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Arlo Parks / Collapsed in Sunbeams

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アーロ・パークスことAnaïs Oluwatoyin Estelle Marinho(アナイス・オルワトウィン・エステル・マリニョ:2000年8月9日生まれ)はUKのSSW兼詩人です。彼女はナイジェリア人のハーフ、チャド人とフランス人のクォーターで、西ロンドンのハマースミスで育ちました。各種ライブアルバムの録音地として著名なハマースミス・アポロがある地域ですね。彼女の母親はパリで生まれ、マリニョは英語を学ぶ前にフランス語を話すことを学びました。”アーロ・パークス”という芸名は、キング・クルーとフランク・オーシャンに触発されて選んだそう。

パークスはバイセクシュアルであることを公表しており、現在もロンドンを拠点としています。彼女は2019年初めにアッシュボーン大学でAレベルを修了しました。彼女のSpotifyプロフィールによると、中学校生活のほとんどを「(他人の)たわごとのために踊ることができなかった黒人の子供のように感じて大人しくしてた。とても多くのエモ音楽を聴いていたし、スペイン語のクラスの女の子たちには圧倒されていた」と書かれていて、内向的な子供時代だった様子。音楽的な影響源としてはシルビア・プラスとジョニ・ミッチェルを挙げています。

本作はデビューアルバムにしてUK3位を達成。UKでは2021年のブリットアワードでアルバムオブザイヤー、ベストニューアーティスト、ベストブリット女性ソロアーティストにノミネートされ、2021年のマーキュリー賞のベストアルバムを受賞しました。USでは2021年6月にビルボード誌に「2021年にこれまでにリリースされたLGBTQアーティストによるベスト15アルバム」の1つに選ばれました。今年のマーキュリー賞受賞作ということで聞いてみます。

活動国:UK
ジャンル:オルタナティブR&B、インディーロック、ドリームポップ
活動年:2018-現在
リリース日:2021年1月29日

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総合評価 ★★★★☆

今のUKソウルに、ちょっとフレンチポップス感が混ざったような音。都会的でLittle Simzにも通じる空気感があるが、こちらはもっとトラックはシンプルなループの繰り返しで作られており、音の風通し、解放感がある。ボーカルはやや舌足らずというか、あどけなさや少女性を感じさせる歌い方でフレンチポップス的。メロディも3などはフレンチポップっぽい。全体として心地よく聞けるけれど言葉と声にスポットが当たり、言葉に合わせてメロディが変わっていく、言葉とメロディが一体化している感じがある。詩人、とあるが、これ詩先で曲を作っているのかな。なんとなくそんな感じがする。言葉にかなり重きを置いている、というか。ある言葉をメロディと共に生み出して、それを積み上げて作っていったような感覚がある。だからメロディと言葉の融合度が高い。一聴して意味としてヒアリングできるほど英語力はないのだけれど、それぞれの言葉に込められた感情が伝わってくるアルバム。

1.Collapsed in Sunbeams 00:54 ★★★

アコギのアルペジオをバックに詩の朗読。かすかなシンセ音が入ってくる。短いオープニング。

2.Hurt 03:36 ★★★★

粘り気のあるボーカル、軽めのビート。90年代的を思わせるスタート。と思ったら途中から音が広がる。90年代と2010年代の差には音響の差、低音域や高音域の広がり、ということもあるのだろうなぁ。録音が良くなり、音響についてももっと幅広く深みが出た。脱力したダウナーな、ビリーアイリッシュなどにも通じるバギーな感じだが、サウンドはもっとオーガニック、アコースティックな感じが強い。ボーカルスタイルももう少し熱量と芯がある。Little Simzもそうだが、なんというか「UKっぽい」サウンド。すごく黒くないし、白くもない。黒人音楽と白人音楽がハイブリッドされている。実際、パークス自身フランスのクォーターだし。

3.Too Good 03:42 ★★★★★

シンプルなビートループに空間を断片的に埋めるギターサウンド、そこに乗るメロウなボーカル。歯切れが良いボーカル。コーラスはかなりメロディアスでシティポップ的。アーバンなフリーソウル。このポップさは癖になるな。どこかあどけない声もメロディとサウンドに合っている。どこかレトロ、90年代感がある。これ、フレンチポップスの影響かもな。ちょっとフレンチポップスっぽいメロディの質感。エルザとか。

4.Hope 04:30 ★★★★☆

こちらもポップだがもうちょっとUKっぽいメロディ。だけれど言葉の紡ぎ方、発音にちょっとキッチュなところがある。フレンチロリータというか、ちょっと舌足らずな、幼児性を感じさせる歌声。「あなたは一人じゃない、あなたは一人じゃない。私たちはすべて傷を持っている。とても辛かったよね、私は知っているよ。」コーラスがリフレインされる。

5.Caroline 04:08 ★★★★

ギターポップ的なサウンドに。渦を巻くようなアルペジオ、ギターサウンドのレイヤーが重なっていく。その上にボーカルが乗る。「ドリームポップ」と称した記事があったが、これドリームポップやベッドルームポップというよりフレンチポップだと思うな。

6.Black Dog 03:48 ★★★★☆

アコースティックな雰囲気ながらどこかドリーミーで、ウクレレのようなかわいらしさがあるギターサウンド。実際にウクレレかな。悲しみと慈しみを感じる。余白がある音空間の中に文章が呟きのように置かれていく。「君のために食料と薬を買ってくるよ、君が外に出るためになら案でもするよ、それはとても残酷だ」。不思議な質量を持った曲、言葉に耳を傾ける気になる。

7.Green Eyes 03:18 ★★★★

アーバンソウル、流れていくようなメロディ。マーキュリープライズらしさ、も感じる。スピーチデベルとかも似た質感があったかも。いや、もっと前のM Peopleとか。心地よく流れていく曲。

8.Just Go 03:09 ★★★★☆

ギターフレーズから、ベースが控えめだがしっかりとボトムを支えている。明るい、休みの日に出かけるような空気感がある曲。休日の朝に相応しい。

9.For Violet 03:32 ★★★★

ホワイトノイズが混じる、レコードか古いラジオのようなレトロな感じ。遠い記憶の奥を掘り出して思い出すような音像。繰り返されるリフレイン。「それは何も変わっていないように感じる、そして私はできない、できない。何も変わっていないように感じる。できない、できない。」Can’tの発音が「キャント」ではなく「カント」に近い。

10.Eugene 03:43 ★★★★

反復するギターフレーズ。トラックは比較的シンプルなループがベースになっている、ミニマルなフレーズの反復を積み上げてレイヤーになっている。音は全体として荘厳というよりけっこう風通しは良い。包み込むような、開放感のある音作り。優しいボーカル。言葉をふわっと置いていく。

11.Bluish 03:14 ★★★★

音数は少なめなループにいろいろなサウンドが入ってくる。むやみと引っかかるのではなく流れていく、引き算。言葉に合わせてさまざまなフレーズが舞い落ちてくる。メロディと言葉が一体化している。声と言葉にスポットがあたり、言葉の展開に合わせてメロディが変化していく。

12.Portra 400 02:54 ★★★★☆

ややゴージャスな、古い小型オーケストラのようなサウンド。実際には弦楽器の音ではなく、何かのループだな。postのころのビョークにも通じる、ちょっと不機嫌を抱えた夢見る少女感。途中でラップっぽいパートに。

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