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ダウンロードジャパン2022を終えて ~余韻に浸るための記事~

ダウンロードジャパン2022が無事開催されました。今回のフェスを総括すると「90年代以降のメタルが主役に据えられたメタルフェスだったなぁ」ということ。プログメタル、デスメタル、グルーヴメタル、メタルコアが中心でした。あとは「80年代リバイバル」枠でスティールパンサー。

全体としてはとても楽しめるメタルフェスでした。日本でメタルフェスが続いてくれたことに感謝。そして、来年も開催するという宣言もあり一安心。

しかし、だいたい朝10時~夜10時まで、計12時間のフェス。楽しかったけれどえらく疲れました。ペース配分あまり考えず、全バンド前の方で観たからなぁ…。今回は1ステージということもあり、各バンドの間の休憩(転換)時間が長めだったんですよね。その間にちょっと休めるので、なんだかんだ全バンド観てしまったという。流石に疲れました。それで最後がドリームシアター、且つ、20分越えの大曲が続くという…。プログメタル大好きな僕でも流石に集中力が途切れました。間奏のたびに舞台袖に行って休んでいる(と思われる)ジェームスラブリエが羨ましい

日が経って体力も回復してきて、「やっぱりいいフェスだったなぁ」と思ったので余韻に浸るべく本記事を書いています。参加された方も、参加しなかった方も余韻を共に楽しめれば幸いです。

最初に、今回のセットリストをまとめたプレイリストを置いておきます。セットリストはこちらのサイトに基づいています。セットリストまとめサイト最高!

TIDAL

このプレイリストを聴きながら振り返っていきましょう!

※プレイリストにない曲
→今回は基本的にApple Musicで作りましたが、Steel Pantherの「Balls Out(2011)」がApple Musicにないんですよね。他の配信サービスにはあったので歌詞の内容が規制で引っかかった、、、とか? そんなわけでスティールパンサーの2曲(2.Tommorow Nightと6.Weenie Ride)がApple Musicのプレイリストにはありません。また、Spotifyはその2曲に加えてAt The Gatesの12.The Night Eternalがありません。TIDALは海外バンド勢の曲はすべて入っていますが、BAND-MAIDが配信されていないので入っていません。

カバー曲について
→カバー曲はオリジナルの音源(オジーフィアファクトリー)を置いています。


開場(9:30)~BAND-MAID

9時30分開場ということで9時20分ごろには幕張メッセについたのですがすでに長蛇の列。

通常チケットの列の最後尾を目指したら幕張メッセの外の通路に延々と伸びているという。暑い

30分に開場となり列が進んでいくも気が付けば9時50分が過ぎ、会場内からはBAND-MAIDの演奏が聞こえてくるもののまだまだ列の途中。朝から最後まで見る気合で行ったんですが出遅れました。皆さん気合入りすぎ。

ようやく入場。ダウンロードドッグのゲートがお出迎え。やっぱりこういうイメージキャラクターがしっかりいるのはいいですね。テンションが上がる。

なんとか会場入りはしたもののちょうど入場したところでBAND-MAIDが終わってしまいました…。なので感想ナシ。でも、BAND-MAIDってしっかりとした演奏力のあるハードロックバンドですよね。海外ツアーも行うなど海外からも評価されている様子。

Babymetalで注目された日本のガールズロックシーン(英語圏ではKawaii-metalとかCute Metalとも呼ばれます、英語版wiki)。ただ、Kawaii-Metalの海外wikiのリストを見るとBAND-MAIDは入っていません。BabymetalPasscodeが入っているので、「あくまでアイドルグループで、バックバンドがいる形態」をKawaii-metalと定義しているようですね。確かに、BAND-MAIDは「女性が演奏している」という特性はあるものの音楽的には最近のメタルコア的な要素も入ったハードロック、という印象。LOVEBITESも女性が演奏している正統派メタルだし、Nemophilaもそうですね。こうした「自作自演する女性メタルバンド」は一つの潮流だけれど、いわゆる「メタルアイドル」とは違うムーブメントな気がします。正統派メタル、ジャパニーズメタルの中のムーブメントという印象。こうしたバンドが入り口になって、そこからメタルの世界に興味を持ってくれる層は一定数いそうですね。

逆に、Babymetalを筆頭とするメタルアイドルからメタルに入る人ってどれぐらいいるんでしょうね。メタラーがBabymetalも聴く、という人は一定数いる気がしますが、日本で、いわゆるアイドルファンとしてBabymetalを推していた人がそこからJudas PriestSabatonBring Me The Horizon(BMTH)を聴いたりするようになるんだろうか。アイドルファンの求めているものとメタルバンドの世界観、ビジュアル、音楽性って全く違う気もしています。メタルアイドルのファンに一番親和性が高いのは、たぶんBAND-MAIDとかの「女性によるメタルバンド」で、そうしたところからメタルにもっと興味を持ってくれるといいのかもしれません。

…とか思っていたのでBAND-MAIDのライブも観たかったのに残念。どんな客層がどんな反応しているのか観たかったなぁ。でも、9時20分から並んだ僕が間に合わなかったぐらいなので観たくても観られなかった人も多いかも。

BAND-MAIDが見れなかったので次のTHE HALO EFFECTまでちょっと物販を物色。マーチャンダイズコーナーは長蛇の列でした。夕方になれば空くだろうからその時残っているものを買う戦略に変更。

観れなかったけれど、BAND-MAIDのセットリストだけ載せておきます。「Sense」はこの海外サイトによればライブ初公開、だったそう。でも、サイトによって載っているセトリが微妙に違いますね、、、(海外サイトだとDICEもやったことになっている)。細かい差異は検証できない(覚えていない)ので今回のセトリは最初に乗せたやわろっくに従うことにします。

