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マイの物語〜僕は「味園」の近くに住んでいた スピンオフ〜

ヤマモトタカオの家を出て、わき目も
ふらずにまっすぐ難波の駅に
向かっと南海通りを歩く
こんな、朝早いのに、あるいは朝早いからか
声をかけてくる馬鹿男共を無視して
御堂筋線に乗り、淀屋橋まで行って
京阪電車の特急に乗る。
電車は休日の朝早くだからガラガラ。
ずっとセックスしてたから寝てない
眠い。
と京橋過ぎた頃に意識を失い、
気づいたら枚方。
樟葉の前で起きて良かった。
口開けて寝てへんかったかな
大丈夫かな、まあええか

家は駅から10分くらいのところにあって
帰ったら8時くらいで、お母ちゃんが
おかえりと言う。
結婚前の楽しみやからと友達の家に
泊まってくるとだけ言って出てきたけど
誰とこ?とか聞かれんかったから
まあ信用してくれてるんかなと。

シャワー浴びて
自分の部屋でもう一回寝直して
起きたらもう夕方

食堂に降りたらお父ちゃんもお姉ちゃんも
お姉ちゃんの旦那さんの武くんもおった。

お父ちゃんと武くんはすでにビール飲んでて
「おう、花嫁さんの登場や」て言う。
お姉ちゃんとお母ちゃんは、台所で夕食の
準備中やった。

なんか手伝おか?と聞いたら
主役は今日は座っとき、と返される。

うちは明日、結婚のために東京に行く。
今日は私の送別会
式はあげへん。

普通こういう時は結婚式して披露宴して
披露宴の最後にお父さん、お母さんへの
感謝の手紙読んで、皆おいおい泣いて、が
一通りの流れやと思うけど、
式はあげへんの。

旦那さんになる人はタケちゃんいうて
映像制作会社の 
社長兼プロデューサー。
会社言うても小さい会社やし
現場仕事も自分でやってる。
うちはスタイリストの仕事やってて
たまたま仕事で一緒になった。
第一印象は。まあ、優しそうな人やなあ、
みたいな。
特に男前ではないし。
この業界ベテランになればなるほど
えらそにしてる人多いけど
タケちゃんはそんなことなく
カメラアシスタントの男の子にも
撮影の合間に話しかけてた。
ふーんええ人なんやなとその時思った。
撮影終わって帰る方向が一緒なんで、
タケちゃんの車で送ってもらって、
まあ話しも合うし何となく
また飲みにいきましょうって話しになって。
それから何回か飲みに行ったり、
映画見に行ったりしてた。
まあ年上というところもあってひょっとして、
最初は浮気夫かと思ってたけど、
俺バツイチと言ったし 
嘘つくような人にも見えなかったんで、
信用してた。

会うようになって半年くらいでHして、
まあ年上やしそこそこ余裕のある
セックスしてくれるんやろなと思ってたら、  
なんかあたふた、うちの身体触って、
すぐ挿れて、すぐ終わって。
内心高校生かよって思ってたら
奥さんと別れてから
初めて女の人とHした言うから、
それほんま?って聞いたら、
実は、、、奥さん死別して残された子の
育児しつつ、仕事しててそんな余裕なかったって。
マイちゃんに会って、
久しぶりに、本当に久しぶりに女の人と
付き合いたいって思ったって。
マイちゃん大好きって抱きしめてくれた。
絶倫の誰かさんやったら
そこから2回戦が始まるけど 
タケちゃんもいい年やし、
すぐの、回復力は難しそうやったんで
その晩はそのまま寝た。
タケちゃんの胸は広くて暖かくて  
うちも安心してゆっくり寝れた。 
今まで付き合ってきた男には
なかったわこういう感じは。
それからは毎週会うようになって、   
お互い忙しいからご飯だけの時も
多かったけど、タケちゃんとおったら
喜怒哀楽いうか、うちの感情が
素直に出せることに気いついたんよ。
全部受け止めてもらえるんやなあって。

タケちゃんから一回家遊びに来るって
言われて行った。
京浜東北線の東十条って駅で降りて
商店街入ったところにある家やった。
まあまあ大きな家やった。
タケちゃんのお母さんもたまたま、
いやあれはたまたまじゃなくて
仕組まれてたかも知らんけど、
おって、お寿司とってくれてた。  
皆でさあ食べようとなって
タケちゃんがリナ、リナって
呼んだら奥の部屋から出てきた。

