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Ammar 808 ‎/ Global Control

チュニジア人プロデューサー/シンセサイザー奏者のソフィアン・ベン・ユーセフによる音楽プロジェクト。名前の“808”はローランドのリズムマシーン“TR-808”に由来。チュニジア北西部の音楽“タルグ”を紹介するユニット“バルグー08”のメンバーとして活動。ベルギー・ブリュッセルを拠点に、TR-808が奏でるエレクトロニックな重低音とマグレブ地域に息づく伝統音楽とを融合させた近未来的なエスニック・ミュージックの創造をコンセプトにプロジェクトを始動。2018年にアルバム『マグレブ・ユナイテッド』でデビュー。
出典

今年の衝撃盤にも選んだ1枚。チュニジアといえば何度か取り上げているメタルバンドのMyrathがいますね。隣国アルジェリアにはSoolkingが。いろいろと新しい、面白い音楽が生まれているエリアなのかも。おそらくシーン的にはフランスの影響が強いんですかね。

アルバム全体を通して聴くと、だんだん生音の比重が電子音に置き換えられていくというか、生身の肉体が電化されていく、そして生音が取り残されていく、といった作りになっています。人間と機械との関係性の変化を音で感じさせる映像的な作品。説教臭さはないけれど風刺が効いている。コンセプトだけにとどまらず、各要素となっているパフォーマンスのクオリティも高密度。心地よい細部に身をゆだねつつ、やがて全体像が身体の内に浮かび上がってくる。素晴らしいアルバム体験でした。

スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。

2020リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1 Marivere Gati 4:16
呪術的な女声コーラスからスタート、中東、北アフリカ系だろうか
打ち込みのドラム、和太鼓のような連打
タブラのような音程移動が入る、どちらかと言えばタブラなのか
拍子木のような音が入る、どこか盆踊り的
女声コーラスが続く、ボーカルのこぶしが効いている
カッワーリー的でもある
声がいくつか立ち上がり、それぞれ上昇していく、インド古典的なインプロビゼーション、即興性も感じる
しかしこれは2020年で評価が高いのか、Six degreesレーベル辺りに2000年ぐらいからあった音のような気もするが、、、
一巡して新しいのかな
とはいえ音がかなり整理されていて確信的ではある、精度が上がったのかな
ワールドミュージック、各国のルーツミュージックとテクノ、エレクトリックミュージックの融合は90年代から開拓がはじまった分野
それがどう進化してきたのだろう
★★★☆

2 Ey Paavi 5:16
ラップというか語りというか、普通の語り口のようだがリズムがある
そこから打ち込みドラムが入ってくる、ドラムはけっこう乾いているというか、音の余白が多い
砂漠、あまり水がない地域を想起させる、北アフリカかな
掛け合い、ラップとスキャットというかコブシの効いた歌いまわしの2声が絡み合う
リズムパターンはトライバルなリズムだがけっこう抑制されている
連打や展開の激しさはなく、ちょっとトランス的だが派手さはあまりない
ポリリズムではあるがリズムで空間を埋め尽くしてはいない
シンセ、反復フレーズ、声がこだまする
どういう空間なのだろう、機械化された狩り、壁画のような
古代の壁画をデジタル化してデータ化して再構築したような
反復フレーズにあわせてリズムが蠢く、心音のように
声がループして緊迫感を出す
★★★★

3 Mahaganapatim 6:00
「マハガナパティム」という曲名をやや弱弱しさも含んだ男の声で歌う
祈りの儀式の声のような、神にすがるような独特の発声
リズムが走り出す、ベースが鳴り響く、低い弦をはじいているような
単音の弦楽器をはじいている、同じ音程
北インドの古典音楽のフォーマットか、リズムもタブラのように小刻み
北インドだとするとだんだんテンションが上がっていく系か
ベースの刻みが強い、Tabla Beat Scienceにおけるビルラズウェルのベースのように
グルーブをベース、というか低音が出る単音の弦楽器が牽引している
単音で、音程はずっと一定、単純に弦をはじくだけで音程移動はあまり考慮されていない
テンションが上がっていく、ただ、リズムはサンプリングなのだろう、反復はされるが正確でピッチがずれない
不思議な、熱量が上がるようで上がりきらない、クールな感じ
この感じが新しいのだろうか
★★★☆

