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78.HR/HM黄金期(83'-90')を振り返る10曲:北欧編

世界最大の音楽市場であるアメリカのシーンでHR/HMを中心としたアリーナロックがメインストリームだった時代、83-90年。その時代をメタルを国別に振り返るシリーズ第三回目は北欧です。北欧はスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、アイスランドの5か国。ちなみにメタリカラーズ・ウルリッヒはデンマーク出身で17歳の時(1980年)にアメリカに移住しています。そう思って聞くとMetallicaには北欧メタルの要素もあるかもしれません。

いわゆる「北欧メタル」といっても、いくつか大きな流れがあります。いわゆる80年代のヨーロッパEurope)やTNTに代表される「メロディアスな透明感のあるハードロック」。もう一つはノルウェジアンブラックや北欧メロディックデスメタルといった「エクストリームメタル」。この二つは全然違う音像を持っています。独自の音楽性を持ったバンド群がいくつかのサブジャンルを形成しているので、人によって「北欧メタル」の印象が大きく異なりますが、共通しているのは「北欧メロディ」とでもいえるメロディアスな要素があること。やはりアメリカのバンド、ブルースとロックンロールが基調のバンドとはメロディセンスが違うように思います。もともと、80年代のメタルはどの地域でもメロディアスなバンドが多い(グルーヴ主体、リズム主体のメタルは90年代に一気に増加)ですが、その中でも北欧は80年代から現在まで変わらずメロディアスなバンドが多い気がします(メロデスやブラックメタルのようにボーカルラインがメロディアスとは限りませんが)。

前置きが長くなりました。北欧メタルの83年ー90年を見ていきましょう。



1.Mercyful Fate / Evil (1983)

デンマークの誇るメタルバンドMercyful Fate、ボーカルKing Diamondの特徴的な歌唱法とコープスペイント(メイク)で強烈な印象を残します。1981年結成、1983年デビュー。Metallicaラーズが大ファンで何曲もカバーしていることでも知られています。北欧メタルを語る上で欠かせないバンドです。聖飢魔Ⅱにもかなり影響を与えている気がしますね。メイクもそうですが、曲のセンスがダミアン浜田閣下に近い気がします。北欧は1970年代後半までメタル不毛の地と言われていましたが1980年代に入り、N.W.O.B.H.M.が飛び火してさまざまなバンドが生まれ始め、今ではメタルの一大拠点となっています。その最初期から活動する、北欧メタル第一世代と言えるバンド。1983年のデビュー作「Mellissa」からのナンバー。

収録アルバム 「Melissa

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2.Pretty Maids / Back to Back (1984)

こちらもデンマークから、Pretty Maids。1981年結成、1983年デビュー。メロディック・パワーメタルの源流の一つとも言えるバンドです。現在まで40年にわたって活動を続け、14枚のアルバムを制作。ボーカルのロニー・アトキンス (Ronnie Atkins)がステージ4の癌であることを公表し、現在闘病中です。疾走するメタルながら84年という時代、かつデビューアルバムにして完成度が非常に高い。最初から完成されたバンドでした。1991年、ジョン・サイクス(元Thin Lizzy、Whitesnake)の「Please Don't Leave Me」をカバーしたところ大ヒット。この曲は耳にした方も多いかもしれません。今回は90年までということでこの曲は入れず。

収録アルバム 「Red Hot and Heavy

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3.Hanoi Rocks / Underwater World (1984)

Hanoi Rocksは1980年結成、1981年デビューのフィンランドのバンドです。バッドボーイズロックンロールの先駆け的なバンドでモトリークルーとも交流がありました。勢いに乗り、いよいよ全米進出というタイミングでモトリーのボーカリスト、ヴィンス・ニーズが自動車事故を起こした時(1984年)に同乗していたドラマーのRazzleが死亡。翌1985年に解散。LAメタルのムーブメントの時に活動していれば世界的成功を収めたかもしれません。この曲のサビでWelcomt To The Jungleというフレーズがあり、ガンズアンドローゼスの同名曲に影響を与えたと言われています。

収録アルバム 「Two Steps from the Move

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4.Yngwie Malmsteen / You Don't Remember, I'll Never Forget (1986)

ギターの革命児、イングウェイ・マルムスティーン。スウェーデンのストックホルム出身で1983年に元Rainbowグラハム・ボネット率いるアルカトラス(Alcatrazz)に参加、1984年に自分のバンドRising Forceを結成しデビューします。ソロ作としては3枚目のアルバム「Trilogy」からのナンバー。ボーカルはマーク・ボールズ。北欧メタルというより「イングウェイ」としか言いようがない独自の音楽性を確立したアーティストで、ネオクラシカル路線の創始者でもあります。当人はバロックンロール(バロック音楽とロックンロールの融合)とも。特に日本で愛されたアーティストで、1992年のアルバム「Fire & Ice」はオリコン1位を取りました。

収録アルバム 「Trilogy

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5.Europe / The Final Countdown (1986)

