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ISILDURS BANE & PETER HAMMILL / IN DISEQUILIBRIUM(不平衡)

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イシルドゥイス・バーネピーター・ハミルのコラボレーション作第二弾。イシルドゥイス・バーネは1976年に結成され、80年代からアルバムリリースを続けているスウェーデンのベテランプログレッシブロックバンドで、カイパフラワーキングスと並ぶキャリアを持っています。Isildurs Baneとは直訳すれば「イシルドゥアの禍い」で、JRトールキンの指輪物語に出てくる最も強力な指輪の名前。UKプログレに通じる幻想的な音像を持ったバンドのようです。

ピーター・ハミルはVan Der Graaf Generator(VDGG)のボーカリスト/リーダーであり、1960年代から活躍するプログレ創成期からの伝説的アーティスト。幅広いアーティストに影響を与えており、独特のシアトリカルで詩的な歌唱が特徴的。Iron Maidenブルースディッキンソンも影響を公言していますし、日本だと筋肉少女帯大槻ケンヂもピーターハミルを目指しているとエッセイで書いていました。VDGGってメタル系に幅広く影響を与えた気がするんですよね。独特の暗さがあって、東欧プログレとかイタリアンプログレの原型というか、相互に影響を与え合った気がします。

本作はそんなベテランアーティスト二組によるコラボレーションアルバム。ピーター・ハミルは好きで聞いていましたが、イシルドゥイス・バーネを聴くのは初めてです。(同じくスウェーデンの)ロイネ・ストルトYESジョン・アンダーソンのコラボ作(Invention Of Knowledgeー2016)が出ていましたが、それに触発されたのでしょうか。それでは聞いてみましょう。

活動国:スウェーデンとUKのコラボ
ジャンル:プログレッシブロック
活動年:2019-(コラボユニットとしての活動歴)
リリース日:2021年9月24日
メンバー:
 ピーター・ハミル ー Vo 
 イシルドゥイス・バーネ
  Mats Nilsson ーGt Vo
  Dan Andersson ーGt、オーボエ
  Mats Nilsson ーフルート、ヴァイオリン
  Bengt Johnsson ーKey
  Ingvar Johansson ーBa
  Kjell Severinsson ーDr

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総合評価 ★★★★☆

ピーターハミル × 北欧プログレ。期待される音像通りの音像。きちんとプログレらしいコンセプト精神も感じられ、一本筋が通った作品。鬼気迫るスリリングさまではないが、レイドバックしすぎていることもなく演奏には適度な緊張感が漂っている。ただ、歯を食いしばって演奏者が激突しているというよりはベテランミュージシャンたちが自分の力量をのびのびと発揮している印象。心地よく聞ける大人のシンフォニックロック。70年代~80年代のプログレが好きな方は気に入ると思う。音響的にはそれほど実験的なわけでもないが、ラジオノイズの使い方など、「プログレッシブ」な感覚はしっかりとあり、様々な音色が詰め込まれていて耳に楽しい。

1 In Disequilibrium Part 1 6:49 ★★★★☆

フルートの音、キーボード、ギター、「北欧プログレらしさ」を感じるどこか透明感のあるプログレ。ピーターハミルのボーカルが入ってくる。この人が歌うと空気感が変わるなぁ。(トーキングヘッズの)ディビッド・バーンにも近い存在感なのかもしれない。こちらの方が古いけれど。独特のアジテーション感、訴えかけてくる力は変わらず。ちなみに、日本に「フールズメイト」というV系の雑誌があった(2012年廃刊)が、あれはもともとVDGGのファンジンで、「フールズメイト」というのもピーターハミルのソロアルバムのタイトルから。最初期はプログレ専門誌であった。

音の話に戻ろう。いかにもシンフォ系のプログレであり、クオリティは高い。シンフォ系ファンなら垂涎の内容。そこにピーターハミルのボーカルが乗るのだから最高でないわけがない。フリージャズ的な管楽器(オーボエ、フルート)、飛び回るバイオリン、スペーシーなキーボード、あくまでビートはロックで軽快に進んでいく。優美だけれど親しみやすいスリリングな室内楽。

