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Fleet Foxes / Shore

2006年結成、デビューのアメリカ、シアトルのオルタナティブ・フォークバンド、フリート・フォクシーズの2020年作、4枚目のアルバムです。もともとニルヴァーナなども出たシアトルのインディレーベル「サブポップ」からのデビューということもあり「オルタナフォーク」などとも呼ばれましたが、デビュー当時から耳を惹いたのは中世的、バロック的な構築された曲構成でした。1stアルバムのジャケットデザインも中世的で美しかったのが印象に残っています。コロナ禍の最中で完成しリリースされた作品。社会情勢の急激な変化に伴いリリースされたのでやや曲ごとのキャラクターの練りこみが足りなく思える部分もありますが、その分思索の方向が統一され、組曲のような音世界に浸れます。

2020年リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Wading In Waist-High Water
ドリーミーで浮遊するメロディ
リバーブが効いたアコギに載せてボーカルが口ずさむ
子供の声、大人の声が重なる
リズムが入ってくる、後ろで少女のクワイアが鳴っている
ベースラインがかなり動く
微かにトランペットが響く
目覚めだろうか、何かの始まり
★★★

2.Sunblind
1曲目をイントロとしてそのまま2曲目へ
芯のある声のボーカルに、1曲目は裏声だったのか
メロディアスなボーカルラインに絡みつくベース
テンポは同じだがハモリというか別メロを奏でている
ブリッジでは下から上がってくる上昇音でポップな勢いが出てくる
リズムが波のように押し寄せて落ち着いたコーラスへ
高音から降りてくるようなブリッジに
上からの下降と下からの上昇でメロディが対位して再びコーラスへ
ベースラインが歌っている
コーラスがちょっと煮え切らないのが惜しい
★★★☆

3.Can I Believe You
ピアノの和音がリズムを刻み、ベースラインが動く
ドラムはところどころ手数は多いが落ち着いてリズムを刻む
ボーカルが入ってくる
包むようなコーラスが鳴り続けている
ブリッジ前にギターのカッティング音
ピアノのリズムが続き、少し違うメロディを奏でた後ヴァースへ戻る
これはヴァースがサビなのだろうか、開放感あるメロディ
途中で蠢くような、きらめくような、ささやくようなパートへ
水中をイメージさせる
泡のような打楽器
ギターカッティングが日の光のように差し込んでピアノコードカッティングへ
★★★☆

4.Jara
声をサンプリングしたキーボード音から、声でさえずるようなメロディ
からのすこしゆったりとした、広々としたメロディをボーカルが奏でる
ちょっとアフリカ的な、親指ドラム的なキラキラしたメロディの反復が入る
ギターは基本的にコードカッティングで空間を埋めていて、ベースが歌と絡み合う
コーラスへ、開放感がある、少しリズムと歌メロとコードの切り替わりをずらしている
和音としてはずっと調和がとれているのだが、切り替えのズレが面白い効果を出している
ズレていても12小節か16小節か、一定の周期でキレイに着地する
★★★★

5.Featherweight
こちらも音粒が細かい反復メロディからアコースティック感強い歌へ
ドラムは打楽器的な音が一定のリズムで四つ打ち
ルーツ・ミュージック的なバックだが、メロディや構成はインディーロック
なぞるコーラス、ボーカルメロディに対してハーモニーが入る
コーラスを経てヴァースへ、風が吹き続けているような、風の音のような音楽
不協和音も混じった反復するピアノフレーズが出てきてコーラスへ
コーラスは和音感が強い
★★★

6.A Long Way Past The Past
落ち着いたコード進行、ベースも一定
ボーカルが展開する、イエスのジョンアンダーソン的な歌いだし
だいぶピースな世界観
少し管楽器も入ってくる
破綻がなく美しい世界、フックは弱いが空間的な広がりはある
間奏を経てのブリッジでは反復しながら盛り上がっていくメロディ
下降するメロディできれいに終わり
★★★☆

7.For A Weeek Or Two
アカペラ的な、ハーモニーが前面に出た曲
バックは骨組み的なリズムと、和音感を出しているピアノ
何度も問いかけるようなメロディ、ベースと絡み合う
小鳥のさえずりが入る
★★★☆

8.Maestranza
少し雰囲気が変わり、勢いと力強さを感じるボーカル
リバーブがやや減り、変化を感じさせる
アルバム全体を通して1曲が短め、2分から3分台の曲でどんどん展開していく
ポールマッカートニー的ともいえるかも
この曲は1曲としての輪郭が立っている
ポールマッカートニーよりはペイルファウンデーションとかの方が近いのだろうか、だいぶ昔に聞いたのでうろ覚えだが
ドラマティックに終曲
★★★★