(Unknown)(オープニングのインスト曲)
Sense(Single 2021)
Choose me(Single 2017)
After Life(Unseen World 2021)
Different(Single 2020)
DOMINATION(World Domination 2018)

シングル曲(アルバム未収録曲)が多めですね。最後に披露されたDOMINATIONが今のところの代表曲という扱いでしょうか。たいてい、ライブの一番最後にやる曲はバンドにとって大切な曲ですからね。


THE HALO EFFECT

さて、ここからが本編です。いよいよ1組目のヘイローエフェクトが登場。今回は公式サイトに写真が上がっている(→フォトギャラリー)のでそちらからも引用します。

ヘイローエフェクトはスウェーデンのメロディックデスメタルバンドの雄であるIN FLAMESインフレイムスの元メンバーが集まって結成された「もう一つのIN FLAMES」みたいなバンド。初期~中期インフレイムスのメインソングライターの一角だったギタリストのイェスパー ストロムブラッドが在籍し、他にも歴代のインフレイムスのメンバーが参加。ボーカルはインフレイムスの初代ボーカリストであり、また同じくスウェーデンのメロデスシーンを代表するDark Tranquillityダーク トランキュリティのボーカリストであるミカエル スタンネ。結成されたばかりの新人バンドながら、ベテランミュージシャンの集まりなのでそのライブパフォーマンスは流石の風格。今回のツアーメンバーにはイェスパーは残念ながら含まれなかったものの、ザ・ホーンテッドのパトリック ヤンセンが参加しています。ザホーンテッドはもともとアットザゲイツのメンバーによって設立されたバンドであり、今回はアットザゲイツも出演するのでスウェーデンメロデス界の著名プレイヤーが勢ぞろいしていますね。

音楽性的にはまさしく「メロデス」を体現したような音。90年代後半のバッキングのギターフレーズがひたすらメロディアスな北欧メロデススタイルです。ただ、音はかなり整理されていて聴きやすい。混沌感は少な目でカッチリしています。音源もそんな印象でしたが、ライブでも印象は変わりませんでした。セットリストはダウンロードジャパンの直前にリリースされたデビューアルバムから全曲演奏する、という硬派な内容。インフレイムスダークトランキュリティの曲はやりませんでした。あくまで「ヘイローエフェクトという新バンド」のライブを貫いた。初ライブということなので、全曲世界初披露なわけですが、それを感じさせない演奏力の高さと曲の馴染みの良さがありました。曲の馴染みが良いのは、「メロディックデスメタル」の王道に忠実というか、それを作り上げた当事者たちによる「過去の再生産と前進」だからでしょう。野心的な冒険作ではなく、王道への回帰。いわば90年代後半メロデスのリブート的な作品とバンド、そしてライブだったと感じました。ステージセットは緑主体のビジュアル固定。この独特の色合いも北欧メロデスっぽくて良かったです。

照明は緑系が主、後ろのスクリーンでメインビジュアルが時々回転していました

なお、デビューアルバム10曲を全曲演奏した10曲のセットリストでしたが、アルバムの曲順よりこちらの曲順の方が個人的には好みです。最後に披露されたデビュー曲の「Shadowminds」はすでに名曲の風格がありました。

  1. Days of the Lost

  2. The Needless End

  3. A Truth Worth Lying For

  4. Conditional

  5. Gateways

  6. Feel What I Believe

  7. In Broken Trust

  8. Last of Our Kind

  9. The Most Alone

  10. Shadowminds

全曲「DAYS OF THE LOST(2022)」より

さて、1バンド目が終わったところで食料を調達へ。売店は屋外に設営されています。毎年お馴染みのケバブ屋もありました。他も毎年同じなのかな。

台風が去って良かった

味と値段は「まぁこんなもんかな」というところ。不味くもないし、高くもない。むしろダウンロードUKに比べると半額ぐらい、かも。UKは物価が高いし、比較すれば日本は物価が安いんだなぁ。粉物(たこ焼きとか)とベーコンとハイボールを購入。


Code Orange

さて、2バンド目は急に若返って20代(フロントマンは28歳と29歳)のバンド。USのコードオレンジです。

2008年にペンシルバニア州ピッツバーグで高校生バンドとして結成され、初期のバンド名は「Code Orange Kids」。インディーズから2012年にデビューアルバム「Love Is Love/Return to Dust」をリリースします。2014年に「Code Orange」に改名してセカンドアルバムをリリース。ここでロードランナーと契約して活動規模を拡げ、2017年、2020年にアルバムをリリースしています。バンド構成的には男性と女性のボーカリストがおり、DJもいるスタイル。録音物を聴くとギターノイズなどが効果的に使われていますが、この部分はライブではDJが出していました。バンドは5人組で、サポートドラマーが入っての6名体制。サポートドラマーのマックス ポートノイは元ドリームシアターのマイク ポートノイの息子です。マイク ポートノイがドリームシアターに残っていれば同じステージでの親子共演となっていましたね。

音楽性的にはハードコアの要素が強めで、ところどころビートを崩したり、飛び道具的なノイズ音が入ってきたりする音像。それほどメロディアスな要素は強くありませんが、ところどころメロディアスな曲もあり、そうした曲ではグランジ的なメロディセンスを感じました。Deftonesに近いものを感じる場面も。そういえばDeftonesもDJがいましたからね。ただ、Code Orangeは女性ボーカルがところどころ入ってくるし、Deftonesのような「制御された狂気」というよりはもっと混沌、プリミティブな衝動を音像化することを目指している感じ。基本的にゴリゴリなハードコアサウンドの中に、時々女性ボーカルの抒情的なバラードが入ってくるバランスが面白い。音源だけでは今一つつかみどころがなかったんですが、ライブを観て魅力が分かりました。あと、映像表現が凝っていてバックスクリーンでは演奏に合わせてMVのシーンなどが挿入されているのはSNS世代、つまり「SNSの拡散のためにMVの重要度が増した世代」を感じました。メタルバンドもみんなMVを作り、リリースするようになったのは00年代以降ですよね。

