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Atvm / Famine, Putrid and Fucking Endless

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UK、北ロンドンで活動するAvtmのファーストフルアルバム。初期はブラッケンドデスメタル(ブラックメタルの影響を受けたデスメタル)を演っていましたがだんだんとテクニカル/プログレッシブデスメタル寄りになってきたそう。演奏力が高いのでしょう。曲のタイトルが各国語(Ⲁⲛⲋ-ⲟⲩ Ⲙⲁⲧⲟⲩとかवाघनखとか)でどんな音像か期待が高まります。AOTYでユーザーレビューが83点。さっそく聞いてみましょう。

活動国:UK
ジャンル: Progressive Death Metal
活動年:2012-現在
リリース:2021年4月28日
メンバー:
 Harry Bray - Vocals
 Tom Calcraft - Guitar
 Luke Abbott - Bass
 Francis Ball - Drums

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総合評価 ★★★★☆

ライブ感があった。一つのライブを見終わったような感じ。後半の畳みかけが強くて曲間がほとんどなくどんどん展開していく。気を抜くとおいていかれるが、音の渦に身をゆだねているとモッシュピットやライブの風景が脳裏に浮かぶ。音楽的には70年代のプリミティブなハードロック、プログレの中でもジャズロック、そしてブラックメタルやデスメタルに、コンヴァージなどのメタルコアの影響も感じる。また、ところどころクラシカルなギターフレーズとスピードメタル、スラッシュメタル的なリフも出てくる。メタルコアの要素も入っているのでモダンな曲構成でありながら、音作りはレトロであり、曲構成は長尺曲をしっかり聞かせるプログレ。全体として非常に情報量が多い作品。一度おいていかれるとついていけなくなるが、集中力を保って聞くとライブを見たのと同じような心地よい疲労感がある。最後、ドラムソロで終わるのもライブっぽくて良い。ライブ行きたくなる。

手抜きというか現代アートというか、脱力感のある「6.Picture Of Decay 」のMVも味わい深い(曲のところにリンクあり)。多くの謎を問いかけてくるような感じもするが、あんまり深く考えてないのかもしれない。

カセットでアルバムを流すリスニングパーティーはなかなか秀逸。絵は変わらない(途中でグラスがなくなるだけ)だが、コンポにスペクトラムアナライザ(どの音域がどれぐらいの音量が出ているか、グラフで表示している部分)がついているので音が可視化される。そういえば最近こういうコンポ見なくなったな。

1.Sanguinary Floating Orb 08:10 ★★★★☆

ザッパ的な、ちょっとユーモラスなジャズロック的なオープニング。手数が多くバタついたドラムにベースが入ってくる。そこからギターリフが入ってくる。お、この音作りのままでボーカルが入ってきた。かなりライブ感がある音作り。ギターの音が面白い。チープというかアングラな音なのかもしれないが、演奏は全員うまい。音質も音作りにも妙な70年代感がある。激烈な音楽性なのだけれどギターの音がなんというかレトロで丸みを帯びていて、ベースもそう。レトロ。ドラムも機械的というよりものすごく人間的で、バタバタというか、ジャズロック的。初期キャプテンビーフハートとかマザーズオブインベンションの頃のフランクザッパっぽいんだよな。複雑技巧を人力でやっちゃいました、という。だけれどフュージョンほど上手くない、そこまで洗練された音ではない。音像的には完全にデスメタルなのだけれど音作りがなんというか70年代、あるいは80年代の欧州メタル的で妙にノスタルジック。これは聴き疲れないし発明かも。しかも曲が長い。その長い曲をしっかり聞かせるだけのアイデアと構築力、演奏技術がある。カートゥーン的なジャケットも含め、面白いバンド。もしかしたらシーン的にはBlack Midiとかも近いのかなぁ。ここでも「2021年のベストメタルアルバム」で一緒に取り上げられているし。

2.Ⲁⲛⲋ-ⲟⲩ Ⲙⲁⲧⲟⲩ 07:35 ★★★★

バタバタ感が続きながら次の曲へ。このタイトルは何語なのだろう。googleの自動翻訳に入れてみたけれど言語検出せず。「anag-ou matoy(Apple Musicだとこう表示される)」だとマダカスガル語らしいが、、、どうなんだろう。意味は不明。

しかし面白い音像だなぁ。70年代ハードロックの音作りなのかもな。その音でデスメタル、ブラックメタルをやってみたらなんかジャズロックっぽさも出てきた、という。ドラムが手数が多いからね。ベースも動き回るし。3分20秒ごろから静謐で不穏なアルペジオに。コード進行はかなり不協和音感が多い、テンションがかかりまくったコード進行。ああ、このあたりのコード感もジャジーな空気があるのかも。ジャズとメタルの融合という点ではImperial Triumphantにも共通点があるが、全体的な音像は違う。このバンドのほうがもっとリフ構成や曲構成そのものはメタルっぽい。しっかりプログレッシブデスメタルの骨子がある。ギターはきちんとリフを刻むし。

3.They Crawl 05:46 ★★★★

比較的シンプルに激走感があるスタート。やや音作りがモダンというか、90年代デスメタル的に聞こえるオープニング。ボーカルが入ってきたらカオス感が増したが、ぐちゃぐちゃではない。演奏はしっかりしているし音もひとつひとつの楽器がきちんと聞こえる。最近のデスメタルで使われがちな、Djent的な金属音が入る。これはBlood Incantationとか、最近のオーガニックな音作りのデスメタルバンド群に近い曲。突進力のあるモダンなテクニカルデスメタルもできますよ、ということか。いや、この音作りは面白い。予算と技術の問題でチープでデモテープのような、カオスな音作りになってしまったと思ったがやはり意図的だな。ホワイトノイズとかは極力排除されているし、各楽器の分離もいい。演奏もタイト。この音作りによって強い個性を手に入れている。

