九谷焼を知って、触れて、使ってもらってわかった、大事なこと【九谷餐会を振り返る】
2019年3月。九谷焼の産地に携わるようになってから、早いものでもう2年8ヶ月が過ぎようとしている。自己紹介のnoteにも書いた通り、千葉県出身の私は前職・HATCHi金沢で初めて九谷焼に触れ、ご縁あって産地にきました。
2年8ヶ月という月日の中で、九谷焼という伝統工芸と、九谷焼作家という存在が一気に身近になり、関わる人と広がる風景は文字通り一変。産地の作り手と共にいる時間は自然なものになっていきました。
だからこそ”残り4ヶ月”という限られた時間を前に、産地で当たり前のように過ごした日々に対して、最近は色々な気持ちと想いを募らせています。
そんな僕は、4ヶ月以上前のnoteにも書いたとおり、最終年の7月から『九谷餐会』という企画を開催。あっという間の4ヶ月、色々なことに気づく濃い機会となった過去3回の九谷餐会を、企画意図と共に振り返り、その中で気づいた大事なことを記しておきたいと思います。
九谷焼と中華が合うことを証明した”発酵する中華”
【九谷餐会 Season1-1 発酵する中華】
日時|2021年7月28日(水)18時〜(受付:17:45〜)
定員|先着6名(事前予約制)
場所|錦山窯 嘸旦 -MUTAN-(小松市高堂町ト18)
ゲストシェフ|西華房 浦山隼人(@saikaboh)
参加費|8,000円(+シェリー酒のペアリング 2,000円)
初回の九谷餐会は、私が個人的に行きつけにしている、金沢の中華料理とシェリー酒のお店「西華房」の浦山隼人さんをゲストシェフに招き、開催しました。
浦山さんは、2019年から始まった九谷焼の芸術祭「KUTANism(クタニズム)」にて私が企画運営に携わった『九谷よこちょ』というマーケット型の横丁イベントでご一緒したのが最初の出会い。
浦山さんのつくる中華料理の美味しさは、それはもうぜひ食べてみてもらいたいところ・・・(絶品です)なのですが、初回の九谷餐会のゲストシェフにお声がけさせてもらったのは、僕なりの狙いがありました。
『割烹食器である九谷焼が、和食以外にも合うことを証明したかったから』
明治時代に”ジャパンクタニ”と評された九谷焼は、和食に彩りを加える割烹食器として、主に高級割烹などで親しまれて使われてきました。
だからこそ、”ハレの日”に使う器としての印象がとても強く、他国の料理に合うということが意外と知られていない。ここをまずは打破したかった。
そして、私たちの暮らす小松市は中華料理の名店も多く、石川県で暮らす人々の中で中華料理が好きな方が多いことも、5年以上に渡って石川県で暮らしてきた中で知っていたことでした。
初回ということもあり、事前の周知や当日のオペレーションに反省点は多々あったものの、伝えたかったことも参加者に伝わり、一定の評価を得ることができました。
また、九谷餐会の参加を一番の目的に、東京や名古屋からお越しになられるお客様がいらっしゃったことは、個人的にとても嬉しかったです。
東西の異文化が融合した”シンクロするモロッコ”
【九谷餐会 Season1-2 シンクロするモロッコ】
日時|2021年9月14日(火)18時〜(受付:17:45〜)
定員|先着6名(事前予約制)
場所|錦山窯 嘸旦 -MUTAN-(小松市高堂町ト18)
ゲストシェフ|旅する料理 田尻典子(@tabisururyori)
参加費|7,000円(ノンアルコールコース)
第二回は北アフリカに位置するモロッコ料理を届けるフードキャラバン「旅する料理」の田尻典子さんをゲストシェフに招き、九谷焼とモロッコが融合する夜をお届けしました。
実は共通の知人にご紹介いただき、初めましてだった田尻さん。2020年の春頃に小松では初めて「旅する料理」のモロッコ料理の会が行われる予定だったのですが中止となり、私はその会の参加申込者の一人でした。
いつか田尻さんのモロッコ料理を食べてみたい・・・と思いながらもご縁がなかったのですが、今年の3月の「九谷餐会」の構想期に、セラボクタニの仕事でご一緒している方々と金沢でご飯に行った際に田尻さんの話になり、その方からご紹介いただいたのがきっかけでした。
元々、アフリカ大陸の色鮮やかで民族的なファッションと、石川県の九谷焼は相性が良いのではないか、とふと思ったことから、
