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Cvlt Ov The Svn / We Are the Dragon

フィンランドから現れた覆面バンド。おどろおどろしいビジュアルですがデス/ブラックというよりはゴシックでメロディアス。ナパームレコードと契約し、けっこうMVも力が入っています。誰か有名なメンバーがいるのでしょうか。中堅どころのメンバーは入っていそうな気がしますね。バンド名からして、Swallow The Sunのメンバーとかかなぁ。作曲能力が高い。フィンランド好きなので聞いてみました。

フィンランド出身のカルト・オブ・ザ・サン。19 年に 4 曲入りデジタル EP を発表したばかりの新人であり、その正体は実はよくわからない。
だが、彼らについて知れば知るほど、興味はそそられるばかり。まずカルト・オブ・ザ・サンは、自分たちのスタイルを「オカルト・マーダー・ポップ」だと称している。オカルティズム+殺人にポップスというある意味不思議な取り合わせであるが、「聴き手を常に不安にさせ、闇と歪んだロマンスで包むもの」だというのだから、これはもう聴くしかないという気にさせられる。
この度リリースされるそのデビュー・アルバム、『ウィ・アー・ザ・ドラゴン』。これを聴けば彼らの言わんとしていることはすぐにわかる。ブラック・メタルとストーナー・ロック、タイプ・オー・ネガティヴやマリリン・マンソン、さらにはロクセットのようなポップ・バンドからも影響を受けたというそのスタイルは、とにかく暗く、それでいてポップ。そのアンバランスさが、確かに聴き手を不安にさせる。北欧らしい湿ったメロディは、日本人の心に響くことだろう。メンバー全員がマスクをかぶり、素性もよくわからないあたり、ゴーストなども彷彿させ、このデビュー・アルバムで一気にブレイクする可能性も高そうだ。これぞ闇のヘヴィ・ポップ・ミュージックである。


1.We Are the Dragon 03:18 ★★★★

メロディアスなギターリフ、ミドルテンポでロックンロールのリズム。Lordiなどにも通じる世界観、声はやや蠢くような、芝居がかったモンスター声、覆面バンドということだがLordi人脈参加しているのかなぁ。フィンランドのバンドということなのである程度絞られそう。音像はけっこうゴシック、ディストーションギターが鳴っているがチリチリしたノイズ的な、ちょっと遠くの方で鳴っているような。最近の北欧メタル的な音作り。Swallow The Sunとか。ボーカルはデス声ではなくくぐもった声ではあるが叫びはなくメロディアス。どちらかといえば低めの声。


2.My Venom 03:28 ★★★☆

もう少しアグレッション強めの音像、ただ、歌い方は同じ、ささやくようなモンスター声。ボーカルが入ってくると世界観が前曲と通じる。激情を感じるが全体的な音圧は抑えめ。秘めた感覚。現代メタルっぽいリフ。全体として霞がかった幽玄さもある、シューゲイザーの影響も受けたアトモスフェリックブラックやポストブラックメタル的な音作りのバッキングを、スロウに演奏している感じで、その上に載るボーカルはメロディアス。全体としてはゴシックな雰囲気だがところどころドラムがツーバス疾走したりする、たぶんメロデス界隈の人脈なんだろうな、そもそもそちら系のミュージシャンがやっている気がする。曲の語法がメロデスやブラックメタル。


3.Don’t Be Tender Love Me Cruel 03:07 ★★★★

メロディアスなリフから。メロディアスといってもThin Lizzy的なケルティックなものではなくメロデス的。ベースとドラムをバックにボーカルが歌う。ボーカルはずっと囁くような、押し殺した声。ghostに通じる、と紹介されているのも見たがそれよりはLordiに近い気がするなぁ、もちろんghostにも通じるところはあるが、なんとなくメロディセンスと音作りの雰囲気が違う。どの曲もそれほど音程移動が激しくない中でしっかりフックを作ってくる、作曲能力が高い。

4.Hellbound 03:20 ★★★★☆

ドラムがやる気を出す、けっこうな疾走、前まで抑えめだったから緩急がつく。ボーカルも今までと同じく囁き声だがやや勢いづいている。だんだん盛り上がっていく作りなのかな。The 69 Eyesにも通じるものもあるな。シンプルなロックンロールというテイストもある。ただ、ドラムはデス/ブラック系。そこまで激烈に叩かないけれど、ベースがそっち系の人のプレイ。「666」の響きがベタだけれど良い。さまざまなジャンルの要素のミクスチャーだなぁ。


