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Saurom / Vida

Saurom(旧Saurom Lamderth)は1996年結成で2001年デビューのスペインのフォークメタルバンドで、欧州伝統音楽とメタル、ハードロックを組み合わせた音楽を奏でています。けっこうスパニッシュなメロディで、音もさわやか。今までに9枚のアルバムを出していてこちらは2013年の7枚目「Vida」。余談ですが、最初ジャケットだけ見てバンド名とアルバム名が分かりませんでした。一度知ってしまえば読めるんですけれどね。初見だと読めない。

1 Cambia El Mundo ★★★☆

シンセの和音が響く中、男声の野太いコーラスとドラムが入ってきて、ケルティックな笛の音が入ってくる。牧歌的ながら唐突な進行、テンポよく進む。そこから笛のメロディが展開し、刻みリフ。ボーカルが入ってくる。これはかなり民族色が強い、フォークなメロディ。ただ、ボーカルはメタルボーカル、ハードロックボーカル的な手法を使う。バックの音像としてはディストーションギターは入っているがそれほど圧はなく、軽やかさがあります。けっこうペイガンフォークのバンド群(FaunとかSkaldとか)にも音像は近い。それほどドラムもヘヴィではないし。むしろボーカルの歌い方、ボーカルスタイルが一番ハードロック、メタル的かも。熱くエモーショナル。

2 Noche De Halloween ★★★★☆

軽やかな舞い踊るようなメロディ、舞踏曲。そこにちょっとエッジが立ったギターが乗る。音そのものはけっこう軽めで聞きやすいですね。ボーカルの熱量は高い。まぁ、ジプシーキングスとか、あのあたりもボーカルは熱量がありますからね。コーラスも多くてテンションが上がります。混声はパワーがあります。歌メロも独特、バイキングメタル的な、なんというかクサメロなんですが、センスがいい。きちんと伝統に即したルーツを感じさせながら、フックのあるメロディを作り上げています。楽器のフレーズもいい、この曲は後半になるにつれて胸が熱くなりますね。演奏の音圧・熱量というより、声の熱量とメロディの熱量が高い。

3 Magia ★★★★

ちょっと色が変わってアルペジオから。ドラムが入ってきますがやや哀愁のメロディを奏でます。タイプはだいぶ違いますがAMORPISのサウザンドレイクスばりの民族メロディの奔流ですね。これ、本人たちというか本国ではハードポップみたいな位置づけなんだろうか、スパニッシュポップ、スパニッシュロックってこういう感じのメロディなのかなぁ、あまり他のアーティストを聞かないんですが。たとえばトルコのターキッシュポップスって独特のメロディがあって、それは本人たちからすると普通のメロディ(別に時代がかっているわけでもなく、現代の普通のポップスの範疇)だったりするんですが、そういう感じなのかなぁ。独特なメロディセンスでいいですね。音圧は低めなのでゴリゴリのメタラーには物足りないかもですが、むしろメロハーというか、歌メロが独特なメロハー。立派に「ハードロック」ではあるんですけれどね。ギターソロとかギターリフの部分がけっこう伝統楽器、笛の音とかに代替されているのが面白味かも。いやぁしかしメロディがいい。

4 La Leyenda De Gambrinus ★★★★

民族色が強まりました、これはちょっと北アフリカっぽいな。スペインと北アフリカって音楽的に近いんですよね、モロッコとかチュニジアとか。なんだっけな、スペイン南部もペルシャ帝国の中の王朝が一つ支配したというか、むしろスペイン側に首都があり、そこでベリーダンスの一派が生まれたとかなんとか。ルーツが近いんですよね。でも、たとえばチュニジアのMyrathとは違うメロディセンス。節回しとかちょっと近いところもありますが、やはり別物。フラメンコ、バルカンミュージック、ジプシーミュージック、ハードロックを組み合わせた的な。ベリーダンスよりはフラメンコの踊りですね。軽やかに舞い踊りながら大地を踏みしめる強さはある。

5 El Hada & La Luna ★★★★

急に泣きのピアノに、そこに民族的な笛の音が入ってくる、ボーカルが入ってくるが声を震わせてかなり感情的な歌い方、K-POPみたいな(と言ったら誤解を招くか)。フラメンコだっけな、パコデルシアとボーカルが2人でやったアルバム、、、誰だっけな、カンタオール。あれも感情的な歌い方だったかな。祈りにも似た切実な発声。この曲は今までに比べて感情の起伏が深い。でもなんでK-POPっぽいと感じるんだろう、やっぱり曲をずっと聞いていてもその感じが消えない。コード進行とかも通じるものがあります。意外と音楽的に近いものもあるのかな。以前、「各地域の伝統音楽の距離」みたいなのを調べましたが、スペインは、、、アフガニスタンと近いのか。へぇ。あとはチェコとかマケドニア、ハンガリーあたりと近いようです。アフガニスタンかぁ。

