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Mägo de Oz / Bandera Negra

総合評価 ★★★★★

そういえば今年はほとんどスパニッシュメタルを聞いていない。何か大物の新譜がないかと調べてたどり着いたのがこちら。結成33周年(1988年結成)を迎える大ベテラン、マゴデオズ(オズの魔法使い、のスペイン語)の最新作。

ベテランではあるがどこかB級メタル感はある。プロダクションがややチープ。だけれど作編曲能力は高いし、単調になりがちなメロディックパワーメタルの形式でさまざまなバリエーションを入れてうまく新鮮味を維持している。スパニッシュなメロディももちろん随所に出てくるし、マイナー調だけでなくフォークダンス的な曲、スカパンク的な曲、ハードな曲の後は歌メロが主役の曲とアコースティックパートなど随所随所で雰囲気が変わる。まさにライブ的な構成とも言える。ベテランのメタルバンドのアルバムはライブ的な作りのアルバムが多い。特に今年はそういう作りのもの、スタジオアルバムの新作だけれどライブ的な感覚のものが多かった気がする。まぁ、1時間の時間をどう聞かせるか、集中力を維持させるかというのはライブに近くなるんだろうな。そうした「緊張感を維持する緩急のつけ方」がうまく、さすがの芸歴の長さを感じさせる。今年の欧州フォークメタル系の中ではかなりの良盤。


1.La isla de las 7 Calaveras (Intro) ★★★☆

波の音、そこに響いてくるスパニッシュギター。異国情緒と船出を感じさせるオープニング。笛の音が哀愁のメロディを奏でる。2分ほどのイントロ。イントロの間は静かに行くのかと思ったら途中からバンドサウンドが入ってくる。ただ、メロディモチーフはそのままでバンドサウンドに引き継がれる。ランニングワイルドのようなちょっと無骨なパイレーツメタル。もう30年ぐらいやっているバンドなんだよな。年季がある。

2.Al Abordaje ★★★★☆

フラッシーなギターフレーズからスタート。プログ的なスタート。キーボードも入ってくる。全体としてはややメタル寄りながらアグレッションよりは勇壮さ、物語性を感じる。パワーメタルのわかりやすさとプログレのわかりやすさが同居する。男声ボーカルがはいってくる。それほどパワータイプではないが安定した歌声。女声ボーカルがコーラスで入ってきてハーモニーになる。ツインボーカルのようだ。コーラスになるとスパニッシュ感が増して特異性が強まる。そしてそこからプログ色が強いイントロに戻る。なかなか特徴的な音。途中、ピアノと女声ボーカルだけになりドラマ性が増す。さすがベテランだけあってこういうパートはきちんと”聞かせる力”がある。ややプロダクションがチープだけれど、曲とパフォーマンスは良い。ずいぶん長いなと思ったら8分23秒ある! いきなりかなり長尺曲だな。その長さに相応しいドラマティックな曲。

3.Resacosix en Pandemia ★★★★☆

海賊たちの掛け声のような声、そのまま歌いだす。海賊の酒盛りのシーンか。そこから疾走へ。パイレーツパーティーチューン。コルピクラーニ的とも言えるか。軽快なテンポで進んでいく、スカパンク的な要素も入ってくる。コーラスはドイツの酒飲み歌のような合唱。最後は酔っぱらったのかテンポが遅くなるが再度コーラスから酒飲み合唱へ。緩急のつけ方がこなれている。フィドルというかアイリッシュなバイオリンが入ってくる。

4.Nunca te fallare ★★★★★

哀愁のメロディをチープなデジタル音が奏でる、そのままバンドサウンドが入ってくる、Beast In Black的なディスコメタルとも言えるが、もっとこちらは土着的でB級メタル感があり微笑ましい。ああ、Nanowar Of SteelのITALIAN FOLK METALにも近い感じかも。こっちの方がベテランの風格はあるけれど、空気感は似たものも感じる。シリアスで凝った音楽性なのだけれどどこか親しみやすさもある。娯楽度が高いというか、お高く留まっていないというか。コーラスのメロディは良い。不思議と胸が熱くなる。おお、間奏も凝っている。派手ではないけれどしっかりメロディが展開していく。カッコいい。

5.La Dama del Mar ★★★★☆

パイレーツメタル的なリズム。腕を振りながらみんなで合唱する、的なリズム。男女ボーカルの絡み合いが楽し気な曲。初期ハロウィン的な親しみやすいメロディがある。マイケルキスクが歌いそうな能天気なコーラスのメロディ。そこにフィドルと電子音が乗り、全体としてプログレな感じに。面白いな。この曲だとボーカルがキスクっぽい声に感じる。特にコーラス。基本的に違うタイプだと思うのだけれど。

