U.D.O. / Game Over
ジャーマン・メタルの大御所、UDOの3年ぶり、17作目のアルバム。スコーピオンズと並ぶジャーマンメタルの源流とも言えるAcceptを脱退後、ボーカルのウド・ダークシュナイダーが結成したUDO。もはやAccept時代よりもUDO時代の方がダークシュナイダーは長くなったわけですが、一時期はヘヴィ&ダーク路線に変更したりしていたものの近作ではパワーを取り戻していると評判です。今年はDIRKSCHNEIDER & THE OLD GANG名義で、Acceptを脱退したピーターバルテスやステファンカウスマンといった元Accept組とデビューEPを出したのも話題になりました。こちらがバルテスが抜けてしまったAcceptよりAcceptらしい内容だったのがまた。そんなこともあって期待が高まっていたUDOの新譜が出たので聞いてみましょう。ちなみにウド・ダークシュナイダーはジャンプで連載されていたバスタード(暗黒の破壊神)の主人公の元ネタになった人ですが、ブルドッグみたいな人相をしていてあだ名は「軍曹」です。まさに鬼軍曹。メガデスのデイブ・ムステインは「大佐」と呼ばれていますが、確かに士官上がりか現場たたき上げかの差はありますね。もっともウドの方が将軍のような風格があるといえばありますが。
UDOはダークシュナイダーのソロバンドに近いのでメンバーチェンジが激しいですが、本作はギターの片割れとべースが新しいメンバーに。新しいメンバーとどんな化学反応を起こしているか楽しみです。Rageはメンバーチェンジでスケールアップしましたからね。UDOはどうでしょう。16曲入り、68分の大作。聴いてみます。
活動国:ドイツ
ジャンル:パワーメタル、ハードロック
活動年:1987–1992、1996–
リリース:2021年10月22日
メンバー:
Udo Dirkschneider – vocals (1987–1992,1996–present)
Andrey Smirnov – guitars (2013–present)
Sven Dirkschneider – drums (2015–present)
Tilen Hudrap – bass (2018–present)
Dee Dammers – guitars (2018–present)
総合評価 ★★★★☆
フレッシュ! ウドは今年70歳だが、他のメンバーは20代、一番年上でも35歳だそうで、ロシアやスロベニアなど多様なメンバー。世代が違う、国も違うアーティストたちの才能が結集していて、ギタリスト一人はロシア出身、もう一人はヘアメタルに影響を受けている、とインタビューにあったがまさにその通りの音。UDOの伝統であるジャーマンメタル感は軸にあるのだけれど、どこかヘアメタル的、80年代メタルの華やかなギタープレイであったり、あるいは北欧とドイツの両方を感じさせるメロディセンスであったり(それがロシアからもたらされたものだろう)、バラエティがある。ややJudas Priestっぽい曲があるのも昔から変わらず。ただ、Acceptの新作より楽しめた。シングル曲でリリースされた前半より、7曲目以降、ある程度バラエティが出てくる中~後半が良い。どの曲にもフックのある、流れるようなメロディがあり、「今のメタル」を聴くと音圧や迫力に欠ける部分があるが、AC/DCのようなハードロックを求めて聴くなら素晴らしい名盤。もうちょっとスリリングで疾走感がある方が個人的には好みだけれど、これだけ長尺のアルバムながら飽きさせず最後まで聞かせきる力は凄いし、17作目にしてこれだけ新機軸が出せるというのは、メンバーの世代交代がうまくいった好例だと思う。
1 Fear Detector 4:20 ★★★★
ギターメロディから、大仰なイントロではなくシンプルに切り込んでくる。おお、これだけの大作なのに硬派だな。UDOらしい、硬派な作り。今の耳で聴くとメタルというよりハードロック、そこまで音圧やアグレッションはないが、軽快さと安定感のあるリズム。独特のボーカルはやや衰えたものの健在。スコーピオンズとボーカルスタイルは対極(クラウスマイネは美しいハイトーンで、ウドダークシュナイダーはしわがれた金切り声)だけれど、リフとかかっちりしたノリ、横ノリの感覚は通じるものがある。Acceptの近作でも感じたが、むしろ80年代、それも80年代前半に回帰しつつあるのだろうか。
