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Iceage / Seek Shelter

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コペンハーゲンで結成されたデンマークのパンクバンド、アイスエイジの5枚目のスタジオアルバム。2008年、平均年齢17歳で結成されたアイスエイジは2009年にデビューEPをリリース、2011年にデビューアルバムをリリースし、好評を博します。セカンドアルバムからは独立系レーベルの名門、マタドールレコード(ベルセバキングクルークィーンズオブストーンエイジなどが在籍、かつてピチカートファイブコーネリアスの世界配給も担当)に移籍し、リリースした最初のアルバム3枚すべてがIMPLA(インディレーベル協会)の European Independent Album of the Year Award にノミネートされるなど業界内から高い評価を得ています。本作もメディア評価は高く、「クラシックロックとブリットポップの影響を受けたポストパンクアルバム」と評され、ポーグスリプレイスメントローリングストーンズヴェルヴェットアンダーグラウンドの音楽を思い起こさせる多様なサウンドを使った実験的な作品のようです。レビュー集計サイトのMetacriticで84/100。それでは聞いていきましょう。

活動国:デンマーク
ジャンル:ポストパンク
活動年:2008-現在
リリース日:2021年5月7日
メンバー:
 Elias Bender Rønnenfelt – vocals, guitar (born 24 March 1992)
 Johan Surrballe Wieth – guitar, backing vocals (born 13 September 1991) 
 Jakob Tvilling Pless – bass (born 10 November 1992) [14]
 Dan Kjær Nielsen – drums (born 11 October 1991) [14]
 Casper Morilla – guitar (Born 31 march 1985)

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総合評価 ★★★★☆

ロックが好きなんだろうなぁ。いろいろなバンドの音像やイメージが断片的に出てきて「ああ、こういう感じの曲あったなぁ」とタイムスリップする、ロック史を旅しているような感覚になる。それらが借り物感ではなく、自分たちの音、血肉としてしっかりと筋の通った楽曲になっている。アルバムも1曲1曲がしっかりと個性を持っていてワクワクしながら聞ける。あっという間の9曲41分。シンプルなロックンロールと、シューゲイズ的なサウンド、そこにブリットポップ的だったりオールディーズ的だったりするしっかりとしたメロディが乗る。清々しい聴後感を持った、純粋なロックや音楽への愛情を感じる良作で、2021年の名盤。ちょっと後半失速するのが惜しい。

1.Shelter Song 05:28 ★★★★☆

サイレン、いや、バグパイプのような残響するギター音。きらびやかなギターがそのままリフを奏で、ボーカルが入ってくる。スロウなテンポのスタート。たしかにブリットポップ感があるスケールの大きなメロディ、オアシスというか、もっと広くブリットポップ。ややリズムがテンポアップしている。ボーカルは明瞭に聞こえるものの少しファズがかかっている? キンキンと輝くような、ギターサウンドに近い処理をされている。波のようにテンポが少し揺らめく。どこかノスタルジック、90年代のブリットポップ感があるが音響とテンポの揺らぐ感じはモダン。ギターはシューゲイズのように渦を巻く、煌めく音の壁になっていく。女声コーラスが讃美歌のように降ってくる。

2.High & Hurt 04:08 ★★★★★

もっとシンプルなロックンロール、ガレージ感のある曲に。ただ、音のエフェクトは凝っている。シンガロングなブリットポップ的コーラスを経て、パンキッシュなメロディに戻る。2分過ぎにややファンキーなギターが出てくる、ちょっとトライバルなパーカッションがかすかに入り、空気感を変わる。再びシンガロングなコーラス。このメロディはシンプルだけれどいいね。コーラスというかブリッジ的な位置づけなのか。ガレージロック的な衝動とサイケデリックな酩酊感が同居する曲。

3.Love Kills Slowly 04:09 ★★★★

今度はスロウでメロウなスタート。前の曲のサイケな側面を引き継いでいる。分厚いコーラスが入ってくる。こうした讃美歌的な美しいコーラス、ギターの音の渦を使うのがうまい。音響的な美しさがある。ボーカルは中音域でじっくりと歌い上げる。ゴシックスタイル。ドラムのビートがタメや前ノリを使い、リズムをかき回す。ずれている、ということではなくビートの置き方が独特で面白い。