ギタリスト兼ボーカルのReba Meyers

セットリストはロードランナーから出した3rd「Forever(2017)」と4th「Underneath(2020)」を中心に選曲されていました。1曲目は2022年にリリースされたシングル。この曲はメロディアスでハードロック色が強い曲ですね。

  1. Out for Blood(Single 2022)

  2. Forever(Forever 2017)

  3. In Fear(Underneath 2020)

  4. Cold.Metal.Place(Underneath 2020)

  5. Who I Am(Underneath 2020)

  6. Spy(Forever 2017)

  7. Bleeding in the Blur(Forever 2017)

  8. Underneath(Underneath 2020)

  9. My World(I Am King 2014)

  10. Swallowing the Rabbit Whole(Underneath 2020)

最後の曲「Swallowing The Rabbit Whole」は4th「Underneath」(2020)の(イントロの小曲の後の)1曲目。この曲のイントロは独特で印象に残ります。ライブでも盛り上がる。現時点での代表曲でしょう。ぶった切るギターノイズが印象的。でも、こういうノイズを生演奏で再現したら凄いなぁと思ったんですがDJだったというオチ。


At The Gates

90年代中盤から後半にかけて日本でも大きく盛り上がったメロディックデスメタルシーン。振り返ると95年が一つのピークだったように思います。その時代を彩った名盤の一つがAt The Gatesの「Slaughter of the Soul(1995)」。今回はその完全再現ライブです。

1990年代、CarcassHeartwork(1993)」やDissectionSombrain(1993)」を皮切りにデスメタル、ブラックメタルといったエクストリームメタルの中にメロディアスな要素が導入され「メロディックデスメタル(/ブラックメタル)」というサブジャンルが形成され始めます。そして1994年~1995年に一度目のピークとも言える名盤ラッシュが続き、AmorphisTales From the Thousand Lakes(1994)」、In FlamesThe Jester Race(1995)」、Dark TranquillityThe Gallary(1995)」、SentencedAmok(1995)」そしてAt The GatesSlaughter of the Soul(1995)」がリリースされます。これらはどれも「メロデス」を確立した名盤と呼べる作品。逆に言えば95年~90年代後半で一度ピークを迎え、完成してしまったがゆえに00年代以降はメロデスシーンが新たなスタイルに拡散していくわけですが、その中で「メロデスの王道」を歩きながら音楽性を拡張していたのは実はフィンランドのChirdren Of Bodom(1997年デビュー)だったと思います。チルドレンオブボドムが解散し、中心人物だったアレキシ ライホが亡くなってしまったのが2020年。奇しくもその後で「90年代メロデスをリブートさせる」ヘイローエフェクトが生まれ、At The Gatesも95年を振り返るようなライブを企画したのは、「95年のメロデスの音像」をもう一度現代によみがえらせよう、可能性を改めて探求しようという95年型メロデスの再評価の動きなのかもしれません。

音源ではけっこうメロディアスで整理されている印象のアルバムですが、ライブだと混沌感が強いというか「ハードコア/デスメタル要素」が強め。これは最近のAt The Gatesの特性でもありますね。今回は1曲も披露されませんでしたが、最新作である「The Nightmare Of Being(2021)」では旧来型メロデスではなく、ハードコア的な荒々しさやプログレッシブメタルやブラックメタル的な荘厳な世界観、オーケストレーションや複雑なコード展開を取り入れており「勇壮なメロディ」だけでなく、より多層的な手法で「暗黒世界」を描き出すバンドに進化しています。それゆえに、もっと重々しく荒々しい世界観のライブでした。ヘイローエフェクトが音が全体的にカッチリしており、ギターメロディやハーモニーが前面に出ていてキャッチーさすら感じたのに比べると、より荒々しい音の塊、嵐という感じ。それぞれのバンドの色が出ていて面白かったです。今回のダウンロードジャパンはメロデス世代にはたまらないラインナップですね。

  1. Blinded by Fear(Slaughter of the Soul 1995)

  2. Slaughter of the Soul(Slaughter of the Soul 1995)

  3. Cold(Slaughter of the Soul 1995)

  4. Under a Serpent Sun(Slaughter of the Soul 1995)

  5. Into the Dead Sky(Slaughter of the Soul 1995)

  6. Suicide Nation(Slaughter of the Soul 1995)

  7. World of Lies(Slaughter of the Soul 1995)

  8. Unto Others(Slaughter of the Soul 1995)

  9. Nausea(Slaughter of the Soul 1995)

  10. Need(Slaughter of the Soul 1995)

  11. The Flames of the End(Slaughter of the Soul 1995)

  12. The Night Eternal(At War with Reality 2014)

Slaughter of the Soul完全再現の後、2014年リリースのThe Night Eternalで終わり。The Night Eternalはここしばらくライブの一番最後に演奏されている曲です。「現在のアットザゲイツ」の代表曲と言えるのかも。90年代の耳に残る勇壮なメロディではなく、より展開が多層的で暗鬱な音世界が展開されています。

なお余談ですが、ボーカルのトーマスリンドバーグがPoison IdeaのTシャツを着ていましたね。名前が知らないバンドだったので調べてみたらPoison IdeaはUS、ポートランドのハードコアバンド(映像→YouTube、けっこうメロディアスで疾走感あるハードコア)。ボーカルが巨体なので「世界で一番体重が重いバンド」とも言われていたそうです。At The Gatesの今のモードはハードコアにシンパシーを感じているのかも。


