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Zamla Mammaz Manna ‎/ Familjesprickor

1980年作。サムラ・ママス・マンナ(Samla Mammas Manna)のアルバム。大雑把に言えば70年代に活躍したスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンドで、フランク・ザッパやカンタベリーロックとの共通点を指摘されるバンドです。日本人ドラマーの吉田達也氏が参加したことで一部界隈では有名。演奏技術に裏打ちされた唐突感のある展開の曲に、北欧らしい叙情的なメロディが組み合わさった不思議な音像。いくつか変名でアルバムを出していて、こちらは「Zamla Mammaz Manna」名義の『家庭のひび割れ』 - Familjesprickor。より詳しくはWikiをどうぞ。


1.Fem Holmgångar = Five Single Combats 6:00
変拍子と手拍子、さまざまな音像が絡み合う、Zappa的といえばそうだが、Zappaに比べるとコミカルさは少なく、きちんと音楽的には成り立っている。ジャズ・ロックの範疇というか。駆け足でさまざまな楽器が出てくる協奏曲的な。クラシック曲のモチーフもところどころに出てくる。ややジェントル・ジャイアント的な部分もあり。歌はなし。途中、テープループのような人の声。人力による反復、人力ミニマル・ミュージックとプログレ、ジャズ・ロック的なものを組み合わせてとにかくへんちくりんな音像になっているが音楽的な娯楽度は比較的高い。きちんとテンポは一定で、キーも持続しているから「曲」としての体裁は感じる。アリスのティーパーティーのトンチキ騒ぎを音楽で表したような。ピアノの音がちょっと高貴さを出していて面白い。
★★★★

2.Ventilationskalkyl = Ventilation Calculation 5:10
前の曲から間髪入れずに次の曲に、というか、曲が変わったことに気が付かないぐらいの連続性。ほぼ組曲。構造や組み合わせはかなり奇妙で唐突だが、一つ一つのパートやフレーズやけっこう王道的なプログレというか、北欧プログレらしい叙情性がある。この曲は途中からかなり叙情性が強まってきた。曲の表情がコロコロ変わらず、一つのメロディが展開する。ひかくてき叙情的な曲。
★★★★

3.Smedjan = The Forge 5:15
今度は金属音が出てきた。シーンが変わったのがわかるが、前の曲からは連続している。面白い音像、ミニマルで繰り返すフレーズが迫力があるが、どこか人懐っこいメロディもある。Kaipaやフラワーキングスのような北欧メロディというか。そこまで暗鬱さはなく、夢見るようなメロディ。途中からきしんだサーカスの音楽のようなパートが出てくる。そこからまた冒頭の、金属的なパートへ。なんというか蒸気世界のSFアニメのサントラのような音楽。BGMにしては饒舌すぎるが。架空のゲーム・ミュージック。
★★★★☆

4.Trälen = The Thrall 5:10
息を飲むような、しゃっくりのような、引っかかるような歌声、人の声と断絶的に響くいくつかのフレーズ。楽曲というより音の組み合わせ的なかなり前衛的なシーンが続く。実験的。ミニマルなフレーズの反復はクラウト・ロックの影響なのだろうか。得体が知れないシーンが続く曲、インタールード的なものか。フェードアウト。
★★☆

5.Den Flämtande Novellen = The Panting Short Story 4:05
おそらくLPだとここからB面。ギターソロがフェードインしてくる。ギターフレーズが絡み合う、手数の多いアルペジオ、クラシカルなギターフレーズ。ギターがけっこう叙情的なメロディを奏でるのが面白い。変拍子や複雑な構成、クリムゾンやザッパのような雰囲気なのだけれど、ギターや各楽器のメロディが叙情的で人懐っこい感じが面白い。歌心がある、というか。
★★★☆

6.Pappa Med Vetorätt = Pappa (With Right Of Veto) 4:30
原始的な、雄叫びのような声が入る曲。面白いなこれ! イタリアンプログレのOSANNNA的な、土着的、呪術的なものも感じる。ギターソロがサンタナ的。ラテンで粘り気があるということ。どうして北欧からこういうのが生まれるんだろう。狂乱が収まり、終わったかと思ったら、落ち着いた中で雄叫びは続く。なんとなく和的なものも感じる。ペンタトニック・スケールが祭ばやしを想起させるのかな。
★★★★☆


7.Drängen = The Farmhand 7:45
急に落ち着いて洗練された、おしゃれな雰囲気のベースライン。澄ました顔してパリ(いや、スウェーデンのバンドだからオスロか)を歩いているような。叙情的な感じのまま曲が進む。得体のしれない掛け声が入ってくる。中年男性がハミングしているような。変な音世界。優雅なんだかふざけているのだかわからない。ワルツ的なリズムのパートを経る。アリスのティーパーティー、つまり優雅だけれど奇妙で狂乱的。途中から女声で土着的なメロディが出てくる。そしてミニマルな人力ピアノフレーズの反復へ。この場面展開はうまい。ちょっとエスニック、中華的なフレーズが出てくる。
★★★★☆

8.Kärna I Kort Och Lång Rockad = Kernel In Short And Long Castling 5:50
スーパーマリオの地底面のような、うごめく感じのフレーズ。マリオよりこちらが先。面白いなこれ。ちなみにファミコンは1984年だから、ゲーム・ミュージックというのはこのときはかなりマニアックで、一般的ではない。フュージョンのようなごきげんなフレーズが出てきて、ザッパ的なギターソロ。
★★★☆

総合評価
★★★★
すごい、前半と後半で雰囲気が違う、前半はプログレ的な組曲だが、後半はさらに音楽的に拡張されていてさまざまな音楽要素を取り込んで力技で1曲にしている。Igorrrのアルバムにも近いが、あれを人力でやっているのが恐ろしい。もちろん、人力なのでIgorrrほどめちゃくちゃな場面展開はないが、40年前(!)と考えると驚嘆する。シンセもあったけれど、そこまでまだ普及していないし、これはほとんど人力でしょう。どうしてこうなった。分解・還元できない素敵な音楽。

ヒアリング環境
夕方・家・ヘッドホン

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