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読書感想文8■『何もない空間が価値を生む』アイリス・チュウ著/オードリー・タン語り

本を買うときはどんな風に?

本を買うとき、皆さんはどんな風に見つけているでしょうか。
好きな著者の新刊をSNSで知った、インフルエンサーが紹介していた、知人に紹介された、amazonのランキングに乗っていて知った、などなど。
私も上記のような方法で作品を知ることが多いのですが、年に数回は書店で「これは!」と見つけて購入する本があります。多くは装丁が好みということが入口だったりするのですが、なぜか中身も好みな内容であることが多いです。今回はそんな本でした。

オードリー・タンさんのことはTVやメディアで知っていたものの、いわゆる台湾のIT相、超天才という自分とは領域が違う方というイメージがありました。
本を読んで一番感じたことは、タンさんが柔軟で前向きなメンタリティであること。インタビュー映像を拝見しても穏やかさが全面に出ていますが、他者の意見や思想に耳を傾けて、上手な心との付き合い方を習慣化してきたからなのだと実感しました。

古典に学ぶ姿勢

本の中では老子の「道徳経」のエピソードが出てきます。なんと5歳の時に読破したとか!
私も老子の思想に興味があり、半年前に始めた篆刻では老子の言葉を印にするなどして、その言葉に触れ合ってきたことから、とても親近感が湧きました。
人生の真理の山の頂上に登っていく際には、様々なルートから登りつつも行き着いた結論は同じ、という話はよく耳にするものです。
最先端の技術を取り扱っている方も古典をベースに「三宝」を人生の指針にしていることに、古典の普遍的な良さを感じた次第です。
ちなみに老子が解く「三宝」とはこんなこと。

「一に慈悲、二に倹約、三にあえて世間で一番にならないこと」とあります。
「慈悲」とは、命を尊重し、自分の命を大切にし、すべての生き物をできる限り大切にすることです。「倹約」とは、欲望を抑え、不必要な資源を使わないことです。「あえて世間で一番にならないこと」とは「競争しない」という意味で、自分のやりたいことを実現するために他人と競争する必要がないということです。

『何もない空間が価値を生む』アイリス・チュウ著/オードリー・タン語り

学び方について考える

タンさんは学校を複数回転校したり、学校に行かない時期があったりと家族の理解があった上で面白い環境で学んできたそうです。
「教育について語るより、学習について語る方が良い」の頁では、「お!なるほど」と思いました。
「教育」は教える側主体のキーワードです。「学習」に視点を変えることによって一方的と思えるようなカリキュラムを考えるのではなく、「学習者が学ぶためにどのような方法があるか」と捉えることができます。これによって、教室型が合うのか、実践型が合うのか、自習型が合うのか、その人のオーダーメイド性に焦点を当てることができます。これは学びを超えて、ビジネスや生き方にも派生していくなぁと考えると。どのパータンが合うか、あるいはどの組み合わせで学習することが合うかなど検討の幅が広がります。

ネット世界との付き合い方

ネットの世界があったからこそ、幼い頃から活躍されてきたタンさんですが、「スマホはタッチスクリーンを使わない」の頁には驚きました。
ずっと画面をスクリーンをしていることによって、スマホが自分をスライドさせているような状態になる、と。これはかなりドキッとしました。対策としてはタッチペンを使うことで感覚を解消しているとか。
ネット世界については私も思うところがありまして。様々なツールやシステムが便利になってきたことで、私の思考が喜ぶような記事、商品が溢れてきてしまって、自分で能動的に探さないと新しいコトやモノとの出会いがしづらくなってきたなぁと。気づいたら、周りの方と同じような商品に囲まれていたり、アクティビティをさせられていないでしょうか。やはり多くの方が語るように、離れる時間を作ったり、意識的に新しい世界を探しにいく意識が必要なのかなと考えています。

大きく「経験する」「学ぶ」「働く」「ネット上を生きる」「AI時代の哲学」に分かれているものの、一貫した思想に基づいて人生を歩んでいることが窺え、ストーリーの美しさに驚きつつも、前向きさに心が明るくなる本でした。


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