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日経記事「オーバーツーリズムを超えて」

日経新聞の「やさしい経済学」で龍谷大学の阿部大輔教授のオーバーツーリズムについての解説が連載されました。インバウンド需要がもたらす経済への影響と社会課題について考えることができる記事だったと思います。

以下が各回の要約です。

第1回:地域経済を支える観光

20世紀から観光は成長し続け、2019年には世界で14億人が旅行しました。コロナ禍で観光客数は減少しましたが、現在90%まで回復し、2030年までに18億人に達する見込みです。日本では2007年の観光立国推進基本法施行以降、観光が重要な国家戦略となり、地域経済活性化や雇用増加が期待されています。しかし、オーバーツーリズムが社会問題化し、観光と地域の共存が課題となっています。

第2回:地域経済を支える観光

観光は経済活動、まちづくりは生活環境改善運動ですが、両者の融合が進んでいます。広島県尾道市の「空き家再生」や東京都大田区の「おおたオープンファクトリー」などの事例が示すように、観光とまちづくりの相乗効果が地域を活性化し、住民に誇りをもたらします。災害復興にも観光視点が必要です。

第3回:観光が抱えるパラドックス

観光は非日常性を求める活動ですが、観光地には日常生活を営む住民がいます。観光は経済的利益をもたらす一方、オーバーツーリズムにより住民に負担をかけ、環境にも悪影響を及ぼすことがあります。例えば、ハワイのハナウマ湾ではコロナ禍中に環境が改善されました。ポストコロナの観光政策では、このような葛藤の克服が求められます。

第4回:過剰な観光が生まれた背景

オーバーツーリズムという言葉は2016年夏ごろからヨーロッパのヴェネツィアやバルセロナあたりから定着しました。背景には観光産業の成長、余暇活動の増大、所得中間層の増加、輸送費の低コスト化、ビザの緩和などがあります。これにより観光地の混雑が進み、京都の錦市場などは典型的な例です。また、近年は「未知の」場所を探す旅行が人気で、地元の人々と交流できる体験を求めています。これにより、個性豊かな宿泊施設での滞在や、地元のレストランでの食事が人気となっています。地域住民に近い民泊サービスの定着がその証拠となっています。

第5回:変容する歴史的な都心

オーバーツーリズムは観光客の集中による混雑や地域住民の生活環境悪化、地価上昇や住宅問題を引き起こします。特に京都市では宿泊施設の過剰供給が問題で、観光による利益が地域資源(京町家や地場産業)への再投資に繋がらず、地域の魅力が失われつつあります。これがオーバーツーリズムの最大の問題点です。

第6回:課題解決に向けた処方箋

新型コロナウイルス感染症のパンデミック以前から、オーバーツーリズムに直面していた観光都市は「観光と地域住民の共存」を目指して政策を展開しました。具体策として、観光客の分散、宿泊施設の立地コントロール、宿泊税の導入が挙げられます。キャパシティーの議論なしに、実効性ある政策は難しいとされています。

第7回:カギを握る「DMO」の役割

政府は2014年に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、地方創生の一環として観光地域づくり法人(DMO)を導入しました。DMO(方向、マーケティング、組織)は観光地の質の向上と地域経済の活性化を目指し、多様な利害関係者と協働して活動しています。日本では302件のDMOが登録されており、多くは人材や財源の課題を抱えつつ精力的に活動している。観光客数だけでなく、地域にもたらす便益を重視する流れが世界的に広がっています。

第8回:観光の選択肢を多様化する

観光が地域内経済に重要な役割を果たすためには、既存の観光資源の維持・管理だけでなく、新たな観光需要の創出が必要です。観光収入を継続的に増加させるためには、観光地の混雑緩和と観光体験の質向上を目指し、観光需要の分散や創出が求められます。政府は「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」で分散の必要性を示しています。

観光客の興味は風光明媚な自然や神社仏閣だけでなく、地元の食堂や特徴ある地形など多様化しています。ベネチアでは、観光客に「秘密のベネチア」を発見してもらうプロモーションを実施し、新たな魅力を提供しています。リピーターを増やすためには、初回訪問とは異なる体験を提供することが重要です。

第9回:経済効果を地域に還元する

観光で地域を再生するには、観光消費による経済効果に加えて、観光利潤を地域資源に再投資し、地域の発展と安定を促進するサイクルを確立することが重要です。観光の恩恵を市民生活に還元することが観光政策の成否を左右します。従来の経済利益最大化を目指す発想ではオーバーツーリズムの問題が再発する恐れがあるため、創造的復興(ビルド・バック・ベター)や再生型観光の考え方を取り入れる必要があります。これにより、観光が地域の市民生活や環境にプラスの利益をもたらし、持続可能な観光地運営を実現する仕組みが求められます。

第10回:社会の「幸福」を目指す観光へ

観光における「責任」は、まず観光産業が環境や地域社会への負荷を減らし、持続可能な発展を目指すことにあります。観光産業は、気候変動に対する貢献や地域資源の保全に取り組む必要があります。また、観光客の増加により、地域のキャパシティーを超えないよう注意し、地域社会と協力して社会的貢献を果たすことが求められます。

観光客も、訪問先の文化や自然、住民の生活に敬意を払い、マナーを守ることが重要です。観光は地域コミュニティが共有してきた財産をシェアする行為であり、敬意を持った振る舞いが地域のもてなし精神を育むことに繋がります。

観光政策は、成長一辺倒から脱却し、包摂的成長や幸福度を重視した方向に向かうべきです。観光産業と地域住民が協力して新たな地域資源を育み、観光が地域住民の幸福度を長期的に向上させる存在となることが求められます。

まとめ:

先日、銀座を少し歩きましたが、ほんとに外国人旅行者ばかりでした。ほんの10年ほど前までは、日本は「行ってみたいけど高い」国でした。それを考えると、社会全体がこの変化についていけていない面もあると思います。

以前、スイスに住んでいたことがありますが、スイスはまさに観光立国です。物価は高いですが、「だれもが一度は行きたい国」です。スイスの人々や都市を見て感じたことは、住んでいる人たちが自分たちの観光資源をこよなく愛していることです。だから、どこかの都市に観光が偏ることなく、それぞれの町に訪れる理由があります。

日本も同様に、住民も観光客も特定の都市に集中するのではなく、「次はどこの都市に行こう」と迷うくらいの魅力を各地がアピールできるようになれば、オーバーツーリズムの課題解決になるでしょう。具体的には、各地域の独自の魅力を発信し、観光資源を適切に管理・再投資することで、観光地の分散化と持続可能な観光を推進することが必要です。例えば、地元の文化や自然を活かした観光プログラムを増やし、訪れる人々に多様な体験を提供することが考えられます。

今後も多くのビジネス機会につながるテーマだと思いますので注視していきたいと思います。

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