2 Holy Invaders 3:26 ★★★★☆
ミドルテンポ、より横ノリが強調される。フォーメーションでフライングVを二人のギタリストが揺らしそうなリズム。このリズム感はジャーマンメタル的というか、何かしら元型なのだろう。ピッキングハーモニクスも交えたリフ。全体的にベテランだけれどフレッシュな感覚があるのはメンバーが若いからだろう。ちょっとエスニックなフレーズも取り混ぜ、じっくり来る。派手さ、モダンメタルのようなアグレッションはないがしっかりした曲構成を持った佳曲。
3 Prophecy 4:41 ★★★★
MVも作られている曲、リードトラックらしくメロディアス。比較的ミドルテンポでメロディが展開していく。これはUKメタル感があるな、Judas PriestやIRON MAIDEN感も少しある。リフの感じとリズムパターンがそう感じさせるのだろう。UDOは何気に良いギタリストを育成していて、今ビーストインブラックで活躍しているカスペリ・ヘイッネキンも元UDO。今のギタリスト2名もいいリードやリフを書く。
4 Empty Eyes 3:52 ★★★★
ややグルーヴィーなリフ、だが、90年代的なグランジ感は薄く、あくまでハードロック的。80年代的。そうか、このあたりのサウンドを作り上げた世代だからな。やはり回帰していくのか。もうちょっとヘヴィな音作りでもいい気はするのだが(曲構成はこのままで)。ギターリフとボーカルが絡み合う、コーラスはあまりボーカルはメロディがなく、ギターリフがメロディを奏でる。けっこうギターソロは華やかな感じ。後半に向けてだんだんテンションが高まる。
5 I See Red 3:16 ★★★☆
軽快なリズム、前の曲がやや緊迫感が強かったがこちらは比べると軽快な疾走感がある。シンプルなリフと構造の曲。こういう曲でも成り立たせるのはボーカルの説得力もあるな。あと、演奏がタイト。シンプルだが無駄がない。
6 Metal Never Dies 5:05 ★★★★
ミドルテンポの曲、シンガロングなコーラスからスタート。メロディアスだが、これこそJudas Priestっぽいなぁ。もともとPainkillerが出たらTime Bombを出したり、と近づきたがる癖があったけれど。確かに金切り声系だからスタイルに合うといえば合うのだろうな。もうちょっとテンポアップしてもいい気がするが。重戦車のような迫力もないし、サウンドが惜しい。こういう曲ならもっとどっしりしたサウンドの方がいい気はする。
7 Kids And Guns 4:07 ★★★★
けっこうきらびやかなリフ。ヘアメタル的だな。まぁ、80年代メタル感。派手になったAC/DCとも言える。これはあまりUDO感はない、というか、バッドボーイズロックンロールみたいなノリだが、曲としてはサマになっている。まぁ、もともとLondon Leatherboysとか、まさに「バッドボーイズロックンロール」をやっていたしな。70年代デビュー組だから、ハードロックからヘヴィメタルに変化する時期に出てきたバンド、なので、ルーツはハードロックだし、全楽曲を見てみればハードロックとかロックンロール然とした曲が多く、モダンメタル的なアグレッション強めの曲がむしろ少数派。ああ、Gunsとある通り、LA Gunsみたいな感じもあるな。
8 Like A Beast 5:03 ★★★★☆
ちょっとレトロ(90年代的)な電話音から。会話の寸劇が入り、ややアップテンポな曲がスタート。とはいえアグレッションは控えめ。音はそれほどアグレッションが強くないが、メロディはジャーマンメタル然としていて良い感じ。これは持ち味が出ている。UDOならでは、ジャーマンメタルならでは、の曲。かっちり、理路整然としたリフも心地よい。
9 Don't Wanna Say Goodbye 4:13 ★★★☆
