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返シドメ / 返シドメ

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能楽ロック、日本の伝統音楽である能楽×欧米の若者・ダンス音楽であるロックのハイブリッド。返シドメのバイオグラフィーはこちら。

【返シドメ】2018年始動。安土桃山時代より続く能楽一噌流笛方・一噌幸弘が、能管を始め篠笛、田楽笛 、リコーダー等々様々な笛を駆使し、能楽をベースにロックやフリージャズが融合したユニット。即興音楽やノイズからポップスに至るまで多種多様な音楽を創造する大友良英、フェンダー・ベースの音圧と音価を駆使し、その音を瞬間的にかつトータルに別次元へと展開させるパワーとテクニックが素晴らしいナスノミツル、ルインズ、高円寺百景、是巨人を筆頭にその超絶技巧と唯一無二のスタイルがジャンルや国境を超えて活躍する日本が誇るドラマー吉田達也という最強のメンバーで構成。

中心人物たる一噌 幸弘(いっそう ゆきひろ)さんは本格的な能楽の方。

東京都練馬区出身。安土桃山時代より続く能楽一噌流笛方、故一噌幸政の長男として9歳の時に「鞍馬天狗」で初舞台。以後、「道成寺」「翁」等数々の大曲を披く。能楽師として能楽古典の第一線で活躍する一方、篠笛、自ら考案した田楽笛、リコーダー、角笛など和洋各種の笛のもつ可能性をひろげるべく演奏・作曲活動を行う。1991年より能楽、自作曲、そしてクラシックの古典まで様々な楽曲をレパートリーに、自身の新しい解釈によるコンサート「ヲヒヤリ」を主宰するなど、能楽堂をはじめとする伝統的建造物や数々のホールにおいて、能楽古典や自作曲、西洋クラシック、ジャズ、即興等を、村治佳織、セシル・テイラーをはじめとする内外の様々な音楽家、交響楽団と競演し、他に類をみない和洋融合の音曲世界を創造している。また、2004年NHK紅白歌合戦では藤あや子「雪荒野」、2012年NHK歌謡コンサートでは石川さゆり「天城越え」の編曲を手掛け共演を行う。2005年「邦楽維新Collaboration」ではデーモン閣下と、「言の葉コンサート」では数年にわたり江守徹と共演するなど、歌手や俳優、舞踊家等、各界のアーティストとジャンルを超えた競演、メディアへの自作曲の提供など、その活躍はまさに縦横無尽。

そもそも能楽や雅楽のような日本古来の音楽は音階も12音階とは違うんですよね。もちろんまったく異なるわけではないですが、各地域によって一オクターブをどう分割するかは微妙に異なっています。今のドレミファソラシド(+各半音)は12音階平均律、一般的に平均律と言われるもので、これは西欧クラシックのものだけでなく、世界各地にあったもの。西欧クラシックも実はもっといろいろあるんですね。中全音律とかピタゴラス音律とかヴェルクマイスター音律とか。で、何が言いたいかと言うと平均律でいろいろな音楽を奏でるようになったのは最近のことで、例えるなら英語が世界共通語になったようなもの。もともと昔は各楽器や各地域で音階も違っていたのです。なので、雅楽や能楽はもともと12音階以外を使っていた。完全に12音階に合わせてしまうとどうもその雰囲気が損なわれるような気がするのですが、他の近代楽器と合わせるには調律を何かで揃えないとならない、その辺りにどう挑戦し、料理しているのか気になるところです。それでは聞いてみましょう。

活動国:日本
ジャンル:能楽ロック、能管リコーダーメタル
活動年:2018年-現在
リリース日:2021年4月21日
メンバー:
 一噌 幸弘:能管 篠笛 田楽笛 リコーダー 角笛
 大友 良英:ギター
 吉田 達也:ドラムス
 ナスノ ミツル:ベース

