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60.NYアングラシーン発、永遠のカルトバンド = Blue Öyster Cult

Blue Öyster Cult(以下BOC)は1967年結成、1972年デビューのアメリカ、ニューヨークのロックバンドです。ハードロック、ヘヴィメタルという音楽ジャンルが確立し始めた時期から活動するバンドであり、USメタルの祖の一つと言えます。こちらは19年ぶりにリリースされた2020年のオリジナルアルバム「The Symbol Remains」からのトラック。メロハーの殿堂、イタリアのFrontiers Recordsからのリリースです。

BOCは50年以上にわたり活動をしているため、様々な音楽スタイルを内包しています。最初に紹介したBlack Sabbathにも通じるやや呪術的なハードロックテイストの曲もあれば、最大のヒット曲である死神ー(Don't Fear) The Reaperのようなソフトロック的な曲もあります。

BOCはメンバー全員が歌えるクィーンやイーグルスのようなバンドで、ハーモニーが美しく、こうした複数のボーカルラインが絡み合うポリフォニー的な曲もあります。どんな曲でも乾いた音作りと、熱くなりすぎないボーカルスタイルが特徴的なシグネチャーサウンドとしてバンドの個性を主張しています。BOCのサウンド自体が一つの原型ではありますが、もしまったく知らない人に他のジャンルやバンドを使って説明するとすれば「70年代のアメリカンロック(MC5やステッペンウルフ)をベースにしながら、ヨーロッパのハードロックサウンド(ブラックサバスやディープパープル)を取り入れた音楽で、ところどころウェストコースト・ロック(イーグルスやジャクソン・ブラウン)的なハーモニーやメロディーもある」でしょうか。逆に言えば、BOCを入り口にこれらの音楽にアクセスできるポテンシャルを持っています。

今回はBOCの歴史を紐解いてみましょう。

BOCが結成された1967年と言えばジミヘンのデビューアルバムが出た年です。ジミヘンおよび当時の音楽シーンについてまとめた記事はこちら。

結成された1967年当時はまだまだハードロックの形は模索中の時代です。この後、1969年にLed Zeppelinがデビューアルバムをリリース、1970年にDeep PurpleのIn RockとBlack Sabbathのデビューアルバムがリリースされ、本格的なハードロックの時代が始まります。

BOCはもともと、音楽プロデューサーで詩人でもあったサンディ・パールマンが自作の詩「The Soft Doctrines Of Imaginos(イマジノスの柔らかな経典)」の世界観を音楽として具現化するためにメンバーを集めたバンドでした。結成当時からデモテープを作ってはいたもののデビューには至らず、いくつかのメンバーチェンジや音楽性の変遷を経て、ようやく1972年にデビューにこぎつけます。デビューアルバム「Blue Öyster Cult(1972)」の1曲目「Transmaniacon MC」をどうぞ。

デビュー当時から「醒めた狂気」とも言われる独自のトーンが確立されています。ヨーロッパで盛り上がっていたハードロックの影響は受けているもののディストーションは控えめで音像は丸く聞きやすい、この辺りの洗練された音作りはNYという都市の音楽シーンの成せる技でしょう。また、やや不穏な音のつながり、呪術的、ブラックサバス的なメロディ進行も出てくるもののそこにアメリカンロックのカラッとしたメロディが混じってくるというハイブリッド具合がこのバンドの魅力です。

セカンドアルバム「Tyranny and Mutation(1973)」ではパンクに接近します。パンクと言っても「パンク」という言葉が確立される前なので、むしろパンクの源流とも言える。彼らはニューヨークのバンドですが、パンクの祖の一つとされるニューヨークドールズのデビューが1973年。当時のBOCはNYアングラロックシーンの顔役でしたからつながりはあったでしょう。パンク的なBOCの曲をどうぞ、2ndアルバムの1曲目、「The Red and the Black」です。

パンクというかガレージロック的ですが、こういうサウンドも取り入れていました。当時のBOCはNYアングラロックシーンを代表するバンドで、世界中で勃興している「新しい若者音楽」を取り入れ、NYらしく洗練させて提示していたのでしょう。

ちなみにこの曲、どこか聞き覚えがあるなぁと思う方もいるかもしれません。そう、日本アングラ映画の金字塔「爆裂都市(BURST CITY)(1982)」の主題歌、バトルロッカーズの「セルナンバー8」ですね。

実はこの曲、さらに元ネタがあってオランダのThe OUTSIDERSというバンドの「Won't You Listen(1965)」が発祥。

オランダのバンドで1965年から67年までと短命の活動でしたが、ジミヘン以前で、UKのKinksなどと呼応したギターサウンドを前面に出したビートバンドでした。ガレージロックの祖とも言われます。