4.Vendetta 05:13 ★★★★★

急に雰囲気が変わり、ややデジタルなビートに。マッドチェスター、アシッドハウス的。不敵なボーカル。ブルースのコード進行で曲が進む、王道のロックンロール。音作りはスペーシーに変化していく。さまざまな音がとびまわっていく。余談だがスペーシーなイメージは人類が宇宙へ進出した1950年代半ばから1960年代初頭にかけてロックンロールやR&Bの曲に様々なインスピレーションを与え、白人音楽ではスペースロック、黒人音楽ではコズミックファンクなど多様なジャンルを生み出した。なんというか広大な空間を遊泳するような広がりのある音と、SF映画などで使われがちなSE音、近未来的なシンセ音が特徴。実際の宇宙空間は(空気がないから)無音だからね。この曲はスペーシーでサイケデリックな雰囲気を持ちつつ曲構造はオーソドックスなロックソング。

5.Drink Rain 03:28 ★★★★☆

一曲一曲のキャラ立ちがすごいな。散歩するようなテンポ、パリの散歩道的な。50年代オールディーズ(singin in the rain的)な展開。オールディーズのメロディ感覚はそのあとの様々なところに出てくる。ティンパンアレイ的というか、ブリルビルディング的というか。USのルーツミュージック的な。最後もレトロな雰囲気を残して終曲。どこかアンニュイながら気分が浮き立つ曲。

6.Gold City 04:13 ★★★★☆

言葉を置いていく、言葉数が多い、(ロックに接近した初期)ディランのような曲。ストーンズも連想させる。ちょっと言葉の吐き出し方にミックジャガー的なものも感じる。うさん臭くてカッコいいリズム。ああ、このドラムってストーンズ的な感じもあるな。ちょっとルーズなんだけれどきっちり体を揺らしてくるビート。この曲は隙間が多い。ギターもルーズ。ストーンズ的ロックンロール。でもデンマークということはこのバンドも北欧か。デンマークは面白い。けっこうメタルも盛んなんだよね。欧州最大規模のメタルフェス、コペンヘルもあるし。バンドで言えばプリティメイズとかマーシフルフェイトとか。UKに近い音楽性を感じるが、どこか客観的にUKのサウンドを見ている感じもする。総括するというか。

7.Dear Saint Cecilia 04:50 ★★★★

今度はブルースブラザーズ的なノリノリのベース。こちらも全体的にはストーンズ的ロックンロールだな。シンプルなロックンロールなのだが、サウンドとしてはシューゲイズ的な、キラキラした渦を巻いている。自分たちなりのアイデア、UK、USのロックのレガシーを取り入れながら自由に組み合わせて、ロックの「かっこよかった瞬間」を多く切り取って再現してみせている。ロックマニアな感じもするし、その上で自分たちの初期衝動がはじけている感じもする。あきらかな引用というよりは、「なんとなくあんな感じ」で、あとは湧き出してきたものを音にしていて、結果として曲の中のいろいろなハイライトを生み出している感じ。

8.The Wider Powder Blue 04:25 ★★★★

反復するギターフレーズ、アルペジオも反復する。サイケデリックな反復感。そういえば「反復」というのはクラウトロックとか、ライヒとかの現代音楽や、あるいはジャズにも出てきたが、モダニズム(偉大な芸術家の作品を文脈を持って鑑賞する)からポストモダン(並列に存在する)への移行期に生まれたサウンドである、と。無記名性、ポストモダン的表現の特徴的な一つであった、と。確かにそういう感じはあるかもしれない。そしてヒップホップ的なまさにポストモダンな音楽に展開していく。この曲もヴァースでは展開が(意図的に)間延びしている。それが引っ掛かりを与えて、同じシーンが繰り返される、短いループのような停滞から、そのあと曲が動き出していくように感じる効果を生み出している。

9.The Holding Hand 05:26 ★★★★

氷がグラスにあたるような、冷たさのある音のSEがカラカラと響く。遠くから響いてくるような声。実験的な音像。サイケで酩酊するタイプの曲。オーケストレーションというか、テープを回転させているようなエフェクト音。こういうスローでヘヴィな曲は確かにいろいろあったなぁ。90年代のアルバムに入っていたような。お、曲がテンポアップした。合唱する。アルバムの最後の大団円的な音像になった。最後にバンドがジャムって、音がカオスになっていく。ギターノイズが残響する。

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