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素晴らしきメタル・バラードの世界 1980年代後半編

80年代後半編です。80年代前半、83年にQuiet RiotのMetal HealthがHR/HM系のアルバムとして初の全米1位を取り、「ヘヴィ・メタルブーム」が顕在化。アリーナロックの時代でもあり、大型ライブの常連としてメタルアーティストがどんどんブレイクしていきます。同時に、「メタル・バラードがヒットする」時代でもありました。一般にヒットした曲も多い。そうした有名曲は既存のプレイリストに任せて、このプレイリストでは当初のコンセプト通り「メタルと呼べるバラード」を選んでいきます。

80年代後半、特に1988年、1989年は後に「メタルの名盤」と呼ばれるアルバムが大量にリリースされた年でした。年単位で見ていくと「豊作」「不作」とでも呼べるサイクルがあるんですよね。不思議なことに、各10年代の終わり(08年、09年)は名盤が多くリリースされる気がします。

素晴らしきメタル・バラードの世界へようこそ。

Mötley Crüe / Home Sweet Home (1985)

グラムメタルの雄、LAメタルシーンの顔役モトリークルーの名バラード。モトリークルーってちゃんとメタルバンドですよね。そもそもMetallicaも1stの時はLAで活動していたし(2ndからサンフランシスコに移動し、クリフバートンが加入)、実はMetallicaの1stとモトリーの1stってけっこう音が近かったりします。感覚とか音作りとか。パーティーソングが多めですが悪魔的な歌(Shout At The Devilとか)もあるし、UKで発生したメタル的なイメージをしっかり受け継いでいるバンドだった。NWOBHMとも連動していた気がします。そんな彼らのきちんとメタル的な盛り上がりを見せるバラード。

Anthrax / Armed And Dangerous (1985)

スラッシュ四天王の一角、アンスラックスの緩急あるメタル・バラード。小気味よい疾走曲が多くいわゆる「わかりやすいバラード」はほとんどないバンド(いわゆる「メタルバンドがポップバラードを作ること」を揶揄したおふざけ曲N.F.B.(Dallabnikufesin)ぐらい)ですが、この曲はドラマティックな構成でまさにメタル・バラード。

Zeno / Love Will Live (1986)

元スコーピオンズのウリジョンロートの実弟、ジーノロート率いるZenoの名曲。Zenoのメンバーが主体となってFair Warningが結成されて日本で好評を博し、Zenoも再評価されることになりました。ゴスペル的な響きを持つ美しくドラマティックな曲。

Fates Warning / Guardian (1986)

USにおける「プログレッシブメタル」という音像を定義した第一世代、フェイツウォーニングのドラマティックな名曲。初期クィーンズライク(The Warningまで)とフェイツウォーニングの2組がこうした音像を作り上げたと言えます。

Metal Church / Watch the Children Pray (1986)

USパワーメタルの雄、メタルチャーチの名曲。メタルチャーチは歴史が古いバンドで1980年から活動、スラッシュメタルの黎明期に「スラッシュメタル的な音像」を提示しており、メタリカ結成前のラーズウルリッヒがオーディションを受けたことも。独特のダークでエピカルな感覚を湛えた名曲。80年代のいわゆる「メタルブーム」には乗れず、メタル界の中での評価にとどまったバンドですが、一つの時代・一つのジャンルを切り開いたパイオニアの凄味があります。

Metallica / Welcome Home(Sanitarium) (1986)

サンフランシスコに拠点を移し、クリフバートンを迎えて生まれ変わったメタリカが世に問うた2ndアルバム「Ride The Lightning」。ここでメタリカの特異性が花開きます。1stにあった欧州的なメロディアスかつドラマティックな曲構成とスラッシーな疾走感に一段上の作曲能力と抒情性が加えられ唯一無二の音像に変化。生み出された緩急がついたドラマティックなメタル・バラードがこの曲。

Candlemass / Under the Oak (1986)

ドゥームメタル、というジャンルの生みの親、キャンドルマスの重厚なバラード。ブラックサバス、バッジーが作り上げた音像を整理し、要素を抽出し、「ドゥームメタル」という指向性を持たせたのがキャンドルマスだったと言えます。黒魔法を感じる不思議な音楽。

Europe / Carrie (1986)