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総合評価 ★★★★

和笛を使ったヘヴィなジャズロック、プログレッシブロック。面白い。陳腐さはなくそれぞれの音楽人生が垣間見える芳醇な作品。匠の技を聴くことができるし熱量も高い。

惜しむらくはほぼライブアルバムのような作りであること。それ自体は悪いことではないのだけれど、全曲のテンションが同じでやや間延び感もある。どの曲も手は抜いていない、気合が篭もっているのだけれど、もう少し緩急というか音のバリエーションが欲しい。これを目の前のライブで繰り広げられたら圧倒されると思うが、録音物なので飽きさせない工夫や音色のバリエーションが合っても良かった。その点が★一つ分。

ただ、単曲で聴くとどれを聴いても「おっ?なんだこれ?!」となると思う。新鮮な音像。かつ、それほど前衛的ではないので親しみやすい。曲調もメインテーマがあって後は即興的なジャズロック的なものと、ある程度かっちり作曲されていてところどころソロパートがあるプログレ的なものとに分かれる。そこに能楽、純邦楽的な囃子、音頭のリズムやタメが入ってくる。インストのジャズロックやプログレ好きにはたまらない好盤。ライブで真価を発揮する(他に夾雑物が無い状態で演奏者と向き合える)と思うのでライブを観てみたい。

あ、音程は普通に平均律でした。曲によってはフルートに近い聞こえ方。全体的にジャズロック、インストで和笛が主役なのであまり違和感なし。独特のタメやリズムがところどころに入っていて能楽感もあり。

1.変拍子物一番 08:21 ★★★★☆

能楽の笛の音、鼓の音。ベースが入ってくる。歪んではいるが中音が強め、そこまで低音がブーストしていない。高音を切り裂く笛の音。音階は12音階だな。ただ、声のようなカスレというか、倍音が多く含まれているので能楽感が強い、西欧音楽に飲み込まれていない。祭囃子のような音階。そういえば最近の祭りでかかる音頭(生演奏は減り、録音が増えている気がする)も12音階だしな。ドラムの音が鼓の音に聞こえる。普通のドラムキットのタムなのだろうか。皮をかなりピンと張ればこういう音が出るのかな。ギターも入ってきてヘヴィジャズ、ヘヴィプログレ的になるが、リフを主導するのはあくまで笛、かすれた音の和笛。変拍子も駆使したジャズロックなのだが主役が和笛なので他にない音像になっている。これはプログレ。言葉通り「プログレッシブ(進歩的)」なロック。従来のロックの領域を一歩踏み出している。こういう伝統音楽とロックやメタルの融合は好きです。ボリウッド×メタルのBloodywoodとか。モンゴル×メタルのThe HUとか。なお、これロックというか、ロックンロールではないね。リズムは祭囃子だもの。日本のダンスミュージックと言えばダンスだが、エイトビートは関係ない。「ロックンロール」はビートによって規定されるというかビートの分類だとするとそうではない。サウンドスタイルとしてはロック、ハードロックやメタルを基調としてはいるけれど。常々思うけれど、ハードロックやメタルってサウンドスタイルだから、特定のビートや楽器、音楽ジャンルを指すわけではなく、だからこそいろいろなものと融合するのだと思う。特に「メタル」は人種の制約もあまりない気もするし。基本的にどの国のシーンでもアンダーグラウンドで孤立しているから。

2.大金持ちのアカハライモリ 09:17 ★★★★

静かなアルペジオ、ロックバラード的なバッキングだが上に載るのが和笛。シンフォロック、シンフォ系のプログレ的な音像。ジェスロタルにも近いかな。フルートの響きと和笛の響きはやや似ているから。せわしなく動き回るベースライン。嵐のようなドラム。空間を埋めるギター。その上を飛び続ける和笛。ジャズロック。スリリングなインタープレイ。この曲はあまり能楽、雅楽感よりは普遍的なジャズロック、プログレの印象が強い。それこそリード楽器が和笛なだけで、曲構成は完全に70年代プログレ的。能楽特有の間とか、日本的なビート(囃子・音頭)は特に意識されない。後半、吹きまくる和笛がシンセ、キーボードソロのように聞こえてくる。