4.वाघनख [Vagh Nakh] 07:47 ★★★★☆

今度はヒンドゥー語。スラッシーなリフ。Gama Bombみたいな直情的なスラッシュでスタート。タイトルのवाघनखはバグ・ナグでヒンドゥー語、手に付ける鈎爪らしい。曲は展開していくが全体的に高速なテンポでスラッシーなリフが続いている。4分半ごろからクラシカルなギターフレーズに。なめらかに弾いているなぁ。うまい。各楽器の演奏技術が高い。ボーカルはオーソドックスなデス声だが、適度な存在感でいい味を出している。5分50秒ごろ、リフが一度ブレイクしてさらなる展開。ここはライブで盛り上がりそう。音がチープでそれほど耳に刺さってこないから、むしろライブだとやばそうだなぁという感じが強まる。曲構造そのものの肉体性、暴れたくなる感じがじわじわ体内に溜まってくる。

5.Squeal In Torment 08:09 ★★★★☆

ベースの音が強い、gojiraのAnother worldにも近いな。ああいうベースのグルーブが先導して曲が始まる。ただ、ボーカルが入ってくるとがらっと雰囲気が変わりもっとカオティックでアクロバティックに。曲全体、すべての楽器とボーカルが飛び跳ねる。3分ごろからの疾走パートはUKハードコア感もあるな。4分に入るところで突然ジャジーな音世界に。これはジャズロック的だな。ドラムはそこまでジャズではない、あくまでロックドラム。5分過ぎから再び疾走へ。メロデス的な、いや、メロディックブラックメタル的疾走。ただ、激走しすぎて演奏が崩れることはない。6分ごろ、曲が終わるかと思ったらブレイクダウンへ。めくるめく展開。最後はミドルテンポで、スラッシュメタル的に終曲。

6.Picture Of Decay 09:11 ★★★★☆

前の曲から間髪置かず激走でスタート。曲の間の区切りはそれほど意味がないというか、つながって聞こえるかも。アナログだとトラック番号でないからどこで曲が切れたか分からなそう。同じテンションの良質なメタル時空間が繰り出される。後半のほうが最近のモダンなメタル感が強い、音圧も強まってきた。2分過ぎ、面白いリズムとリフ。プログレ的。反復する奇妙なリフ。機械的なドラムパターンも含めクラウトロック感もある。3分近くから展開してボーカルが戻ってきた。Morbid Angelあたりにも近い煌めくギターと激烈な音の渦。3分半から飛び跳ねる、ファンクな音世界が入る。お、ディスコサウンドになってきた。いや、本当ですよ。聞けばわかる。4分からまた激走へ。これは遊び心があるなぁ。再び激走に入るところでモッシュが生まれるのが目に浮かぶ。またミドルテンポに戻りまがまがしいギターフレーズと共にボーカルが叫ぶ。プリミティブなブラックメタル的。5分20秒ほどからクラシカルなギターソロ。6分ごろからジャーマンスラッシュメタル的な疾走に。こういうオーソドックスなリフがところどころ入ってくるのがうまい。6分半過ぎからふたたびファンクなベース。人を食ったようなベースの「ポーン」という音が入る。7分過ぎからまた疾走。いやぁ、凄いな、これだけ構築力がしっかりあるとは。長尺の曲だが集中力が途切れない。8分10秒ごろからテクニカルなリフ。1曲の中に膨大なアイデアが詰め込まれている。

7.Slud 09:19 ★★★★☆

前の曲から間髪入れずにスタート。5~7は組曲とも言えるつながり方をしている。最初は激走だがリフにはメロディアスな要素が入っている。Arch Enemyあたりの、北欧的臭メロではない、かっこいいコード展開。そのままブラックメタルパートに入り、1分半ほどでブレイクに入る。しっかり音が切れてリフが分断される。2分ごろからリフが展開するがドラムとベースはすぐには構築されない。ボーカルが入ってきて曲がかっちりと積みあがるがドラムはちょっと引っ掛かりがある叩き方。この空気感が続く、プログレ的な変拍子というかジャズドラム的なリズム。最後になるにつれてテンションが上がってくる。ドラムうまいな。3分15秒ごろから高速エイトビートに。そのままギターとドラムの掛け合い、一度ブレイクしてそのままボーカルが入ってくる。ハードコア的な世界観。3分50秒ごろからそのままの勢いで曲が進み、ブラックメタル的なキラキラしたギター音が鳴り響くが曲構成はハードコア的なまま。4分45秒過ぎ、猛烈なブラストビートに。ブラックメタルの音像に変わる。自在に表情を変えるな。6分半ごろ、かなりヘヴィなブレイクダウン。7分過ぎ、ドラムソロ。あれ、この曲はバスドラはトリガー使っているのかな。音の粒が均質。まぁ使ってるだろうなこの足数だと。約1分間のドラムソロ。ライブ的。そのままフィニッシュパートへ。多少のコード展開感はあるものの全楽器が音を鳴らしまくり、カオティックになってきれいに着地。

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