車椅子に乗ってた。


子どもがおるのは知ってたけど
足が不自由とは知らなかった。
小学校低学年くらいかな、可愛い顔してた。
タケちゃんが私を紹介してくれたけど、 
目を逸らして軽く頭下げただけ。 
お寿司食べてる間も一言も喋らない。
私はそこは関西人やから、
まあ、あることないこと   
いっぱい喋って場を盛り上げた。
タケちゃんのお母さんは
大笑いしてくれて
こんなに笑ったの久しぶりって言ってくれた。
リナちゃんは一回だけクスリと 
笑ったけど喋ることはなかった。
人見知りが激しくてと
タケちゃんはとりなすように言ったけど
まあ、私はまず車椅子にびっくりして、
態度については気にする余裕がなかった。
食事の後タケちゃんの部屋に行って
若い頃のタケちゃんの写真とか
前の奥さんの写真見せてもらった。
ノブコさんいうらしい。
確かにキレイな人。
浅野温子に似てるわ。
そいでリナちゃんが可愛い顔してるのは、 
お母さんに似てるのかと納得した。
帰り際にノブコさんの仏壇にも
手を合わせて帰った。
深い意味なしに、礼儀として。

後から聞き出したところでは、ノブコさんは
モデルの卵やって
タケちゃんが口説き落としたらしい。
結婚して長いこと子どもでけへんかったけど
不妊治療とか色々して
やっと授かった子がリナちゃん。
でもお医者さんから、残念ですがこの子はおそらく
歩くことができませんって言われて
タケちゃんとノブコさんは泣き崩れた。
自分らが不妊治療しなかったら
リナが生まれなくて、この子に 
苦労させることになったて。
その話をお母ちゃんにしてみたら、
そりゃ親やもん、当たり前やわ。
あんたの時かてアヤ(お姉ちゃん)時かて
生まれた時に手の指、足の指全部数えて
10本ずつあるって確認したもん。
特に母親は産んだ子に何かあれば、
自分のせいやって思うから余計な。
そのノブコさんやったっけ、辛かった思うよ

ノブコさんはそれからリナちゃんを
本当に大切に育てた。
まずは自分のことより、リナ、リナ、リナ。
まあ、当たり前やけど、そのせいで
リナは我儘に難しい子に育ったのかもしれないって、
お酒飲みながら
タケちゃんが言うとった。
でもノブコさんはそれから3年後、
乳癌で亡くなってしもた。
亡くなる直前まで、自分のことよりも
リナちゃんの事を、
リナちゃんの将来を
心配していたらしい。

それをうちから聞いたお母ちゃんは
無念やったやろなあと泣いてた。
うちもその気持ちは分かる。

それから2回くらい遊びに行ったかな。
いつもお昼前に遊びに行って、タケちゃんと
うちとリナちゃんの3人でご飯食べた。
ご飯はタケちゃんが作ってくれた。
うちが相変わらずあることないこと
面白おかしく喋って、
タケちゃんは爆笑してるけど
リナちゃんは少し笑うけど、変わらず、 
一言も喋らず食事終わったら 
速攻、自分の部屋に戻るの繰り返し。
人見知りの激しい猫みたいって思ってた。

ある日タケちゃんが 
たまには贅沢しよと言って、
二人で銀座で高そうな店でお寿司食べて、
いやすごい美味しかったけどな、
ホテル泊まった。
お寿司屋で結構日本酒とか飲んで、
うち結構酔っ払ってたんや。
いい気分やった
するとタケちゃんがカバンごそごそして
キレイなちっさい箱を出してきた。

は?

は?

