ネットワーク型組織の新潮流「協同組合型プラットフォーム」とは?

インターネットを起点とした情報革命は、社会構造やビジネスのあり方を劇的に変えてきたが、

プラットフォーマーへの権力集中が進むこれまでの流れは、当初のオープンで平等なインターネットの思想とは程遠い。

シェアリングやコミュニティ、プラットフォームといったアイデアは、いつの間にかうまく利用され、

従来とは何も変わらない資本主義メカニズムの中に取り込まれていってしまっているのではないか。

(マイクロソフトのGitHub買収なんかをみてしまうとなおさらだ)

そんなことを考える人たちが、ブロックチェーンなどの分散型技術を組み合わせながら、新しいスタイルの組織を立ち上げている。

「Platform Cooperativism(協同組合主義によるデジタルプラットフォーム)」と呼ばれる考え方だ。

◯ウーバーやザッポスの失敗の先に起こりはじめた、プラットフォーム型組織の新たな潮流

本題に入る前に、Platform Cooperativismが起こった背景として

インターネットやデジタル経済の普及が、企業組織のあり方や仕事の仕方をどのように変え、

その中で人々はどのような課題に直面してきたのかがよくまとまっているこちらの記事を紹介したい。

https://aeon.co/essays/workers-of-the-world-unite-on-distributed-digital-platforms

超ざっくりと内容を意訳すると、

・そもそも、階層型組織の必要性というのは、歴史的には、Resourcing, Transacting, Contracting という3つのコストを最小化させ経済性を高めていくために最適な構造とされていた(ノーベル賞受賞経済学者Ronald Coaseの理論,1937)

・しかし、インターネットやソフトウェア、AI、Blockchainなどの出現によってその合理性が失われ、結果として、オープンで、スキルベース、ソフトウェア最適化などを前提とした仕事の仕方や労働関係、組織構造が生まれはじめ、プラットフォーム型企業の台頭が起こった

・ウーバーのように、ユーザだけでなく、ドライバーが自営業者的に仕事を作り出していくことで、そのプラットフォーム上で相互価値交換が自律的に行われ、そして、ネットワークの法則により、閾値をを越えるとに一気に価値が高まっていくモデルが市場を席巻していった

・だが、そうしたプラットフォームは平等性を担保するどころか、プラットフォーマーへの権力集中を加速させた。

そもそもインターネットは、誰もが平等に情報にアクセスできる(情報を一箇所に集中管理しない)Free-For-Allの概念とともに広がったが(1990年代の第一フェーズ)、しかし、次第に資本主義のメカニズムに飲み込まれていく中で、ごく一部のプラットフォーマーによる寡占が起こり、オープンをキーワードにしながらも実はすごくクローズドな構造へ(第二フェーズ)。

・しかも、プラットフォーム型の情報社会では、ギグエコノミーに代表されるように仕事の仕組み自体も再発明されるとともに、人々は常に評価やランクに晒され、

アルゴリズムに操作される中で生きている感じがしない(feeling less like humans)といったuberドライバーのレポートや、ホラクラシー導入で有名なザッポスが直面した課題にもみられるように、ソフトウェアやデジタルプラットフォーム側に見えざるパワーが宿り、感情的な部分や人間性を損なってしまいやすいという課題(筆者はこうした状況を、”clash with human nature 人間性の崩壊”とも表現している)に直面

・そうした中で、参加者がプラットフォームのオーナーシップを取り戻そうとする動き(Platform Cooperativism)が起こり、参加者がトークン取引を通じて運営に参画し、プラットフォーム自体の価値向上からベネフィットを得られる仕組みを担保したLa’Zooz.やEthereum上で起こり始めたDAO(decentralised autonomous organisation)など、”crypto network(サイプトは暗号という意味)”と呼ばれるブロックチェーンベースの新たなネットワーク型組織が新興している(第三フェーズ)

・今後は、こうしたブロックチェーンをベースにトークン取引と合意形成を特徴とした”サイプトネットワーク”が相互につながり、協働していくというのがこれからのモデルになっていくだろう

というのが、この記事で語られている(一部著者の補足を含む)大きな流れ。

重要なことは、この流れは単なるブロックチェーン流行りに端を発するものではないということだ。

この記事で書かれている通り、ブロックチェーンをベースとした”サイプトネットワーク”が新たな組織インフラとして興りはじめているわけだが、実はこの流れは、その上位概念として、とある社会思想・ムーブメントと結びついている。

(もちろんサイプトネットワーク型の取り組みの全てに当てはまる話ではないし、ブロックチェーンドリブンのものを否定するわけでもない)

◯デジタル時代の協同組合型プラットフォーム Platform Cooperativismとは?

