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週間プレイリスト 2022/8/26

せぷてんばぁ、秋ですね。夏の終わりの風が灼けた肌をなでるこの頃、どんな音楽をお聞きでしょうか。

「ポップミュージックの歴史は抑圧との戦いの歴史」である、みたいな言説をいくつか見かけました。それは僕も思っていて、押し殺した気持ちとかあるいはマイノリティの気持ちとか、なかなか日常生活でスポットライトが当たらないものに光を当てる力が歌にはあると思っています。ただ、別にそれだけではない。音楽は、より広く言うと「非日常を描くもの」という側面が強い。あらゆる芸術はそうかもしれませんが。

ヘヴィメタルという音楽は「非日常」、それも「超常現象」や「超人」を扱うことが多い音楽です。これは成立年代ともかかわっていると思っていて、初期ヘヴィメタルが確立していった1970年代って、日本は大オカルトブームでした。それは日本だけでなく、多かれ少なかれ西欧諸国でもブームであった。ヘヴィメタルの歌詞世界ってオカルト、SF、超常現象、そしてファンタジックなヒーローのモチーフが多い。オカルトの流行には資本主義社会の発展に伴う代替的な価値体系の模索という社会的背景が語られることもありますが、同時にたとえば特撮映画の特撮技術の発展とか、ヘヴィメタルの流行とか、オカルト的な表現がコンテンツにも浸透したこともよりそれを強化したように思います。アンダーグラウンドでちょっと目新しい、なんとなく「イケてるもの」として神秘、オカルトが出てきて、それがコンテンツ業界でイメージの拡大再生産をされ、さらにブームを生んでいった。

対してパンクやハードコアはその次というか、そうした超日常ではなく日常の理不尽や不満をぶちまける、ぶち壊す内容でした。だから、乱暴に言ってしまうとヘヴィメタルは現実を超えようとして、ハードコアは現実を変えようとする。先の「抑圧との闘いの歴史」はハードコア文脈な気がします。

そもそも、音楽というのはそれぞれ機能があります。「瞑想のための音楽」「(軍隊の行進のための)軍楽」「高揚のための儀式曲」など、用途に合わせて進化してきた。それは音楽には人の心を動かす、感情を想起させる力があるからです。たとえば、スターウォーズのBGMが全部笑点だったら迫力は半減する、というか、コントに見えるでしょう。

「メタル」というキーワードからイメージの海でAIが生成したもの

「メタル」と名がつく音楽は、基本的に大げさです。映画音楽で言えば大作特撮映画的というか、「笑いと涙のラブコメディ」「ペーソスあふれる人情ドラマ」ではほとんどBGMに出てこない。まぁ、出てきてもいいんですがベースにはなりません。メタルがBGMに合うのはやはりSFやファンタジー警察特撮ものでしょう。非現実的で大袈裟な話。基本的には高揚する、ド派手な音像。音圧も高いしいろいろな音が入っているし演奏も弾きまくる、叫ぶ、激しい、など。で、その中で描かれるコンセプトは「超自然」や「超人」「超現実」「超古代」など、「超」が付くようなものが多い気がします。

で、このあたりの文化はやっぱりUK、そしてヨーロッパが盛んな気がします。メタルはグラミーとかの賞レースは弱いし、ロックンロールの殿堂にもあまり入らない、と言われますが、あれUSの賞ですから。USではあんまりこうした「超○○なもの」が今(というか90年代以降)は流行っていないんでしょう。もっとハードコア的なテーマ、価値観、バンドが好まれているように思います。「現実に対してものをいい、変革しようと行動する」ことが正義とされる。映画だとマーベルやスターウォーズとか、Netflixでも特撮ものが流行っているので、そのあたりから再度メタルが再評価される流れも起きているようですが80年代リバイバルに留まっており、新世代の超人的USメタルバンドはまだ生まれていないですね。そろそろ「2020年代のMetallica」が生まれてきてもおかしくないけれど。

僕は個人的には「超○○なもの」が好きです。ベテランのメタルミュージシャン、たとえばオジーオズボーンやジューダスプリーストやアイアンメイデン、そして亡くなってしまったけれどモーターヘッドのレミーやディオが尊敬され、神格化されているのは、彼らはあの年齢でヘヴィメタルを演奏しつづけることによってまさに「超人」を体現しているから、ということもあるのだろうと気が付きました。70歳でヘヴィメタルをシャウトするんですよ。周りにそんな人いないですよね。ヘヴィメタルが描いてきた「超人」像に、期せずしてベテランたちは近づいていくという。20年、30年とメタルを続けていくと、多かれ少なかれ超人化していくように思います。だって、メタルを演奏できる肉体と精神を40代、50代、60代で維持するって大変なことですよ。