4 Duryodhana 4:46
トライバルなリズムに、バグパイプのような音がずっと同じ音程で鳴り続ける
そこにアジテーションのような、あるいは危機を告げる見張りのような語りが入る
リズムが打ち鳴らされる、伝統楽器の音色を使っているがリズムはテクノ、ハウスミュージックか
エスノトランス、和音移動がない、単音程のベース音の上で笛の音とボーカルが舞う
すべてサンプリングと思われる、ボーカルが同じフレーズを反復する
だんだんリズムが早くなる、笛の音が取り残されそうになりながら消えていく
リズムが早くなる、ケチャのようなポリリズム(人の声はないが)
★★★☆

5 Geeta Duniki 3:33
民謡的な女声、実際に民謡なのかもしれない、これはマリとかあちらの方だろうか
手織り歌のような、繰り返しの歌、田植えかもしれない
ベースが入ってくる、ひとつの音を長く奏でるがこの曲は展開がある
コードが変わっていくらしい
タブラが入ってきた、だんだんアルバムの後半に行くにつれて使う音程やコードが増えていく構成だろうか
ベースはインド音楽なのかな、ボーカルの節回しがインド古典音楽
そういえばディキデドンディキディドンのような打楽器の擬音をボーカルが入れる、インド伝統音楽によくある口ドラムだ
★★★☆

6 Arisothari Yen Devi 4:46
パルスのような電子音、信号音
そこに遠ざかったり近づいたりする男声、どこか遠くの世界から聞こえてくるような
潜水艦の中だろうか、そういえば水のような音もする
透明感のあるシンセが響く、信号音が聞こえる
心音のようなリズム、意識が朦朧としていて、呼びかけで気を取り戻す瞬間かもしれない
そのままたゆたう
★★★☆

7 Pahi Jagajjanani 5:30
揺れる声、電子音が強くなる、SF、未来都市か
疾走しているような、とらわれているような、何か動いている感じはあるが移動感がない
とらわれているような感覚
四つ打ちのリズムが入ってくる、伝統楽器のサンプリングではない完全にEDMの音
それよりテンポが遅い反復フレーズが入ってくる、すこしづつずれているのか
時間がスローモーションになったような気がする
女声コーラス、呪術的というか、、、取り残された意識のような
遠くから響いてくるように揺れていて、どこか現実味がない
その割には距離が近くてはっきり聞こえてくる
リズムも低音がしっかりしているがどこか現実味がない
なるほど、ここまでくるとだいぶ新しい、エスノトランスを抽象化して解体している
生身というか現実、生活に根差した音楽を生活環境から切り離して浮遊させている
それによって聴き手の感覚も浮遊していく
★★★★

8 Summa Solattumaa 5:50
生生しい声に戻る、かと思ったらリズムは機械的な音
ただ、リズムパターンはトライバル、機械化されているが
声は生身で、生活音というか伝統音楽のフォーマット、日常、生活感
リズムの音色だけが違う、機械音、非日常
ただ、実際にはアフリカの集落にいってもスマホがある、太陽電池でスマホを使う
一部の文明、機械があらゆる場所に入り込み、1000年前からあるものと10年前に開発されたものが共存する
その間をつなぐものはもちろん時間なわけだが、あたかも断絶しているような、その場所だけを切り取ると不思議
1000年前、2000年前とほとんど同じ風景なのにスマホだけが増えている、といったような
もちろん、洋服や建材など他にも変わったものはあるのだろうけれど
進化はゆっくり訪れるのではなく、便利で手に入るものなら異質なものでも取り込んでいく
そういう雑食性というか、異質さを感じさせる音を丹念に組み合わせた結果、不思議な感覚を生む
鳴り響く、いつのまにか声以外はほぼ電化されている、電化されたものに取り囲まれている
伝統とテクノロジーというものを対比させる、明快なコンセプトアルバムか
演劇的なつくりだ、アルバム全体での物語性が強い
★★★★

総合評価
★★★★☆
単曲、というより、アルバム全体で聴くと仕掛けが分かる
一曲だけ聞いてもエスノ・トランス、エスニックテクノの曲
それなりに良質ではあるが、ものすごく目新しいわけでもない
アルバムを通して聞いて行くと、生音だった部分がだんだんと電子化されていったり、揺らいでいく
そこで境界が揺らいでいく、気が付くと電化されたものに取り囲まれて歌だけが残る
説教臭さはないが風刺的、こういう描写の仕方があったか
小説を読んだような感覚、面白い経験だった

ヒアリング環境
夜・家・ヘッドホン

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