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Biffy Clyro / The Myth of The Happily Ever After

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ビッフィ・クライロはスコットランドのキルマーで1995年に結成され、2002年にアルバムデビュー。結成以来変わらない3人組のロックトリオです。本作が9枚目のアルバムで、過去3作は全英No1を獲得しており、本作で4作連続でNo1を獲得するかもしれません。今のUKでとても人気が高いバンドで、2022年のダウンロードUK(旧Monsters Of Rock)の3日目のトリなんですよね。

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錚々たるメンツの中でトリを飾るのはどんなバンドなのだろう、ということで聞いてみようと思います。なお、ダウンロードフェスは激しい音楽が中心となったフェスですが、あまりメタルに閉じていないというか、いかにもUKらしいラインナップになっています。ドイツのWacken、フランスのHellfest、デンマークのCopenhellなど欧州本土の大型メタルフェスに比べるとやはり特異性があるというか、より幅広い音楽性を持っている印象。

ビッフィ・クライロの音楽性は、バンド自身はメタリカなどのヘビーメタルバンドからプログレッシブロックバンドのラッシュに至るまでの影響を引用しているようです。レビューアからは、ピクシーズとフガジから採用したシフトダイナミクス(静と動が変化する)のスタイルが特徴的なため、ニルヴァーナとフーファイターズ的ともいわれています。グランジ、ポストグランジ的な音とUK的な音を組み合わせたバンドなのでしょうか。そういえばスコットランドのバンドですね。僕はUKと書くのですが、それは「イギリス」と書くとイングランドの印象が強いからで、UKはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドからなる連合国ですから、それぞれ別の特徴を持っています。イングランドでもロンドンとそれ以外では違いがありますが、スコットランドになるとまた違う。日本だと東京のロックシーンと関西とか九州のロックシーンが違う動きをしているのと同じようなものなのでしょうか。このバンドも現在のスコットランドを代表するバンドの一つですね。それでは聞いてみましょう。

活動国:UK(スコットランド)
ジャンル:オルタナティブロック、プログレッシブロック、エクスペリメンタルロック
活動年:1995-
リリース:2021年10月22日
メンバー:
 Simon Neil – lead vocals, guitar, piano (1995–present)
 James Johnston – bass guitar, synthesizer, vocals (1995–present)
 Ben Johnston – drums, vocals (1995–present)

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総合評価 ★★★★★

いいバンドじゃん! 前のアルバムも軽く聞いたことはあったのだが、なんというか「UKのオルタナティブロック的なバンドね」ぐらいの認識でそこまでヒットしていなかった。本作をしっかり聞いてみたら音楽的な冒険もあるし、適度にハードで音に芯があるし、アルバム全体としてユーモアやペーソスが感じられつつも、何よりメロディセンスが良くていい曲が多い。全体的にはひねりすぎず、大仰すぎない「いい曲」が多い中で、得体のしれない展開をする曲がさらりと混じっている。かといってユーザーが置いていかれるほど実験的にはならず、ロックバンド、ハードロックやアリーナロックのダイナミズム、大衆性の中でそれらの実験をエンタメに昇華している。本人たちの遊び心、余裕のようなものも感じられてとても素晴らしい出来。小難しさやシリアスさ一辺倒だと疲れるが、適度に遊び心というか、ユーモアのセンスがあるというのがポイントが高い。音像もメタルとして聞くと物足りないが、ハードロックとは十分に言える出来。だし、ベースの音はけっこう荒々しく、音響的にも全体的に迫力がある。

1. "DumDum" 3:32 ★★★★☆

浮遊するような、水の上に浮かぶようなアンビエントで透き通った音像にボーカルが入ってくる。ややビートルズ的なサイケ感もある。ボーカル加工がジョンレノン的。透明感のある音作り、という点ではColdplayの近作にも近い、、、と思っていたらノイジーなギターが入ってきた。そこそこ音の塊感がある。さすがDownloadのトリを務めるだけあるな。透き通った感触は変わらないが、多少の荒々しさがある音。コード進行はビートルズ的、ブリットポップ的だが、グランジを通過したシューゲイズ・サイケデリック。いいオープニング。

