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Unto Others / Strength

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アントゥ・アザーズはオレゴン州ポートランド出身のアメリカの ヘビーメタル/ゴシックロックバンドです。もともとIdle Handsという名前で2017年から活動していましたが、ほかに同名のバンドがいたためUnto Othersに2020年に改名。前作「Mana(2019)」は2019年ベストアルバムにも取り上げました。独特の作曲センスがあり、King Diamondの復活ツアーの前座にも抜擢されています。あまり抑揚がない歌メロなのにフックがある。ちょっとしたメロディのセンスが優れているんですよね。海外メディアでは「アイアンメイデンシスターズオブマーシーをミックスした」と評されたり、ポストパンクバンドのキリングジョークとも比較されたりしているようです。80年代メタルの雰囲気を存分に纏いつつ、モダンな感覚も持ち合わせたバンド。新作を楽しみにしていたアーティストです。早速聞いてみましょう。

活動国:US
ジャンル:へヴィメタル、ゴシックロック
活動年:2017-現在
リリース:2021年9月24日
メンバー:
 Gabe Franco ーGuitars, Vocals
 Brandon Hill ーBass
 Colin Vranizan ーDrums
 Sebastian Silva ーGuitars

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総合評価 ★★★★☆

相変わらず好きなバンド、好きなアルバムだった。メロディセンスもいいし、独特の「また聞きたくなる」魅力がある。他にありそうでなかなかない。決して評論家受けしそうではないし、なんというか地味なダサさもあるのだけれど、メロディセンスや音を重ねていくセンスは光るものがある。本作はそれにストレートのエッジ、路地裏の仄暗さが加味されて魅力的な音像になっている。ボーカルラインは特異性があり、フックのあるメロディなのだが楽器隊の演奏がメタルとポストパンク、ニューウェーブの両方の性質を持っていて曲の中で行き来する。Ghostが好きな人は気に入るかもしれない。

しかし、ボーカルの(最近の)イングウェイまたはティモトルキといったルックスがやはり愛嬌がある。リードトラック2曲のうち2はわかりやすい佳曲。ただ、個人的には3の方が世界観が合って好み。前作から進化していて、作曲、編曲ともに幅を広げているのはわかるのだけれど、少し勢いが減ってしまった感じもするので☆減。

1. Heroin 03:41 ★★★★☆

ギターノイズからスタート、シューゲイズ的なオープニング、と思いきや荘厳ながらもしっかり刻み感のあるリフが入ってくる。確かにポストパンク的といえばそういう感覚も少しあるかもしれない。荒涼とした鋼鉄の夜。暴動の前夜のような緊迫感がある。焦燥感、疾走感があるけれどどこか孤高、孤立している。1stに比べて加速感が増している、よりパンキッシュ、ポストパンク的な音になっているかも。間奏ではツインリードのメロディが入ってくる。ニューウェーブ、インダストリアル的なベタ打ちのビート。ただ、人力で演奏している。

2. Downtown 03:14 ★★★★☆

アルペジオ、ギターポップ的な加速感がある。ややはねたリズム。ボーカルラインがポップ。抑揚があまりない中でフックを作るのがうまい。Ghostとかにも近いセンス。いや、MisfitsとかDanzigといった方がいいか。UKのCreeperにも近い雰囲気があるが、あれよりもっと夜、青臭さと飢えた感じがある。メイデン的なツインリード。この曲は「アイアンメイデン×シスターズオブマーシー」感があるかも。

3. When Will Gods Work Be Done 04:06 ★★★★★

お得意な「メロディアスなリフから低音で抑揚のないボーカル」パターン。吸血鬼的なクルーナーボイスが響く。確かに、この雰囲気はポストパンク的かもしれない。80年代~90年代のJudas PriestやIron Maidenが持っていた独特のストリート、裏路地、レザーファッションで夜の闇に溶けながら生きている若者たちの空気感といったものを感じる。なぜかそういう情景が音から浮かぶんだよね。特に強く感じるのはJPのMetal Works(ベスト盤)なのだが、あのアルバムを聴いていると口の中に少し鉄の味(血の味)がすることがある。