夏の終わり、ちょっとアンニュイな今週はベテランアーティスト(達人~超人たち)が奏でるメタルを聞いて元気をもらおうと思います。基本的にメタル系のみ。国籍はヨーロッパが多め。それではどうぞ。

TIDAL

Machine Head / ØF KINGDØM AND CRØWN

US、カリフォルニア州オークランドのグルーヴメタルのパイオニア、マシーンヘッドの新譜。1991年結成で1994年、カートコバーンが死んだ年にデビュー。グランジ後のNuMetalの初期メンバーですね。爆発的な成功を収めたことはありませんが(だいたいUSのセールスは各アルバム10万~15万枚程度)、それ故にかずっと安定した人気とリリースペースを保っているバンド。こういうバンドは「安定の老舗」感で好きです。本作は日本の漫画「進撃の巨人」にインスパイアされた作品とのこと。「空が真っ赤に染まっている、荒廃した近未来の荒れ地を舞台に、親しい人を失い、その結果、殺戮に走るアレスとエロスという2人のライバルが主人公のコンセプト・アルバム」「アルバムのコンセプトは、物語の中では、善人も悪人も存在しないという意味で、この(『進撃の巨人)シリーズに少し触発されているんだ。どちらのキャラクターも自分にとって正しいことをしていると信じている。しかし、どちらも純粋に残虐で邪悪な行為を行っていることに間違いないんだ」だそう。ドラマティックでメロディアスなパートと劇的に疾走するパートが織りなされる作風。緩急のつけ方とリフが切り込んでくる鋭さ、激走パートの疾走感はさすがの達人芸です。


Muse / Will Of The People

UKのプログレッシブハードポップロックトリオ、ミューズの新譜。初期はコード展開や音響にUSのグランジ、オルタナティブに共鳴したところもありましたがだんだんUK色、英国のひねくれ感がまっすぐ出るようになってきて本作なんか「どこからどう聞いてもUK」な出来に。Queenみたいに大げさでXTCみたいにひねくれている。Coldplayももっとひねくれればいいのになぁ。いろいろ屈折していそうなのに。本作は英国音楽好きには堪らない1枚。裏声を使わせたらMuseとThe Darknessは天下一品。次のメロディ展開が読めなくて驚きがあります。


Grave Digger / Symbol Of Eternity

継続は力なり。1980年結成で40年以上の歴史を持つグレイヴディガーの新譜。40年って0歳が40歳になるわけですよ。ずっとB級のまま突き進みつつ、Running WildとかGrave Diggerあたりの大御所はやっぱりそれなりにオーラを纏ってきた気がします。プロダクションもだんだん良好になってきたし、ドラムパターンもちょっとは緩急がついてきたし。同じ型の中で成長していく、達人化している気がします。80年代に一度、USのメタルブームに乗ろうとして失敗、解散しているんですよね。この辺りはAcceptとほぼ同じ構図。USに色気を出さず、欧州メタルシーンにしっかりと回帰してからは安定して活動を積み重ねています。ヘヴィメタルはヨーロッパの文化。


Ted Morose / March Of The Obsequious

1990年代から活動するスウェーデンのパワーメタルバンド、タッドモローズの新作。なんだかUSパワーメタル感がある不思議な音。北欧なのに。プログレッシブな要素もあるパワーメタルで曲構成が複雑ながら、難解さはあまりなくダークかつごシックな力強さが一貫しています。マーシフルフェイトとクィーンズライクを混ぜたような感じ。もっと知られる/聴かれるべきいいバンドだと思いました。掘り出し物。


Iron Savior / Reforged - Ironbound

ハロウィンの創設者、カイハンセンが最初にバンドを始めたのはピートシールクとでした。その二人が、カイハンセンがハロウィン脱退後に改めて組んだバンドがこのアイアンセイヴァー。いわば原点回帰。カイはガンマレイに専念するため脱退してしまいますが、確かにガンマレイとかなり近しい音楽性のバンドがずっと続いています。たとえるなら無印良品のジャーマンパワーメタルというか、ふりかけのない白ご飯のようなオーソドックスなスタイル。突出したものはありませんが主食足りえるうまみがあります。これは過去曲の新録ベスト盤で2枚組。ツアーでれない間ひたすら昔の曲をレコーディングしてたのね。ツアーレパートリーもさび付かないし、一石二鳥ですね。ベスト盤ですが、新録ということで今の音なので新譜として紹介。