80年代のメタルブームにおいて北欧から最も商業的成功を収めたのはこのバンド、そしてこの曲でしょう。1999年、世紀末にもこの曲が演奏されたとか。Europeは1979年結成、1983年デビューのスウェーデンのバンドです。本作は1986年の3作目「Final Countdown」からのシングル。同作は全米最高8位まで上り詰め全米のみで300万枚、世界650万枚の売り上げを記録する大ヒットとなり、シングル「ファイナル・カウントダウン」は25カ国のシングルチャートで1位を獲得(日本でもオリコン洋楽シングルチャートで1987年4月13日付の1位を獲得)、世界的な知名度を得ます。この大成功があったため、これ以降は北欧の中でもスウェーデンはアメリカ市場を意識した、USのメインストリームとある程度連動した音楽性のバンドが一定数いるように思います。ちなみにEuropeは92年に一度休止、その後再結成しますがグランジ・オルタナを通過したややダークでヘヴィな音像に変わってしまい従来からのファンからは不評。とはいえその路線を貫きながら現在も活動中。グランジオルタナというよりブルージーというか、レイドバックしたハードロック路線に今は変わっています。

収録アルバム 「The Final Countdown

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6.Treat / World Of Promises (1987)

Treatは1981年結成、1985年デビューのスウェーデンのバンドです。1stアルバムからのシングルが本国でスマッシュヒットしたこともありEuropeに次ぐバンドとして期待されました。本作はFinal Countdownの大成功を受け、本格的に全米進出を目論んで作成された曲。MTV向けに力を入れたMVも制作されています。時代を感じる映像ですね。残念ながら期待されたほどの商業的成功は得られず1993年に解散するも2006年から活動再開し現在も活動中。メロディアス・ハード路線の北欧メタルだとEuropeTNTに次いで名前が出てくるバンドです。

収録アルバム 「Dreamhunter

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7.Candlemass / The Well of Souls (1987)

Candlemassはスウェーデンのドゥームメタルバンドで、1984年結成、1986年デビュー。ドゥームメタルの源流の一つともされるバンドです。独特の悪魔的、暗黒的な音像で、初期ブラックサバスを進化させたような音像。とはいえそこまでスロウでヘヴィというわけではなく溌剌とした80年代メタル感もしっかりあります。1曲目で紹介したMercyful Fateとも連続性を感じたり。このアルバムのカヴァーはハドソン・リヴァー派を代表する巨匠トマス・コールによる連作『人生の航路』の最終作品「老年期」だそう。音像にあった印象的なジャケットです。スウェーデンのメタルシーンに与えた影響は大きく、スウェーデンのグラミー賞を受賞している他、2013年には「スウェーデンで最も偉大なHR/HMバンド」に選出されています。

収録アルバム 「Nightfall

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8.Bathory / Equimanthorn (1987)

商業的成功とは無縁ながら、北欧メタルを語る時にこのバンドは避けて通れません。Bathory(バソリー)はスウェーデンのエクストリームメタルバンドでブラックメタルの祖の一つ。1984年から活動を開始。1982年のVenom(UK)の「Black Metal」から進化し、その後の北欧ブラックメタルの形、フォーマットをほぼ完成させています。バンドというよりマルチプレイヤーのクォーソン (1966 - 2004)の一人プロジェクトという色合いが強く、ブラックメタルが一人プロジェクトが多いところもこの影響か。「一人でもこういう音楽が生み出せるんだ」というところがイノベーションだったのだと思います。以前、メタルのトレンドを追った記事で書いたように1995年以降、メタルの音像的なトレンドは一貫して「ブラックメタル」が一番多い。そのフォーマットを完成させた、メタル史に多大な影響を与えた伝説的なバンドです。このアルバムの後はバイキングをテーマにしたバイキング・メタルの方向に進み始め、北欧神話やバイキングをテーマにした一群の作品を生み出します。その流れも今の北欧メタルに大きな影響を与えています。

収録アルバム 「Under the Sign of the Black Mark

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9.TNT / Tonight I'm Falling (1989)

さて、メロハー路線に復帰。Europeほどではないにせよ、商業的成功を収めたメロディックハードのもう一つの雄、TNT。ノルウェー出身で1982年結成、1983年デビュー。2代目ボーカルのトニー・ハーネルがアメリカ人ということもありアメリカ進出に熱心でしたが、アメリカでの成功は結局つかめず。代表作とされる本作も全米115位止まりでした。ただ、日本での人気は絶大なものがあり、この時期に来日公演も実現、渋谷公会堂などでライブを行っています。本国でも人気が出て、ノルウェーのグラミー賞的なSpellemannspris Awardを1988年に受賞。80年代の北欧メタルと言えばこの1曲を思い浮かべる方も多いでしょう。私にとっての「メロディックハード路線の北欧メタル」を印象付けた1曲。

収録アルバム 「Intuition

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10.Entombed / Left Hand Path (1990)