Soulfly

僕はあまりSeplturaに思い入れがなく、なのでマックスカヴァレラも熱心に追っていません。リアルタイムでケイオスADがそれほど刺さらなかったし、ルーツも「うーん」という感じ。当時はハロウィンとかパワーメタル系が好きだったんですよね。USのスラッシュやグルーヴメタルよりは欧州のパワーメタル~メロデスに惹かれた。ただ、最近Seplturaの再評価が僕の中で進んでいたこともあり、Soulflyも初ライブ体験を楽しみにしていました。

ソウルフライはもともとブラジルのスラッシュメタルバンドSeplturaの創設メンバーであったマックスカヴァレラが中心となって結成されたバンドです。セパルトゥラはスラッシュ/デスメタル黎明期から活動しているバンドで(過去から2022年に至るまで)南米最大のメタルバンドと言ってもよい。その中心人物だったのがマックスカヴァレラとイゴールカヴァレラのカヴァレラ兄弟です。ただ、1996年のモンスターズオブロック(今のダウンロードUK)のステージ直前にマックスの息子が死亡し、マックスは立ち去ってしまった。結局ステージは残されたメンバーがボーカル抜きの状態で行い、この件がきっかけでイゴールとマックスの仲が悪化し、マックスはセパルトゥラを脱退することになります。

セパルトゥラは90年代前半から日本では知名度が高く、1993年11月号のBurrn!では表紙を飾っています。

1993年11月号、マックスカヴァレラ(セパルトゥラ在籍時)が表紙

Slayerの初表紙が1994年の8月なので、Slayerより先に表紙になっています(90年代のBurrn!の表紙に興味がある方はこちらの記事をどうぞ)。スラッシュメタルの名盤とされる4th「Arise(1991)」をリリースした後、メタリカの「Metallicaブラックアルバム(1991)」やメガデスの「Countdown to Extinction破滅のカウントダウン(1992)」に触発されたのか、ミドルテンポ主体になりつつもまったく異なる重さ/暗黒感を醸し出して見せた5th「Chaos A.D.(1993)」をリリースしたタイミングでの表紙起用。これはまだ80年代的なバンドを表紙に起用し続けていたBurrn!誌にしてはかなり攻めた表紙でした。(同じく表紙に起用された)PanteraSeplturaの2バンドは激烈でややマニアックながらUSと同時期に日本でもそこそこ盛り上がったんですよね。ただ、グランジ・オルタナムーブメントに伴うUS中心の音楽市場と日本市場の嗜好が分かれ、「ビッグインジャパン」と呼ばれる日本で特に人気が高いアーティストが台頭してくるのは1994年ごろ、グランジムーブメントが沈静化し始めてからな気がします。90年代初頭はUSで発生した新しいムーブメント、グルーヴメタルやグランジ、80年代の華やかなメタルと全く違う世界観のバンド達は日本市場でも売り出されていた。Nirvanaは日本でもそこそこヒットしたし、まだ「グランジ系やグルーヴメタル系は日本で売れない」という印象がつく前だったのだと思います。

息子のザイオンカヴァレラ

そんなわけで日本でも人気だったセパルトゥラ。中心人物であったマックスカヴァレラがセパルトゥラ脱退後の1997年に結成、1998年にデビューアルバムをリリースしたのがソウルフライです。今までに11枚のアルバムをリリース。メンバーは流動的でマックスのプロジェクト感が強いですが、今回の来日メンバーにはマックスの息子であるザイオン・カヴァレラがドラムを叩いていました。また、かつてセパルトゥラ脱退時には兄弟で骨肉の争いを繰り広げたイゴールカヴァレラとも和解。イゴールとは兄弟で「カヴァレラコントラヴァーシー」というバンドを組んでいるほか、ソウルフライのツアーメンバーにイゴールの息子が参加したこともあります。ギャラガー兄弟と違ってきちんと仲直りしていますね。

音楽性的にはグルーヴメタルが主体でそこにちょっとトライバルな味付けが乗る感じ。ただ、グルーヴといってもリンプビズキットとかまではいかず、Kornよりももうちょっと硬め、よりメタル感がある感じ。ファッション的にもマックスカヴァレラは思ったより80年代感があったんですよね。悪い意味ではなく、きちんと「ステージ衣装」感があるというか。ここまでのバンドはTシャツとか半裸とか軽装が多かったですからね。特にメロデス勢は軽装。マックスがしっかり鋲打ちの革ジャンを着込んでいたのは、「ああ、この人はやっぱり80年代から活動している人なんだなぁ」と思いました。メタリカもなんだかんだジェームスヘッドフィールドはライブの時にバトルジャケット(鋲やパッチが貼られたGジャン)を着ていますからね。この衣装は自身のルーツを主張しているようで好印象でした。マックス以外のメンバーはTシャツでしたけれども。逆に言えばマックスにとってこの衣装は強い意味があるということなのでしょう。

今回のギタリストはFear FactoryDino Cazaresディーノ カサレス。単なるツアーメンバーという扱いを越えて「スペシャルゲスト」として紹介されていました。

左がディーノ、右がマックス

セットリストはFear Factoryのカバー2曲を含む内容。全体的に1st「Soulfly(1998)」、2nd「Primitive(2000)」の曲が多めでリリースされたばかりの新作「Totem(2022)」からは2曲のみ。今回はファンサービス的なセットリストだったんでしょうか。