「メタルバンドが演奏したポップバラード」がヒットチャートをにぎわせた時代。ちょっとこのプレイリストの主旨とは離れますが、そうした曲の中でメロディの美しさで1曲選んでみます。北欧スウェーデンから現れ最大級の成功を収めたヨーロッパのバラード。ヨーロッパはこの後ポップバンド化して解散、復活後はオルタナティブロックを通過したブルージーなハードロックバンドに回帰していますが、やはりメロディを作り上げる才能は本物。

Helloween / A Tale That Wasn't Right (1987)

ジャーマンメタルの雄、ハロウィンの初期バラード。演歌的とも称される泣きメロ。これはスコーピオンズにもありますね。逆に言えばドイツの民謡的なメロディが日本人の考える「泣きメロ」の感覚に近いのでしょう。今の日本の音楽教育は明治以降のものだし、マイナーとかメジャーの感覚も音楽教育によるもの。クラシックが主体だから当時の中心地であったドイツ語圏の感覚を「懐かしい」と思うのかもしれません。個人的には泣きメロってスラブ系(フィンランドやロシア)のメロディにより強く感じるのですが。マイケルキスクが歌う演歌調バラード。

Manilla Road / Mystification (1987)

USパワーメタル! クリスウンゴルやジャグパンツァーと並びUSパワーメタルの黎明期から活動していたマニラロードの名曲。バラードというよりメロディの奔流という感じですね。エピカルでドラマティック。B級のくすぶった感じがしますが、このジャンルでしか得られない味わいがあります。USファンタジーノベルの世界観というか。

Crimson Glory / Lonley (1988)

超絶ボーカルと呼ばれたミッドナイト率いるクリムゾングローリー。初期クィーンズライクと比較されたりしましたが、このバンドはこのバンドで独特な世界観を持っていました。ちょっとパワーメタル的な要素もあるプログレッシブメタルというか。そんな彼らの名バラード。

220 Volt / Love Is All You Need (1988)

北欧から220 Volt。北欧のバンドってTNTもそうですけれど、意外に重低音がしっかりしているんですよね。メタル的な骨太さ、音圧があるというか。この曲もいかにも80年代的な甘美なラブ・バラードながらしっかりメタリックな音圧と迫力があります。

Riot / Bloodstreets (1988)

USパワーメタルというか独特な立ち位置を築いたRiotの名曲。静と動のダイナミズムが見事なメタル・バラードの王道展開。USのバンドとは思えない欧州的なメロディセンスを持ち、英国的とも北欧的ともいえるような独特なバンドでした。中心人物のマークリアリが夭逝した後、残されたメンバーはRiot Vとして活動中。

Lita Ford, Ozzy Osbourne / Close My Eyes Forever (1988)

サバス在籍時にはいわゆる「バラード」はほとんどなかったオジーですが(サイケデリックソング的なプラネットキャラバンなど、数曲は静かな曲もある)、ソロになってからはメロディアスなバラードも多く残しています。単純に歌が上手くなった(というか音程を取る歌い方を身につけた)のだと思う。そんなオジーがリタ・フォードとデュエットしたのがこの曲。80年代という時代を感じる名曲。

Impellitteri / Leviathan (1988)

イングウェイが現れて速弾きギタリストたちがスピードを競う中、最速と言われたクリスインペリテリ率いるインペリテリがデビュー。ボーカルにグラハムボネットを迎えた1stアルバムからの重厚かつドラマティックなナンバー。やっぱりリッチーブラックモアが様式美の祖だと思うし、レインボウの人脈は王家のように各地に散り血脈を伝えていきます。レインボウ王家に連なる名盤、名演、名曲。

聖飢魔II / Human Society (1988)

非英語圏で母国語でメタルシーンが生まれたのはフランス、ロシア、日本、スペインが速かったとソリタージュの項で書きましたが、日本からは聖飢魔Ⅱを最初にエントリー。Loudnessがパイオニアなんですがメタル・バラードということだとあまり適当な曲がないんですよね。後、途中から英語化してしまったし。聖飢魔Ⅱは独自のコンセプトを持ち、独自の音楽性も築き上げた素晴らしいバンド。J-POP的な日本ならではの凝ったコード進行と耳に残る歌メロが見事なバラード。

Flotsam And Jetsam / Escape from Within (1988)