5.Dancing with the Devil 03:34 ★★★☆

蠢くような歌い方、バックが90年代ビョーク的な、ちょっと歪みながら動いていくデジタルな音作り。Prodigyとか。デジタルな感じ。ただ、音はどこかドリーミー、霧に覆われた北欧の森のような、迷い込む広さがあるが、迫ってくる感じではない。手招きする、誘い込む感じ。

6.Twilight 02:58 ★★★★☆

勢いよく入ってくる、ややメロスピ感。そこまで疾走しているわけではないが、緩急として早く感じる。ドラムは手数があまり多くない。アトモスフェリックなバッキング、北欧メロディ。メロスピというよりはメロコアか。メロディアスでボーカルメロディが立っている。バッドレリジョンあたりのマイナー調でスピーディーに展開していく、冗長さがない、性急な感じ。後ろでは鳴り響く哀切な吹雪のような北欧的シンセとシューゲイズに渦を巻くギター。


7.I’m Gonna Find out 04:08 ★★★★

ミドルテンポ、ややベースの音が強め、ロブゾンビ的な。そこに吹雪のような音像が乗ってくる。ノイズ感があるギターサウンド。ドラムは淡々とリズムを奏でる。吹雪の中を歩き続けていくようなリズム。ボーカルも凍えたようなささやく声。厳冬の幻覚だろうか。チリチリしたノイズが入る。ホワイトアウト。迷い込む、耽溺的な音像。メロディというより音響、音世界で聞かせる曲。エピック、ヴァイキング的な響き。

8.Luna in the Sky Forever 02:57 ★★★★

雰囲気が変わった、この曲はghost感もあるな、最初のシンセの音が想起させる。メロディセンスもそれっぽい。ちょっとクラウトロックの流れも感じるシンセの音。けっこうメロディアスに展開していくアルペジオのギター。複数のメロディが絡み合う、ちょっとクラシックロックの風格もある、70年代的な。Blue Oyster Cultとか。


9.The Murderer 03:28 ★★★☆

スペーシーなシンセが響く、こちらもghost的な世界観。ミドルテンポで進み続けるリズム。後半になるにつれてメロディの比重が増えてくるのか。ギターフレーズのメロディアスさが増してきて、ボーカルと絡み合う。吹きすさぶ吹雪のような、空間を埋めるノイズは続いている。


10.Whore of Babylon 03:01 ★★★★

ブラックメタル的な音像に、そこまで激烈性が急に増すわけではないが、ドラムがツーバス連打からスタート、途中で手数が減り、ダンサブルなリズムに。コーラスではブラックメタルな音像に、ボーカルは囁く感じを崩さない。メロディアス。


11.The Pit 03:30 ★★★★

再びLordi感が戻ってきた、ドラムパターンによって雰囲気が変わる。どっしりと構えてノシノシと進む感じ。ホラー、ショックロック感。リズムの足し引き、ブレイクが多い、演劇的。

12.Another Infinity 04:05 ★★★★

じわじわと展開していくメロディ、そういえばあまり性急な展開をしないのも北欧的な語法なのかもなぁ。トレモロリフとか、単音をそれなりの間引っ張る。ゆっくりとした展開。

総合評価 ★★★★

どの曲もおしなべてレベルが高い。耳に残るフックもある。1曲だけ抜き出したら「オッ」と思う曲が何曲も入っている。アルバム全体もそれなりにバラエティがあって、聞いていた楽しめる。アルバムの中でどこかハイライトがあるわけではないが、極端な中だるみもない。ややメロディセンスの幅が狭く、突出して印象に残るフレーズがないのが珠に傷か。あとは、「いい曲がたくさん入ったアルバム」ではあるが、アルバム全体を通してのドラマや流れはあまり感じなかった。後半、メロディが増してくる、とか仕掛けがあるのは分かったのだが大きな場面展開や、感情の起伏を生み出すまでには個人には至らず。とはいえ北欧メタル、フィンランド的な音階やメロディが好きなら楽しめそうな佳曲揃いのアルバム。

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