  1. Superstition(Totem 2022)

  2. Prophecy(Prophecy 2004)

  3. Fire(Soulfly 1998)

  4. Bleed(Soulfly 1998)

  5. Refuse/Resist(Sepltura/Chaos A.D. 1995)

  6. No Hope = No Fear(Soulfly 1998)

  7. Back to the Primitive(Primitive 2000)

  8. Filth Upon Filth(Totem 2022)

  9. Body Hammer(Fear Factory/Demanufacture 1995)

  10. Replica(Fear Factory/Demanufacture 1995)

  11. Eye for an Eye(Soulfly 1998)

  12. Jumpdafuckup(Primitive 2000)

一番最後は2nd「Primitive(2000)」からのこの曲。もともとスリップノットのコリィテイラーをゲストに迎えた曲。ライブは全体的に会場の盛り上がりが高く、めちゃくちゃノリノリの外人たちもいましたね。


Steel Panther

さて、メロデスとハードコア寄りのモダンメタルを交互に挟んできた前半が終わり、ここでガラッと雰囲気が変わります。80年代メタルを華麗にパロディしてみせるスティールパンサーの登場。

ひたすら楽しいメタルパーティー。そこそこ激しく盛り上がっていた会場の空気を一気に換えつつ、ボルテージは別の意味で高まっていきます。スティールパンサーは2009年にアルバムデビューしたので「若手~中堅」のイメージもありますが、実はボーカルのマイケルスター(本名はRalph Michael Saenz)は1965年生まれで現在57歳。彼がパロディしているグラムメタルの代表格であるモトリークルーのヴィンスニール(61歳)やガンズのアクセルローズ(60歳)とそんなに歳が違いません。LA近郊の出身で若いころからLAのシーンに関わり「LAメタルのど真ん中」に実際にいた人です。若いころからミュージシャンとして活動しており、1994年にはVan Halenのトリビュートバンドのリードシンガーとして、ディヴィッドリーロスのパロディキャラクター、「David Lee Ralph」として活動。また、1998年にはEP「Wasted」1枚だけですがLAガンズのボーカリストも務めています。

そしてマイケルスターの相方がギターのサッチェル。彼は1970年生まれの50歳で、元MR.BIGのポールギルバードと仲が良くポールのソロアルバムに参加したりしていますね。レーサーXジェフピルソンなど80年代メタルの著名人たちとも絡んでおり、「才能は有るけどまだ有名ではないミュージシャン」を長く続けていたのだと思います。

そんな燻ぶっていたけれど実力があるミュージシャンたちが集い、Metal Skoolというバンドを結成したのが2000年代初頭。グラムメタルの名曲をコピーするバンドとしてLAのサンセットストリップ通り(LAメタルの聖地)で人気を集め始めます。今回のライブを観ても分かる通り、めちゃくちゃ演奏上手いですからね。コピーバンドとして超一流。そして、2007年にスティールパンサーに改名し、2009年にアルバムデビューします。1st「Feel The Steel(2009)」はビルボードのコメディチャートで1位(というかそんなチャートもあるのか!)獲得。メインのビルボード200でも最高位98位というスマッシュヒットになります。メタル冬の時代なのでこのチャートアクションは新人バンドとしては破格。その後5枚のアルバムを出していますが、出すたびにコメディチャートでは1位、メインの200の方もチャートインするなど着実な人気を得ています。

でも、マイケルスターのルックスって57歳と考えると凄いですよね。57歳当時のヴィンスニールやアクセルローズと見比べてみるとその凄さが際立ちます。こういうルックスのヴィンスニールが見たかった…。

57歳のヴィンスニール(2018)
57歳のマイケルスター(2022)

ライブではポールダンサーが出てくるなどド派手。でも、なんとなく2010年代になってメロディックハードロックが復権してきて、イタリアのフロンティアレコードとかがベテランによるスーパーバンドを組んで良質なメロハー作品をリリースし続けたりしていますけれど、その震源地ってスティールパンサーだったのかもしれません。USでそれなりに成功していますし、いろんなフェスでは大人気ですからね。確かに、音源よりライブの方がはるかに楽しい。いわば「メタル芸人」なんですよね、それも一流ミュージシャンでもあるという。これはライブは無敵ですわ。「エンターテイメント性」では現在のメタル界で随一なんじゃないでしょうか。エイルストームとかも楽しさにかなりパラメーター振ってますけど、スティールパンサーの怖いところは「演奏が完璧」なんですよね。マイケルスターのボーカルとか、まさに超絶ハイトーンですよ。シャウトも綺麗に伸びるし。80年代って「スーパーボーカリスト」「超絶ギタリスト」の時代だったじゃないですか。それらをパロディとして分かりやすく表現できるということは、実際にそうしたプレイができる能力があるわけです。ダウンロードUKにも出ていましたがその時は少ししか観れなかったので日本でフルセット見れて大満足。単独公演があったら行きたい。

  1. Goin' in the Backdoor(Lower the Bar 2017)

  2. Tomorrow Night(Balls Out 2011)

  3. Asian Hooker(Feel the Steel 2009)

  4. All I Wanna Do Is Fuck (Myself Tonight)(Heavy Metal Rules 2019)

  5. Crazy Train(Ozzy Osbourne/Blizzard of Ozz 1980)

  6. Weenie Ride(Balls Out 2011)

  7. 17 Girls in a Row(Balls Out 2011)

  8. Community Property(Feel the Steel 2009)

  9. Death to All but Metal(Feel the Steel 2009)

  10. Gloryhole(All You Can Eat 2014)

ちなみに歌詞の内容はひたすら下品。ミソジニーで女性蔑視、とアメリカでは文句も言われ、「インセルロック」とも言われています。まぁ、そりゃ怒る人は怒るでしょうね。最後の曲「Gloryhole」の歌詞はこちら。Google先生に聞いて翻訳してみてください。※苦情はバンドにお願いします。

PVは下記の画像をクリックしてください、YouTubeが開きます(年齢制限が設けられており、YouTubeでのみ視聴可能)

ちなみにスティールパンサーのゲストの女性ダンサーたちは終演後、犬と共に入り口で記念撮影していました。ファンサービス旺盛!

