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Imperial Triumphant ‎/ Alphaville

単独記事でも2020年衝撃盤ベスト10でも取り上げた作品。衝撃的な出来でした。

IMPERIAL TRIUMPHANT(インペリアル・トライアンファント ≒ 帝国の大勝利)は2005年にアメリカ、NYで結成されたアヴァンギャルド・ブラックメタルバンド(カテゴライズが難しい、、、一応英語版wikiではこう書かれていました)です。2020年に4枚目のアルバム「Alphaville」をリリース、こちらはそのアルバムからの1曲。とにかくこれが素晴らしいアルバムです。いわゆるブラックメタル系なのでとっつきづらい音楽性ですが、フリージャズとブラックメタル・ハードコアを融合させて、そこに映画音楽のような「風景・物語性のある音」を組み合わせることで独自の音世界を築き上げています。「ジャズ+ブラックメタル」とか言われもしますが、個人的にはキングクリムゾンの影響も強く感じました。言葉の意味通りの「プログレッシブ(進化的な)・ロック」の最新形とも言えるでしょう。
計算された不協和音、前衛音楽というのは「どこまで音楽として心地よいか」という境界を探る音楽だ、という話を前衛音楽家から聞いた記憶がありますが、まさに前衛音楽。どこまで音楽なのか、意外とリズムはありますが、メロディやハーモニーはかなり不快です。そのバランスが癖になる。めちゃくちゃ苦い味が癖になる、みたいな。いくつかのメディアでも絶賛されていますが聞いている人はまだまだ少なそう。これはぜひアルバム一枚聴き通してほしいですね。普通の調性(和音)音楽に慣れている人(=大抵の人)にとってかなり不快な時間だと思いますが、これを一度聴くとたぶん「音楽」として感じられる音の幅が広がります。このアルバムを流す度に家族からクレームが入ります。エクストリームメタルもそれなりに流しているのでたいていのものは聞き流せるはずなのに。不快度というか、人間の本能に訴えかける何かがあるのでしょう。

Atomic Ageのドラマー視点での演奏風景がYouTubeに上がっていました。演奏シーンを見た方が曲の構成が分かりやすいですね。

スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。

2020年リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Rotted Futures
不協和音、オルガンか、薄く鳴り続ける
鐘(シンバル)の音、フロージャズのような始まり方
不協和音感が強くなる、音が増えてだんだんと音圧が高まってくる
そのノイズが突然方向性を持ち、曲がスタート
ドラムが入ってくる、ノイジーなギターとベース
フロージャズ的なスタート、カンカンと鐘の音が鳴り続ける
ボーカルというか多重化されたうめき声のような、かなりゆがみの強い声が入ってくる
バッキングはジャズ的、手数が多い
自由に音像が変わる
メタル音楽とジャズのエッセンスを抜き出して再構築したような
リフの刻みや音程の上昇を要素抽出したような音が聞こえる
輪郭が立っていない、リバーブというよりはノイズでつぶれているのだがそうした「リフっぽいもの」が存在するのは分かる
ドラムもツーバス、ブラスト的なのだが叩き方はジャズの高速ドラム的
まぁ、ブルデスにはこういう叩き方も多いが
オルガンの和音が強調されて終わり
面白い
★★★★

2.Excelsior
ブリブリに歪んだベースが暴れまわりスタート
これもアヴァンギャルドジャズっぽい
リズムが自在に引き延ばされたり分断されるような印象だがパターンはある
無茶苦茶なようで一定の構築性、構造を感じる
これはプログレでもあるなぁ、プログレだとAmon Duulとかだろうか
ふと今は亡き東京タワーの蝋人形館を思い出した
もちろんここまで激烈な音像の音楽はあの頃はなかったけれど
なんだろうこのバンド、ハードコアからの影響も感じるなぁ
その場の即興性というか、まぁジャズか
そういえばハードコアもジャズも「その場でしか起きない音楽」という側面があるな
メタルやロックは作曲されたものを再現する性質があるから、そういう意味ではクラシックに近い
音が消え、雑踏の音が入る
インダストリアルなリズムが入ってくる
細かいパルスのような打音、これはドラムだろうか?
まったく違う風景に変わるがまたベースが暴れだす、この曲はベース主導なんだな
ギターもお同じフレーズを奏でる、ユニゾン
ジャズで言う「モチーフ」か
これは面白い
★★★★☆

3.City Swine
分散コード、不協和音的なクリーントーンのアルペジオ、キングクリムゾン的
そこの後ろでドラムが小刻みにたたいている
ああ、メタルクリムゾン、「ヌーヴォメタル」にもやや近いな、ボーカルスタイルがあまりに違うので気付かなかったが
バッキングだけでいえば00年代のクリムゾンっぽくもある
この曲はギターが前に出てきて、ロバートフリップ的なアルペジオをするからそう感じるのだろうけれど
途中から表情を変えてもっとノイズが増す、ボーカルが暴れだす
ダイナソー、恐竜的
エイドリアンブリューではなくグロールする若手を入れたらクリムゾンもこうなったのか、考えると少し笑えるが
途中、まったく風景が変わって民族楽器的な、パーカッションの連打
そこからドラムの超絶連打、ドラマーが全力でバスドラを連打している、長いな
ドラムソロというか、極限的な曲芸的
ピアノが上で舞い、余韻へ、ギターが落ち着いたリズムを刻む
フリージャズ的なカオスな音像になり各パートが自由に演奏しながら終曲
★★★★☆