3.変拍子物二番 06:48 ★★★★☆

しかし曲のタイトルがなかなか面白い、そのまま仮題をタイトルにしてしまったような。いや、クラシック的と言えばクラシック的か。「ニ単調3番」とかのノリ。能楽の曲名ってそういえばあるのかな。題目に紐づくからこういう純粋な音楽分類的なタイトルというのはあるのだろうか。さて、その名の通り変拍子が次々と出てくる。スリリングなジャズロック。これはちょっと和笛の反復が囃子感があるな。反復というのは民族音楽、トラディショナルな音楽で重要な要素なのかもしれないな。少なくとも純邦楽はけっこう反復が重視される形式かも。音が飛び回るとキーボードソロのようにも聞こえる。いや、これいくつかの笛を使い分けているのかな。祭り囃子的な響きの時と、シンセっぽい飛び回る高音の時にちょっと音が変わっているかも、それが囃子感を強めるのかな。でも、この曲はところどころリズムの留(トメ)があってそこが和的。見栄を切るような。ィヨォーー。

4.流シキリ 08:18 ★★★★

タメを作る、能楽の舞台のような、和笛のソロに対してベースとドラムが入ってくる、やや分離しているようにベースとドラムが進みだす。和笛もそれに合わせてメロディを奏でる、着地する。行進する、ノシノシと大きなけものが進むようなベースとドラム。ドゥーム的。人間椅子的。民謡的なペンタトニックスケールのメロディ。ただ、これは和風というよりはけっこうドゥームメタル系のメロディに感じる。和笛だけが残り、テンポチェンジ。ドラムのタム回しが激化する。ベースが蠢きながら全体を支えている。ノイズ的なギター。シンセ的な和笛。カオス。

5.変幻音取リドメ 09:33 ★★★★

長尺の和笛のソロが2分ほど続き、しっかりと間を取って空間を作ってからヘヴィなドラムとベース、リフが入ってくる。クリムゾンのヌーヴォメタルというか、よりドゥームでスロウな雰囲気。そういえば日本で他にもクラシックの人が21席の精神異常者やタルカスをやっていたな。ジャズ、クラシック畑の人はプログレ好きが多いんだろうね。音楽的指向性として近いものがあるし。ロバートフリップやキースエマーソンとかはシェーンベルグとかマーラーと近い現代音楽家として歴史の中に位置づけられていくのかもしれない。吹きまくる和笛。これは吹きまくってもシンセっぽさだけでなく息遣い、かすれた感じが残るな。やはり笛の種類によるらしい。これは囃子感が強い音。ドゥーミーでヘヴィな囃子。最後も和笛のソロ、緊迫感がある。

6.十一拍子物 06:49 ★★★★

十一拍らしい。ベースが反復し、ずれてギターのコードストローク、ドラムも入ってくる、それぞれループがずれていく。マスロック。ベースは11拍でループしている。ドラムは6拍? 2回ずつ表、裏拍が変化し、4回で一巡する。途中、ドラムソロ、叩きまくる。合間合間にベースやギターが顔を出す。また元のリフ、メインテーマに戻る。完全にフォーマットはジャズ。

7.下リ端 07:00 ★★★★

ゆっくりと立ち上がってくるフレーズ。スローなフリージャズ。じっくりとしたリズムで酩酊感がある。ストーナー的。

8.シヲル彼方へ 序 01:04 ★★★☆

序曲とあるのでSE的なものかと思ったらけっこう勢いよくメインテーマを和笛が吹き、それをバンドがなぞる、派手な登場シーン、といった趣。

9.シヲル彼方へ 08:05 ★★★★★

そのままメインテーマへ、メロディが叙情的。シンフォ系のプログレっぽい。KENSOとか日本のプログレの流れか。これは能楽感はほとんどない、笛の音もフルートっぽい。西洋的、完全なるプログレ。こうして聞き比べると、メインテーマがあって中間部はソロでつないでいく、インプロが続くジャズ的な曲と、かっちりと作曲されてメロディが展開していき、ソロ部分だけ各楽器が暴れるプログレ的な曲と二パターンの顔があるんだな。これはプログレ的。テンポが性急になり、各楽器がバトルを始める。それぞれの役者がスポットが当たる、和風なパッセージが出てくる。時代劇の殺陣のような息詰まる攻防。和笛が高音のフレーズを吹いているとアンデスのフォルクローレ的でもあるな。ケーナとか。

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