世界地図で見て東西に分かれる異文化である九谷焼とモロッコ料理をペアリングすることで、それぞれの文化が融合し共鳴することに面白さがあると考え、第二回の企画は生まれました。
ミシュラン一つ星の有名レストランが表現する”五感を解放するタパス”
【九谷餐会 Season1-3 五感を解放するタパス】
日時|2021年10月1日(金)19時〜(受付:18:45〜)
定員|先着6名(事前予約制)
場所|錦山窯 嘸旦 -MUTAN-(小松市高堂町ト18)
ゲストシェフ|Healthian-wood(ヘルジアン・ウッド)
参加費|五感を解放するタパス 特別コース 15,000円
第三回は富山県立山町から、隈研吾建築のレストランとして知られ、『ミシュランガイド北陸2021特別版』でも一つ星レストランとして掲載されたHealthian-wood(ヘルジアン・ウッド) の方々をゲストにお招きし、スペイン発の小皿料理であるタパスと九谷焼をペアリングする夜をお届けしました。
初回、2回目はカジュアルに九谷焼を楽しんでもらうことを意識して、ディナーイベントとしては珍しい価格帯の参加費で開催したのですが、
今回は遠く離れた富山県から有名レストランをお呼びしたため、いつもよりも参加費をおよそ2倍の金額に設定し、特別な夜を演出することを意識しました。
ゲストシェフのHealthian-wood(ヘルジアン・ウッド)さんは、私が拠点としているセラボクタニと同じ、隈研吾建築事務所が建築を手がけたレストラン(しかも担当者も同じ方です)ということもあり、
今回の九谷餐会でご一緒する前から、個人的におじゃましたり、富山を巡るツアーで伺わせていただいたりする中で、いつか何かでご一緒できないかなと考えていたレストランでした。
たまたま富山でお世話になっている方と一緒に訪れた際に、Healthian-woodの母体となっている前田薬品工業の前田社長にお会いすることができ、その場で相談させていただいたのがきっかけでした。
九谷餐会は表向きはお客様にペアリングをお楽しみいただく企画であるので、あまりお伝えする機会がなかったのですが、構想段階から一つの裏テーマを意識して企画しています。
それは、一流の料理人たちに料理と九谷焼のペアリングを楽しんでいただくことです。前回のnoteでも書いたように、九谷焼へのイメージ(和食に合う、ハレの日の器・・・)は飲食店側がもたらすものも大きいように考えています。
お客様はもちろんのことながら、ゲストシェフとしてお招きした料理人の方々にも、九谷焼とのペアリングを楽しんでいただき、和食以外の料理でも使いやすいんだということを知ってもらいたい。今回も無事に達成することができました。
九谷焼に触れて、使ってみてもらってわかったこと
九谷餐会を全3回に渡って開催し、九谷焼を使ってみてもらってわかった大事なことが一つあります。それは
外からイメージする九谷焼と、業界内からイメージする九谷焼がかなり違う
ということです。全参加者に参加後に取ったアンケート結果に、まさにその”イメージの違い”を感じさせる言葉が、沢山寄せられていました。
・これまでは、「The九谷焼」な絵柄、かつ使用シーンも酒器の場合が多かったのですが、今回の餐会では多様な色遣い、デザイン、形、質感の器に触れ、その多様な在り方を知ることができて、九谷焼自体、作り手さんへの興味関心が強くなったのと、それを使って食事をすることで、身近な友達のような存在になりました。(第二回参加者・30〜34歳・男性)
・「これ、九谷焼ですか?」と素で思ってしまったほど、モロッコ料理とマッチしていてびっくりしました。九谷焼といえば和食なイメージを持っていましたが、海外の料理でもカチッと合い、感動の連続でした。(第二回参加者・30〜34歳・女性)
何を隠そう、九谷餐会の会場である錦山窯と、使わせていただいている九谷焼の器は、業界の中で知らない人はいない、小松九谷を代表する著名な窯元です。
だからこそ業界に近い人からすると、錦山窯がつくっている”伝統と革新をテーマにした九谷焼”は、とても自然で当たり前にそこにあるものになっているように感じています。
一方で、第二回の「シンクロするモロッコ」の参加者の一人、30代前半の女性から寄せられた『これ、九谷焼ですか?』という言葉。食事中にこの言葉が発せられた時は、その真意を掴めていなかったのですが、この言葉はまさに外からイメージする九谷焼と、業界の中でイメージする九谷焼が違うように思います。
