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昨日の雑草(てき)は今日の食材(とも)

ある日、雑草にハマった。

『環境に慣れてくると見える範囲でしか物事を考えられなくなり、イノベーションが生まれにくくなってしまうのではないか』

などと小難しいことを考えているうちに

『身近なものにこそ目を向けるべきではないか』

という発想に至り、その辺りに生えている雑草の名前が気になり始めたという次第である。

さすがに一度に全部は覚えきれないので、一日ひとつ、コレと決めたものを覚えるというルールを設定し、たまにサボる日もあったが、それでも少しずつ自分の中に蓄積していった。

ヒメムカシヨモギ、ヤナギタデ、ツユクサ、アオゲイトウ、ヒメヒオウギズイセン……など。

今まで雑草があるなぁくらいしにしか思っていなかった安井ファーム周辺には、意外とたくさんの種類の植物が生えていることがわかった。

またある日、酷暑の中、仕事でビニールハウスを訪ねる機会があった。

近々ここにもブロッコリーの苗を運び込むことになるため、先立って様子を見に来たのだが、気温計に目を遣ると50℃を超えて振り切れていた。

さすがにこんな環境で育つ雑草なんていないのではと思いつつ、外から中を覗いてみると、奥の方でしっかり繁っている草の姿が見えた。とんでもない生命力である。

気温50度をものともしない強敵たち

何にせよ、これからブロッコリーの苗を並べるというところに、こうも堂々と雑草にのさばられていては、管理側としては無視するわけにもいかないわけで。

タイミングを見計らい、サクッと除草して、こんな魔境とはさっさとBYEBYEしてしまおう、と。

そう思っていた。

ーーその遠目に確認した雑草が、スベリヒユだと気づくまでは。

「スベリヒユ」

気温50度を超える中、防草シートを突き破って出てくる程度の能力者

畑など養分のある場所で特に旺盛に生育する、The 夏の害草代表で、ご覧のように気温50度を超える中でも防草シートを突き破って平然としている程度の雑草能力者である。

日当たりの良いところを中心にとにかく全国どこでも『どっかその辺りで』見つけられる雑草なのだが、
食べられることは意外と知られていない。

散策すると、どっかその辺りで簡単に見つかるスベリヒユ。

業界に入ってからイヤになるほどこれを除草してきた私も、食べられることを知ったのはつい最近、身近な雑草について学び始めてからのことだった。

いざ収穫。

ビニールハウスに風を通し、内部の気温が下がるのを待ってから、せっせと食材採集(除草)に勤しんだ。

生でも食べられないことはないようだが、シュウ酸が多く含まれていたり、雑草ゆえにいろいろなものがかかっているリスクがあったりするので、調理の際は『ゆで』が基本となるようだ。

ついでに『自己責任』も基本に追加しておこう。

スベリヒユ.jpg

早速ゆでてみると、なんとも「雑草をゆでている感」が拭えない。

いや、実際に雑草をゆでているのだが、レシピ本の著者としては思わず言い訳したくなる光景であった。

熱湯で2分ほどゆでてから、水にさらし、水気を取ったら『スベリヒユのお浸し』の完成である。

スベリヒユのお浸し

実際に食べてみた

......。

完成とはいったものの、これまでスベリヒユを食べ物として見てこなかった期間が長かっただけに、食べるには少々、勇気が必要だった。

......フゥーっと、深呼吸。

目を瞑るといつぞやのスイカごはんが浮かんだが、まだあちらの方が抵抗が少なかったかもしれない。

だがこの経験がこの先の何かに活きることもあるのだろう。

おそるおそる、クチまで運び……

そしてそのまま、思い切って食べてみた。

...

.........

なんとなく芝生がクチに入ったあの感じを想像していたので、ツンとした青臭さが初撃でズドンとくるのではと身構えていたのだが、意外にも印象としては『普通にお野菜な感じ』だった。

少し粘りというか、ぬめりみたいなものがあるタイプ。

喩えるなら、少し酸味のある金時草、あるいはツルムラサキ、といったところだろうか。

あの『スベリヒユ』をもぐもぐしているかと思うと、なんだか奇妙な感覚ではあるが、誰にも世話されず、その辺の道端にも自生している雑草にしてはそこそこ美味しい部類に入るのではないだろうか。

かつて暑い日差しの下で戦った強敵と、和解の兆しが見えたところで、調味料を試してみた。

まずはマヨネーズ。

ブロッコリー感覚でたっぷりつけてみたが、やや酸味が強調されすぎるように感じたので、次は少し醤油を足してみた。

すると少しはマシになったのだが、それでもなんというか、こう、ビシッとこなかった。

こういう時はだいたいいつも、めんつゆが万能選手なのだが、この頃の暑さを乗り切るためにそうめんつゆとして幾度となく昼食に駆り出されており、あいにくと本日は留守にしていた。

いろいろ試すうち、最終的にポン酢和えに落ち着いた。

スベリヒユのポン酢和え

特に食後の不快感もなく、スベリヒユは本当に、案外、普通に、食べられるものであるとわかった。

これを野菜として扱う地域もあるということだが、食べた今となっては頷ける話である。

特に食後の不快感もなく、スベリヒユは本当に、案外、普通に、食べられるものであることがわかった。

これを野菜として扱う地域があるとも聞くが、食べた今となっては頷ける話である。

......

...

スベリヒユを食べて以来、目についた雑草について『食べられるのかどうか』まで調べるクセがついた。

緊急時の食料発見スキルというところで、食べられる雑草を知識としてもっておくのも悪くないのかもしれない。

しかし、自然界には本当に危険な野草もあるので、誤食のリスクを考慮し、
私自身は雑草を食べることを習慣化するつもりも、また推奨するつもりもない
ことをここに明言しておく。

そういえば今回は『環境に慣れてくると見える範囲でしか物事を考えられなくなり、イノベーションが生まれにくくなってしまうのではないか』という小難しい考えに端を発していたのであった。

足元にいるかつての強敵たちが食材に見えてくる感覚はいまだに慣れないが、イノベーションには至らずとも、今回は少しなりとも視野が広がった気がしている。

「ブロッコリーの人」として、その視野を日々のブロッコリー発信に活かせるよう、今後もブロっと頑張る所存である。

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