元メタリカのジェイソン・ニューステッドが在籍していたアリゾナのフロットサムアンドジェットサム。ジェイソンがメタリカに移籍した後、ラーズウルリッヒに新ベーシストを紹介してもらってリリースした2ndアルバムがUSスラッシュシーンにおける名盤。

Yngwie Malmsteen / Hold On (1988)

ネオクラシカルのヒーロー、イングウェイマルムスティーン。ロシアで大人気であり冷戦中に共産圏でライブを行ったことがあります。そのせいか共産圏のバンドにはネオクラシカルなプレイヤーが多い印象。国によって神格化されているアーティストで、日本でも実はメタルアーティストの中ではゴールドディスクの枚数ならボンジョビクラスという大物。そんな彼が元Rainbowのジョーリンターナーを迎えてリリースしたアルバムからこのナンバー。泣きのギターが印象的です。

Queensrÿche / Suite Sister Mary (1988)

Fates Warningと並ぶUSプログレッシブメタルの先駆者、クィーンズライクが従来の路線からより曲単位の完結性を高め、大衆性を持ちつつアルバム全体でドラマを描き切った「Operation:Mindcrime」において、この曲は従来のプログレッシブメタル路線を濃厚に煮詰めたような密度の濃いドラマが描かれています。プログレッシブなメタルバラードの80年代の頂点。

Bathory / Blood Fire Death (1988)

ブラックメタルの黎明期に多大な影響を与え、後にバイキングメタルの祖とも言われるようになるバソリー。中心人物のクォーソンのソロプロジェクトであり、「一人ブラックメタル」の先駆者でもあります。「メタルという極端な音楽形態でないと表現できない大仰なドラマ」を一番体現しているジャンルはブラックメタルとパワーメタルだと思います。暗黒のバラード。

Vicious Rumors / Lady Took A Chance (1988)

USパワーメタル史に名を刻むヴィシャスルーモアズ。夭逝してしまったカール・アルバートをフューチャーした88年の名作からの堂々たるドラマティックなバラード。パワー”メタル”バラードはメタル・バラードの真髄。80年代後半、グラムメタルやヘアメタルがチャートを席捲する中、メタルブームによって幅広いバンドがレーベルとの契約を得て各種サブジャンルが発達し、その一つであるUSパワーメタルも着々とバンドが増え、名盤・名曲が生み出されていました。

Gary Moore / Bloods of Emeralds (1989)

北アイルランドが生んだギターヒーロー、ゲイリームーアの壮大な叙事詩。ハードロック路線の最終作となった「After The War」に収録されたナンバーで、穏やかな冒頭からツーバスが連打される壮大なエンディングまで、まさにメタルバラードという盛り上がりを見せる曲。ドラムはコージーパウエルです。

Savatage / When the Crowds Are Gone (1989)

US Power Metalの中で独自の存在感を発揮したサヴァタージの名バラード。ボーカルのジョン・オリヴァの癖が強く、後に専任ボーカルを迎えることになりますがジョンが歌うバラードには独自のアクがあり、吟遊詩人感があります。マリリオンの初期ボーカルFishとかピーターガブリエル的な演劇性があるんですよね。曲後半の少し情けなくも心を震わせる熱唱はジョンならでは。1996年にサイドプロジェクトとして始まった「クリスマスソングをメタル的エピカルさで演奏する」トランス・シベリアン・オーケストラが商業的に成功し、今ではそちらの活動がメインに。

Testament / The Ballad (1989)

サンフランシスコ、ベイエリアスラッシュの初期から活躍するテスタメント。1989年の3rdアルバムPractice What You Preachに収録されたメタルバラードで、メタリカのOne的なアコースティックギターを用いた曲。途中からザクザクしたギターリフが入ってきて加速します。この曲のおかげかアルバムも初のビルボードトップ100入りを果たします。今でもバリバリ現役で活動中で、ドイツのKreatorのように年々貫禄が増しているバンド。

Mr. Big / Anything For You (1989)

先日最終来日公演を行ったミスタービッグ。彼らのバラードと言えばTo Be With Youが筆頭ですが、あの曲はアメリカ音楽史に残る名曲だと思いますが「メタルバラード」ではないですよね。メタル的な盛り上がりということならこの曲を推したい。そこまで激しさはないですがVan Halen的な軽やかなギターフレーズとボーカルが絡み合うUSハードロック、メタルバンドならではの煌びやかなメタルバラード。

Dream Theater / The Killing Hand (1989)

