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素晴らしきメタル・バラードの世界 1970年代編

メタル・バラード特集を書いていきます。ここ2か月ほどメタル・バラードについて考え、選曲していました。1970年代から2020年代まで、回を分けて書いていきます。今のところ220曲ほど選曲済み。

メタル・バラードとは何か。「バラード」というのは「音楽で、語り物的な歌。また、そのような内容・感情を器楽曲に移したもの、譚詩曲」とオクスフォード辞典では定義されています。wikiでは「ゆったりしたテンポ、静かな楽想、美しいメロディラインやハーモニー、そしてラヴソングを中心とした感傷的な歌詞を音楽的な主軸とし、楽式的には、ピアノなどによる静かなイントロとエンディングに向けての劇的な盛り上がりが特徴とされる」とのこと。まとめると次のような特徴でしょうか。

・メロディアスでドラマティック
・スロー~ミドルテンポ

では「メタル・バラード」とは何か。昔から少し疑問だったのが80年代のヘアメタル・グラムメタルバンドによるバラードヒットが「メタル・バラード」の典型とされるけれど、それって本当に”メタル”なんだろうか。「メタルバンドのバラード」と「メタル・バラード」は別物なんじゃないでしょうか。徹頭徹尾アコースティックなTo Be With YouMore Than Wordsは「メタルバンドのバラード」であって「メタル・バラード」じゃないんじゃないのかと。

というわけで本稿では僕の考える「メタル・バラード」を選んでみます。メタルという(その時代の中での)極端な音楽形態でなければ表現できない大仰なドラマ。素晴らしきメタル・バラードの世界へようこそ。


The Beatles / Happiness Is A Warm Gun (1968)

1960年代、まだハードロックの黎明期であり「メタル」という概念がなかったころ。後に「メタル・バラード」と呼べるようになるものの原型の一つがビートルズのこの曲。静かなヴァースで始まり、やや不穏でダークな雰囲気を漂わせながら曲が進行し、突如差し込まれるディストーションギターのリフ。そして別の曲をつなげたように曲調が極端に変化していきます。静ー動ー静のダイナミズムこそがメタル・バラードの肝。

Led Zeppelin / Babe I'm Gonna Leave You (1969)

Beatlesの曲はメタル以前の萌芽だとして、Zeppのデビューアルバムに収録されたこの曲が直接的な「メタル・バラードの原型」と呼べるかもしれません。静と動のダイナミックなコントラストがあり、動の部分のダイナミズムが当時の基準から言うと図抜けて激しかった。後にStairway To Heavenでさらに洗練された形で提示されますが、その元となったのがこの曲。ドラマティックに盛り上がります。

Black Sabbath / Black Sabbath (1970)

これぞメタル・バラード。奇想天外な展開と静ー動のコントラストで暗黒のドラマを描きます。なお、同年にKing Crimson21st century schizoid manもリリースされており曲想的には近いのですが、やっぱりクリムゾンはサバスに比べると上品なのですよね。「メタル」と「プログレ」は違う。具体的にはディストーションギターの存在感が違います。なお、「ヘヴィ・メタル」という概念が発生し、固定化していくのは1970年代前半~中盤にかけて。この曲がリリースされた当時はまだ概念がありませんでした。あとから振り返ればこの曲がヘヴィ・メタルの幕を開けた曲と言えます。

Deep Purple / Child in Time(1970)

静ー動を当時の感覚で極端に突き詰めていったのがディープパープルのこの曲。こうした曲群は後にグランジ・オルタナと呼ばれる音楽の原型とも言えるかもしれません。そもそもグランジ・オルタナって70年代ハードロックリバイバルでもあった。源流はこうしたメタル・バラードにあったと思います。ただ、70年代はプログレッシブロックの隆盛もあり長尺であった。それを90年代的な感覚でコンパクトにしたことが衝撃だったのでしょう。10分に渡る異形のドラマ。静かに曲を聞いていると突然の絶叫が入ってきて驚く。BGMにはとても向きません。こうした「聴け!」という圧を感じる曲を多く選んでいます。

Alice Cooper / Ballad of Dwight Fry (1971)

USメタルシーンの第一世代であるアリスクーパー。この曲はメタル・バラード(英語ではPower  Balladとも)の初期の名曲として知られています。60年代ロックの語法に則っているものの主流から少しづつ離脱していき、70年代ハードロック、ひいては「異形の音楽」たるヘヴィメタル的なものが生まれていく過程の曲。耳に残るフックのあるコーラス、演劇的な語りを含む中間部など、稀代のトリックスターであるアリスクーパーのキャラクターが確立された曲。

Uriah Heep / July Morning (1971)

「対自核」という意味深な邦題がつけられた名盤「Look At Yourself」からのナンバー。当時UKのハードロックバンドと言えばLed Zeppelin、Deep Purple、そしてUriah Heepでした。プログレのバンド群に劣らぬ楽曲構築能力を持ち、ハードロック、メタル的なエッジ(歪んだギターサウンドやドラム・ベースのダイナミズム、ボーカルのパワー)も持ち合わせたバンド。この曲は「7月の朝」の邦題でも知られるドラマティックな大曲。