いずれにせよ、ヨーロッパで発祥した「新しいサウンド」も取り入れながら、同時代のNY、ひいてはUSロックシーンの先端を走っていたBOCの姿が浮かび上がってきます。

続く3rdアルバム「Secret Treaties(1974)」ではさらに洗練された音世界を提示していますが、特筆すべき曲はやはり「Astronomy」でしょう。

この曲って、アイアンメイデンサウンドの原型の一つだと思うんですよね。スティーブハリスのプログレ好きは有名ですが、BOCもかなりサウンドに影響を与えています。あとは、この曲はバンド結成のきっかけともなったパールマンの「The Soft Doctrines Of Imaginos(イマジノスの柔らかな経典)」をテーマにした歌詞でもあります。BOCはウィリアム・バロウズとも親交があり、SF作家が歌詞提供したりもするなど文学とのつながりも特色です。この辺りもメイデンにも通じます。

ちなみに、BOCとアイアンメイデンは交流があり、デビュー間もないメイデンが前座についたこともあるようですが「ヘッドライナーのくせにPAも貸してくれなくて感じが悪かった」とブルースディッキンソンが話していました。仲があまりよくないようです(笑)。まぁ、同じサンクチュアリマネジメントに所属しているレーベルメイトなので、吉本芸人の先輩いじりみたいなものかもしれませんが。

続いてリリースされたのがライブ盤「On Your Feet Or On Your Knees(1975)」です。USチャートで22位まで上昇、BOCの名前が全米で知られるようになっていきます。このアルバムではステッペンウルフの「Born To Be Wild(ワイルドで行こう)」をカバーしています。この辺りはBOCのルーツが分かりますね。

なお、冒頭のMCはNYパンクシーンの歌姫パティ・スミスによるもの。当時、BOCメンバーだったアラン・レーニアと恋人関係にありました。まさにNYアングラロックシーンの中央にBOCが位置していた時代です。

続いてのスタジオアルバム4作目「Agents Of Fortune(1976)」は先述の「死神」を収録、この曲が全米ベスト10に近いヒット(最高位12位)になります。80年代のハードロック・メタル全盛期以前にハードロックのジャンルで全米ヒットを生んだバンドはほとんどおらず、この曲は当時の若者たちにとって新鮮に聞こえたことでしょう。70年代の名曲集などにもけっこう取り上げられる人気曲ですね。このアルバムからもう1曲「Extra Terrestrial Intelligence」を。直訳すると「地球外知性」です。

先ほどのAstronomyと同じくパールマンの詩世界から。なお、パールマンの詩(イマジノス)はクトゥルー神話を基にしています。クトゥルー神話というのはアメリカの作家H.P.ラブヴクラフトが生み出した架空の神話体系で、とにかく表現が大げさ。「恐怖のあまり直視できない」とか「その名前を口にするだけで発狂する」とか、アメリカ的なシリアスともジョークともとれる大げさな設定があります。この曲のタイトル「地球外知性」はまさにクトゥルー神話からですね。またもメイデンネタですが、メイデンの「Live After Death(死霊復活)」でエディーが地面を突き破って出てきている墓碑銘にもH.P.ラブヴクラフトが刻まれています。

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BOCというバンドはクトゥルー的というか、作り物の怖さを追求したような、アメリカンなセンスのホラー、アンダーグラウンドを体現したようなバンドとも言えます。巨大ゴジラをステージセットに取り入れてライブを行ったりとシアトリカルなステージも展開していました。

その後もBOCも順調に活動を続けますが、セールス的には1970年代後半~1980年代前半がピークで、MTVでのLAメタルの衝撃に端を発したアメリカ1980年代の空前のハードロック・メタルブームの波には乗れず、超ビックバンドにはなれませんでした。とはいえ、だからこそ「伝説のカルトバンド」として、いまだに少しアングラの薫りを残しながら多くのマニアに愛されるバンドとして活動を続けています。

2000年4月8日のSaturday Night Live(SNL)ではBOCの「死神」の架空のレコーディング風景のコメディ「More Cowbell」が大ヒット。この曲やBOCの名前が人々の記憶に残っているからでしょう。ちなみにこの偽プロデューサーの名前が「Bruce Dickenson」。この名前だけで笑いが起きていますね。何度見ても爆笑する素晴らしいビデオです。

BOC本人もネタにしています。

途中でカウベルを叩くシーンが入りますね。こちらも2020年作「The Symbol Remains」からのトラック。変わらぬ音楽性とユーモアを感じることができます。それでは良いミュージックライフを。

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