6.El aplauso herido ★★★★☆

デジタルな音がせまってくる、モダンな感じ、からのリフ、そしてフィドル。モダンな感じがなくなった。フォークパワーメタル。なんだかチープな音のビートが生バンドの音に混ざっているのが面白い。ロシアのバンドもこんな音を使っていたが、再度エレクトーンというか80年代的な、カシオの音みたいなのがリバイバルしているのだろうか。ディスコでもないんだよなぁ。本当にエレクトーンのプリセット音みたいなの。この曲もこのアルバムの中では平均的な曲だが、しっかり歌メロにはフックがある。メロディアスでメロディセンスが良い。そこからアイリッシュバグパイプ的な音階へ。アイリッシュ音楽の範囲ってどこまでなんだろう。スペインにももともとケルト文化の影響があったのか、それとも単に近いから取り入れたのか。スペインにもガイダ・デ・ボトという独自のバグパイプはあるんだな。お、途中から展開する。間奏部分の緩急のつけ方は匠の技を感じる。他の曲もそうだけれど一度空気を換えてもう一度コーラスが戻ってくるところが新鮮なんだよな。これはベテランならではの隠し味がいろいろと詰まっている。基本的にメロディックパワーメタルってけっこう曲のパターンが出尽くしているというか、メロディ差だけだと似たように聞こえてしまうのだけれど、そこの新鮮味を保つための編曲力が高い。

7.Tu madre es una cabra ★★★★★

コミカルなスカ。パレード的というか、ハレの感じ。マーチングしたりチアで踊ったりしても違和感はない。まぁ、踊らないだろうけれど。ちょっと踊るにはテンポ早いか。フォークダンスを高速化してスカにしたような感じ。あ、基本的な音像はパワーメタルね。途中、ちょっとシャキーラみたいなヤギ声が出てくる。メヘェェェェェェ。間奏部でMyrathみたいなオリエンタルでヘヴィなリフへ、そこからまた高速フォークダンス。これは楽しい曲。

8.Guerra y paz ★★★★☆

歌モノ感がある曲に。ボーカルメロディに焦点が当たる。リードトラックだろうか。スパニッシュなメロディ。ラテンポップ感にパワーメタルの勇壮さが混じる。フォークメタルの抒情性が入ってくる。

9.El Cervezo (El arbol de la birra) ★★★★☆

歌モノ的な曲が続く。まぁ、どの曲も歌心はあるのだけれど。イタリアに比べるともうちょっと楽器の比重が高いかも。ある程度お国柄を感じるところはある。スペインはマイナーコードが多い印象。ラテンポップ全般に言えるけれど。ただ、明るい曲は明るい。この曲は明るめでバイキング、船乗りの歌っぽい。そういえば太陽艦隊はスペインだものな。大英帝国の前の大西洋の覇者はポルトガルとスペインだった。

10.Abrazos que curan ★★★★

アコースティックでちょっとカントリー調、フォークソング的な曲。これはもしかしたらトラディショナルソングなのかなぁ。クィーンのオペラ座の夜に入っている'39みたいな、いい感じにアルバムの空気を換える曲。一息。

11.Quiero que apagues mi luz ★★★★

こちらも静かなピアノバラード、ピアノとバイオリンと女声ボーカル。男声ボーカルも入ってくる。静かなパートが続く。

12.La Vida Pirata ★★★★

再び盛り上がる、ライブで言えばアコースティックパートの終わり、というところか。アジるようなボーカルが入り、バンドが入ってくるが、まだバンドの音はやや控えめ。曲調は明るく勢いがある、フォークダンスパーティー的なノリだが音圧は低め、少しずつ耳を慣らしていく、というところか。お、すぐ終わった、短い曲。

13.Bandera Negra ★★★★☆

タイトルトラックへ。7分42秒の大曲。長尺曲なのでオープニングはじっくりと展開していく感じ、途中から展開が進みドラマティックな世界が展開されていく。変拍子などを使うというより、堂々たるテンポで威風堂々と進む、それほど意表を突く展開はなくドラマが連続していく感じ。アルバムのクライマックス。

14.Depues de la tormenta (Outro) ★★★

アルバムの終わり、アウトロ。

15.Que el viento sople a tu favor ★★★★☆

アンコール的な立ち位置の曲か。わかりやすく勇壮なコーラス。シンガロングな感じの曲。明るめのメロディでライブ映えしそう。バイオリンも前面に出てきて祝祭感、フォークダンス感がある。大団円感というか。

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