Between The Buried And Me / Colors II
ビトウィーンザバリーズアンドミー(BTBAM)は2000年に結成されたUS、ノースカロライナ州ローリーのプログレッシブメタルバンドです。もともとFrom Here OnとPrayer for Cleansingというメタルコアバンドで活動していたRogers(ボーカル)、Waggoner(ギター)、Goodyear(ドラム)の3人がそれぞれのバンドの活動休止に伴い、合流して結成。初期からプログレッシブメタル、テクニカルデスメタル、メタルコア、アバンギャルドメタルなどを組み合わせた音楽性を持っていましたが、初期の方がデスメタル的な要素が強め。だんだんとプログレッシブな方向に進化してきたようです。
本作は10枚目のアルバムで、モダンなメタルコア系に強いSumerian Records(スメリアンレコード)からのリリース。他に所属しているバンドはアスキングアレクサンドリア、ポッピー、ブラックベイルブライズ、スマッシングパンプキンズ、ボーンインオシリスなど。ワーナー傘下のレーベルです。2007年にリリースされた4作目「Colors」の続編とされるアルバム。メタラー界隈では高評価が多く、メタル系ブログ「あさってからでもいいかな」でも高評価。BTBAMの音楽的変遷についても触れられています。このアルバムは「いつか聴こう」リストには入れていたのですが、この記事で五つ星だったので聞きたさが増しました。
それでは聞いていきましょう。BTBAMをアルバム単位できちんと聴くのは初めてです。
活動国:US
ジャンル:プログレッシブメタル、テクニカルデスメタル、メタルコア、アバンギャルドメタル
活動年:2000-現在
リリース:2021年8月20日
メンバー:
Tommy Giles Rogers Jr. – vocals, keyboards
Paul Waggoner – lead guitar
Dustie Waring – rhythm guitar
Dan Briggs – bass, keyboards
Blake Richardson – drums, harsh vocals on "Revolution in Limbo"
総合評価 ★★★★★
素晴らしいアルバム、もっと早く聞けばよかった。そもそもこのバンドはメタルコアだと認識していて、そんなにメタルコア好きじゃないというか聞いてこなかったんですよ。最近になってようやく掘り下げているところなので、なんとなく「名前は知っているけれどきちんと聴いたことのないバンド」だった。ところが来てみたら、これプログレじゃないですか。プログレメタルなのだけれど、その中でもきちんと「プログレ」の色が強い。キーボードソロとか抒情性のあるギターフレーズとか。あとは様々な音楽(ラテンやジャズなど)も取り入れていて、シリアス一辺倒でなくユーモアが入っているのも素晴らしい。プログレって1つのアルバム、1つの曲の中に多様な要素が入っていてお得感があるんですよ。聴いていてすごく得した感じがする。「得」というのも変だけれど、そういう様々な要素がミックスされた音楽が好きなんです。プログレ好きな人はそれぞれ好きな感覚があると思うのだけれど、僕の場合はそう。で、その感覚を色濃く感じることができたアルバム。けっこう攻撃性が強く、デスメタル的なパートもあるのだけれど、全体として見るとそれも「一つの要素」として組み込まれている壮大なプログレ作。12曲79分という長尺アルバムでありながら、中だるみさせず興味を維持できるのもすごい。途中に出てくるちょっとコミカルだったりユーモラスなパートとか、それぞれのシーンの変化のふり幅が大きいから飽きずに聴いていられる。曲間はすべてつながっており、一つの組曲、音絵巻として展開していく。プログレッシブロック好きな方にぜひ聞いていただきたい。プログレッシブロックという音楽スタイルはまだまだ可能性があるんだなぁと感じられた1枚。
1. "Monochrome" 3:14 ★★★★
物悲しいピアノからスタート。RPGのオープニングのようだ。ボーカルが入ってくるとゲーム感はなくなる。リバーブ薄めのクリーンボーカル。ギターが入ってきてバンドサウンドに。プログメタル色が強い、最近のドリームシアター的なあか抜けた聞きやすい音像。