Budgie / Guts (1971)

メタル黎明期に現れ、後続に大きな影響を与えたUKのバッジー。Metallicaがカバーしたことで一般知名度が増しました。日本では人間椅子がカバーしていますね。1971年というかなり早い段階で地を這うようなベースとダークな世界観を確立したこの曲はサバスと並んでヘヴィ・ブルースの枠内にありながらそこから離脱する意気込みを感じます。Budgieのバラードの名曲としては1973年の「Parents」もありますが、この曲の方が1971年におけるこのバンドの特異性をよく表しているのでこちらをチョイス。スローに迫りくる曲。

Aerosmith / Dream On (1973)

後にアルマゲドンのヒットで「大仰なロックバラードの権化」みたいになっていくエアロスミス。彼らのバラードの原型がデビューアルバムに収録されたこの曲です。リリース当時はぜんぜんヒットしませんでしたが後にシングルでリカットされてスマッシュヒットした曲。曲の後半に向けてスティーブンタイラーの金切声が響き渡ります。エアロスミスのバラードの中でも時代を超える魅力を感じる不思議なマジックがある曲。

Blue Öyster Cult / Astronomy (1974)

USメタルの第一世代、ブルーオイスターカルトのバラードの名曲。意識的にかなり早い段階から「ヘヴィメタル」というムーブメントに乗り黒魔術などのモチーフを使ってイメージを作り上げていったバンドです。そうしたギミックやオカルティックなバンドイメージを持ちつつも初期はNYパンクシーンとも繋がりがあり、ソフトロック的な柔らかい音像や美しいハーモニーという音楽的多面性を持ち合わせた面白いバンド。「天文学」を意味するAstronomyを冠するこの曲も神秘的な響きを湛えた不思議なバラード。彼らの音像は「冷たい狂気」と呼ばれていました。

Nazareth / Love Hurts (1974)

UKのハードロック/メタルシーン黎明期から活動するナザレス。70年代のパワーバラードはそれほど「ヒット曲」を狙って作られていないので自然な感じがしていいですね。メタルバンドのバラードがヒットするようになったのは80年代。この曲はあまり大仰な展開をしませんが、当時のバラードにしてはビートも効いていますし、名曲ということで。

Kiss / Goin’ Blind (1974)

こちらもUSメタルの第一世代、Kissのスローでヘヴィなナンバー。Kissの初期のバラードと言えばBethが有名ですが、Bethは美しい曲ながらメタル的な盛り上がりに欠けるんですよね。「メタルバンドの演奏したバラード」の名曲ではあるけれど本稿が標榜する「メタル・バラード」ではないのでこちらの曲をチョイス。ドラマティックで盛り上がる隠れた名曲。

Queen / Bohemian Rhapsody (1975)

説明不要なクィーンのバラード。オペラティックな多重コーラスが耳を惹きますが、そのパートを抜いて考えると「静かなパートからスタートし、ディストーションギターのリフが入ってきて曲調が変わって大仰に盛り上がる」という、今回僕が選んだ「メタル・バラード」の王道的な曲。ブライアンメイのギターリフが切り込んでくる瞬間は70年代にしてはかなりメタリック。

Scorpions / Life’s Like a River (1975)

バラードの名曲が多いスコーピオンズ。代表曲である「Wind of Change」もバラードですが、今回は初期、ウリジョンロート期のこの曲を。後には見られなくなった猛烈な泣きとクラウトロック(ドイツのロック)らしい特異性があります。演歌的に弾きまくるギター。そして曲の後半になるとドラムの手数が増えてしっかりヘヴィさが増します。メタルバラードの条件をすべて満たした名曲。後のスコーピオンズのバラードってメロディは美しいのだけれどいまいちダイナミズム、静ー動の極端さが薄れるのですよね。

Heart / Crazy On You (1976)

女性ハードロックシンガーの先駆け、アン・ウィルソンを擁するハートのデビューアルバムからのドラマティックなバラード。後に「Alone」が大ヒットしますが、こちらの方が曲展開がドラマティックです。太い音のギターリフと絡み合うパワフルなボーカルがスリリング。80年代Heartのイメージしかない方はぜひ1st「Dreamboat Annie」を聞いていただきたい。フォークロックとハードロックが混ざった名盤。なお、ウィルソン姉妹はカナダのヴァンクーバーで活動を開始しましたがもともとシアトル出身。「シアトルのバンド」なんですね。

Rainbow / Stargazer (1976)

エピカル(壮大な叙事詩)な名曲。Rainbow、ひいてはリッチーブラックモアとロニージェイムスディオが作り上げたファンタジックな世界観こそがUSパワーメタルを生み、「ヘヴィ・メタル」の特異なイメージを作り上げたと思います。Rainbowの初期のバラードと言えばTemple of Kingが名曲ですが、あちらはずっとアコースティックなのでもっともドラマティックであろうこの曲をチョイス。スローテンポでじっくりとドラマが描かれていきます。ヘヴィ・メタルというジャンルでしか味わえないドラマ。コージーパウエルのドラムも重量感があります。

UFO / Love to Love (1977)