水着ギャルに囲まれ真っ赤になる犬


Mastodon

さて、雰囲気がガラッと変わりプログメタル、スラッジメタル感が強まります。マストドンの登場。

マストドンは2000年結成、2002年デビューのUSのバンドです。4人組でギター2名とベース、ドラム。ドラム、ギター、ベースの3名がそれぞれリードボーカルを取る曲があるトリプルボーカルの珍しいバンドです。一番歌が上手いというか、音域が広いのはドラムかな。グロウル、スクリームというかハードコア的な歌唱はベースが担当し、フロントマン感は強い。音楽静的にはドゥームメタル、サイケデリックなプログレッシブロック感もあり、いわゆるUSのストーナーロックとハードコアが混ざったスラッジメタルを核としながら、そこに欧州メタル(アイアンメイデンとかシンリジィとか)のツインリードのメロディが乗る、ミックスされるという音楽性です。メタリカLoadReloadで追求したサウンドをさらにハードコア寄りにして発展させ続けているバンド、と言えるかもしれない。ボーカルスタイルがだいぶ違うのでメタリカ感は薄いですが、ストーナー+欧州メタルって考えてみたらLoadReloadですね。まぁ、マストドンの方が欧州色が強いかも。スウェーデンのアネクドテンオーペスのような暗鬱な新世代プログレッシブロックとの共通項も感じるのがこのバンドの面白さ。

また、ビジュアルも凝っています。スウェーデンのGhostもそうですが、ビジュアルやマーチャンダイズがカッコいいし意味深。今回のステージでも、メンバーの衣装は簡素(ハードコア的なジーンズ+Tシャツ)でしたが、バックスクリーンにはずっとサイケデリックな映像が流れて音楽とシンクロしていました。個人的にはライブを観て改めてLoud Park2017のOpethを連想しました。

ちなみにメンバーが来ていたTシャツはモーターヘッドシンリジィ。欧州メタルへのリスペクトとルーツの主張を感じます。

  1. Pain With an Anchor(Hushed and Grim 2021)

  2. Crystal Skull(Blood Mountain 2006)

  3. The Crux(Hushed and Grim 2021)

  4. Teardrinker(Hushed and Grim 2021)

  5. Bladecatcher(Blood Mountain 2006)

  6. Pushing the Tides(Hushed and Grim 2021)

  7. More Than I Could Chew(Hushed and Grim 2021)

  8. Blood and Thunder(Leviathan 2004)

最新作である8th「Hushed and Grim(2021)」と3rd「Blood Mountain(2006)」からが大半を占めます。1時間弱のライブなので、1曲が長いマストドンは8曲と少なめ。最後の曲では名盤とされる2nd「Leviathan(2004)」からの代表曲が披露され観客が大盛り上がりでした。

ちょっと流石に疲れてきたので一度後ろに退避。今年はステージ右後ろにベンチエリアがありました。前回もあったっけな。休憩スペース自体はあったような気もしますが、あれはサマソニだったかも。座り込んで休んでいる人や寝そべっている人もチラホラ。

長閑

こうした風景はダウンロードUKを思い出しますね。

同じ構図


Bullet For My Valentine

さて、ヘッドライナーまで後1組。00年代、UKメタル復活の狼煙を最初にあげたバレットフォーマイバレンタインの登場です。

バレットフォーマイバレンタイン、通称BFMV。1998年結成、2005年デビューのUK、ウェールズのバンドです。ウェールズってロンドンなどがあるイングランドとはちょっと違うんですよね。もともとは言葉も違う。ウェリッシュまたはカムリ語と呼ばれる独自の言語(話者は約50万人とされる)を持ち、もともとケルト文化圏です。BMFVはカムリ語で曲をリリースしたことはありませんが、カムリ語で歌うバンドも一定数存在するなど独自の音楽文化を持ちます。ウェールズに存在するカーディフとニューポートの2都市はミュージックシティと呼ばれるほど音楽が盛んな街。ウェールズからはCool Cymruクールカムルというムーブメントも生まれました。ウェールズ出身の代表的なバンドはマニックストリートプリーチャーズステレオフォニックススーパーフューリーアニマルズといった辺り。メタル界隈だとスキンドレッドBFMVが著名。やっぱりUKの中でもちょっと独特な立ち位置にいる気がします。僕はいつも「イギリスのバンド」とは言わず「UK(United Kingdom)のバンド」と書くようにしていますが、それはイングランドとウェールズとスコットランドと北アイルランドのバンドってやっぱり違いがあるからですね。それらをまとめてUK。

さて、70年代のハードロックそして80年代のNWOBHMNew Wave Of British Heavy Metalの後、90年代はParadise LostCradle Of Filthといったややアンダーグラウンドで過激なバンド群を産んでいたUKメタル界。もうちょっとハードロック寄りならMuseBiffy Clyroが出ていますが、正直90年代のUKメタルはややそれまでの勢いを失っていたと言えるでしょう。00年代に入ってアンダーグラウンドなメタルシーンとメインストリームの両方をねじ伏せる存在としてUKから出てきたのがこのBFMV(と、方向性は違うけれどDragonforce)だと思います。ここからメタル界におけるUKの存在感が再び増してきた。その後Bring Me The HorizonArchitectsらがさらにシーンを盛り上げていきます。USで盛り上がったNuMetal、そしてそのピークとして現れたLinkin Parkに対するUKからの回答と言ってもいい。もうちょっとエクストリームな、ハードコアスクリームやデスメタル的な攻撃性のあるパートを持ちつつ、フックのある歌メロも入るという新世代のメタルコア、ポストハードコアを展開したBFMVはUKで大成功を収めます。2005年リリースのデビュー作「Poison(2005)」は最終的にUSでも50万枚を売る大ヒットとなり、全世界で160万枚をセールス。続く2nd「Scream Aim Fire(2008)」ではUK5位、US3位という好成績。日本でも15位にチャートインします。2010年5月号のBurrn!では単独表紙もゲット。00年代デビュー組でBurrn!本誌の単独表紙になったのは今のところこのバンドとDragonforceだけじゃないでしょうか(Slipknotは1999年デビューなのでノーカン)。この時リリースされた3rd「Fever(2010)」は日本オリコンチャートで最高位8位。USでも3位。これが今のところの日本とUSでの最高位です。