2. "A Hunger in Your Haunt" 3:49 ★★★★☆

ギターが切り込んでくる、そこからバンドサウンドに。おお、しっかりハードロックだな。メタルまではいかないが曲構造はハードロック、パンキッシュ。音圧や中低音の迫力はさすがモダンで、音の芯はしっかりある。Triviumとか、NWOAHMのバンド群にも近いギターサウンド(先ほども書いたように曲構造そのものはハードロックだが)。けっこうカッコいい。ボーカルもスクリームまで行かないがシャウト感がありパンキッシュ。ギターメロディとボーカルメロディが絡み合う。Therapy?なども想起するな。同じスコットランドのフランツフェルディナンドとかを想起すべきかな。日本だとRadwimpsをもうちょっとギターサウンドをハードにして、メロディセンスをUK的にした感じ。…いやそれは別に似ているとは言わないな。ただ、全体的には開放感のあるバンドサウンド。

3. "Denier" 2:59 ★★★★☆

続いてもドラムが勢い良く入ってくる。けっこうアップテンポ。しかも思ったよりハード。メロコア的な勢いの良さがあるけれど、メロディセンスがもっとUK感がある。昨日聞いたアーキクツの方が音圧はありアグレッションは強いけれど、メロディセンスはこちらの方が一段上だなぁ。個人的嗜好という視点で、だけれど。アーキテクツの音像でビッフィクライロの曲をやってほしい笑。とはいえ、このバンドはけっこうライブは激しそうだな。ボーカルが叫び始めた。おお、グランジ的な音像を、本当にUKのメロディセンスでやるとこうなるのか、という音像だな。コード進行、メロディセンスが完璧にUKで嬉しくなる。後ろで鳴るギターの渦、サイケデリックなシューゲイズ感。スコットランドの先輩、プライマルスクリームから引き継いだサイケ感もあるのか。

4. "Separate Missions" 5:18 ★★★★

ややミドルテンポでじっくりくる。ノイズのような、揺れるギターサウンド。耳障りの一歩手前で踏みとどまり、ボーカルが入ってくる。ギターとベース、ボーカルだけ。そういえばスリーピースなんだよな。ミューズとかにも近い構成。ただ、あそこまで芝居がかってはいない。おお、メロディセンスが頭一つ抜けている。けっこうベースの音も荒々しいな。ニューウェーブ的というか、ちょっと浮遊するメロディライン。

5. "Witch's Cup" 4:44 ★★★★☆

祝祭のファンファーレのような華やかなオープニング、から、内省的なつぶやくようなヴァースへ。そこから外へ出て、少しレイドバックした、軽くレゲエ調のブリッジへ。さらに展開し、Take Thatのような大サビに行くけれど歌い方にスクリームが混じる。静ー静ー動ー静というシフトダイナミクス、ピクシーズ~ニルヴァーナの流れを汲んでいるのだけれど、メロディセンスが違うのが面白い。ビートルズから始まりテイクザットやロビーウィリアムズ的なわかりやすいポップス。どこかサーカス的な盛り上がり。そういえばイギリスってあまり伝統音楽がないんだよね。クラシックの作曲家もほとんどいないし、18世紀、19世紀ぐらいまで音楽不毛の地というか、特筆すべき民族音楽もない。大英帝国はさまざまな文化を生んだが、音楽はそれほど盛んではなかった。音楽はフランス、ドイツが中心(オペラはイタリアも、ただ、イタリアはルネサンス期だからもう少し前の方が盛ん)。スペインとかポルトガルはジプシーとか、もともとイスラム帝国だったこともあり北アフリカと融合したまた独特な音楽文化がある。ただ、イギリスは特に音楽文化はない。20世紀、UKロックで急激に台頭してくる。それはUSの台頭とも関係があるのだろうけれど。USが超大国となり文化、自国の音楽文化を再発見していく中でアイリッシュトラッドとかブリティッシュトラッドが再評価された。

6. "Holy Water" 5:40 ★★★★★

アコースティックな音像、ブリティッシュトラッド的なヴァースや雰囲気を持ちつつしっかりモダンなポップスに仕立てている。マムフォードアンドサンズみたいな感じもあるかも。別に四つ打ちリズムは入ってこないが。おお、さらなる大サビがあるのか。全体的にベースの音がややパンキッシュというか、荒々しさを担っている。バンド全体の中では太くて重い音。スペーシーなサウンド、どこかピンクフロイド的な浮遊感もある。そこから展開していき、いつの間にかかなりメタリックな連打に。この曲展開の極端さはワイルドハーツみたいだな。ひねくれていてUK的。好み。

