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Billie Eilish / Happier Than Ever

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Z世代(2000年代生まれ)のスター、ビリーアイリッシュの待望のセカンドアルバム。前作の世界的成功の後、自分自身の内省によって生まれたアルバム。「10代の女性であること」「有名であること」の束縛と制約についても歌われているとのこと。アルバムから事前リリースされた5曲のシングル( "My Future", "Therefore I Am", "Your Power", "Lost Cause", "NDA)はすべてビルボードトップ40入り。それをさらに宣伝するために、ディズニー+ドキュメンタリーコンサート映画「HappierThan Ever:A Love Letter to Los Angeles」が2021年9月3日にリリースされ、本作はApple Music史上最高の「事前ダウンロード予約」をされたアルバムだとか。メディアレビューもおおむね好意的で、各種レビューの平均値を出しているMetacriticでは89/100、AnyDecentMusic?では8.3/10となっています。AOTYでもメディアレビュー85、ユーザーレビュー77とかなり高め。高い期待値に応えたアルバムと評価されているようです。全曲、兄のフィネスとの共作で、外部ソングライターとの共作はなし。プロデュースもフィネスという前作と同じ布陣。全曲自分で曲作りをするところがインディペンデント、DIY的で、オルタナティブミュージックシーンからの流れを感じます。それでは聞いてみましょう。

活動国:US
ジャンル:Alternative、R&B、Electropop
活動年:2015ー現在
リリース日:2021年7月30日
クレジット:
 All tracks are written by Billie Eilish O'Connell and Finneas O'Connell.
 All tracks are produced by Finneas.

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総合評価 ★★★★

普遍性の呪縛。どこかで聞いたような、今のUSでヒットしそうなメロディの曲が半分ぐらいを占める。音響としてはインディーズロック、自分たちで作っている実験性やDIY感も感じて面白いのだけれど、メロディそのもの、曲構成そのものが普遍性を求めるような曲が多い。中には実験的な曲(6,9,15)もあるのだけれど、USでいかにもヒットしている曲、R&Bテイストのメロディも半分ぐらい入っている。あとはオールディーズのポップス。ちょっとわかりやすいメロディが個人的には多すぎるように感じた。説明過多というか。個人的にビリーアイリッシュに期待していたのはもっとオルタナティブなもので、2020年代のロックというか、「メインストリームにはなかった新しい音」の提示だったのだけれど、音響面での特異性はありつつもメロディラインなどはメインストリームにむしろ近づいてしまった。本作について「普遍的なアルバム、古びないアルバムを作りたかった」とインタビューで言っていたが、その普遍性の呪縛のようなものを感じた。もちろん、そうした「普遍性を求めていく姿」もストーリーだし、それを率直に吐露しているという点で正直なアルバム。決して嫌いではないが、個人的には残念ながらスリリングに感じる瞬間が少なかった。ただ、音は全体的にダークで落ち着いたトーンで統一されているので、ハマるシチュエーションの時にはハマりそう。

なお、MVはどれも素晴らしい出来。歌詞や映像まで含めた世界観は尖ったものを感じる。YouTubeだと日本語字幕もついているので言葉の意味も入ってくるのでより分かりやすい。

1. "Getting Older" 4:04 ★★★★☆

打ち付けるような、塊感のあるシンセ音。ただ、どこか鈍い音。つぶやくようなボーカルが入ってくる。歌い方はかなりけだるく、90年代のPavementなど、スラッカーカルチャー(怠け者文化)も感じさせる。ただ、オールディーズなポップスのような美しいメロディラインを持つ曲。フランクシナトラとか。かなり率直な心情の吐露。

2. "I Didn't Change My Number" 2:38 ★★★★

豚の鳴き声(をまねた人の声)、OKという声が入る、前作のBad Guyのようなテイストの曲。けだるく、不穏な雰囲気で言葉がつぶやかれていく。メロディがスムーズに流れていく。ヒップホップリズムでベースはややダブも入っている。不機嫌で少し不安で少し楽観的。

3. "Billie Bossa Nova" 3:16 ★★★★

ジャジーでボサノバテイスト。タイトル通り。指パッチンが入ってきて少し軽快に。ただ、全体としては落ち着いたオールディーズでどこか物憂げ。恋人との歌か。ただ、全体としては物悲しい雰囲気。どこか演歌的なサビ。USの人が聞いたらオリエンタルなメロディと感じるのだろうか、それとも単にマイナー調の曲と感じるのだろうか。

4. "My Future" 3:30 ★★★★

オールディーズポップス。ピアノとボーカル。ただ、ドローン音のベースが入ってきて音空間が変わっていく。コード進行はそれほどオルタナ感はなく、マイナー調ではあるがコンテンポラリー、R&B的な美しい和音進行。途中からリズムが入って弾むようなシーンに。ただ、ボーカルの歌い方は変わらない。ウィスパーボイスというか、(女性版)クルーナーボイスというか。クルーナーボイス(低音域でささやくように歌う)というのが一番近いか。

