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Igorrr / Spirituality and Distortion

以前、こちらの記事でも取り上げたIgorrrの2020年作。

音楽というのは多かれ少なかれ先人たちが作ったスタイルやクリシェ(常套句)を組み合わせてそこに作家性を足していくわけですが、そうしたパーツの組み合わせ方と各パーツの振り切り具合が極端なアーティストです。全体評価にも書きましたが、正に「他では得られない感触」のアルバム。

2020年リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Downgrade Desert
アラビックからスタート、曲名通り砂漠を連想させる
中近東音階、アラブ・マグレブ、楽器も民族楽器の音か
不穏な電子音がドローンとして鳴り響く
ドラムとディストーション、叫びのようなギターが入ってくる
ヘヴィ・テンポで進む、ドラムはかなり響く
中東的なメロディーを民族楽器とベースがユニゾン
音圧が止み、女性ボーカルが歌い上げる
声が重なりコーラスへ
リズムが機械的な響きもある力強さを伴って戻ってくる
男性ボーカルのグロール的なコーラスが追加
音のレイヤーが重なっていく
ヘヴィなリフのモチーフはそのままにノイジーなギターからのソロ、クワイア
男性のうめくようなボーカルが入り、ブレイクビート
リズムが細かく打ち鳴らされ、切り刻まれたボーカルの後
呪術的なリフレインをシャウトしながら繰り返し
ブラックメタル的な暗黒パートへ
終曲
★★★☆

2.Nervous Waltz
ビッグなバスドラサウンドが打ち鳴らされ、クラシックで美しい旋律が流れる
女性の上品なコーラスから、突然ゆがんだディストーションギターへ
美旋律が戻ってくるがリズムは凶悪なまま
ディストーションギターも加わりクラシカルな世界観のままバックがブラックメタル的に
耽美というよりは音で遊んでいる感じ
ピアノ単音連打にコーラスが乗る、そこから男性低音ボイスのドローン
優雅なチェロの響きでやや東洋的なメロディが入る
女性クワイアが響き、かなりヘヴィなギターパートへ
目まぐるしい曲展開
再びワルツパート、クラシカルなメロディ
バックはかなりブレイクビート、乱雑なシンセ音、Zappa的な音の玉手箱
終曲
★★★★

3.Very Noise
勢いのあるブレイクビートにザクザク刻むギターが乗る
ジェント的ともいえるが、もっと機械的、切り刻まれて人工的
はねるベース、ところどころザクザク機械的な音の隙間に合唱・クワイア的なシーンが入る
だんだん曲が激しさを増していく、音圧とリズムの刻みが激しくなりカオスに
終曲
★★★★

4.Hollow Tree
やや上品な、オルゴール的な響き、欧州古楽器
からアタック強いベースと機械的なドラム、容赦なく打ち下ろされるリズム
女性ボーカル、再びクラシカルなモチーフ
東洋的ではなく西洋的な歌いまわしだがどこか東欧的なものも感じる
静寂なパートを経て、リズムが暴れだし、上を女性ボーカルがメロディをなぞる
嗚咽のようにも、歌い上げているようにも聞こえるボーカル
バッキングは一定の緊張感を持ったまま進んでいき、ボーカルがメロディをなぞる
クワイアが追加、クラシカル・現代音楽的な弦楽器の響き
終曲
★★★☆

5.Camel Dancefloor
アラビックなメロディからスタート、リズムは打ち鳴らされる
ベースも強め、まさにタイトル通りダンスフロア仕様といえばそうかも
メロディモチーフは執拗に繰り返される
何かを投げつけてつぶしたような音、リズムパターン
アラビックなモチーフは続き、ベースなどさまざまなパターンで展開していく
曲全体がアラビックなまま次のメロディへ
砂漠で揺らめく女性、蛇、そんなのたうつ音のイメージ
ギターの刻みリフが入ってくる
ブラストビートで暗黒パートへ
音が引かれアラビックなモチーフへ戻る
さまざまなリズムパターン、ジェント的な演奏とモチーフが組み合わさり終曲
★★★☆

6.Parpaing
男性グロールからスタート、比較的最初はハードコアに忠実
ザクザクしたギター、そこからブラスト
男性ボーカルが入ってくるが電子的に切り刻まれる
再びハードコアパートへ、リズムがかなり細かく機械的
ただ、この曲のドラムは生音感が強め
打ち鳴らされるツーバス、ハードコアスクリーム
突然電子音の嵐へ、そこにハードコアボイスが乗る
80年代ゲーム音楽のようなチープな電子音が追加され、それに低音リズムとスクリームが乗る
またハードコアパートへ
1番を繰り返す、比較的曲としての構成がかっちりしているか
突然の展開は少ない
ノイズで終曲
★★★

