大人のためのメタル話② あの人は今 ~90年代、日本でトップアーティストだったメタルアーティスト達の近況~
連休なので筆が進んでおります。さて、前回「90年代ってどれぐらいメタル系アーティストが売れていたのか」を見返してみたわけですが、そこで出てきたアーティスト達、「日本でビッグだった」アーティストたちの「今」を追っていこうと思います。それぞれ日本でゴールドディスク以上を獲得したアーティスト達。今でも現役バリバリのアーティストもいれば半ば引退モードのアーティストもいますが、全体としてはまだまだ元気なアーティストが多い印象。キャリアと年齢を重ねてまさに「大人の音楽」としてのメタルを奏でています。大人が今聴くべきメタル。
YouTubeで流し見できるようプレイリストにまとめました。一応フェス感を意識して並べてあります。連休のお供にどうぞ。
各アーティストの近況も書いておきます。
ハロウィン
まずは「今が黄金期」のバリバリ現役バンド群から。マイケルキスクとカイハンセンが戻り、アンディデリスとトリプルボーカル体制に。ギターも3人。ハロウィンユナイテッドとして華麗な復活を遂げたカボチャ軍団ことハロウィン。現在第二の全盛期というか過去最高のパワーメタルマシンと化しています。マイケルキスクは1993年、カイハンセンは1989年に脱退していて復帰は2017年。マイケルキスクがメタル界に本格復帰したのも24年ぶりですね。この曲はカイハンセンの作曲で祝祭感と前進の意思を感じさせる素晴らしい名曲。このラインナップによるフルアルバムも2021年にリリースされ、全ハロウィンファン落涙の出来でした。
ドリームシアター
こちらも今が最盛期と言えるドリームシアター。リーダーでドラマーだったマイク・ポートノイが2010年に脱退してしまい存続の危機を危惧されましたが、バークリー音楽院の教授でもあったマイク・マンジーニを新ドラマーに迎えて再結束。マーケットの支持を勝ち取ります。最新作ではついにグラミーの最優秀メタルパフォーマンス賞を受賞。グラミー賞の審査員ってリベラルらしいので保守寄りのバンドは受賞しづらいそうですが、考えてみたらもともとドリームシアターってリベラルな雰囲気はありますよね。アジア系も入っているし。日本の「洋楽ファン」ってあまりアーティストの社会的主張を意識しませんが、USでは政治信条や人種によってけっこう音楽が届く層も違う印象。このあたりの「メタルと政治」についてはおいおい。ドリームシアターは2019年以来3年ぶりに復活するダウンロードジャパン2022のヘッドライナーを務めることでも話題になっていますね。
ジューダスプリースト
こちらも大ベテランながらまだまだ現役の鋼鉄神(Metal God)ことジューダスプリースト。2022年にロックの殿堂入りも果たしました。チャートアクションだと今のラインナップになってからの成績が過去最高で、USビルボードチャートの10位以内に送り込んでいますからね。欧州での人気は言うに及ばず、未だに各種メタルフェスのヘッドライナーを務める存在感を誇っています。看板ツインギターだったKKダウニングが2011年に脱退してしまうものの若手ギタリストリッチーフォークナーを迎えてバンドが再生。そこから快進撃を続けています。もう一人の看板ギタリスト、グレンティプトンもパーキンソン病で2018年から半ば引退状態にあるものの、サポートメンバーを迎えて活動継続中。現在新作制作中とのこと。
メタリカ
メタル界を越えて、USのロックアイコンの一つとして君臨し続けているのがメタリカ。1991年、ニルヴァーナのネバーマインドと合わせて”USロックの風景を変えた”「Metallica(1991)」のリリース30周年を記念してUS音楽シーンのスターたちがブラックアルバムをそれぞれカバーしたトリビュートアルバム「Metallica Blacklist(2021)」がリリースされています。これがまた面白い出来で、メタル界ひいてはロック界のみならずさまざまなジャンルからスターが参加。この曲のボーカルはマイリーサイラスですからね。他にもリナサワヤマとかも参加しているし。本当にメタリカというのはアメリカの一つの象徴なのだなぁと感じます。