そんな一時代を築いたBFMV。特徴的なのはUKだけでなくUSでの人気が高いところですね。ただ、最新作「Bullet for My Valentine(2021)」はなぜかUSで153位どまり。それまではビルボード20位以内には入っていたのですが、やはりライブができなかったのがプロモーションに影響したのでしょうか。ライブに見に来たファンが新譜も買う、といったサイクルが途絶えてしまった影響が大きかったように思います。ちょっとセールス的には衰えが見えていますが、やはりライブの盛り上げ方は上手いし世界のメタル界の最前線で戦っている一線級のバンド。ライブは超絶盛り上がりました。マストドンでちょっと酩酊していい感じに出来上がっていた場内のボルテージが再び暴れるモードにチェンジ。

スター性がある

やっぱり歌メロが分かりやすいですよね、それがこのバンドの魅力なのだと思います。日本の「ラウドロック」と呼ばれるバンド群(マキシマムザホルモンP.T.Pなど)にも近い。生粋のメタラー(たとえばEncyclopedia Metallumの編集者たち)からは「メタルではない」ともされていますが(これはメタルコア、メタルよりのポストハードコア勢全般に言える)、今のメタルで商業的にも成功するバンドはこういう音なのでしょう。

  1. Your Betrayal(Fever 2010)

  2. Waking the Demon(Scream Aim Fire 2008)

  3. Piece of Me(Gravity 2018)

  4. Knives(Bullet for My Valentine 2021)

  5. The Last Fight(Fever 2010)

  6. Rainbow Veins(Bullet for My Valentine 2021)

  7. 4 Words (To Choke Upon)(The Poison 2005)

  8. Over It(Gravity 2018)

  9. Shatter(Bullet for My Valentine 2021)

  10. Tears Don't Fall(The Poison 2005)

  11. Scream Aim Fire(Scream Aim Fire 2008)

セットリストは4th「Temper Temper(2013)」5th「Venom(2015)」以外から満遍なく選ばれた選曲。ラストは2ndアルバムのタイトルトラック。

余談ですがラスト近辺で盛り上がっている時、突然バックスクリーンにスティールパンサーのロゴが流れたんですよね。フェードインしてくるというか。あれ多分操作ミスだと思うんですけど(最初、「ゲストで出てくるの?」と思ったけれどなんの仕掛けでもなかった)、珍しいミスですね。


Dream Theater

いよいよ! 大トリのドリームシアターです。スタンディングのフェスのヘッドライナーがドリームシアターってどうなの? と、発表された当初はちょっと思ったんですが(ノリノリで盛り上げるというよりじっくり聞くタイプなので、体力的にも消耗するフェスのヘッドライナーってどうなのかな)、実は2回目のヘッドライナーなんですね。一度、Loud Park14の2日目でヘッドライナーを務めています(ちなみに1日目のヘッドライナーはアーチエネミー。もともとマノウォーの予定だったけれど機材運搬船のトラブルで来日できずアーチエネミーが繰り上げ)。今思うとLoudpark 14ってかなり攻めたラインナップでしたね。

満を持して登場したドリームシアター。やっぱり演奏は超絶タイト。デビューは1989年なのでギリギリ80年代のバンドですが、出世作である2nd「Images And Words(1992)」の印象が強いのでもはや90年代のバンドと言っていいでしょう。90年代を席巻したのはプログメタル、メロディックデスメタル、グルーヴメタル、NuMetalでした。90年代を代表するメタルバンド、と言うと、ドリームシアターの名前も挙がってくるだろうと思います。

それまでも超絶技巧のバンドはいましたが、どちらかと言えば各楽器のソロプレイヤーとしてすごかった。それを「バンド全体(のアンサンブル)が凄い」と変えたのがドリームシアターだったと思います。バークリー音楽院で学び、曲自体が複雑。アンサンブルが複雑で、いわば70年代の長大かつ複雑、具体的にはUKのYesのような重厚長大な曲にカナダのRushのような洗練を加え、そこに90年代メタルのゴリゴリのサウンドを音の振れ幅として取り入れた。音楽的にもジャズや現代コード理論を取り入れた複雑な和音の響きを取り入れています。

曲構造は大きく言えば「緊迫感がある各楽器のソロパート」があり、そこからユニゾンや各楽器のバトルが始まって緊張感が高まっていき、そしてコード感があるハーモニーパート(ここがサビとか、開放感のあるパートになる)へと繋がっていく。これ、ボーカルパートにおいても同じ構造です。なので、ボーカルもけっこう楽器のソロパートみたいな、楽器的なフレージングが歌い出しでは多い。そこから起伏を経て、分かりやすいコーラスパートへと繋がっていきます。