「神」ことマイケルシェンカーを擁した時代のUFOのヘヴィでドラマティックなナンバー。ピアノの繊細な響きに重なるようにヘヴィなリフとアコースティックギターのリフ、そしてストリングスが多層的に積みあがっていきます。ほのかな哀愁と共にどっしりと展開する骨太の曲。ギターソロからエンディングにかけてバンド全体が盛り上がる、長尺のドラマ故のクライマックスは迫力があります。

Judas Priest / Beyond the Realm of Death (1978)

「ヘヴィメタル」という音楽ジャンルが確立し、パンクの隆興によってプログレッシブロックやハードロックが勢いを落としつつある頃、同時に「ヘヴィメタルが独自の音楽ジャンルであること」がより強く意識され始めた70年代後半。その意識がUKのラジオDJ達が提唱したNWOBHM=「俺たちはニューウェーブだけど過去を否定するのではなく1970年から連綿と続くヘヴィメタルを継ぐものだ」というムーブメントに繋がっていきます。その頃にメタルゴッドとしての自意識を確立していたジューダスプリースト。1978年の「Staind Glass」に収録されたこの曲は静謐なパートから始まり劇的に盛り上がり、メタリックなボーカルとギターサウンドがドラマを織りなすメタル確立期の名曲です。メタル・バラードの最高峰として名が挙げられることも多い曲。

Journey / Winds of March (1978)

UKではパンクが流行しハードロックやプログレをパンクが駆逐し始めたころ、USではプログレ・ハードと呼ばれる一群が隆興します。このムーブメントを代表するJourneyはもともとプログレッシブロックバンドとして活動していましたが専任ボーカルにスティーブ・ペリーを迎えてリリースしたのが1978年の「Infinity」。ここからJourneyの商業的快進撃がスタートするわけですが、このアルバムでは従来のプログレ色も残っており楽器隊の演奏がスリリング。曲全体で一つのドラマを描いています。後の曲はもっと普通のポップソングの構成が多くなりますがこの頃は「ロックのフォーマットでクラシカルなオーケストラの曲を作る」といったプログレの精神、複雑な曲調や変化する曲想、歌メロだけでなく曲全体で描くダイナミズムというものが残っています。

Boston / A Man I’ll Never Be (1978)

ジャーニーに続いてボストン。70年代後半から80年代初頭にかけて大ヒットを飛ばしました。中心人物であるトム・シュルツの計算された壁のようなギターオーケストレーションと流れるような歌メロ。宇宙船や宇宙旅行をモチーフにすることが多いバンドですが、まさに地球上ではない非日常の浮遊感をもたらしてくれる壮大な曲です。一つ一つの作品を作り込むためか寡作なバンドですが、次々とメロディがあふれ出てくるような曲構成が見事。なお、こうしたプログレハードはUKの方が早く、ELOや中期Genesisなど、プログレ色を持ちながらポップさも兼ね備えたバンドが存在しますが彼らの音像はもっとギターのエッジが弱くプログレ色が強い。やはり70年代後半に現れたプログレハードのバンド群は「ハード」な音なんですよね。

Toto / Angela (1978)

USプログレハード勢の最後を飾るのがTOTO。もともとスタジオミュージシャンが集まってつくられたバンドであり、そういう意味ではEaglesにも成り立ちが近い。アルバムジャケットは剣をモチーフとしてヘヴィ・メタル的なものを描いていましたが、実際の音像はフュージョンを通過していてSteely Dan的というか、Billy Joelにも通じるちょっとファンキーではねるような洗練された曲調が主流で従来のどっしりしたハードロックとは違うノリなのですが、1stアルバムに収録されたこの曲だけはいわゆる王道の「プログレハード」的なバラード。実際に聞いてみると他の曲はもっと跳ねています。TOTOの中では異質だけれどメタル・バラードの名曲。静かに始まり、後半、ギターリフで大仰に盛り上がるという構成は60年代後半のLed Zeppelin以降の王道なのですがリズムパターンがやはり少し跳ねているのはこのバンドならでは。

Van Halen / Ain’t Talkin ‘Bout Love (1978)

USヘヴィメタルの新たな時代を築いたヴァンヘイレンの登場、ギターテクニックを一段階上に引き上げました。デイヴィッドリーロス期のヴァンヘイレンは分かりやすいバラードがほぼ見当たらないのですが、この曲はアルペジオから始まりリフで引っ張るという「メタルバラード」の語法を引き継いでいることが分かります。比較的最初からアップテンポというか、「盛り上がったパート」のみで構成されたような曲。このあたりの感覚はパンク的なもの、より編集されそぎ落としたソリッドさであり、70年代の終わりと新しい時代の始まりを告げるものだったのでしょう。アッパーなのにほのかな哀愁がある名曲。


以上、70年代編でした。この時代に静ー動のダイナミズムが確立された大曲が多くリリースされたことが分かります。このあたりの曲想がのちのピクシーズやニルヴァーナに代表されるグランジ・オルタナムーブメントでコンパクトに姿を変えて現れてくる。音楽はめぐっていきます。

次回は80年代前半編。お楽しみに。

それでは良いミュージックライフを。






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