メガデス
こちらも元気なメガデス。大佐ことデイブムステインは健在です。2002年に腕の神経を痛め、ギターを弾けなくなって一度引退したものの復活。今度は2019年に咽頭がんにかかったものの闘病の末復活。癌サバイバー。佇まいも仙人みたいになってきましたが切れ味は健在。声にも深い味わいが出てきています。現在のギタリストのパートナーは元アングラのキコルーレイロ。長年のパートナーであったデイブエフレソンが醜聞で脱退を余儀なくされるも歩みを止めず、間もなく(2022/6/8予定)新作もリリースされます。
デフレパード
NWOBHM出身バンドとして80~90年代初頭に最大の成功を収めたデフレパード。一時期グランジオルタナへの対応で迷走するもその後持ち直し、一時期ほどの異常な拘りのスタジオワークはなりを潜めたものの現在も変わらぬ端正かつ華やかなアリーナ対応ハードロックを続けています。片腕のリックアレンもそのまま、全盛期からのメンバーチェンジもありません。悲劇を乗り越えたバンドは結束が強いのかも。こちらもまもなくニューアルバムリリース予定で、今回選んだのはニューアルバムからのリードトラック。
オジーオズボーン
”帝王”オジーオズボーン。パーキンソン病と闘病中であり、長らくツアーから遠ざかっていますが2023年には復活ツアーが予定されており現在リハビリのために家を改装予定とのこと。復帰してほしいものです。2000年代にはブラックサバスの復活~終了と一つの伝説に幕を下ろすとともにメタル界での存在感を改めて知らしめました。その後、ソロ活動を再開し、メタル界にとどまらず現在のUS音楽界のスターであるポストマローンとも組んだ新作をリリース。メタル界にとどまらずUSロック界のアイコンとして活躍中。特にUSではブラックサバスがメタルの祖的に扱われている印象です。半生を振り返るようなMVも印象的。
スティーブヴァイ
孤高のギター仙人スティーブヴァイ。巨大な楽器を一人で弾きこなすという新たな大道芸を生み出しています。人間離れしすぎていていうことがあまりありませんが、ギターインストでずっとシーンの中で存在感を保っているのは凄い。しばらく自分でボーカルを取ってみたりと彼なりに試行錯誤していましたが、ひさしぶりにギターインストで統一したニューアルバムをリリースし、新章に突入しつつある印象。
モトリークルー
LAメタルの看板、モトリークルー。ニッキーシックスの書いた自伝小説がNetflixで「The Dirt」として映像化され再び話題になりました。こちらはそのドラマの主題歌として書き下ろされた新曲。トミーリーを演じるのは現在USポップパンクシーンのスター、マシンガンケリー。これがはまり役で、2015年にラストツアーを経て解散状態だったモトリークルーも人々の声にこたえるように2019年に再始動します。その後、復活ツアーが延期されていましたがいよいよ2022年に復活予定。新しいアルバムを出すというよりは「あの頃のバンド」としてリバイバルし、ライブがイベント感を持って受け入れられている様子。
ガンズアンドローゼス
相変わらずお騒がせなガンズアンドローゼス。ユーズユアイリュージョンの後、気が付くとメンバーがどんどん脱退しアクセルローズのソロプロジェクト化。「出す出す」といって17年引っ張ったチャイニーズデモクラシー(2008)をなんとかひねり出した後は沈黙していましたが、スラッシュとダフマッケイガンが2016年に復帰して少しバンドらしさを取り戻し、ついに新曲を出すまでになりました。どうも昔の曲を引っ張り出してきて録音しているようですが、歌メロでコーラスに入ると加速感とスリルが出てくるのはアクセルローズの面目躍如。こちらも「ツアーバンド」化していますが、新しい作品を生み出してくれるのか。最近、マーベル映画が80年代のハードロックを積極的に主題歌等に使うようになっており、「ソー」の最新作でもガンズの曲が主題歌になって話題になっています。