ただ、このボーカルのパートがなかなか癖が強い。ボーカルのジェイムスラブリエは90年代から「音程が不安定」とか言われることがありましたが、いや確かにそうなんですよね。多分難易度が高すぎるんだろうと思います。普通に上手いボーカリストだと思うんですが、本人はけっこうフレージングとかがラフなんですよね。イアンギランみたいな感じ。ディープパープルも楽器隊の演奏が長いバンドでしたが、その間タンバリン叩いたりして、そしてボーカルが始まると独特の節回し(+シャウト)で盛り上げていったイアンギランに近い。ただ、イアンギランのような超高音シャウトがないので、シャウトしないイアンギランみたいな…せめてステージングなどにもうちょっとカリスマ性があればなぁ、と思います。スタジオ作は凄いし、ライブもめちゃくちゃ凄いんだけど、ライブバンドとしてめちゃくちゃ盛り上がるかと言えば、フロントマンの存在感という点ではちょっと弱い気がする。歌がないパートだとすぐ袖に引っ込んでしまうし。ブルースディッキンソンとかもソロパートでは袖に引っ込みますけど、彼はステージにいる時の存在感が半端ないですからね。アクションも凄いし。ライブバンドとしてのドリームシアターの弱点はボーカルだと改めて思いました。

とはいえ、これは僕の体力の問題もあったと思います。全バンド、結局スタンディングで前の方にいたんですよね。そりゃ疲れるわ。その疲労した状態でじっくりした大曲中心のライブになったからちょっとアラ探しをしてしまったんでしょう。もうちょっとペース配分考えておけばよかった。個人的にはドリームシアター大好きだし、キャンセルになった単独公演のチケットも取っていたんですけれどね。やっぱり受け手の状況というのもありますから、万全のコンディションで臨みたかった。柵の近くにいましたが柵に持たれて気を失っている(多分寝ている)人もいました。勿体ないことをした。仮に体力気力十分な状態で観たらジェームスラブリエの声が福音に聞こえたでしょう。演奏はキレッキレで、各楽器の音もくっきり聞こえて凄いなと思いました。

  1. The Alien(A View from the Top of the World 2021)

  2. 6:00(Awake 1994)

  3. Awaken the Master(A View from the Top of the World 2021)

  4. Endless Sacrifice(Train of Thought 2003)

  5. Bridges in the Sky(A Dramatic Turn of Events 2011)

  6. Invisible Monster(A View from the Top of the World 2021)

  7. A View From the Top of the World(A View from the Top of the World 2021)

  8. The Count of Tuscany(Black Clouds & Silver Linings 2009)

  9. Pull Me Under(Images And Words 1992)

セットリストは最新作「A View from the Top of the World(2021)」中心。海外で行われているツアーと基本的に同内容だったようですが、最後のPull Me Underは日本だけで披露された曲。やはりフェスのヘッドライナーということで、日本でもっとも知名度があるであろう曲でサービスしてくれたんですかね。

演奏力は異次元というか、猛烈なインタープレイの応酬による「楽器演奏の快感」を十分に堪能できるライブでした。ただ、やはりスタンディングフェスのヘッドライナーよりはホールの単独公演でじっくり堪能したいバンドですね。また単独公演を期待しています。

帰宅するメタラーたち


総括

今回のダウンロードジャパンは「90年代以降のメタル」でしたね。80年代、70年代のアーティストが一組もいませんでした。まぁ、厳密に言えば上にも書いた通りドリームシアターは1989年デビューなんですが、そこは90年代と考えましょう。実際90年代以降の曲しか演奏していないし。

で、過去のラウドパークおよびダウンロードジャパンのラインナップを観てみると、80年代、70年代に活躍したアーティストが出ないフェスは今回が初です。一番近くて攻めたラインナップだったのはLoud Park14ですが、この回はもともと初日のヘッドライナーはマノウォー(1982年デビュー)の予定だったし、ラウドネスレイジヴァンデンバーグクリーターデスエンジェルライオットなどが出ています。

他にもリンプビズキットをヘッドライナーにしたLoud Park11ストーンテンプルパイロットをヘッドライナーにしたLoud Park13など攻めたラインナップはあったものの、常に70年代、80年代のベテランがサブヘッドライナークラスに配置されていました。コロナ禍で数年ライブが止まり、その間に世代交代が起きたということもあるのでしょう。今回、90年代以降のバンドしか出ないことで集客を心配していたのですが来年も早々に開催決定ということで一定の基準をクリアしたようで安心しました。そして、そう遠くない将来に引退するであろう70年代(Judas PriestとかOzzyとかKISSとか)や、まだまだ元気ながら大物過ぎて呼びづらくなっている80年代組(MetallicaとかIron Maidenとか)だけでなく、90年代以降組だけのラインナップで大規模メタルフェスが開催できたことは日本のメタル界にとって大切なことだったと思います。

今回の演奏曲を年代別に集計してみましょう。

80年代 1曲(クレイジートレインのカバー)
90年代 20曲
00年代 15曲
10年代 18曲
20年代 33曲

計 87曲

なんと、2020年代の曲が4割近くを占める「最近の曲で固められたフェス」でした。ヘイローエフェクトが全曲新曲を演奏したのも大きいですね。本当に「モダンなメタルフェス」だったと思います。

ただ、若返ったとはいえ、ステージに上がったバンド達はそこそこベテラン。フロントマンの年齢を観てみましょう。

バンドメイド 非公表ながらおそらく20代後半
ヘイローエフェクト 48歳
コードオレンジ 29歳
アットザゲイツ 49歳
ソウルフライ 53歳
マストドン 48歳
バレットフォーマイバレンタイン 42歳
ドリームシアター 59歳

…うん、まぁ、若返ったということで! みんな60歳以下だし! ベテランがリスペクトされるのがメタルのいいところなんだ!!

また来年お会いしましょう! それでは良いミュージックライフを。


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