7.Musette Maximum
きしむ音からスタート、手回し車、アコーディオンの軽快な弾き語りのようなメロディ
フランス的な、アメリのサントラのメロディだが、リズムはずっとブラスト連打
今度は同じテイストをディストーションギターで再現
アコーディオンが戻ってきたらゆがんだベースと共にメロディパートをもう一度
ブラストはずっと続いている
今度は叫びも入ってきた、ダークと言うよりユーモラス
ただ、アグレッションは強い
途中、本当にジャズアレンジというか、バッキングも軽快な響きに
ベースの超絶速弾き(打ち込み?)が入ってきて軽快に終了
★★★★

8.Himalaya Massive Ritual
ガムランの響きから、猛烈なブラストとディストーションギターへ
人力では無理っぽい速度だが叩いているのだろうか
この辺りは打ち込みだろう、サウンドコラージュ的
ブラストとゆがんだギターの応酬がつづく
音が引いてあやしげな響きの楽器とメロディが、中東的なのだろうか
一瞬アフリカの指ドラムのようにも聞こえるが、中東モチーフだろう
女性ボーカル、ライオン・キングのようなアフリカンな感じか
男性ボーカル、クワイアが入りアカペラパートへ
リズムがフィルインし、ブラストかと思ったら盛り上げるだけで一度引く
一度スカしてからふたたびリズム打ち鳴らしパートへ
古楽器(弦楽器)のアカペラと女性ボーカルの静的なパートへ
緊張と弛緩、かなりアラビック、砂漠を歩くような
刻みと比較的王道なコード進行でミドルテンポで進み
★★★★

9.Lost in Introspection
ピアノメロディが先導する曲、やや不穏、ところどころ弾き間違いのような引っ掛かりが作ってある
バックは比較的王道のマイナー調のバッキング
リズムは攻撃性はあるが、極端に攻撃的ではない
手数が細かく刻みながら流れていく感じ
アコースティックギターがアルペジオで旋律を奏でる
アルペジオに女性ボーカルが乗り、電子音の嵐が
クワイアに合わせて女性ボーカルが歌い上げるメロディ
クラシカルでオペラティック
絶唱、そこからリズムが切り込んでくる
ディストーションの聴いたギターがドライブする
クラシカルなクリシェをピアノではなくディストーションギターがなぞる
ピアノ独奏に戻る
不協和音の連打で終曲
★★★

10.Overweigght Posey
今度は三味線か琴か、日本的なメロディ
いや、中国あたりの古楽器か、日本にも通じる中央アジアのメロディだろう
女性ボーカルが入ってくる、弦楽器と絡み合う
ウードとか、あのあたりなのだろうか
それほどトルコっぽさはない、中央アジア感が強い
女性は絞り出すような絶唱
音像は違うがOpus Avanturaを思い出した
何を聴いているのか分からないがなんだか圧倒される感じ
ただ、音楽的にはぜんぜん違うパッチを組み合わせているにも関わらずデザインがうまい
ヘヴィなギターパートへ、ドラムサウンドが非常にビック、大きなものを力いっぱいたたいたようなバスドラ
それほどリバーブはないので、硬い床に大きなものをたたきつける感じ
ギターのコードが展開していく
絶叫のような声、ブラストを交えながら速弾きが崩れたノイジーなギターが重なり
場面転換し、エクソシストのようなピアノのアルペジオに
思い切りブレイクビートな打ち込みリズムが入ってくる
クワイアがだんだん大きくなり、リズムで切り刻まれる
ドラマティックなのだがシンフォニックメタルのような耽美感はない、人工的な、明らかにセットと分かるような
しかし本当の殺し合いが行われているような不思議な迫力
かなり極端にディフォルメされているので、演劇的なのかもしれない
★★★★☆