6 Emperatriz ★★★

民族的、ケルティックさも感じるメロディ。笛の音とリズム。小曲。

7 Íntimos Recuerdos ★★★★☆

間髪を入れず次の曲へ、疾走感があるリフ。これはかっこいいスタートだが、ボーカルが入るとどこか抜ける。ああ、これはCarabaoにも近いかも。Carabaoもエート・カラバオの声が素っ頓狂だし、なんというかハードロックとも言い切れない不思議な音像なんですよね。まぁ、エート・カラバオに比べるとだいぶこの人は熱量がある歌い方だけど。お、この曲はかなりハードロック色が強いな、ギターリフもしっかり刻んでいてかっこいいです。

8 Ángeles ★★★★☆

勢いの良いナンバーが続きます。ジプシーキングス+メタル的な音像に。低音はそこまで強調されていませんが、しっかりドラムやギターはメタルのフォーマットを踏襲しています。ミックスがそれほど攻撃的ではない。でも疾走感があってかっこいい曲です。曲後半の笛の音も開放感があって素晴らしい。夜明けのような。

9 La Poetisa ★★★★

歌い上げる。いいですねーこのボーカル。歌心がある。この曲はちょっとドラゴスティーナダテイ(恋のマイアヒ)的な節回しもあるなぁ、あれ何語でしたっけ。ああいうちょっと不可思議だけれど耳に残るセンス。

10 Mírame ★★★★

これもボーカルが熱い。熱量が増してきています。アルバムが進むにつれてこちらも引き込まれてきたのかな。心地よさが増してきます。歌メロはすごくフックがある、というわけでもない、ある程度想定内というか、このバンド自体の特異性はあるけれど、このバンドの中での新規性とか、総体的な完成度とかでいえば一般的なクオリティだと思うのですが聞いていて心地よいのはパフォーマンスの熱量が高いからでしょう。伝統楽器のメロディラインもメロディアスでボーカルラインと絡み合う。そうしたメロディ同士の絡み合いが次々と出てきてスリリングです。最後はアコースティックギターというか、ブラックモアズナイトのようなメロディアスなギターで終曲。

11 El Príncipe ★★★★☆

ピアノフレーズからスタート。弦が入ってきて、演劇的にボーカルが入ってくる。かなり感情的、演じるような、訴えるような声。ラテンポップス的でもありますね。感情の起伏が激しくドラマティック。

12 Vida ★★★★☆

前曲の余韻を残しつつさわやかな曲の始まり、光が差し込むようなアルペジオ、軽快な曲、そして熱量のあるボーカル。希望と決意はあるけれど少しマイナー調のヴァース、ブリッジを経て力強く開放感のあるコーラスへ。前曲からの流れは感動的です。「Vida」とは「命」という意味。生命力のある曲。

13 Se Acerca El Invierno ★★★★★

映像が浮かぶ、ドラマティックな曲。雄大な山々が浮かびます。笛の音からオーケストラが入ってきて、バンドも入ってくる。女性ボーカル。美しい歌声。音像が激しくなると同時に男性ボーカルが入ってきます。後半になるにつれて感情表現が激烈になってきますね。あくまでハードロックの範疇で、デス声みたいなところまでは行きませんが。でもこの曲では男性ボーカルはブラガのハンヅィ的な、ちょっと声をつぶしてシャウトする高音も使っています。ああ、この曲はブラガ感があるかも。6分を超える大曲。ドラマティックに展開していきます。

14 El Cristal ★★★☆

アコギの音が絡み合い、しばらく続いてからインストかと思わせて歌が入ってきます、フラメンコ的だがそこまでギターは早弾きではなく、美しい伴奏という感じ、ボーカルにスポットが当たりますが楽器の存在感も強い。心地よい緊張感、集中した演奏。

総合評価 ★★★★☆

素晴らしいアルバム、メロディの煽情性と熱量が高い。フラメンコ、ラテン・ポップスのメロディと熱量がこもったメロディックハードロック(メロハー)という印象、そこまでヘヴィではありませんし、グロウルもありませんが、エッジはしっかりあり、何より感情の熱量が高いのでメタル耳でも楽しめる内容(ただし、極度の攻撃性を求めると肩透かし)。いやぁ、いいものを聞かせていただきました。これは出会えてよかった良盤。

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