4.Atomic Age
まさかのアカペラコーラス、クリスマスソングのようなスタート
さまざまな音楽要素をごった煮でぶっこんでそれを勢いでまとめてしまったようなカオスさ
Igorrrにも近いものを感じたが、あちらは機械でやる「人力を超えた快楽」に対してこちらは演奏でやっているダイナミズムがある
自由にたたきまくったドラム、ただ、他の楽器もドラムのひと段落に合わせて息をひそめる
ささやくようなボーカル、音のシーン、音で作るドラマの煽情性が高い
演劇的というか、「音」というものへの感受性が高い
メロディやリズムの法則性はあまりなく、自在に変化していくようだがどうやって作曲しているのだろう
パートや流れを決めて、モチーフやキメのタイミングを決めながら後は即興なのだろうか
あるいはザッパのようにジャムセッション(ザッパの場合はライブもだが)を録音し、編集しているのだろうか
途中でまた違うパート、左右で小人が言い争うような
そこから激烈なドラム、嵐、巻き込まれて小人たちが叫ぶ
大渦、戦争だろうか
音だけのドラマだが展開がすごい
Atomic Ageとあるから核戦争だろうか、あるいは原発事故か
渦を巻く、巻き込まれる、非難の声、怒号
急に視界が開ける、死んで天国に行ったのか、滅亡か
ベタな日本のコンテンツ風景で言えばエヴァンゲリオンの補完、あるいはデビルマン(マンガ版)のラストシーンのような
滅びの後の静謐さ、クワイア
そこからまた激烈なドラムが戻ってくる
残響音を残して音が減る
ブザー、アラームのような音、メインボーカル、怒号
ヘヴィなハードコアパートへ、音をたたきつける
少しづつベース、ドラムのリズムがずれていく、この辺りは(キング)クリムゾンぽさがある
ひきずるようなヘヴィなパート
そこからマーチングバンドのようなドラムだけが残り、フェードアウトしていく
ノイズ、だれもいなくなったラジオのような
★★★★★

5.Transmission To Mercury
ピアノ、メロディを奏でる、ジャズピアノ
トランペットが入ってくる
一通り世界観を作った後、いきなりブラストビートが入ってくる
完全なジャズの世界からシームレスにハードコア、スラミングデスコアの音像へ
ドラムはかなり叩きまくっているが、シンバルはクールなリズム、ベースも落ち着いている
ジャズな音像がそこに残っている、ボーカルはグロウル、ミックス度合いが面白い
ベースもハードコアになった後またジャズの音像へ
ドラムが残ったままトランペットが入ってくる
UKジャズの名盤「メトロポリス」を彷彿させるモチーフ
大都会交響曲とでも呼べるようなフレーズをトランペットが吹く
いつのまにかドラムも落ち着き、安定した音像、トランペットが混沌の要素、リズム、バンド隊はそれを支える
この瞬間だけだとデヴィンタウンゼントのようだ
一定のリズムの上で混沌とした音世界が乗る、クワイアらしきもの(そう聞こえるだけで実際は別の音っぽい)も入ってくる
音がミックスされて渦になる
リズムは安定している、だんだんドラムはおかずが増えてくる、ベースはずっと安定している
音が空洞、あるいはドラム式乾燥機に吸い込まれていくように回っていく、残響音の反復
そこにトランペット、悲鳴
★★★★☆

6.Alphaville
前の曲の残響音からそのままなだれ込む
翼竜の鳴き声のようなギター音、(ガメラの敵役の)ギャオス的ともいえるか、特撮ものの怪鳥音
呼応するようにベースとドラムが答える、こちらは地から這いあがる怪物か
絡み合って曲が始まり、ボーカルが入ってくる
ドラムは自由にたたきまくる、最初はデスコアっぽい音像
有機的なギターリフ、ぐねぐねしている
ベースとドラムも合わせてバンドサウンド感がある
ドラムはフリーでベースもうねっているが全体としてはあまりジャズっぽさはない
メタル、デスコアのフォーマット、ギターリフがあってボーカルが入ってくる
ブラスト、トレモロリフ
曲が進行していく、少し拍、小節が伸び縮みするような感覚
一瞬古めかしいオーケストラの音、50年代の楽団的なレコードノイズ交じりの音が入りバンドと絡む
ホラー映画のサントラ的な音なのかもしれない、なんとなくこれは怪奇・特撮映画とかがモチーフのように感じる
なんだろう、ゴジラとかガメラのサントラっぽいんだよな、ところどころ
細かいフレーズ、ギター音が入ってくる、ワシャワシャしている
怒号が続く、このボーカルもかなりハードコア的にいい声をしている
楽器隊に埋もれていないし、弱さがない、かといって聞き苦しいほどつぶれていない、安定感がある
リズムの反復、後半はプログレデス的、きちんとバンドが一丸となって進行していく
だんだんギターは音響的、高音の残響音に
怒号のような声がだんだん近づいてくる
ドラムの連打で終曲
★★★★☆