開けてみていうけど、
これわからん女はおらんわ。
開けるまでもないわ、

これどういうこと?って聞いても、
とりあえず開けてと。
開けたらダイヤの指輪。
それもいいやつ。

タケちゃんはいきなりガバッと
その場で土下座して、
泣きながら言った。


マイちゃん、俺と結婚してください。
マイちゃんは俺にとって最後の光、
俺とリナ、助けて、
マイちゃんがいないと
本当に生きてゆけないと。


・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。



これで断れるわけないやん。
光やで、
生きてゆけないやで。

それに私かてタケちゃんのこと
大好きやからな。


わかった、タケちゃん、私でええの?
と言うてしもたわけよ。
泣きながら。

で婚約成立。


でもねタケちゃん、これだけは言っとくけど
リナちゃんは私を絶対母親とは認めないよ、
反対するよ、それでもええのん?
これは念を押した。
わかった、そこはちゃんとするとタケちゃん。

タケちゃんは、帰ってから
そのことをリナちゃんに伝えたらしい。

リナちゃんは一言
「イヤ」
と。

どんなにタケちゃんが説得しても

「イヤ」

と。

こっちがわも大変やった。
翌週タケちゃんと樟葉の実家に戻った。
「会わせたい人がおるからと」というと
お母ちゃんはどんな人?と嬉しそうに聞き
お父ちゃんは、ついにくるべきものが来たかと
いう感じやったけど、
バツイチで子持ちで、
しかもその子どもが体が不自由で
さらに結婚に反対しててということまでは
言ってないというか
よう言わんかった。
タケちゃんは自分で言うといった。

タケちゃんを最初見たときからうちの親は
「アレ?」っていう感じやったけど
(えらい、おっさんが来たなと思ったらしい)
タケちゃんが話しをしていくうちに
(奥さんと死別して、子どもがおって、その子どもが足が
不自由で)
親のテンションがだだ下り
だんだんと不安げになっていくのがわかった。
そりゃそやわな。そうなるわ。
それでも外面がいいうちの親は
笑顔取り繕ってお茶飲んで、
明日が仕事で東京に戻らなあかん
タケちゃんを送り出すまでは、何とか頑張っていた。

でもタケちゃんを送り出した後は
「はーっ」と言って
お父ちゃんはビール飲みながら 
黙り込んでしまうし
お母ちゃんは「疲れた」いうて     
寝室にこもってしまった。
まあ何というか
アンチクライマックスというか。
オチのないて言うか。
ガーっと言われて反対されたのなら、
こちらも言いようが
あるけどそう来られたら、
どうしようもない。

お父ちゃんがビール飲みながら言った。

お姉ちゃんの時もそやったし
マイの時もそやったけど、
二人がまだ赤ちゃんの時
その時はマンションの7階の
部屋に住んでたから
どちらかを抱っこして共用廊下歩く時は
手すり側じゃなくて、
反対側をそろりそろり歩いてた。
おかあちゃんがあんた何してんの?
て笑ろてたけど
もし俺が手え滑らせて下に落としたら
大変やと思って
そういうふうに歩いてたわけ。
今思ったらアホみたいな話しやけど。

何が言いたいか言うと、親はそういうふうに
大切に、大切に子どもを育てる。
よそさんは知らんけど、
俺とお母ちゃんはアヤ(お姉ちゃん)とマイを
そう言うふうに育ててきた。
子どもいうんは、可愛いし、
いろんな楽しみを与えてくれるけど
親にとっては心配の爆弾でもあるわけや。
熱出した、足擦りむいた、学校から泣きながら帰ってきた、
部屋から出てきいひん
いちいちいちいち毎日心配やねん 
親からしたら。
マイ、お前、そこまでのこと考えて、
誰いうたっけ、その足の不自由な子
そうリナちゃん、リナちゃんのこと
責任持って育てられるか?
言葉悪いけどな、普通の子じゃないんやで
血が繋がっていない、
いくら好きな人の子どもとはいえ、
その子ちゃんと育てられるか?

ふと気づいたらお母ちゃんが、
後ろに座っていた。

まあ、お父さん、
今日はそのへんにしとこかというて 
静かに笑った。
さあ、ご飯の支度しよいうて
マイは何食べたい?言うて

それには答えんと、
お母ちゃん、今日のことどう思う?
私わからへん、わからへんけどって言うた。
お母ちゃんはそやな、わからへんな、
お母ちゃんもわからへんわ

その日の食事は肉じゃがやった。
いつもはうるさいくらいに  
よう喋る三人とも
言葉少なだった。
お父ちゃんはタイガースの試合、
黙って見てるし
そんな日に限ってタイガースは
5回裏で5-0でカープに負けてるし。
お母ちゃんはどうでもいい
スーパーのチラシを食べながら
見てるし。

東京に帰ったらタケちゃんから電話があって
どうだった?って聞くから、
うーん消極的反対やなと答えた、
そんなんやめとけって  
真っ向から反対するのも 
人としてどうかと思うし
ただ娘の幸せのこと考えると、、、
って感じやなって答えた。