2 In Disequilibrium Part 2 9:31 ★★★★

トラックは7つに分かれているが、2つの組曲「In Disequilibrium」と「Gently (Step By Step)」からなっている。A面、B面で各1曲。Part2ではちょっとザッパ的な進み方をする。鉄琴か木琴が使われる、マリンバ。鉄琴かな。鉄琴とボーカルフレーズがユニゾンするとすごくザッパ感が出るよね。そこにスペーシーでレトロなキーボードと、掠れたトーンのギターが乗る。さまざまな音が入り変拍子ながら曲はどこか牧歌的に進んでいく。カイパやフラワーキングスはもちろん、同じくスウェーデンのサムラ・ママス・マンナ(Samla Mammas Manna)にも近いものがある。いわゆるシンフォ系のプログレだとスウェーデンは独自の発展というか、70年代、80年代からそのまま真空パックされたような音像を保っている。変にメタリックにも、ポップにもなっていない。これぞプログレ。クラシック的な作曲法、組曲をバンド編成で再現しよう、という試みを続けている。かつ、それが頭でっかちでわかりづらくならず、聞きやすく親しみやすさがあるのが北欧プログレ(というかスウェーデンプログレ)の特徴。

後半になるとSE、宇宙空間を漂うような、美しくも暗いシーンに変わる。カオス気味だった前半~中盤を経て、中空に投げ出されたような。あるいはアルバムジャケットのように光の方に向かっているのだろうか。そのまま次の曲へ。

3 In Disequilibrium Part 3 8:33 ★★★★☆

ゆったりと時計仕掛けのような、機械が動くようなミニマルなフレーズのシーケンスが入ってくる。止まっていた時間が動き出す、通常の時空間に戻っていくような。ファンタジックというよりはSF的な音像。壮大な、寺院のような神聖、且つ荘厳な音世界。ただ、どこかファンタジックでドリーミーな感じがするのはピヨピヨしたレトロなキーボードの音ゆえか。ピンクの霧(色付きの煙でセットをごまかした)で煙る70年代SFのようだ。かなり引っ掛かりがあるのに心地よく流れていくメロディ。

途中からビートが強調されていく、クラウトロック的なデジタルなビートの反復に。テクノ的。キングクリムゾン的にビートが強調される(トリプルドラマーによるポリリズムまではいかないが)。大きく展開した歌メロが完結する。デジタルビートの中からアカペラでボーカルが残り、声だけになる。声だけで歌が続き、終曲する。物語が終わる。

4 Gently (Step By Step)  Part 1 2:20 ★★★☆

組曲が変わる。次のパートへ。曲の雰囲気が変わる。生ピアノの音、バイオリン。ファンタジックでスペーシーだった音世界からもう少し現実に戻ってくるというか。いや、スペーシーなキーボードがまた入ってきたな。ただ、もうちょっと自然とか、地に足がついたものを感じる。オープニング。

5 Gently (Step By Step)  Part 2 6:28 ★★★★

少しトライバルでダンス的な、ゆったりとした舞踏的なフレーズ。ボーカルとコーラス、ポリフォニー的な絡み合い。自然賛歌的な響き。ゴスペル的なのだが神よりは大自然の恩恵、敬意を感じる。チャーチオルガン的な響きのキーボードだが石造りの境界で鳴り響く荘厳さ、硬さはない。もう少し浮遊している。石造りの教会ではなく、木造の教会のような。

そういえば北欧は木造教会(スターヴ教会)があるんだよね。

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こうした讃美歌、教会音楽の音の響き方のイメージももしかしたら違うのかもしれない。なお、こうした木造教会は中世にはヨーロッパ北西部に多くに建造されたようで、基本的にはノルウェーに集中しているがUKにも現存する。

途中からアーバンな響きをもったジャズ的な音像に。リバーブがかかった、どこか遠くから響いてくるような声。ゆったりと展開していく、まるで天気のように、急激ではないがしっかりと変化していく。雨の音のようなものが入ってくる。自然を感じる。

6 Gently (Step By Step)  Part 3 2:13 ★★★

わずかにフェードアウトして、また音が入ってくる。ラジオノイズのような音。生活音というか、自然音的なものが取り込まれている。インタールード。

7 Gently (Step By Step)  Part 4 8:23 ★★★★☆

シンセサウンドに載って比較的ポップな音が出てくる。ピーターガブリエルの90年代のソロ作のようだ。あるいはフィルコリンズ時代のジェネシス、でもいい。優美な音世界、シンセの音ながら室内楽、管弦楽的なパートが入ってくる。壮大さが増していく。この曲は歌メロが魅力的。

またノイズが出てくる。「Gently (Step By Step) 」ではホワイトノイズ、ラジオノイズが重要な役割を果たしている。ノイズが去り、曲が終わったかと思ったら落下するようなSE。落下か上昇か。アセンションのような音で終曲。

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