2. "The Double Helix of Extinction" 6:16 ★★★★☆
途中からボーカルがグロウルスタイルに変わる。バッキングはそれほど凶悪性を増さないが、ドラムの手数は増える。前の曲からシームレスに次の曲に移行していたようだ。凶暴になったところからこの曲だろう。ギターはザクザクしているがしなやかな音作り。デスメタルというよりはプログメタル的なギター音。かなり不協和音も使った、前衛的な音像、テクニカルデス的な間奏。分離が良く聞きやすいフュージョン的な要素すら感じさせる楽器隊の音に。メロディアスなフレーズではマイクポートノイ脱退後のドリームシアター的な要素も強い。ちょっと節回しがジェイムスラブリエに似ている? テクニカルデスとドリームシアターの融合的な曲。テクニカルデス部分の緊迫感は高くスリリング。最後はアルペジオ。
3. "Revolution in Limbo" 9:12 ★★★★★
間髪を入れず次の曲へ。音程が激しく上下移動する。オールドスタイルのシンセプログレ的な音階移動をギターで行っている。そこにブラストビートとグロウルが乗るので全体としての音像は印象が大きく違うが、ギターとキーボードはシンフォ的な要素もある。静ー動、美(クリーンメロディ)ー醜(グロウルと不協和音)の振れ幅が大きいが、音としてはすっきりとまとまっている。これはギターとベースの音作りに依る部分が大きいな。ボーカルの処理も含め、各パートが分離してすっきりしている。こういう混沌としがちな、カオスな音像をものすごくクリアに記録している、タイトに演奏しているのは面白い。技巧の高さによるスリル。おお、途中からラテン、マンボ的な音像に。ムード歌謡的なシーンが面白いな。こういう「あれ?」と耳を疑うような雑食性は大好き。終わるかと思わせてけっこうこのムードで引っ張る。笑える。音楽にユーモアって大事だよね。そこから暴虐パートに行くかと思ったらドリムシ的パートへ。大仰に盛り上げる。
4. "Fix the Error" 5:00 ★★★★☆
そこからドラムが疾走へ。今度はロックンロールなピアノが出てきた。ブルースブラザースのジェームスブラウンのパート(教会でのライブ)みたいな音像。ただ、そこに入ってくるのはゴスペルではなくグロウル。やけくそな疾走感、スラッシュでスケーター的。この音楽の雑食性は面白いな! シリアスなテクニカルデス、プログメタルかと思ったらここまで遊び心があるとは。途中、ジャズロックのような間奏。ドラムソロ的なタム回し。そこからバイキングメタルというか、パーティー感のあるグロウルなコーラスを経てネオクラシカルなツインリードへ。なんだこの曲は。面白いぞ。システムオブアダウン的な雑食性だな。
5. "Never Seen / Future Shock" 11:41 ★★★★★
曲間なしにどんどん曲が続いていく。一つの大きな組曲のようだ。大曲だけあって表情がめまぐるしく変わりながら進んでいく。ポップでフックがあるメロディアスなパートと残虐で攻撃性の強いパートの切り替わり、バランスが良い。前2曲のユーモラスな表情が効いていてどこか楽しい空気感もある。疾走パートにはやけくそ気味な面白さ、パーティー感が感じられるようになった。実際に音にもおふざけ要素が残っている。西海岸スラッシュ、ミクスチャー的な要素が入っているな。シリアスだけでもジョークだけでもなく、その両方が程よいバランスで融合している。いやぁ、これはアメリカンかも。シリアスな音像だと北欧とかフランスの方が耽美だし世界観は強い。こういうお茶らけたおおらかさを力技でねじ伏せてしまう感じはアメリカーンな感じ(個人的な印象です)。ストリーミングで聴いているのだが思わずLPをポチってしまった。このアルバムは手元に置いておきたい。いろいろな音楽要素が詰まっているとお得感があるんだよね。だからプログレが好きなんですよ。音楽に「お得感」という表現もどうかと思うのだけれど、なんだかイタリアンも中華も和食もあるビュッフェみたいなワクワク感がある。音のシーンはどんどん移り変わっており、後半でややスペーシー、ギルモア期のピンクフロイドや最近のSoen的な浮遊する音像に。なんだかんだ、70年代のクラシックプログレ、大曲主義だったころのプログレの雰囲気もあるのが良い。ドリムシ的なプログメタルだけでなく、もっと昔のシンフォ系プログレの表情も時々顔を出す。逆にDjent感はほとんどない。