その社会思想とは、Platform Cooperativismと呼ばれているものだ。あえて訳すとすれば「デジタルプラットフォームにおける協同組合主義」だ。

一言で言えば、

ごく一部のプラットフォーマー企業への資本集中モデル(プラットフォーム資本主義と呼ばれている)に対するアンチテーゼであり、

プラットフォームのオーナーシップを参加者が自らの手に取り戻しがら、集団で民主的・主体的に運営をしていくことで、未来の公正なワークスタイルを創り上げていこうとする動きである。

これまでのデジタル経済におけるプラットフォームというのは、サービス提供者(Uber)がそこで働く労働者(Uber Driver)を管理する、という資本主義構造から抜けだせずにいたし、様々なところで”Equality(平等さ)”や “Fairness(公正さ)”に対する懸念が表層化していた。

「シェアリングプラットフォーム」の代表格とされるUberやAirbnbなども、海外では「これは本当にシェアリングエコノミーなのか?」という懐疑的な議論もよく聞く。そのプラットフォーム上で生じた価値・利益は、事業主体(uber)やその株主に配分されていき、プラットフォームに参加する人たちは中央集権的なシステムの中で搾取されているのではないか、果たしてそれは本当の意味でのシェアリングエコノミーなのか、という立場だ。

しかも、そうしたプラットフォーム上では効率や収益性向上のために、ソフトウェアやアルゴリズムによる最適化が行われており、主体的に人間らしく生きる感覚やが失われやすい構造が生じてしまっていた。

Facebook上でのマインド操作を考えれば、もはや多くの人にとって決して他人事ではないだろう。アリババやテンセントなど中国の驚異的なプラットフォーマー達も、ビックデータとAIによる管理統制型社会へと突き進む中国政府とともに、同様の方向に進んでいくであろうことは想像に難くない。

これらに対するオルタナティブな思想が、

・中央(あるいは第三者)権力を必要としない分散型プラットフォームのインフラ構築を可能とするブロックチェーン技術の活用

・雇用形態やワークスタイルの多様化(米国では2030年に40%がフリーランスになるとの予測もある)

・デジタル時代の基本的人権確保(EUだけでも2020年までに個人情報データ市場が1兆ドル規模になるとされており、先日施行されたGDPR(一般データ保護規則)も、真の意図はグーグルやフェイスブックらのプラットフォーム資本主義に対するカウンターであると考えられている)

といったグローバルトレンドと相まって火がついたのがPlatform Cooperativismの社会ムーブメントというわけだ。

“Platform Cooperativism”の提唱者であるTrebor Scholz氏らが仕掛けるHPでは、下記のように説明されている。

ーー

Almost unnoticed, in the gaps and hollows of the digital economy, a new economy is emerging that follows a different ethical and financial logic.Platform cooperativism, as it has come to be called, is an emerging movement for democratic governance and collective ownership on the Internet and a fairer future of work. It is a concrete, near-future alternative to the on-demand economy; it reclaims humane principles like mutuality, sympathy, and solidarity by bringing together the rich heritage of cooperativism with 21st-century technologies.

(意訳)

ほとんど気づかれていないが、デジタルエコノミーがもたらした格差や空洞(闇)を埋めていくために、異なる倫理観や金融論理による新たな経済が現れつつある。

Platform Cooperativismと呼ばれるようになったそのムーブメントは、インターネット上での民主的ガバナンスと集団的オーナーシップ、そして未来のワークスタイルをより公正なものにしていくためのものだ。人類の歴史の中で培われてきたCooperativism(協働組合的な)の知恵と21世紀の新たなテクノロジーを融合させてながら、相互主義、共感、団結といった人道的原理を取り戻していくための、オンデマンド経済に対する具体的な代替案である。

ーー

彼らのHPによれば、3年ほど前に始まったこのムーブメントには、欧米を中心に、すでに253ものPlatform Cooperativismの団体(Platform coopと呼ばれることもある)が登録されているし、そうした実験は世界中で起き始めている。

https://www.shareable.net/blog/11-platform-cooperatives-creating-a-real-sharing-economy

◯マイクロソフトのGitHub買収は繰り返されるのか?

でも、こうしたボトムアップの動きは、拡大していく中でいずれはグローバルジャイアントに吸収されていくのがオチなのではないか、という懸念ももちろんある。

マイクロソフトのGitHub買収なんかをみてしまうとなおさらだ。

オープンで民主的なプラットフォームの象徴ともいえたGitHubでさえも、こうしてキャピタリズムに飲み込まれていってしまうのか…と落胆した人も多かったのではないだろうか。

ただ、Platform Cooperativismは、共感・賛同する個人が集まり、集団で主体的に運営・協働していく、言うなればギルドや協同組合のようなものだ。(ティール組織で語られている組織の一部も実はそうなのではないかと思っているのだが、それはまた別途)

価値観や世界観に共感した個人が集まり、テクノロジーインフラを組み合わせながら、オーナーシップと民主的ガバナンスを集団で担っていくというスタイルは、

従来の単一的な組織をイメージしたマネジメントから脱却した、未来のワークスタイルの一つの可能性だと思うし、

ティール組織で紹介されているビュートゾルフが、オランダで既存の医療業界をひっくり返したように、

人々には手が届かなくなってしまった社会経済活動の仕組みを、適切な大きさと主体に取り戻していく、ポスト・資本主義時代の一つの兆しなのではないかと思う。

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