スラッシュ
そんなガンズの中で気を吐いているのがスラッシュ。かつてスラッシュズスネイクピットというバンド名でソロデビューしましたが、その後はヴェルヴェットリボルバーを経て、スラッシュ名義でソロ作をリリースしており現在も活発に活躍中。マイルスケネディというボーカリストと組んでいます。アルターブリッジのボーカルで実力派。アクセルとはタイプが違いますね。スラッシュらしいスリリングなギタープレイが光る曲。
ボンジョビ
ボンジョビも健在ですが、すっかりブルーススプリングスティーンみたいな「アメリカンロック、ハートランドロック」に接近しています。これは2020年にリリースされた最新作からですが、ジョンボンジョビのソロ作としての色合いが強い。というかたぶんソロ作として制作された気がします。リッチーサンボラは脱退してしまいましたが、他のメンバーも存在感がほとんどないし。2020年という時代を映したシンガーソングライター的な曲が入ったアルバム。
ハート(アンウィルソン)
女性ロッカーの先駆け、ハートのアンウィルソンが初のオリジナルソロ作をリリース。カバーアルバムは今まで2作出していましたが、オリジナルは初です。ルックスは変わってもボーカルの力強さは変わっていません。シンガーとしては現役感バリバリ。ボーカルにはハードロックの熱量があります。本体ハートも活動を続けていて2016年にアルバムもリリース。
エアロスミス(スティーブンタイラー)
エアロスミスの声、スティーブンタイラーのソロ作。エアロスミスはミスアシングの大ヒット以降、バラードバンドというかあまりに大衆化しすぎて2010年代以降失速していった印象がありますが、この声は健在。エアロスミスは活動休止中でおそらく再始動はなさそうですが、それぞれソロ活動を続けています。音楽的にはカントリーに接近。
ホワイトスネイク
さて、ここからはディープパープルファミリーの近況を。まずは白蛇ことホワイトスネイクのデヴィッドカバーデイル。変わらず伊達男というか遊び人キャラを通しています。ただ、でてくる女性たちの年齢層が幅広いのはファン層を見越してか。ボーカルはけっこう変わっているもののその分ルックスの変化が少ないアーティスト。ニューアルバムもコンスタントに出しています。
ディープパープル
ディープパープル本体。こちらも元気に活動中、というか、「ラストアルバム」として出したアルバムで停止したはずがその後カバーアルバムをしれっと出すという茶目っ気を発揮。イアンギランはすでにハードロックボーカリストの高音域は出なくなっていますが、なかなかどっこい味わい深い声に変わっています。自分の変化を受け入れていい年の重ね方をしている。ブルースブラザーズのパロディが差しはさまれるMVもグッド。イギリス的なしゃれっ気があります。
ブラックモアズナイト
さぁ、正しく「あの人は今」感が出てきました。すっかりハードロックから遠ざかり、中世にたどり着いた御大ことリッチーブラックモア。いや、リッチーブラックモアズレインボウも2015年に復活させ、新しいボーカリストと一緒にハードロックも演奏しているんですが、やはり最近はブラックモアズナイトの方が中心的な活動という印象ですね。幸せそうで何よりです。
イングウェイマルムスティーン
こちらも良くも悪くも変わらない御大、イングウェイマルムスティーン。バンドメンバーと関係を継続しないスタンスは変わらず、最近はすべての楽器を自分で演奏するように。才能は凄いですけれどね。これ、MVは誰のセンスなのでしょう。もしかしたら自分で監督しているのかな。ところどこにさしはさまれる後ろ向きにジャンプして入ってくるカットがなんだか芸人っぽくてどういう感情で見ればいいのか悩む。しかも数回出てくるし。狙っているのだろうか。イングウェイっていろんなイメージがありますけど、案外ひょうきんなキャラですよね。ニヤリとさせようと入れている気もします。