9.Young Man's Game
軽快な曲、ちょっとワウっぽいギター
ボーカルはハーモニーが美しい
どこか英国的な湿り気と感じる、ブリティッシュフォークの影響を受けているのだろう
アメリカのバンドだったと思うが、カントリーやブルーグラスよりブリティッシュトラッドの影響を感じる
いわゆる英国フォークロックか
軽快でメロディアスな佳曲
★★★★

10.I'm Not My Season
ちょっとノイズを抑えたようなエレキギター音からスタート
つぶやくようなボーカルに戻る
前半が朝だとすると、こちらは夕方か
少し質感が違う、ドリーミーな感じよりは少しの寂寥がある
ドリーミーなハーモニーがなく、後ろでなっているギター音も生っぽいからだろう
前半はけっこうエフェクトが強かった
一人で佇んでいるような歌
★★★☆

11.Quiet Air / Gioia
ちょっと毛色の違う、ミニマル感のある反復からスタート
生音なのだが反復的、人力ミニマル
ボーカルはハーモニーあるメロディ、メロディアスなフレーズを反復する
そこにさまざまな音が重なり合ってくる
ライヒ的な、音のフレーズの組み合わせ、多重レイヤーの心地よさや面白さを探った曲のようだ
ところどころピアノの下降フレーズやエレキギターのソロ、クワイアっぽい声が出てきては消えていく
次々と何かが誕生しているのだろうか
曲名もつかみづらい、Gioiaとは何だろう
左右にパンが振られたコーラスが出てきて対峙する
ポリフォニーだがまじりあうことなく左右チャンネルで歌い合う、呼応している
リズムはずっとミニマルなテンポが維持されている
プログレ的
★★★★

12.Going-to-the-Sun Road
前の曲から少し曲間が空いてこの曲へ、シーンが変わったことを感じさせる
ビーチボーイズのようなハーモニーがある曲、彼ららしいアーシーさがあるのでビーチボーイズ感はそこまで強くないが
このバンドどこか土や山を感じさせる
今回のアルバムはジャケから海のイメージがあるがどこか土、山っぽい
美しいメロディ、中間部からワルツのリズムが前面に出てきて、たゆたうようなメロディが出てくる
サイケデリックだが地に足がついている、ゴスペルなのだろうか
この辺りの感覚がアメリカ的、大陸的と言えるのかもしれない
最後は管楽器によるフリージャズ的な余韻
★★★★

13.Thymia
アコギからスタート、メロディアスなフレーズ
ハーモニー厚めのボーカルが入る、合唱曲か讃美歌のようだ
ギターメロディはトラッド、この曲はゴスペルの影響を感じる
2分ほどの小曲だが、転調も入り美しい展開
★★★★☆

14.Cradling Mother, Cradling Woman
ワンツースリーの声がぐるぐる回る、これもミニマル感のある曲
いくつかのフレーズを人力で繰り返し、重なり合っていく
リズムが入りそれらを包み込んで進んでいく
メロディが入ってくる、リズムは同じテンポながら波のように押したり引いたりする
揺らぎを感じる
心地よく流れていくメロディだが向き合うと煽情的、結構エモーショナルなメロディ
渦を巻くような音、分散した管楽器のフレーズ、女声コーラスと弦楽器がまじった渦が乗る
音が消えて残響音が渦に吸い込まれていく
★★★★

15.Shore
前曲から長めの曲間を経て最終局へ、エピローグ的な位置づけか
学校の音楽室でなっていそうなピアノ、教室のリバーブのような音処理
ボーカルが乗る、ピアノはメインの和音が鳴る中、少しづつフレーズがばらけていく
追憶の中に沈んでいく、記憶がぼやけていくようだ
水に沈んでいくような音がする
ボーカルに微かに女声がユニゾンする
メロディは淡々と流れるかと思ったら一部転調したりフックが入ってくる
余韻というよりは曲として成り立っている
ドラムが打ち鳴らされる、地響きやマグマのような手数の多さ
盛り上がりきることなく次のパートへ、分散したクワイアによるコーラスが降ってくる
噴火した火花が空から降ってくるようだ
やや歪んだ、きしむような音が入ってきてメロディが展開する
リズムがだんだんと動きを止め、ピアノが残る
教室で最後の和音を弾き、残響音が残り、ピアノの蓋が閉じられて終曲
★★★★

全体評価
★★★★
前半はドリーミーで集中して聴きこむより流れていく、心地よい感じ
8曲目以降がプログレ的な展開を見せる、Abbey RoadのB面のようだ
あれほど単曲が際立っているわけではないが、もっとゆっくりした展開の中でさまざまな音楽的要素が詰まっている
旨味を十分感じられるセンスある音楽
聴き終えた感慨があり、何度も味わいたいと思う
これはFishのアルバムにも近い、良い余韻

リスニング環境
夕方・家・ヘッドホン

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