11.Paranoid Bulldozer Italiano
曲名からして変、最初はつかみどころのないリズム
そこからパワーメタルのようなギターリフの刻み
少し音程をずらした男性シャウト
細かくパルスのように打ち込みリズムが入ってくる
リズムの洪水の中でシャウトが続き
リズムがブレイク、ギターが展開する
ブラストパートになり、すべての楽器、声がリズムに合わせて切り刻まれる
そこからオルゴールのような、オルガンのコード4つ打ちに合わせてクラシカルなパートへ
女性のオペラティックなボーカルが乗る
クワイアが入り、飛び跳ねるリズムへ
スクリームが入りブレイク
ブレイクビートの上でクラシカルなメロディが乱舞するパートへ
メロディが止み、男性のグロールとヘヴィなリフ
再びリズムが打ち鳴らされ終曲
★★★★

12.Barocco Satani
クラシックな弦楽器の二重奏からスタート
急にヘヴィでスラッジなリフが入ってくる
ヘヴィパートが続き、再び静謐な二重奏へ
今度はハープシコードのようなアルペジオが入り、オペラティックな女性ボーカルが入る
クラシック、シンフォニックメタル的な荘厳なクワイアと鼓動のようなバスドラ
曲調が高揚し、スクリームでブレイク、打ち込みブレイクビートが入り
ヘヴィなパートへ
カオス寸前まで高揚し、音が止む
ハープシコードと女性ボーカルからもう一度スタート
クワイアとドラム・ギターが入ってくる
ハープシコード、クワイア、女性コーラスが残り、二重奏に戻る
そのモチーフをディストーションギターが引き取りブラストへ、この緩急はうまい
ブラストのまま部族の雄たけび、鬨の声のようなコーラスが入る
弦楽器も含めて刻み、ブラストのまま終曲
★★★★

13.Polyphonic Rust
ギターのかき鳴らしにリズム、アルペジオ電子音が続く、音圧高め
音が止んで女性ボーカルのアカペラ、から女性コーラスのポリフォニー
この辺りは東欧的なものを感じる
低音のドローンが入り、弦楽器、そしてヘヴィなギターとドラム
斬新なアプローチのオリエンタルメタルと言えるだろうか
メロディとかそういう単位ではなく、サウンドのパッチとして中央アジア、欧州のさまざまなパッチがあって
それを全体として張り合わせてデザインしている感じ
一部取り込んだ、というより、なんというかさまざまな世界観をつなぎ合わせた夢、あるいは悪夢のような音楽
女性の力強いコーラス、この辺りは中央アジア、東欧のガールズコーラスグループ的
ミドルテンポで続くヘヴィなパート
また声のみ、ポリフォニー、これは美しい
終曲
★★★★☆

14.Kung-Fu Chevre
女性と男性ボーカルの混声アカペラからスタート
中央アジア~東欧のメロディ、東欧の色が強いか
ポルカ的なメロディへ、アコーディオンとバイオリン(フィドル)の演奏に
同じスピードで超高速ベース(たぶん打ち込み)が入る
そこに再び混声ボーカルが入り、高速ポルカが入って今度はスパイ映画、サーフインスト的なギターが
そこにオリエンタルなメロディが
そのままオリエンタルな男性ボーカル
そしてラップからの掛け声コーラス
凄い展開が早い、ポルカに一瞬なったかと思ったらメタルブラスト
ヤギの鳴き声から再びヘヴィポルカ、掛け声
ポルカというかコサックダンス?
そしてヘヴィパート、絶叫
ポルカリズムに女性ボーカル、女性のメロディは東欧的か
女性が西欧~東欧で、男声が東欧~中央アジアのメロディを歌うことが多いのだろうか
伝統音楽的なアコーディオンの音からレッチリ的な跳ねるベースのパートへ
そのままあかんべーしたような痙攣的なユニゾンで終曲
★★★★★

全体評価
★★★★★
「他では得られない感触」のアルバム
ただ、いろいろな音楽=東欧音楽・フランス音楽・現代音楽・クラブ音楽・中東音楽・中央アジア音楽など
それらをサウンドのパッチとしてつぎはぎしたような、サウンドコラージュのような作品
そこにディストーションギターやブラストビートが入って場面が切り替わっていくが、
打ち込みも多いので、場面展開が早すぎて疲れるところもある
また、どこか人工的、作り物的、演劇的な楽しさはあるものの
ポップさに欠けるから聞く人を選ぶ気はするが、
最後のKung-Fu Chevreはそれらを突き抜けるエネルギーがある。
中だるみするというか、展開が早すぎるのと似た展開も多いので何を聴いているのか見失うこともあるが
後半に向けてどんどんカオスさとポップさ(というよりユーモアだろうか)が増していく印象

リスニング環境
昼・家・ヘッドホン

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