アコギのフレーズ、ピアノの音、アコースティックバラードだろうか。しわがれた声が入ってくる。こういうだみ声ボーカルのバラードは時々入ってくるとなかなか沁みる。モーターヘッドのバスタードに入っている「Don’t let Daddy Kiss Me」も沁みた。しかし地声だとウドの方がレミーよりクリアな声をしているな。まぁ、似たり寄ったりといえば似たり寄ったりか。微妙なメロディだなぁと思っていたら大サビが出てきて盛り返した。
10 Unbroken 3:13 ★★★★☆
バラードを挟んで緩急がついた。ハキハキした、ギターメロディが切り込んでくる曲。ややウドのボーカルは衰えも感じるが、存在感を放っている。これも”らしい”曲。流れるようなメロディがある。ちょっとギターフレーズに80’sヘアメタル感もあるものの、歌メロの流麗さはジャーマン的。欧州音楽、いわゆる「クラシック音楽」の本場(クラシックの中心地はフランス・ドイツ)だけあって、こういうメロディを作らせたらうまい。
11 Marching Tank 5:06 ★★★★
ミドルテンポで、あまり派手さのないリフだが手堅く雰囲気を作ってくる。マーチング、とあるが、軍隊の進軍的。ただ、音は軽めというかだいぶ整理されているので小隊ぐらいだが。ちょっとSabatonとか、ああいう感じかな。ジャーマンメタルに影響を受けたスウェーデンのメタルバンドに音像を寄せてみた、みたいな。もともとオリジネイターなのでさすがサマになる。歌メロは良いけれど、ちょっと冗長かな。Sabatonが面白いのは大仰にできるところをスパッと3分台とかでまとめる、編集しきる力であり、飽きさせない曲展開ができるところ。こちらはもっとじっくり聞かせてくれる。
12 Thunder Road 4:04 ★★★★☆
やや凄味がある音作り、コーラスの音が濃くなってきたのか。ギターリフの刻みと音程移動も強まってきた。うん、この曲はコーラスが分厚いな。ギターソロも独特。このギタリストはロシア人なのか。ロシア的なメロディ、といえばそうかも。もともとロシアのメタルバンドはジャーマンメタルに一番近いところがあるが、少しメロディセンスは違う。
13 Midnight Stranger 5:29 ★★★★☆
後半になるにつれて盛り上がってきた。なんだろう、特に音が派手になったわけでもないのだけれどテンションが上がってきたというか。やはりライブ感で、バンドが暖まってくる、聞いているこちらもサウンドやグルーヴに慣れてくる、いいメタルアルバムというのは聞いているうちに盛り上がる、ライブ体験のような高揚感がある。メタルやロック以外の音楽、ライブを前提としない音楽もあるからすべてのジャンルがそうではないけれど。この曲はメロディセンスが良い。流れるようなメロディがある。
14 Speed Seeker 4:34 ★★★★
ミドルテンポで地響きのようなベース音。そうだ、ベースの音が意図的に薄い曲があったな。12とかはベースがかなり高音のフレーズを弾いていた気もする。アルバムの中の緩急で一部、音域を抜いたりして流れを作っているのだろうか。曲のタイトルのようなスピードのある疾走曲ではなく、AC/DC的な、ミドルテンポの曲。そもそも疾走するバンドでもない。ただ、メロディの質は良い。こうしたミドルテンポのハードロックンロールとしては一流品。佳曲が並んでいる。
15 Time Control 4:15 ★★★★☆
ミドルテンポだが、音の壁が厚い、音圧が増してきた。おお、コーラスと低音が増している。このあたり、ライブラストになるにつれて音量、音圧を上げるのは意図的にやっているな。まさにライブ感がある。クライマックス感がある曲。
16 Metal Damnation 4:02 ★★★★☆
これぞトラディショナルヘヴィメタル、という感じのパワーコードをブリッジミュートした刻みリフ、マイケルシェンカー的というか、ジャーマンメタルだよね。Judas Priest感もある。Metal、と連呼するとMetal Meltdownを連想するから、というのもあるけれど。
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