7.The Greater Good
ヘヴィな音像でスタート、ボーカルの怒号が埋もれながら混じっている
細かいリズム、ブラスト気味だがジャズっぽいハイハット
自由に音が飛び跳ねている
ギターの分散和音、クリムゾン的なフレーズ
いや、もうちょっとオーガニックな響き、ギターリフだな
海鳥の鳴き声、海を想起させるシーンへ
海と言っても太古の海だろうか、なんというか生命力は強い
ブラストへ、ドラムのシンバル音がジャズっぽいが、音像全体としてはかなりデスコア
ベースはブリブリしている
一瞬クワイアっぽいコーラスでシーン転換し、ジェント的なギターリフへ
ここだけならHakenにもありそうなシーン
ボーカルが入ってくる、これは違うな、叫び声「Fxxk You!!!」と絶叫しているようだ
幽玄な女声のコーラス、生声ではなくシンセかな、そういった声が入る
オーケストラが入る、映画のサントラ的、音程全体が上がったり下がったり
ピッチを変えているような、歪んだレコード盤を再生しているようなピッチの揺れ
フェードアウトしていく
★★★★

8.Experiment
ギターとベースのリフ、ユニゾン
ヘヴィロック、21st Schizoid Manのような
のたうつヘヴィロック、ドラムの連打
からの疾走に入りかなり深めのグロウル、ガテラルボイス
ほとんど言葉は聞き取れない
バックはパンキッシュにも聞こえる表情に、軽やかに疾走していく
それに合わせてボーカルが呻く、ボーカルは歪み切っていてノイジー
楽器隊は(このバンドにしては)整然としていた、、、が、だんだん崩れてくる
ドラムの手数が増え、ベースは暴れ始め、ギターはノイジーになる
やる気(?)を取り戻し、高速でユニゾンというかバンドアンサンブルを奏でだす
リフを経て、トレモロリフ、ブラックメタル的な音像にガテラルボイス
ベースが前に出てきてかなりヘヴィに、5分弱のコンパクトな曲だが展開は激しい
ただ、バンドサウンド、リフがあって攻撃性があるという点では分かりやすい
音の組み合わせはちょっと奇妙、ここからガテラルボイスなのか、という
★★★★

9.Happy Home
ちょっとユーモラスな始まり、イントロ、笑いを誘うようなフレーズ
チープな音色で変なフレーズを奏でる、最後2曲はボーナストラック扱いっぽい
女声のコーラスらしきものも入ってくる、ふざけた感じ
なんだかよく分からないが展開していく、西部劇の音楽のようなリズムだが、おちょくった感じは変わらない
また最初の不思議なメロディ、ブラストが入ってくる
音の混沌度は増してくる、拍手が入る
拍手か、、、まぁ、今のはドラムソロだったのだろうか
おもわずニヤリとしてしまう、楽しそうではある
タイトルが「Happy Home」というのもシャレが効いているなぁ
「Home」って、これどんな家だよと思うが、まぁ家というのは家族がいると騒がしいからな
ドラムが突っかかり始める、子供の声? 何か奇声が入る
喜怒哀楽、どれだけよく分からない感情を想起させる
ユーモラスに終わるところは面白い、まさにボーナストラック感
★★★★

全体評価
★★★★★
かなり聴き手を選ぶ音楽だとは思うが、新しい
ジャズ+メタルというジャンルがあるのは知っていた(TIDALにはそういうコンセプトの公式プレイリストもある)が、ここまで融合したのははじめて聞いた
なんというかサウンドスタイルとしてのジャズ、メタルを融合させているのはもちろんだが、曲作りのコンセプトとか様式みたいなところまでうまく取り入れつつ、単なる借り物ではなく表現に高めている
あと、キングクリムゾンの影響を感じる
自分はプログレ畑なので、あまりアヴァンギャルドを聴かないから理解の範疇でそこが重なっただけなのかもしれないが
時代的にキングクリムゾンはそうしたもののルーツの一つではあるだろう
そう考えると「プログレッシブロック」の最新形とも言える
今年はIgorrrに「新しいメタルの可能性」を感じたが、こちらも双璧の出来
あとはSEというか、場面の切り替え方、さまざまな音風景を入れるのが上手い
やりすぎると陳腐になるが、使い方が適度
メロディやリズムにもフックがあるが、それよりは「音風景」単位で曲が進行していく
ここまで前衛的な音楽としては聴きやすい、娯楽性が高いと思う
音楽の枠組みを広げてくれる、新しい楽しみ方に気づかせてくれる名盤

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