タケちゃんはそうか・・・ってなって
しばらく考えた後、分かった、ちょっと
会わせたい人がいるから、
今度の土曜日空けておいてと言われた。

土曜日の午前中に門前仲町の
駅前で待ち合わせして
タケちゃんの車に拾ってもらった。
ハイエースで、車椅子対応
リナちゃんも一緒やった。
リナちゃんはずっと窓の外見てた。

しばらく走って、立派な家の前に車停めて、
さあ、降りようかって言うから
ここどこ?って聞いたら
先妻のノブコさんの実家やて。
えーっとなったわ。
そりゃそやろ、
うち、どの面下げて会ったらええねん
そんなん事前に言うとういてよ、
手土産も何も買ってないのに
って思ってたら、
中から上品なおじいさんとおばあさんが
(おばあさんは写真で見たノブコさんによく似ていた)
ニコニコしながら出てきた。
つまりノブコさんのお父さんとお母さんやね、
リナちゃんはニコニコして、
(こんなに笑ろたの見たの初めてやけどむっちゃ可愛いやん)
おじいちゃん、おばあちゃんって懐いてる。

応接間に座って、お茶菓子出されて
私とタケちゃんが座って、
ノブコさんのお父さんとお母さんと
リナちゃんが対面で座った。
私が自己紹介して、
タケちゃんが色々ありましたけど
今度、横に座っているマイさんと
結婚しようと思ってます。
今日はそのご報告に参りました。って言った。
ノブコさんのお父さんとお母さんは
にこりと笑い、
そうですか、ご丁寧にありがとうございます、
マイさん、タケオ君とリナのこと
よろしくお願いしますと
穏やかに言うてくれた。
うちはどうしたらええかわからへんから
「はい」って頭を下げた。
お母さんはノブコも喜んでるわって
嬉しそうに言ってくれた。

その時リナちゃんが
「そんなことないよ」って
おっきい声で言うた。
皆、はっとしたけど、
お母さんが
「リナはどうしてそんなこと言うの」
って聞いてくれた。
リナちゃんは目に涙いっぱい溜めて
「わからないけど、そう思う」って。


リナ、リナの気持ちはとっても良くわかる。
わかるけどリナのママはもういないの。
そりゃノブコが生きていたら、
ちゃんとリナのこと育ててくれたけど
でももういないの。それはわかるわよね?
今まで、パパとパパのおばあちゃんと、
私とおじいちゃんで
みんなでリナのこと一生懸命
育ててきたけどね。
でもリナは女の子で
これからどんどん大きくなって
いろんな不安や相談したいことが
いっぱい出てくると思う。
そう言う時に新しいママが必要なのよ 
分かる?
パパのおばあちゃんと
私とおじいちゃんはどんどん歳をとるの
いつまでもリナの面倒見れないの。
パパもお仕事あるし、
いつも一緒にいられないでしょ?
パパが選んだ人だもん、
マイさんはちゃんとリナの相談相手になって
助けてくれると思うよ

リナちゃんがたまらず泣き出した。
お母さんは「はい、よしよし」と
リナちゃんの背中をさすりながら
「りんご食べる?一緒に剥こうか」
と言いながら
リナちゃんの車いすを押して
台所の方に言った。

ノブコさんのお父さんがこちらへと
手招きしてくれてタケちゃんと二人で
奥の部屋にいった。そこ仏間やって
立派な仏壇にノブコさんの
遺影が飾ってあった。

ノブコは小さい時から聞き分けのいいこで
ほんと手がかからずにきたんですが
こうなってしまって。
子どもの葬式を親に出させるなんてと
今となったら親不幸な娘に
なってしまいました。
マイさん、本当に申し訳ない。
私たちが心配しているのは、
マイさんにとんでもない
重荷を背負わしてしまってるんじゃないか 
ということです。
でも家内が言ったように
リナには母親が必要なんです。
特に足の不自由な子なので
普通の子以上にいろんなサポートが
あの子には必要なんです。
それをまだ若い血のつながりもない
マイさんに背負わせようとしている
ノブコの父親として、 
頭を下げるしかないです。
マイさんこの通りです、
どうかどうかリナをお願いいたします。