スキッドロウ
しぶとく活動を続けているスキッドロウ。看板シンガーだったセバスチャンバックが抜けて久しいですが、この度新ボーカリストを迎えて再起動。新ボーカルのエリックグロンウォールは癌サバイバーであり闘病から復帰したとは思えないパワフルなボーカリスト。もともとスウェーデンのH.E.A.T.のボーカリストですね。まだ映像は出ていませんが、ルックスも若返りボーカルもパワーアップ。10月にニューアルバムが出るそうなのでスキッドロウが再び輝けるか。勝負の時です。ちなみにセバスチャンバックもソロ活動を続け、2014年以降音源は出していないもののライブ活動は続けています。
ジャーニー
ジャーニーもスティーブペリーは脱退しましたが新ボーカリストのアーネルピネダを迎えて元気に活動中。アーネルピネダはフィリピン人で、「アジア圏からロックスターになる夢をつかんだ」ということで映画化もされたほど。映画「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」(2013)。また、新しい映画の企画の話も2018年ごろに出ていましたが、その後どうなったんでしょうね。ボヘミアンラプソディでのクィーンのように、ジャーニーも再評価の波が来たりするかもしれません。US、ディズニー映画「ハイスクールミュージカル」でもジャーニーの曲が効果的に使われたり、「あの時代」を代表する記憶と結びついたバンド。2022年現在も活動中で間もなくニューアルバムリリース予定とのこと。こちらはそのアルバムからのリードトラック。
TOTO
ジャーニーとくればTOTO。日本では産業ロックやAORとも呼ばれたりしますが、USでは普通に「ロックバンド」ですね。あとフュージョン寄り。ポーカロ兄弟が引退し、スティーブンルカサーとデヴィットペイチだけが残っていますが、サポートミュージシャンを加えてもっとブラックコンテンポラリー寄りの音楽性に。ビルボードライブとかコットンクラブとかブルーノートで観たい。コンスタントにアルバムも出し続けていましたが、アルバムとしては2018年の最新作が「最終作になる」と言われています。ただ、ライブ活動は再開して現在もツアー中。
ミスタービッグ
ビッグインジャパンの申し子、「MR.BIG」。ボンジョビとクィーンの次ぐらいに日本で売れたバンドかもしれません。途中、ポールギルバードが抜けたりもしましたがオリジナルメンバーで復活。活動していたもののドラマーのパットトーピーが闘病の末死去。このアルバムは最後のアルバムとなりました。MVにも出ていますが、実際にはレコーディングできる体力はなかったのでサポートドラマーが叩いています(MV中にもドラマーが2人出てきます)。日本人の多数の洋楽ファンにとって一番「90年代」を感じるのはこのバンドだったのかも。
ヴァンヘイレン
90年代、USハードロックの覇者であったヴァンヘイレン。2015年のグラミーでのライブです。ダイアモンドデイブが復帰し、有終の美を飾りました。テイラースウィフトが曲紹介していますね。USでは幅広い世代から愛された、まさにロックアイコン。残念ながらエディヴァンヘイレンが闘病の末世を去り、2020年にロックの歴史の一部になりました。
クィーン
最後はクィーン。フレディ死後、活動を休止していましたが一時期ポールロジャースを迎えて活動再開。そして新世代の才能(TVのタレント発掘番組から出てきた)アダムランバートをボーカルに迎えて全世界をツアーし始めます。映画「ボヘミアンラプソディ」の大ヒットもあり、世界中でクィーンの再評価の機運が高まりました。この曲でお別れを。
どうでしたでしょうか。たまには振り返ってみるのもいいですね。最近のアーティストにも興味がある方はこちらもどうぞ。
それでは良いミュージックライフを。