と私は感じます。しかし、ペア全体では、おおむね一定程度の響きのレベルは出ていると感じます。

 次にA~FとJ~Lをペアにして発声してみます。「酩酊/接点」は響くか、「酩酊/平米」は響くか、「酩酊/天性」は響くか……「生前/天性」は響くか。

 どうでしょう。A~FとJ~Lはイントネーションの違いの影響でしょう、かなり響きを阻害されていることに気づくと思います。特に子音が揃わない「酩酊/平米」のようなペアだと、かなり異なる「響き」になっているようにわたしは聞こえます。

 あまり知られていないと思いますが、イントネーションの違いが「響き」のレベルに与える影響は大きいと言えます。


3 重音節の押韻の推論

 「重音節の特殊モーラを置き換えても響く」理由について推論を書いていきます。これは、全くの想定の話なので、客観的事実としてそうだから響く、ということを保証するものではないです。

 重音節の第二モーラは「非音節核」です。そのため、「非音節核」同士で置換することができるのではないか、と考えています。

 また音韻論的には、重音節の音節核(母音)より非音節核=重音節の後部要素(特殊モーラ)のほうが「聞こえ度」が低い、ということは言えます。

(もしかしたら、心理的に弱いと感じているだけで、物理的には音量などは弱くなっていないのかもしれませんが)

 実験結果がないため、これはまだ推論です。「重音節の特殊モーラを置き換えても響く」ペアは「重音節韻」として成立すると、私は考えています。


4 ライムタイプのカテゴライズ化

 私は「重音節の押韻」(重音節韻)は、日本語のライムタイプにカテゴライズできると考えています。

 アメリカでは、押韻はしっかりと分類化されています(『ライムタイプ—押韻の分類』を参照)。しかし日本におけるライムタイプは、漠然とした「パーフェクトライム(完全韻・完踏み)」しかありません。

 日本語のライムタイプをしっかりと定義付けし、細かくカテゴライズしていくことは、押韻をよりアカデミックなレベルで議論するためには、どこかのタイミングで絶対に必要になります。そして、それがより生産的な議論を生む土壌になっていきます。

 「重音節の押韻」(重音節韻)は、そのカテゴライズの1つとして機能するでしょう。

詩を書くひと。押韻の研究とかをしてる。(@sagishi0) https://yasumi-sha.booth.pm/