いつの間にかお母さんも来て、
私の手を握って言った
さっきも言いましたが、
ノブコもマイさんみたいな人に
リナの母親になってもらって
喜んでいると思います。
本当に、、本当に、、、ごめんなさい 
どうかどうかお願いします
って。

台所にいるリナちゃんに聞かせないように
大人4人が声押し殺してボロ泣きよ。

うちは泣きながら 
ノブコさんの遺影を見ていた

ノブコさん、わたし、こんなんやけど
絶対、リナちゃんのこと大事にします。
たとえ、自分の子どもができたとしても
リナちゃんのこと大事にします
どうか見守っててください。

と誓ったんや。
心の中で。

リナちゃん全部聞いてたんちゃうかな

ノブコさんのお父さん、お母さんの家出て
門前仲町の駅でうちと別れた後、  
リナちゃん、タケちゃんに言うたらしい。

わかった。でも結婚式はいやだ。

リナちゃんのことをタケちゃんから
聞いて、その週末再度うちは
樟葉の実家に帰った。
で、お父ちゃんとお母ちゃんと
帰ってたお姉ちゃんに
ノブコさんのお父さん、お母さんとの
話しも全部した。
リナちゃんは、式はいややけど
認めてくれてるっていうことも言った。

お父ちゃんとお母ちゃんは黙って聞いていた。
お姉ちゃんは途中から涙ぐんで聞いていた。
全部、聞き終わってお父ちゃんが言った。

わかった、お前がそこまで言うんやったら
俺からは、何も言うことない。
ただな、これだけ言わせてくれ

マイが向こうの家で、みんなの面倒見て
頑張って、頑張って、頑張って、頑張って 
それでもな
それでも、
どうしてもあかんかったら
うちに逃げてきたらええ。
世間がどう言おうとかまへん。
ひどい嫁やなんやかんや言うやろうけど
気にすんな。
逃げてきたらええ。
俺とお母ちゃんは、マイが一番大切や。
それは忘れんといてな。

お母ちゃんは横で泣きながら頷いてる。

うちはこの人らの子どもで良かったわ
って思った。

んで、何の話しやったっけ
そう、送別会の夕食の話しやった。
お母ちゃんが作ってくれたのは
鶏の唐揚げとエビフライと
春雨のサラダと野菜の炊き合わせ
皆、うちの好きなのばっかり。

おかずを見たお父ちゃんが
なんやこのコンセプトがわからん食事は
って言ってたけど
そもそもコンセプトっていう言葉の意味 
分かって言ってんのかいな あの人は
いや、うちも知らんで

普通、娘が嫁に行く前の食事会って
もっとしんみりした話しするはずやけど
近所のおっさんが育ててる
胡瓜が巨大化した話しとか、
立ち飲み屋で横にいた
おじいちゃんから聞いた身の上話しとか、
(ものすごい借金に追われた話し) 
四軒となりの家の洗濯物が臭い、 
あれは特殊な柔軟剤使ってるんちゃうかとか、 
もう笑えるけどどうでもええ話しばっかりで、
うちがたまりかねて、
イヤこういう時は母が娘の手を握って
元気でとか言うんちゃうんって突っ込むと、
誰がそんなさだまさしの歌みたいなこと
せなあかんねんって言われるし、
まあいつもの夕食と変わらんかったな。 

今何時?
えっ、もうこんな時間や
そろそろ帰らなあかんわ
うん、帰りにそこにある餃子屋で
焼き餃子買ってくわ。 
タケちゃんとリナちゃんの好物やねん

わざわざ出張の帰りに寄ってくれて
ありがとうね。
いや、久しぶりにベタベタの関西弁で
喋れたから
ええストレス解消になったわ
さっきまで、隣の席にいたおっさん
もらい泣きしてたな。
それ分かったからちょーっとだけ
話し盛っといたった。
ああ、お腹?今五か月
やっと安定期に入ってきたわ
でも普通、最初にそれ聞くやろ?
細いからわからへんかったって?
相変わらずお上手やな、君は。
幸せそう?
あら、そう?わかります?
オホホホホ
君も仕事忙しいんやろ?
会社立ち上げたんやってな
頑張ってな。
ほな、またな、
彼女さん、
いやもう奥さんやな
だれやったっけ、そうケイコさん
幸せにするんやで
君やったらできると思うよ

知らんけど。

じゃ、またな。


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