6. "Stare into the Abyss" 3:53 ★★★★
気が付いたら次の曲に来ていた。どんどん組曲が変わっていくな。圧倒されているとおいていかれる。この曲は比較的ハードな表情で押していく曲。
7. "Prehistory" 3:07 ★★★★
民族音楽的な、エスニックなフレーズでフュージョン的な楽器隊の掛け合い。インストだろうか。Steve VaiのFire Gardenあたりにも近い感じがする。ボーカルが入ってきた。ジャジーでユーモラスな音像。舞台劇の劇伴音楽のようなコミカルさがある。
8. "Bad Habits" 8:43 ★★★★☆
完全にシンフォプログレなオープニング。そこからギターが入ってきてドラムが絡み合いひと段落する。おお、これはカッコいい。各楽器が絡み合い、ユニゾンしてブレイク。それを2回繰り返してボーカルが入ってくる。メタル化した70年代YESとでもいうべき音像。雄大でファンタジックなドリームシアター的なコーラスへなだれ込む。この曲は比較的ファンタジック、シンフォニックなメロディで構成されている。メロディの奔流。欧州メタルっぽいなぁ。ところどころに出てくる中間コードの入れ方とか、ジャズっぽい感じが混じっているのがUS感はあるが。これは「2021年の(1970年から続く)プログレッシブロック」と呼べる音。プログレってその名の通り「進化するロック」であって幅広い音像を含むのだけれど、個人的にはこういう音像をこそプログレと感じる。シンフォ系が好きということですね。
9. "The Future Is Behind Us" 5:22 ★★★★☆
前の曲から続いて始まる。というか、曲の中の表情変化が激しいので曲の切り替わりがうっかりしていると聞き逃す。曲の雰囲気は確かに違うし、別の曲なのだけれどトランジションが自然すぎるんだよね。途中、ディスコサウンドというかテクノ+ジャズサウンド、ハービーハンコックのFuture Shockみたいな音像に。その上にグロウルが乗る。何言ってんだと思われるだろうがその通りの音像なんだから仕方ない。
10. "Turbulent" 5:56 ★★★★
またスペーシーなテクノサウンドからのスタート。クラウトロック、スペースロック、いや、スペースファンクからの影響を感じる。コズミックジャズ、コズミックファンクか。ややゆったりとした歌メロ、緊張感ある曲が続いたので少し一息といった感じ。ボーカルはポリフォニーでコーラスが入ってくる。ちょっとYES的。ボーカルがジョンアンダーソン感がなく、声質的にジェームスラブリエ系(クリーンパートに限った話ね)なのでDTのように聞こえるが、YES的な要素も強い。というか、個人的にYESが好きなのでシンフォ系の要素を感じるとYESに近い部分を探してしまうだけかもしれないが。複数のコーラスが重なり合ってくる感じとかそれっぽい。
11. "Sfumato" (Instrumental) 1:09 ★★★
このアルバム、最初から最後まで曲間がなさそうだな。ここまで一切曲間なし。ひとつの壮大な組曲のようにも聞こえる。この曲はイントロ的なつなぎのインタールード。
12. "Human Is Hell (Another One with Love)" 15:07 ★★★★☆
イントロを切り裂いて印象的なギターフレーズが入ってくる。ドラムの連打と共にグロウル気味のボーカル。そこから疾走に入る。ちょっとアンダーグラウンドな薫りがする。しっかりデスメタルとしての暴虐性、攻撃性がある。攻撃性が高いパートが続いていくが、リズムは変拍子で緩急がついている。テクニカルデスメタルの音像。4分ほど暴虐なパートが続いた後、急にメロディアスなコーラスが出てくる。ここで景色が開ける感じ。途中、キーボードが前面に出たかなりプログレな間奏。ここは好き。そして、オープニングに出てきた印象的なギターフレーズが再び出てくる。さまざまな音像が出てきて、アルバムの中で駆け足で通り過ぎてきた各シーンを時間をかけて再検証しているようなイメージ。最長の曲だけあって一つ一つのパートがじっくり展開していく。
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