・普段使いはしづらいもの、と思っていた九谷焼が普段の食卓でもこんなにも活かされるものと知れてよかったです。(第三回参加者・25〜29歳・女性)
・お話の中でもありましたが、和食に合う器というイメージが強かったため、意外な組み合わせで新鮮でした。(つい器が好きな友人にもおすすめしちゃいました!)(第三回参加者・30〜34歳・女性)
・これまで家で使ったことのある九谷焼は量産のもので、それも気に入っているのですが、作家さんの作品はこんなにもパワーがあるのか!と感激しました。デザインについても、九谷焼らしい華やかな色彩というイメージがあったのですが、白いものや柔らかいデザインのものなど、こんなに幅広いんだと驚きました。(第三回参加者・25〜29歳・女性)
九谷焼の持つクリエイティビティの幅広さは、2020年3月に書いたこちらのnoteでも触れたように、九谷焼の特徴の一つ。脈々と受け継がれる技法を元に、オリジナルの作風を生み出していく様子は、歴史ある九谷焼ならではなのではないかと思います。
だからこそ、セラボクタニでお客様に「九谷焼の定義って何ですか?」とよく聞かれるように、外からイメージすると少しわかりづらいのかもしれないです。
いま九谷焼の産地とその周辺に必要なこと、とは。
過去3回にわたって開催した九谷餐会を通じて、”もっと沢山の方々に知っていただく機会を作りたい”と考えた私は、2021年10月、およそ2週間限定で九谷餐会と九谷焼のある暮らしをテーマにした企画展「九谷暮譚 – STORY OF KUTANI SANKAI」をセラボクタニにて開催しました。
【九谷暮譚 – STORY OF KUTANI SANKAI】
会期|2021年10月8日(金)〜10月24日(日)
時間|10:00-17:00(最終入館は16:30まで)
場所|九谷セラミック・ラボラトリー(小松市若杉町ア91)
主催|九谷セラミック・ラボラトリー
共催|錦山窯
九谷餐会は限定6名と定員に限りがあるディナーイベントとなっているため、すぐに席が埋まってしまい、沢山の方々に九谷焼を知っていただく機会が作れていないことに課題感を覚えていました。
そこで錦山窯の皆様にもアートディレクション等と作品展示でご協力いただき、プロジェクト展の枠を越えた様式での展示開催を実現することができました。
九谷焼の産地の小松市では、先日「GEMBA モノヅクリエキスポ」というオープンファクトリーイベントが4日間限定で開かれるなど、公開されて来なかった産業の裏側が少しずつ一般の方の目にも触れるようになってきています。
あるつくり手の方は『産地が産地であり続けるために、つくり手がつくり手で居続けることができる、セーフティネットである必要がある』と先日おっしゃっていました。
その為には、業界の垣根を越えて、観光産業全体(旅行会社、旅館・ホテル、飲食店、観光向けの運輸業、お土産や名産品の製造業、レジャー産業)と自治体が協力して、もっと九谷焼を知って、触れて、使ってもらえる機会を日常的に作っていくことが、必要なのではないかと思います。
これまでのnoteでも時折触れてきたように、残り4ヶ月の地域おこし協力隊の活動後、石川の美味しい食と、器をコーディネートする楽しさを感じてもらうお店を、小松市那谷町の那谷寺近くにて開業する予定です。
産地の真ん中からは少し離れますが、多くの観光客が年間通して訪れる那谷地域を盛り上げながら、産地に貢献できるようにつくり手の皆様とセラボクタニとは今後もご一緒できればと考えています。
来春に開業するお店は、解体工事を終え、ちょうど先日より着工開始しました。詳細はまた追ってお伝えできればと思います。
久しぶりのnoteとだけあって、5000字を越える長文となってしまいました。。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
Photo by 鶴見絵里沙 @kanazawalife_is_wonder
ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございます☺️ 皆様にいただいたサポートは九谷焼のつくり手のお手伝いに使わせていただきます。