ドリームシアターのバンド史の中であまり顧みられないファーストアルバム「When Dream and Day Unite」からのナンバー。このアルバムだけボーカルがジェームスラブリエではなくチャーリー・ドミニチという人。他のメンバーに比べて一回り上でこのアルバムリリース時点で38歳。他のメンバーはだいたい21とか22歳なので完全に上。その分キャリアもあり、実はけっこう歌が上手いんですよね。ステージアクションとか年齢差があったせいで長続きしなかったんだと思いますが、この1stはFates Warningや初期クィーンズライクに通じる「80年代USプログレッシブメタル」そのもの。というか、何も言われず聞いたらクィーンズライクだと思う。この曲も大仰に盛り上がる知られざる名メタルバラード。

Tesla / Love Song (1989)

オーソドックスなUSハードロックを掘り下げたテスラのアコースティックサウンドをうまく使った名バラード。一概に「ヘアメタル」と扱われて勢いを失ってしまいましたが、アコースティックライブアルバムをメタルアーティストではいち早くリリースしたり、ギミックに頼らない確かな演奏技術と作曲能力があったバンド。90年代のアルバムが長尺すぎて聞き飽きるという欠点を持っていますが(90年代のUSのバンドのほとんどのアルバムが長すぎた)1曲1曲で見るとクオリティが高く名曲が多いバンド。

McAuley Schenker Group / Anytime (1989)

ヘヴィメタル黎明期から活動し、知名度もあり、歴史に残る名曲を生み出しながらも今一つ世界的な商業的成功をおさめきれなかったマイケルシェンカー。彼もメタルのボーナス期と言える80年代にはUSのシンガーロビン・マッコーリーと組んでメインストリームでヒットしそうな曲をリリースしていました。彼の泣きメロのセンスはUSではあまり受けなかったんでしょう。ご存じの通り日本ではバカ受けで「神」と呼ばれるほどに。逆に日本ではマッコーリー時代はそこまで高評価でもない気がしますが、いい曲です。

X Japan / Endless Rain (1989)

非英語圏の中ではかなりメタルが盛り上がっていた日本、その中でも社会現象になったのがX(当時はX)でした。「日本らしさ」と「欧米のメタル」の折衷を果たしたハイテンションな名盤「Blue Blood」からのナンバー。他にないヒステリックな熱狂感、社会を巻き込むストーリー、そして改めて聞くとけっこう荒々しいプロダクション(曲によってけっこう音質が違ったりする)。そのあたりを含めて「80年代メタルの名盤」であり「当時まだまだ黎明期だった日本のメタルシーン」のドキュメント。聖飢魔Ⅱもそうですが、こうして世界のメタルバンドと並べて聞くと同時代性と特異性が分かります。

Toxik / There Stood the Fence (1989)

NYのスラッシュメタルバンド、トキシックのナンバー。もともと「TOKYO」というバンド名でしたが同名のバンドがいたために改名。商業的に成功は収められず1992年に解散してしまいますが足跡が評価されて後に再結成。現在も活動中です。この曲は当時スラッシュメタルバンドがこぞって取り組んだアコースティックパートを取り入れた曲なんですが80年代という時代性もあってけっこうメロディアス。ボーカルが何気にメロディアスに歌うのが上手いんですよね。

Ария / Раскачаем этот мир (1989)

80年代、非英語圏のメタルシーンが確立していたのはロシア、日本、スペイン(語圏)。あとはフランスが少し(中国や韓国が自国のシーンを確立するのは90年代に入ってから)。ロシアのアイアンメイデンと呼ばれたアリアの名盤Игра с огнём(1989)からのナンバー。ツインリードの感じも独特だし、やはりボーカルが全然違う。英語ではないので響き、発音が違うんですよね。

Loudness / Twenty-Five Days From Home (1989)

そして日本からラウドネス。ただ、ボーカルがマイクヴェセーラ期なので英語だし発音もネイティブです。やっぱり母国語で歌った方が聴きやすいとは思いますが、ハイトーンシャウトみたいな歌い方だと発声法の差が出てしまう気がするんですよね。90年代、フォークメタルが台頭したのはたいていがグロウルボイス、つまり言語差が分かりづらいからだと思います。この曲はマイクヴェセーラ期の名曲。ちょっと浮遊するギターがのちの北欧メロデスがたどり着いた境地(2010年代後半のAmorphisとか)っぽくて面白い。歌メロも大サビまで盛り上がる展開がGood。