Entombed(エントゥームド)はスウェーデンのデスメタルバンドで、スウェーデンのデスメタルシーンの創成期に多大な影響を与えました。1987年結成(1989年にEntombedに改名)、1990年デビュー。北欧デスメタルのサウンドを同時代のDismenber(ディスメンバー、1988結成、1991デビュー)と共に確立したバンドと言われています。USのスラッシュメタルから進化、複雑化したUSのDeathとは違い、より直情的な疾走、Motorhead的な暴走ロックンロールからの激化が特徴。この後のアルバムではさらにその傾向を強め、デス・エン・ロール(Death 'N' Roll)とも呼ばれるスタイルを確立。ドラマーのニッケ・アンダーソンは脱退後、The Hellacopters(ヘラコプターズ)を結成し、暴走ロックンロール路線を追求していきます。北欧デスメタルのサウンドを確立するとともに、北欧暴走ロックンロール系のメタルの源流ともなったバンド。90年代の北欧メタルシーンの幕開けとして、今回のリストは最後にこの曲で締めくくります。

収録アルバム 「Left Hand Path

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以上、北欧メタルの10曲でした。北欧と言えば2000年代以降はメタルの一大発信地として大きく発展する地域ですが、80年代はまだ萌芽期。さまざまなジャンルが生まれていく時代です。正統派メタル、パワーメタル、メロディックハード、ドゥームメタル、ブラックメタル、デスメタルなど、多様なサブジャンルの源流ともいえるバンドを紹介しました。

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社会背景、というと国によって大きく異なりますが、フィンランドは北欧の中でも立ち位置が特殊で、第二次大戦ではドイツと同盟国(つまり日本とも同盟国)でした。だから、敗戦国である。ソ連と国境を接し、ソ連と領土争いがあったのでそれに対抗するためにドイツと手を結ばざるを得なかった。とはいえ明確に敗戦したわけでもなく、国民軍の活躍もあってソ連の侵攻は許さなかった。だから大戦終結後、フィンランドだけは西側諸国に組み入れられず、かといって共産主義にも組み込まれず、中立の立場を保ちます。とはいえソ連の影響を強く受けざるを得ない立地にあり、ソ連との交易が盛んになった。それゆえ、逆に冷戦終結でソ連が崩壊した時には政治的な自由を得るものの経済的には大きなダメージを受けます。

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北欧の国々はもともと独立独歩の精神が強く、フィンランド以外の国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク)はユーロにも加入していません。EUには参加していますが通貨は独自。ちょっとアイスランドは特殊というか人口が少ないので割愛。フィンランドは冷戦終結による経済的ダメージが大きかったのでユーロ圏に参加しました。「北欧」といっても国ごとにかなり違いがあり、スタンスや歴史も違います。ただ、全体的に北欧諸国は90年代を通して発展していきました。福祉国家戦略が成功し、経済的にも成長した。だから、それほど内省的になったり、過去の否定や自省をするというよりは変化や成長といったものがあるから次々と新しいものが生まれていくシーン、場所になったのかもしれません。とはいえ、北欧はそもそも田舎なので、やはり田舎特有の閉そく感とか若者のフラストレーションみたいなものは前提としてあるようですが。冬は長くて暗いし。

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なお、スウェーデンはノーベル賞であったり、あるいはABBAに代表されるポピュラー音楽など、世界に発信することが多い国です。だからEuropeも世界的成功を収めた(そういうルートがあった)のでしょうし、今もアメリカのチャートを意識するような動きがあるのでしょう。

逆にノルウェー、フィンランドは独自性の追求に重きを置いている気がします。デンマークも、スウェーデン程ではない。まぁ、デンマークの場合はドイツが近いのでそちらの影響も受けていますが、アメリカからの影響はそれほど感じません。スウェーデンが一番アメリカやイギリスを意識している、音像も洗練されている印象です。ノルウェーのTNTやフィンランドのHanoi Rocksが大ヒットしていればまた違ったのでしょうが、本当の意味で全米制覇した北欧のメタルバンドはEuropeしかいません。そこそこの成功、という意味だとフィンランドだとNightwish、デンマークはVolbeat、ノルウェーだとDimmu Borgirでしょうか。ただ、どれも米国よりは欧州、ドイツやスイスなどヨーロッパ大陸の方が主戦場の印象です。米国ではスマッシュヒットというか。スウェーデンのレコードレーベルは英米市場に対するパイプが強いんですかね。だんだん、webの発達で世界中のどこからでもヒットが生まれるようにはなっていますが、やはりレーベル間のネットワークや販路の有無の影響は大きい。たとえばアラブ圏の音楽はメジャーレーベルの拠点はドバイに集中しており、ドバイから遠い地域だとなかなかメジャーレーベルとの契約に結び付かなかった。最近はメジャー(ユニバーサル)がモロッコにオフィスを出した、というニュースもありましたが、そのように地理的な影響によってレーベルのプッシュが得られるかどうかには差があるようです。だからHanoi Rocksはフィンランドでは埒が明かずLAに拠点を移して活動しようとしていたし、TNTもノルウェーではなくスウェーデンのバンドだったらまた違ったかも。そういったことを考えるのも面白いものです。

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さて、いよいよ明日は最終日、欧州メタルの中心地ドイツです。それでは良いミュージックライフを。

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