5. "Oxytocin" 3:30 ★★★☆

ダンサブルなリズム。トライバル感があるが音像はデジタル。反復されるフレーズ。比較的曲構成そのものはシンプル。珍しく声を強めるシーンが出てくる。感情が高まっていく。声を上げる。この曲だけApple Musicで歌詞が出てこないな。

6. "Goldwing" 2:31 ★★★★☆

ゴスペル、グレゴリオ聖歌のような透き通ったコーラス。それが一通り鳴り響いた後、切り刻まれたリズムが入ってくる。つぶやくように言葉が紡がれる。そこからメロディアスなボーカルパートへ。そしてまた言葉を繰り返してすぐ終わる。短いが実験的なポップス。面白い。

7. "Lost Cause" 3:32 ★★★★

ややファンキーなベースとリズム。飛び跳ねる、まではいかないほどの弾み方。これは先行されていた曲だな、MVの印象が残っている。しかし特にシングルだからといって他よりポップとかそういうことがない。同じテンション、同じクオリティに感じる。このスタイルは面白いな。R&B、ヒップホップ、インディーロックのスタイルの組み合わせというか。アコギの音が最後に入ってくる。

8. "Halley's Comet" 3:54 ★★★☆

ピアノフレーズから。ジャズ、オールディーズ的。けだるく、ささやくようなボーカルが入ってくる。カスレ声を使うのがうまい。ダブステップ的な音像、ため息。ゆっくりと落下する音。途中からピアノがテンポアップする。音が割れていく。ネオサイケデリアな音像。

9. "Not My Responsibility" 3:47 ★★★★

せりあがってくるようなシンセ音、揺らめくサイケデリックな音。スペースロック、SF的な音になってきた。これは有名になることへの歌か。「あなたは私を知っている? 本当に? あなたは私の意見についての意見を持っている。私の音楽について、私の服について、私の体について」。以前公開されたショートフィルムで使われていた曲、というか語りだな。アルバムに入れてくるとは。「それは私の責任ではない」。メッセージ性が強い。

10. "Overheated" 3:34 ★★★☆

そのまま次の曲へ。この曲はBjorkっぽいな。サウンドが。マークベル的というべきか。わかりやすいコード進行、シンプルな曲。言葉を紡いでいく。R&B的。音作りは面白いがメロディはよくある感じ。

11. "Everybody Dies" 3:26 ★★★

スロウでメランコリックなバラード。ボーカルラインが上昇する。ビリーアイリッシュにしては音域を広く使っている。バックのドローンを奏でていたシンセ音がアルペジオに変わる。クラウトロック、70年代ジャーマンプログレとかシンセサウンド的。

12. "Your Power" 4:05 ★★★☆

アコースティックギターの音が入ってくる。生々しさはあるがちょっとキラキラした感じの音。アコギの音はアーティストによって録音というか音作りの違いがよく出て面白い。歌い方はけだるく、生々しいギターの音と電子音が絡み合う音像は面白いが、歌メロ自体は最近のUSヒット、ポップスの文脈。スリリングさに欠ける。

13. "NDA" 3:15 ★★★☆

せまってくるノイズから。ヒップホップのリズムでぼそぼそと不機嫌につぶやく。こういうリズムなんて言ったかなぁ。M.I.A.とかもこんな感じだった。隙間が多い音。拡声器のような声でボーカルがやや叫ぶ。

14. "Therefore I Am" 2:53 ★★★☆

そのままのリズムで次の曲へ。打ち付けるようなリズム。「私はあなたの友達ではない」コーラスがなたのように振り下ろされる。ピンクフロイドのアナザーブリックインザウォールのような。整列して流されていくような音像。あるいはジャネットジャクソンとかか。

15. "Happier Than Ever" 4:58 ★★★★☆

ウクレレ、アロハな雰囲気に。けだるくささやくボーカル。オールディーズなメロディ。途中からポップパンク的なエレキギターの刻みに変わる、アヴリルラヴィーンとかのガールズロック的な音像に。この曲は面白い展開。まさかこういう曲が入っているとは。うれしい誤算。最後はかなり叫びも入ってきて音がカオスに。デヴィッド・ボウイの「Five Years」のような盛り上がり方。

16. "Male Fantasy" 3:14 ★★★☆

アコースティックな音像、手でたたくカホンのような、いや、ギターホールをたたいているのか。部屋で歌っているような音像。ボーカルはルームリバーブというには深すぎるリバーブがかかっていて空間がそこだけ違う。

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