Voivod / Missing Sequence (1989)

スラッシュシーンの中でも独自の立ち位置を築いているVoivod。カナダのバンドであり、カナダならではの「ちょっとUSとは違う感じ」がします。カナダ人からみたスラッシュシーン、とはこういう音像なのかもしれない。物理的距離があればライブで対バンすることも少ないし、やはり「違うシーン」なんですよね。独自解釈が生まれる。不穏な響きでスローにスタートし、Voivodならではの奇妙な展開を見せるメタルバラード。

Blue Murder / Valley Of The King (1989)

Whitesnakeの歴史的成功を収めた「Whitesnake」の立役者でありながら、カバーデイルの健康問題に端を発したバンドの崩壊によりスポットライトを浴びることがなかったジョンサイクスが再起を図って結成したブルーマーダー。鬱憤とほとばしるアイデアが詰め込まれたアルバムであり、楽曲のクオリティが高い。この曲は特にエピカル(物語的)でドラマティックです。ギターサウンド(歌メロの後ろのギターリフなど特に)や曲展開はWhitesnakeにおけるジョンサイクスの存在感を再確認させます。

Running Wild / Running Blood (1989)

ジャーマンパワーメタル、バイキングメタルの二つのサブジャンルで大きな存在感を持っていたランニングワイルド。不変の音楽性を持つバンドです。この曲は大仰な叙事詩的な曲。ミドルテンポの重厚なビートの上で力強い歌声に勇壮なギターメロディが絡み合う、展開も多めのドラマティックな曲。1曲聞くとかっこいいんですよねこのバンド。ずっと聞いているとパターンが少なくて疲れてくるんですけれど。

Viper / Living for the Night (1989)

ブラジルが生んだSepulturaと並ぶヘヴィメタルバンドAngra、その初期ボーカルであったアンドレ・マトスがAngra結成前に組んでいたバンドがこのViperです。こちらは名作とされる2作目「Theater Of Fate」からのナンバー。静かなアルペジオから始まりだんだんと盛り上がっていく王道のスタイルながらUSのヒットチャートとは無縁なシーンで活動していたためポップな色目はなく無骨かつ疾走感がある名曲。スローパートとファストパートがあるのはメイデン的な構造ですね。そこにジャーマンメタル(特にハロウィン)にも通じる人懐っこいメロディが載る。アンドレ・マトスは繊細な裏声とクラシカルなメロディを歌い上げる抒情性が印象的なボーカリストでした。残念ながら2019年に47歳の若さで亡くなってしまいましたが、南米のメタルシーンに大きな足跡を残したボーカリストです。

Voivod / Into My Hypercube (1989)

80年代ラストを飾るのはカナダ、ケベック州で80年代前半から活動を続けるVoivod。一時期、メタリカを抜けた後のジェイソンニューステッドも在籍していました。ハードコア由来というか、NIRVANAが出る前からグランジっぽい歪んだメロディセンスを持っていたというか、不安定で不穏な音選び、曲展開をするバンドです。かといって前衛的だったり分かりづらいことはなく、あくまで一つ一つのパートは勢いがある。広義の「プログレッシブロックバンド」というか、ロックの作曲語法を広げようとした意欲的なバンドであると言えます。この曲も静かに始まるものの先の展開がまったく読めない。名曲。



1980年代のメタルアーティストのイメージ
出典

以上、80年代後半編でした。一般にグラムメタルを中心としたメタルシーンが盛り上がり、メタルバンドのバラードヒットも最も多かった時代だと思います。セールス的には、実はメタルというか「激しいロック」が一番売れたのは90年代だったと思いますが、「80年代メタル」というイメージが確立し、メタルバンドがバラードでヒットを飛ばしたのは80年代。いわゆる「メタルバラードのプレイリスト」とかで多く扱われる年代だと思いますが、当連載1回目で書いた通り、”メタル”らしさを感じるかどうかの基準で王道プレイリストにはほとんど選ばれない曲を選んでみました。それぞれの曲が収録されているアルバムも名盤揃いですので、いい曲だなと思ったらアルバムの中でどう位置付けられているのか聞いてみてください。


70年代編はこちら

80年代前半編はこちら


それでは良いミュージックライフを。


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