7. "Errors in the History of God" 4:16 ★★★★☆

アルバムの緊迫感が増してきた。やや変拍子的な、ベースとドラム、ボーカル、ギターが絡み合う。互いに距離を取りながらぶつかり合う、Rush的な、3つのプレイヤーが互いに距離を取って火花を散らす。やや静かな、アコースティックなパートを経てまた変拍子的なパートへ、プログ的。とはいえマスロック的な幾何学的な複雑さまではいかず、適度な引っ掛かり。小難しさはない。流石だな、現役バリバリのトップレベルのバンド、勢いがあり、マーケットを巻き込むパワーを感じる。このアルバムは全英1位を取りそうだなぁ。チャートアクションはマーケティングとか事前告知とかその週の他のリリースとか内容以外の要因もあるから分からないけれど(アイアンメイデンはカニエウェストと同じ週にリリースだったので全英1位を取れなかった)、音のテンション的には今のUKのトップにいるのが納得できる音。

8. "Haru Urara" 3:15 ★★★★★

お、また雰囲気が変わった。だいぶ変わったな、ギターの音がリバーブが減り、室内、よりアットホームでパーソナルな、ホームパーティーで目の前で演奏しているような。まだ少し早いが、暖炉を囲んで歌うような雰囲気がある。どこか生々しく、暖かい。タイトルが「ハルウララ」なんだな。競馬の歌か? いや、単にその名の通り春を待つ歌なのだろうけれど。暖かみがあるバラードで、シンガロングな感じ。おお、コーラスから盛り上がる。ベタだがこれはやられるな。音響的にもメロディ的にも盛り上げ方がうまい。

9. "Unknown Male 01" 6:08 ★★★★★

教会、チャーチオルガン的、光が差し込んでくるような音。前曲のアットホームからアリーナへ飛び出ていった感じとはまた違う音像。どこか違う場所。祈りを捧げ、そこから外へ出て駆けだしていくような。だんだん解放感が出てくる。お、そこからちょっとグルーヴィーでヘヴィな、Vapor TrailsのころのRushのような音像に変わる。そこからプログ的な、泳ぐ、浮遊する歌メロ。これはプログレだな。プログレッシブハードロック。歌い方は一部ハードコア。一番ハードでオルタナティブ寄りだったころ=カウンターパーツ以降のRush的だな。ボーカルスタイルは全然違う。クリーントーン主体だが高音だとスクリームが入る、エモ、メタルコア的。

10. "Existed" 4:09 ★★★★

急に浮遊する、R&B、いや、トラップ的な? デジタルビートで音の隙間が急に増える、ファルセットを多用する歌。音像がガラッと変わるが不思議と連続性を感じる。歌メロというか雰囲気感が繋がっているのか。どこか荒涼として寒々しい、だけれどその中の人の息遣い、生命力を感じる音。口ずさめるメロディ。だんだん高音がファルセットではなくスクリームになっていく。Deftonesだったっけな、そういえば静謐な音像だったのに後半だんだん棘が出てきて、ブラックメタル的な音像もこっそり混ぜる、みたいな作りが合って面白いなぁと思ったが、この曲も静かなバラードだと思って聞いていたら最後の方でひっそりとスクリームが隠されている。牙が隠れている感じが面白い。

11. "Slurpy Slurpy Sleep Sleep" 6:09 ★★★★★

アンダーワールドみたいな、加工されたボーカルが反復される、テクノ的。曲のタイトルを連呼しているようだが「サピックス、サピックス、ツィート、ツィート」に聞こえるな。お、そこからドラムの連打が。急にハードな音像になってきた。面白い音像。なんだろう、人力ハードコアテクノ? というか。ただ、人間離れしたブラストビート、みたいなところまではいかない。あくまで通常のバンドサウンドの域内で、テクノと組み合わせている。途中から雰囲気が変わり完全なバンドサウンド、からオルタナティブメタルな音像に。急変だな。スクリームとヘヴィリフ、そして静謐なボーカル。Zepp的なやや断続的で緊張感を高めるリフ。音の壁、鉈を振り下ろすような。そこからブリティッシュトラッド、アパラチアンフォーク的な(アパラチアンフォークは18世紀、19世紀のブリティッシュトラッドが比較的そのままの形で残っている、とされる)。最後、また冒頭のパートが出てくる。なんだこの曲は、面白いな。英国的なユーモアというか、「????」みたいな感じが素晴らしい。謎かけというか。商業、メインストリームど真ん中のアルバムにこういう変な曲を混ぜ込んでくるあたりが素敵。「なんだこの曲」みたいな引っ掛かり、謎がカルトなファンベースを作る(と個人的には思っている)。

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