4. No Children Laughing Now 03:43 ★★★★

こちらも抑揚のないヴァースからスタート、ビートで押していくのかと思ったらコーラスではかなりメロディアスに。メロディセンスは1stより練り上げられている。正統進化。音響面、編曲面も進化している。その分、ある程度良い環境で聞かないとわかりづらくもなったかも。間奏ではブラストとツインリード。このドラマー、手数が多くなっても激烈性よりどこかバタついた感じが残るんだよなぁ。正確ではあるのだけれど機械的でもないし、ドラムサウンドがけっこう特異。あまり重すぎず、適度に鈍い。ギターサウンドも同じことが言えて、カミソリのような鋭さというよりはどこか鈍器的なところがある。

5. Destiny 03:41 ★★★☆

キーボードソロ、というか音をつぶやいている、という感じのキーボードからビートが入ってくる。このドラムとギターの刻みが面白い。80年代のニューウェーブ、ゴシック的な、シンセビート的な響きがある。けっこう音程が上下移動するコーラス。今回は歌メロがもっと緩急がついているな。悪くない曲だがやや狙いすぎかも。

6. Little Bird 03:52 ★★★★

控えめでゴシックなアルペジオから、ビートが入ってくるがやや控えめ。静かでゆるやかな展開。ボーカルのちょっと少年的というか、ヘタウマというより技巧性を排したような、素直な発声が際立つ。ビブラートがほとんどない。洗練と土着、カントリーっぽさ、ナードっぽい、なよなよした繊細な感じと、洗練された流麗な技巧、メロディライン、独特の「情けなさ」もこのバンドの魅力な気もする。

7. Why 02:45 ★★★★☆

アップテンポ、V系の疾走曲のような。耽美な世界観ながらどこか情けなさ、なよなよした感じもある。それを吹っ切って疾走していく。夜に駆けて、溶けていく。USのバンドのはずだが、すごくUKっぽいなぁ。この曲とか、歌メロにブリットポップの感覚もある。ああ、ボーカルのビブラートがあまりない感じがちょっとオアシス、リアム感があるのかも。短いがドラマを感じる曲。

8. Just a Matter of Time 03:55 ★★★★★

低音で安定したボーカルに絡み合うコード、ギターメロディ。この曲の歌メロはいい展開。初期Ghostっぽい。この曲も独特の路地裏の雰囲気、口の中に血の味を感じる。どこか砂利っとした鉄の味。暴動をもくろむ若者の歌。

9. Hell is for Children (Pat Benatar cover) 04:53 ★★★★☆

女性ロッカー、パットベネターのカバー。違和感なく自分のものにしている。アレンジのせいかなんとなくメイデンっぽさを感じる。さすが、わざわざカバーするだけあってフックが合っていい曲。他の自作曲に比べて演奏隊が控えめで、それが80SのHR/HMの(商業的)黄金期の雰囲気をよく醸し出している。

10. Summer Lightning 04:44 ★★★★☆

UKインディーズロック、ギターロック的なイントロ。素知らぬ顔で進んでいくドラムがニクい。ドラムに蹴飛ばされてボーカルが進んでいく感じもある。ちょっとモコモコした音。追憶の中から起き上がって来るような。青春ポップスというと語弊があるかもしれないが、切なく甘いメロディの中にほろ苦さと情けなさと焦燥感がある。

11. Instinct 03:43 ★★★☆

今作は前半~中盤は音と厚めで手数も多く、後半はシンプルで風通しが多い音作りだな。この曲も比較的音数は少なめで、80sポストパンク的。でも、ボーカルが1stに比べると歌がうまくなった気がする。不器用な感じ(その割には器用に曲のバリエーションをつけている)がするのが魅力だったのだが、だいぶ上手さを感じるようになった。まだ独特の個性を保っているが、アクが抜けすぎないといいなぁ。

12. Strength 03:59 ★★★★☆

また雰囲気が変わった曲。この曲はポストパンク感が強い。ボーカルも青臭く叫んでいる。かすかに(パンクを通過した)レゲエの雰囲気もある。クラッシュとかね。キリングジョークやギャングオブフォーとかというべきか。後半、ボーカルが重なっていくパートがスリリング。ハーモニーのつくり方、音の重ね方、フレーズの重ね方はセンスがある。

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