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大森靖子 / Persona #1

日本で活動するオルタナ系SSW、大森靖子のニューアルバム。作曲家としても活動しており他アーティストに提供した曲のセルフカバー集です。プロデュース&参加しているアイドルグループZocのデビューアルバム「PvP」に続いてのリリース。多作ですね。もともと情念系弾き語り(スクリーモ的)からスタートし、カーネーション直枝政広プロデュースを経てメジャーデビュー。その後は固定化したバックバンド(シン・ガイアス)を結成し、公私にわたるパートナーであるドラムのピエール中野(凛として時雨)と共に音楽性を拡張、各種イベントも企画するなど精力的に活動中。Avexというメジャーど真ん中に居ながら10年代の日本のアーティストの中ではかなり尖った音楽性を持っています。美大卒ということもあり独特の美学、ステージ衣装や世界観などにアート性があるのも特徴。Blu-ray付属版には9時間にわたる映像収録。ステージはバンドスタイルと、弾き語り・少人数の演者(本人、ダンサー、キーボード:自由字架編成)による舞台芸術的なライブが両輪となっており、後者は現代劇のような強烈なインパクトを残します。男性主体だったロックやパンクを経て、アイドルはガールズパワーが爆発するジャンル、入れ物として機能しているように思います。AKB、48シリーズを経て「アイドル」が一般化、ライブハウスにはバンドやSSWだけでなく「地下アイドル」が増殖。Babymetalももクロなど「アイドルシーン」を飛び越えてロック界に影響を与えるアーティストも出てきていますが、まだまだ創造性はピークアウトせず。一過性のブームというより、ここ日本ではバンドシーンのオルタナティブとしてアイドルシーンが機能しているのかもしれません。

活動国:日本
ジャンル:ポップ、ロック、オルタナティブ、アイドル
リリース日:2021年7月7日
活動期間:2006-現在

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総合評価 ★★★★☆

人への提供曲をセルフカバーする、というスタイルなので、本人の歌唱力や表現力を一部セーブし、メロディを丁寧になぞるような印象が強い。全体的にBPMが早く、ハイパーポップ的でもある。世界のメインストリームというよりはやはり日本、非英語圏の中のそのまたややオルタナティブ、アンダーグラウンドな立ち位置のアルバムだと思うが、セルフカバーという特性上、今までで一番大衆性と攻撃性が両立されたアルバムになっている。キッチュでポップなイメージからだんだんシリアスな音像になっていき、特に後半2曲は「らしさ」が出てくるが、それが諄く感じる前にアルバムが終わる。いろいろな持ち味があるアーティストだが、純粋にメロディセンス、作編曲能力(編曲はプロデューサーチーム)の高さが現れた作品。多作な分、マンネリ化も感じつつあったが、本作はそれぞれ個性が違う提供者がいることと作曲時期が開いていることからアルバムの色が多彩。また、新曲である1と13はKintsugiでは模索感があった新しいメロディの進化を感じさせる。

M1. PERSONA(新曲) ★★★★☆

ユーロビート的な、いや、高速すぎるのでハードコアテクノ的なスタート。オートチューンで加工された声。曲の場面が切り替わっていく。アイドルポップ的な音作りながらどこかドリーミーな音作り、目まぐるしく場面が展開していくハイパーポップ的。音程移動が激しい。1.2倍速ぐらいで曲が流れているような性急さ。言語センスが今までに増してブッ跳んでいる。

M2. GIRL ZONE(雨ノ森 川海) ★★★☆

人への提供曲、学校の授業中の歌。学校生活を一定のテーマにおいている。学生時代の閉塞感を理不尽さに対する疑問が初期衝動の一つなのだろうか。四つ打ち的な、機械的な力強さも感じるバッキング。いわゆるアイドル曲のバッキング、上で演者が自由に舞い踊るためのリズムトラック。ファンキーなリズム、テクノやユーロビートと言うよりディスコ的な曲構造。メロディも極端に飛び跳ねず(提供者の歌唱力もあるのだろう)、一定の音域の中で曲が展開する。ハロプロ的楽曲。

M3. 瞬間最大me feat. の子(神聖かまってちゃん)(相坂優歌) ★★★★

ロックバンドフォーマット、生ドラムが入ってくる。情報量を盛り込んだV系、ラウドロック系アーティストの手法も取り込んだJ-Rock的曲。神聖かまってちゃんのの子がゲスト参加。歌メロや音作りが妙にアッパーでフェス感がある。人への提供曲だからだろうか、本人の作家性も勿論あるのだがアクの強さが抑えられてポップさ、メロディが際立っているのと各曲のプロダクションが曲のキャラクターを活かす方向に振り切っていて聞きやすい。ややオリエンタルなヴァースのメロディラインが耳に残る。

M4. EIGA をみてよ(道重さゆみ) ★★★★

矢継ぎ早に曲が繰り出されている、全体的にBPMが早い。シティポップ的な流麗なイントロが入ってくる。いや、それをオマージュした90年代アニソン的とも言えるか。ややテンポが速くてカリカチュア化した印象を受ける。ボーカルのエモーショナルが爆発する感じがなく、(大森靖子にしては)大人しい歌い方、流れを裏切る、断ち切るようなシーンがなく佳曲が続いていく。なんだろう、このアルバムのここまでの印象だが、大森靖子の通常のアルバムにある他人(大森靖子を好きでもない人)と聞いていると気まずい感じが少ないというか、良質なポップとして聞ける。世界観は基本的に変わっていないのだが、毒気やアーティスト性がうまくコーティングされている。

