見出し画像

Arab Strap / As Days Get Dark

総合評価 ★★★★★

ロジャーウォーターズとニューオーダーが出会ったような音。スコットランド出身の二人組で16年ぶりのニューアルバムが本作。スローコアに分類されることもあるバンドだが、UKのバンドなのでどちらかといえば抒情派プログレというかピンクフロイドだったり80年代のゴシック、ニューウェーブからの流れをより感じた。スローコアってUSのムーブメント(グランジに対するカウンターパート)だから、似た感じはしてもメロディセンスとか世界観は違う気がする。ジャケットも一見聖母の絵のようだがよく見るとデスクトップで、一癖も二癖もありそうな、さまざまなものがレイヤーで隠れていてよく見ると違うものに見えてくる。音の方もまさにこのジャケットのような音像。全体としては落ち着いた、ややダウナーなトーンで統一されているがその中に明るいメロディ、くっきりしたメロディもあるし、さまざまな感情やイベントが内包されていて、多義的。ただ、どの曲もテンポは歩く程度で、暗めのトーンも通底している。その世界観に浸っていると気がつくと様々な音像が出てきて世界観が変化している、感情も変化している、みたいな音像。夜の散歩に良いBGM。

A1 The Turning Of Our Bones 5:35 ★★★★★

つま弾く、反復するクリーントーンのエレキギターアルペジオ。変拍子というか空間を埋めるようなパーカッシブなドラム。モダンプログ的な音世界。語るようなボーカルが入ってくる。ビートは飛び跳ねているが変拍子感はなく、空間の密度が薄い、さまざまな音は入っているがギチギチしておらず音の隙間がある。シンセ音が入ってくる。80年代的なシンセ音にやや飛び跳ねるサックスの音。ロジャーウォーターズ的な感じもするし、この呟きはセルジュゲンズブールというかシャンソン的でもある。おお、途中からメロディアスに変わった。ヒップホップとメロディの融合というか、メロディアスになりそうになかったのにかなりメロディが出てくるのは意表を突かれた。シャンソン感がある。セルジュゲンズブールというより最近のフランスのOrelsanとかにも通じる。歌詞は英語なのだけれど。少し浮遊するシンセの音が心地よい。「スローコア」に分類されているが、抒情派モダンプログレというか、今のUKプログレ的な音、あるいは80年代ニューウェーブをきちんと継いでいる音、というか。

A2 Another Clockwork Day 3:30 ★★★★

アコギのアルペジオ、トラッド的、そこに語りが入る。これはスローコア的な音像。コーラスはメロディアス。やはりロジャーウォーターズ的なものを感じる。何か映像のナレーションというか、ドキュメンタリー的な映像美を感じる音像。言葉、歌詞を見ながら聞きたい音楽。

A3 Compersion Pt.1 3:37 ★★★★★

反復するリフ。ポリリズム感がある。リフというか、ちょっとXTC的なすこしひねくれたバックトラック。そこにジョイディヴィジョン的なボーカルが入ってくる。ああ、シャンソンよりジョイディビジョンの流れか。何か聞き覚えがあると思ったら。あの空気感が一番近いかもしれない。初期ニューオーダーとか。ボーカルはずっと語りのような、リズムにはのっているが歌というより言葉の印象が強い。バックトラックが展開し、全体的にはメロディアスな印象を受ける。

A4 Bluebird 2:52 ★★★★☆

アコースティックな音像。コーラスはメロディアス。基本的に低めのトーンで声が続くがサビではボーカルメロディがしっかりある。トーンは落ち着いているもののポップな手触りもある曲。

A5 Kebabylon 5:15 ★★★★☆

独特な音世界が続いていく。基本的なトーンは同じ、ちょっと夜道を歩くような、うらぶれた感覚がある曲。夜道を歩きながら聞いていたら感傷に浸れそうな曲。ちょうど歩くようなスピード。このアルバム全体に「歩くようなスピード感」は通底しているかもしれない。

A6 Tears On Tour 4:29 ★★★★

テンポがゆったりと、落ち着いていく。沈み込むような曲。こちらはデヴィッドギルモア的というか、ロジャー脱退後のピンクフロイド的なゆったりとした曲。ゆっくりとメロディが立ち上がっていく。催眠に落ちるような、ダウナーでメロウな曲。反復されるチープなデジタルビートが酩酊感を増す。

B7 Here Comes Comus! 4:14 ★★★★☆

ここからB面、また80年代的なデジタルドラム音、ニューオーダー的。デジタルドラムとデジタルベースだな。”あの頃”の打ち込み感がある。コーラスは少しつんのめるようなメロディ。メロディセンスもニューオーダー的。だんだんと音が多重化していき、万華鏡のように展開していく。寒々とした硬質な音像。

B8 Fable Of The Urban Fox 4:55 ★★★★★

反復するアコギのフレーズ、バスドラが四つ打ちで鳴らされるがダンサブルな感覚はない。一定のビートが保たれている、というだけ。オーケストレーションが入ってきて緊迫感が増していく。一定のビートの中でメロディが展開していく。後半は映画のメインテーマ的なメロディに展開していく。面白い世界観。

B9 I Was Once A Weak Man 3:27 ★★★★☆

ややヒップホップ的なビート。オーケストレーション、弦楽器の音が目立つようになってきた。今のUKのトレンドなのか。リトルシムズも弦の使い方がうまかった。メロディアスで緊迫感のある曲。

B10 Sleeper 6:24 ★★★★☆

同じような始まり方、ギターのアルペジオ、ささやくようなボーカル。ややビートには変化がある。ミニマルなフレーズがだんだんとメロディに展開していく、コーラスでボーカルメロディがメロディアスに展開する、基本語りのような展開なのはやはりシャンソン的。

B11 Just Enough 3:33 ★★★★☆

ラスト曲、終わりを迎える雰囲気がある。ずっとマイナー調で悲し気な表情なのだけれどボヤキのような呟きと、対照的にくっきりとしたメロディも出てきて、全体的な憂鬱の中で湧き上がる気力とか、日常生活の中の出来事、のようにも思う。日常を音で表現したらこのアルバムのようになるのかもしれない。コーラスの後ろのメロディが力強い。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?