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信田さよ子『家族と国家は共謀する』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」10月14日放送分)

※MRO北陸放送(石川県在局)では、毎週木曜日の夕方6:30〜6:45の15分間、書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」を放送しています。このシリーズでは、月毎に紹介する本の一覧と、放送されたレビューの一部を無料で聞くことが出来るSpotifyのリンクを掲載しています。

※スマホの方は、右上のSpotifyのマークをタッチすると最後まで聴くことができます。

<収録を終えて>

 放送の中でもお伝えしていますが、私が信田さんから学んだのは2つのことです。1つは「中立・客観的では弱者の気持ちを理解できない」こと、そしてもう1つは「自己責任論の限界」です。

 「中立・客観的」については放送の中でお話しているので、2つ目の「自己責任論の限界」について、少し補足してお伝えしたいと思います。
 この著書の最大の特徴は、「家族」と「国家」という、ごく私的なものと究極に公的なものを並べてみた時に、この2つは不思議なことに、どこか似ているのだと指摘したことです。
 しかも、恐ろしいことに「暴力」が振るわれる場面で似ているところが見られるというのです。家庭内の暴力(DVや虐待)と、国家の暴力(戦争や政治)は、近い構造を持っているのではないかと信田さんは考え、その根底にあるものを探っていきます。

 本の内容は多岐に渡っているのですが、私はそこに「自己責任論」の限界を感じました。

 例えば、「妻」が「夫」から暴力を受けた時、「いい大人なんだから、逃げるなり助けを求めたりできたんじゃないの?」という視点は、妻と夫の関係性を(きっとそれは各家庭によって全く異なるものなはず)無視しているものであり、「無責任な」他人による「自己責任論」であるのではないかと思うのです。

 また、「収入が低いのは、ちゃんと勉強していい大学を出なかったから」や、「きちんと貯金しておかないなら、老後に貧困で困るのは当然」といった視点も、やはり、その人ごとの個別のケースを無視した「無責任」な「自己責任」論ではないでしょうか。仮に、社会でこういった考え方が主流になっているのだとしたら、そこには行政による暴力の気配を感じずにはいられません。

 文中では、親子の関係を表した映画の引用や、信田さんのクライアントの実例(もちろん匿名性は確保されています)なども出されていて、非常に読みやすい内容になっています。

 最後に、私が最も美しいと思った箇所を紹介したいと思います。幼い頃から父親から虐待を受けてきた男性が、大人になって、老いた父親の遺体に直面した時の言葉です。

僕は、霊安室からいったん黙って立ち去ろうとしました。幼少期から、僕と母への、さらには兄への怪物めいた数々の行為を思えば、遺体を見るだけでも、見てやっただけでもどれほどのことだろうか、と思っていたのですから。しかし、階段を5段降りたところで僕は立ち止まり、再び戻って扉を開けました。そして父の遺体の枕元におかれた線香立てに、マッチで火をつけた線香を三本だけ立てました。その煙を吸い込みながら、思わずクリスチャンの僕は、手のひらを合わせて『どうか天国に行かせてあげてください』とお祈りをしました。それは、あの父のためだったのでしょうか。(略) 
(信田さよ子『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』より)

 くどくなってしまいますが、もう1つだけ。
 これは、時代も国籍も全く異なる、ある著名な作家の言葉です。

Forgiveness is the fragrance that the violet sheds on the heel that has crushed it.  (許しとは、踏みにじられたスミレの花が、踏みにじったそのかかとに放つ香りである) --Mark Twain

 スミレのようであってもいいし、スミレのようでなくてもいいと、個人的には思います。許せないものは、許せないままでいいんじゃないかと思うのです。
 一方で、他者を許せば、自分を許せるようになるのかもしれない、とも思います。上で引用した男性は、父親のために祈ることで、自分自身のために祈ることができたのではないでしょうか。
 取り返しのつかない何かが自分に起こった時、私達はそれを受け入れられないことが多々あります。ともすればかつての自分の姿にすがり、今の自分を否定することもあります。しかし、それでも、ここには今の自分しかいないのです。傷つけられた自分を何とか立て直し、生きていくしかないのです。
 もしかしたらスミレは、不意な暴力に晒されたあとでも自身を受け入れるために、踏みにじったかかとを許すのかもしれません。かかとに放つスミレの香りは、許すという行為の高潔さではなく、それでも生きたい、という願いの切実さではないでしょうか。いずれにせよ、そこにあるのは、生きることが極限に高められた、魂の結晶であるのだと思います。

<了>

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注)
記載したSpotifyのリンクは、本放送に対して簡易版なので、BGMや、番組を応援してくださっている「金沢ビーンズ明文堂書店」のベストセラーランキング、金沢ビーンズの書店員表さんの「今週のお勧め本」などは入っていません。完全版をお聞きになりたい方は、radiko で「木曜日のブックマーカー」と検索すると、過去1週間以内の放送を聞くことが出来ます。

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