M5. WHO IS BABY(道重さゆみ) ★★★★☆

大森靖子の永遠のアイドルである道重さゆみへの提供曲。マイナーコードをうまく使った、やや(調子が良かったころの)小室的な楽曲。転調せず曲調が展開していく、かなり力を入れて作曲してある。感情が込められているが、編曲がポップ。包み込むようなアレンジ、前作のNight on the Planetからこういうアレンジを多用している。メゾンブックガール的というか。今のアイドルシーンのトレンドの音作りなのだろうか。

M6. 14才のおしえて(ずんね) ★★★☆

「センパイ」の声から。歌謡曲のメロディ。振付を引き立たせるためのキメ、ブレイクが入る。ベースラインやピアノはジャジー。これもBPMが早め、BPMの性急さはパンク、ポストパンク的でもある。冗長さを排するというか、ポップさを追求する。途中で語りが入る、増殖していく心の声、ここは大森靖子的な聞き苦しいシーンが出てきたな。ただ、全体的には高速なジャジーポップ。

M7. LADY BABY BLUE(The Idol Formerly Known As LADYBABY) ★★★★☆

昔からライブでは歌われている曲。エモ的な曲。オーケストラのアレンジが加えられ曲の感情を盛り上げる。Pan!c at the Discoあたりも想起する大仰な音。これはすでに本人の曲として馴染んでいるのでいつもの大森靖子感が強い。オーケストラのアレンジによって曲のクオリティが上がっている、良アレンジ。改めて聴くとTokyo Black Holeのころのメロディに近い。その頃の曲だったかな。

M8. うんめー(ゆるめるモ!) ★★★☆

アイドルポップス、全体を通して曲調が一定の音響が維持されていて統一感がある。ちょっとリバーブがかかっているというか。大森靖子節とも言えるメロディ。他の曲に比べると突出したものはないが提供曲だけあってメロディにフックがある。職業作曲家的な職人芸。

M9. °*。:° (*'∀`*) °:。* ぴかりんFUTURE °*。:° (*'∀`*) °:。* (椎名ひかり) ★★★☆

これまた90年代的なJ-POPのアレンジを2021年の音響でやっている、SEの使い方やリズムの歯切れの良さは現代的。サビがややクラシカルなメロディ。もともとクラシックをやっていたのかな。ギター弾き語り曲ではあまり強く出てこなかったが、おそらくピアノで作曲しているのだろうか、クラシック的なモチーフ、メロディ展開がこの人のメロディセンスでは持ち味の一つ。クラシックと一言で言っても幅広いのだが、、、18世紀~19世紀頃か。アイドルポップ。

M10. 夢幻クライマックス feat. MIKEY(東京ゲゲゲイ)(℃-ute) ★★★★☆

思い切りクラシカル、クラシックのパロディ的な。この曲なんだっけな。

イントロはショパンのピアノ練習曲ハ短調作品10-12、いわゆる「革命のエチュード」と非常によく似たピアノの演奏から始まります。更に、その直後から、今度はベートーベンのピアノソナタ第14番嬰ハ短調 作品27-2、いわゆる「月光」の第3楽章が使われています。 出典

とのこと。ラッパーがゲスト参加。曲が始まってもクラシック曲のテイストが続き、それをリミックスしてブレイクビーツにしたような曲調。

M11. KILAi STAR LIGHT(道重さゆみ) ★★★★

ようやくBPMが落ち着いた、前曲から音像がややシリアスに。バラード。小室サウンド的なキーボードの使い方だが、考えてみたらAvexなのだからこういう音作りをさせたらさすがの上手さ。クセの強い歌い方を封印して丁寧にメロディをなぞっていく。ヴァースはややオリエンタルなメロディ、ユーミンの春よ来い的な。ややレゲエ、レゲトンのリズム、ベースライン。夏に向けて開放的な音作り。

M12. stolen worID ★★★★

ようやくアコースティックギターの音が出てきた。かなりエフェクトされていて生々しさは薄いが、弾き語り曲。チェロが入ってくる。意図的に音程を外すというか、揺らす癖があるがそれが出てくる。チョーキングみたいな感覚なのだろうか。確かに妙なテンションがかかる。途中から語りに。弾き語りで演劇調の大森靖子。演劇的というか実際に演劇の主題歌、舞台「もっとも大いなる愛へ」主題歌だそうで、確かに大団円、一つのドラマの終わり的な音像。歌の中でも寸劇が入る。

M13. Rude(新曲) ★★★★☆

MVも公開されたリード曲、アカペラの叫び(控えめ)から弦楽器とピアノが入ってくる。必殺曲の位置づけか。新機軸とも言える曲で、従来の「らしさ」を残しつつメロディの展開は多く、音域は従来より広い。オリオン座と死神を組み合わせたような曲というか。

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