Santa Cruz / The Return Of The Kings

フィンランドのスリージーメタル、80年代メタルリバイバルバンド、サンタクルーズのアルバム。華やかな中にもちょっと土臭さがあるのが面白いですね。だけどフィンランドという。今はアメリカに引っ越しているようですが。メンバー内ではいろいろあり、ボーカル以外が全員抜けて、心機一転やりなおしたもののまたボーカル以外脱退、メンバー1新してリリースされた再起をかける勝負作。聞いていくと北欧らしい哀愁も出てきてなかなか個人的なツボを押された1枚です。


Lacrimas Profundere / How to Shroud Yourself with Night

ドイツのゴシックメタルバンド、ラクリマス・プロンデレ(ラテン語で「涙を流す」の意味)。1990年代前半から活動する歴史の長いバンドで、残っている創設メンバーはギタリストのみながら、今のラインナップでの2枚目ということでラインナップも安定感が出てきています。グロウルを織り交ぜたメロディアスで耽美な世界。パラダイスロストとかに近い。大仰でドラマティックな音世界。


Sigh / Shiki

日本のプログレッシブブラック/フォークメタルバンド、サイの新譜。中心人物は川嶋未来(Vo,Key,Flute等)で、ロードオブケイオスで露わにされたブラックメタルの血塗られた殿堂、ユーロニモスのデスライク・サイレンス・プロダクションからデビューアルバムをリリースしたという伝説が独り歩きしている気もしますが、その後も海外レーベルを渡り歩き、世界で勝負し続けている日本人アーティスト。やはり「世界で勝負できる音」を鳴らしています。本作はボーカルは日本語(今までは英語詩中心)で、和的なモチーフが使われているのでやや人間椅子的なところもありますが、バッキングはブラックメタルの語法でカオスな音像が積み上げられていく。唯一無二の音像。ボーカルは日本語の影響もあるのかジャパニーズハードコア的な歌唱法。日本に限らずアジア的なモチーフが出てきます。


Long Distance Calling / Eraser

ドイツのインストバンド、ロングディスタンスコーリング。どうもまだ日本ではストリーミング未解禁のようでApple MusicとSpotifyにはありません。TIDALのみ。ポストロック、ポストメタルと呼ばれるサウンドで、バンドアンサンブルで聞かせるインストミュージック、という感じ。どれか一つの楽器だけがリードをとるわけではなくアンサンブルで聞かせるところが肝。これはメタルバンドの楽器隊のせめぎあい、リフのせめぎあいに近いですね。ソロバトルではなく、あくまでアンサンブル、楽曲で緩急がついていく。プログレッシブロックの現在形の一つ。


Dreadnought / The Endless

USの男女混交プログレメタルバンド、ドレッドノウト。本作が5作目。静かに続いていくのかと思いきや慟哭のようなグロウルが出てくるなど、音の振れ幅が結構大きい。旧来のプログレッシブロック、ポンプロック的な音からブラックメタル的な音像までシームレスにつながっていきます。2010年代のバンドらしいさまざまな音楽を並列で聞いてきたのであろうナチュラルなミクスチャー感覚。


Conjurer / Páthos

UKの新世代メタルバンド、コンジャラ(「魔術師」の意味)。メタルの中にはアートロックの流れがあって、いわば純芸術を目指すというか、「芸術的な完成度を求める」一派がいます。「ヘヴィさ」というものをどのように音で表現するか。暗鬱の中の美。そうしたバンド群が出るフェス、ロードバーンフェスティバルなるものがオランダで行われており、このバンドもそのフェスに出ています。今年の他の出場者で言えばたと、たとえばフランスのAlscestやYeas Of Lightとか、USのThouとEmma Ruth Rundleとか(ユニットではなく別々に参加)、エクスペリメンタル(実験的)かつ歪んだ音像を持ち合わせたアーティストたち。メタルの芸術性を担うバンド群の一翼です。これはこの週の新譜ではなく少し前に出たアルバム。2022年作です。


Artificial Brain / Artificial Brain 

こちらも2022年リリースながら聞き逃していた新譜。USのテクニカルデスメタルバンド、アーティフィシャルブレイン(人工脳)。この界隈では期待のバンドで本作が3枚目のアルバム。RYMで評価が高いので聞いてみました。混沌とした音像の中にところどころオーガニックなサウンドが埋まっています。楽曲というより音としてイメージを想起する音。音そのものの物語性や感情の共有という感じがします。ポストアポカリプス(終末戦争後)を描いた3部作の1作目?だか3作目だか、の様子。ジャケットが音のイメージを増幅させていていい感じです。


以上、今週耳に残った/聞いてみたのは以上12枚です。それでは良いミュージックライフを。


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