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Enslaved / Utgard

Enslaved(エンスレイヴド)は1991年結成のノルウェーのバンドで、いわゆるノルウェーのブラックメタルやデスメタル、エクストリームメタルの源流や祖とされるバンドです。極端な攻撃性を求めた初期からだんだんとプログレッシブな音像に変わっていき、ほぼ同時期にデビューしたスウェーデンのOpethとも類似の音楽的変遷をたどっています。Utgardは2020年の15枚目のアルバムで、北欧神話をモチーフにした荒涼かつ壮大な世界観を音像で描き出しています。Utgardはウートガルズまたはウトガルズと読み、北欧神話の巨人の国(ヨトゥンヘイム)にあるロキが治める都市です。とにかく巨大な城壁に囲まれ、見上げるとうなじが背に付くとか(つまり、ほぼ垂直ですね)。突出した曲がないのが惜しまれますが、アルバムを通して完成度が高く、さすがの風格と構築力で独自の音世界を築いています。

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Fires in the Dark
古代語のような響きのチャントからスタート
アカペラの混声コーラスの後はアコギ、少しアーシーな響き
ディストーションサウンドとリズムが入り、先ほどのコーラスチャントが戻ってくる
ディストーションサウンドはブラックメタル的、空間の広がるアンビエント感がある
サタニックな声、邪悪なメロディ、音が鎌首を上げてマグマから這い上がってくるようだ
ギターリフとドラム
ダークな歌メロを朗々と歌い上げる、演劇的な声色の変化
不安定な音階で余韻を残すコーラス
ふたたびサタニックな声、クリーントーンのコーラスが対位する
火口からマグマが吹き上がり、天から別のものが下りてくるような対比
音作りにドラマがある
ギターソロに、少しオリエンタルな音階だが勇壮
クリアトーンのボーカル、演劇的な歌いまわしのパート
サタニックな声とクリアトーンの対比
宙に浮遊するようなバッキングの演奏
★★★★

2.Jettegryta
サタニックな声、グロール
地を這い、進むような音
メロディアスな単音リフ、ブラックメタルの音響
ドラムの手数は多いが音は丸い、この辺りがアンビエント感が強い
荘厳なコーラスからギターリフ
メロディアスなバッキングにグロウル、メロデス的だがドラムの音圧は強い
ところどころに祈りのようなコーラスが入る
場面の切り替わりがシームレスでうまい
ドラムはブラストを刻んでいる、間奏部は音の洪水
整理されてザクザクした刻みの音、70年代的な音作りかもしれない
ヴィンテージな耳触りがある
ギターの後、ムーグっぽいキーボード音が出てくる
プログレ的な展開を間奏で見せた後、再びグロールが出てくる
★★★★

3.Sequence
突然音が整理されたハードロック、パワーメタル的な刻みからスタート
ギターリフの輪郭がくっきり出る
グロールのヴァース、グロールとクリアコーラスがせめぎ合うコーラス
空間と余白を感じる
リフが展開する中で再びヴァースへ、鐘の音が入ってくる
再びメロディアスな掛け合い
間奏へ、ややプログレ的というか変拍子に無調のギターソロ
途中からブラスト、ブラックメタル的アンビエント感のある音の塊に
再び音が整理され、アコギと神秘的なサウンドエフェクトが入る
幽玄で落ち着いた展開、クリアトーンでゆらめくボーカルが入ってくる
オーロラのようにかすかにゆらぎながら展開する、冷たさを感じる音像
何かを探るような、異界へ誘うようなコード進行
氷の音のようにも聞こえる鐘の音、ところどころ何かを叩くような音がする
リフに戻る、ヴァースのグロールで終曲
★★★★

4.Homebound
刻み感がくっきりしているリフ、ベースが聞いている
上に空間的な飛翔するギターが乗る、ヴァースと共にブラストに移行、バックが音の塊になる
またリフに戻る、ヴァースへ、ヴァースだとバッキングがトレモロ単音
空間的で美しい、少しアコギの音が入ってくる
クリアボーカルでメロディアスなパートへ
ギターの刻み、最初とは違う展開したリフに、ミドルテンポのドラムをギターが引っ張る
音が広がり、飛翔するギターソロ
旅立ちの歌だろうか、どこかへ飛び立っていくようようにも、望郷のようにも
再びクリアボーカルのパートを経てグロール、単音トレモロ
そこからギターが舞い踊るパートを経てメロディアスなパートだが今度はクリアボーカルではなくスクリーム
単音トレモロだけが残り、壮大な音世界へ
透明感のある鐘の音が遠くでなり、ハミングがかすかに聞こえる
ドラムは手数が多い、静謐なドラマ
★★★★

5.Utgardr
風が吹きすさぶようなSEにまじり低い男の声が響く
語りが続き、機械的なベースの反復フレーズが入ってくる
音の輪郭が崩れ風に埋もれていく
2分弱のインタールード
★★★

6.Urjotun
はねるような電子音からスタート、電子音の反復に生ドラムが入る
ガレージっぽいベースが入る、ロックなノリ
ギターが入ってくるが輪郭はぼやけている、ギターメロディが少し入る
ベースと電子音ループが続いている、ドラムの装飾が所々に入る
プログレ、その中でもジャーマン/クラウトロック的、CANのような呪術性がある
かすかな男の声が入る、だんだんとサタニックな声に変わる
電子音の反復が曲を引っ張り、ドラムがアップテンポに
ギターが空間を埋める、時計が止まらず進んでいるような
表しているのは止まることのない時の川の流れだろうか
呪術的な声、ハーモニー
最後は電子音
★★★★

7.Flight of Thought and Memory
完全に右にパンが振られたギターから
両方に音が入ってきて疾走パートへ、ギターの音が完全に左右に分かれているのだろうか
音の混沌とした、全体としての塊感、バンドサウンドのオーケストレーションはかなり考えられている感じ
ブラストパートを経てクリアボーカルのパートへ、美しいメロディ
ふたたびグロールに戻り疾走、ギターのオーケストレーションが特徴的、ひいては返す波のよう
メロコア的な刻みになりドラムも疾走する
メロディアスなツインリード、必要十分なだけの音数だけでドラマを作っている
あまり過剰に展開しない
ふたたびグロールパートを経て、森に潜むようなミステリアスなパートへ
美しいピアノ音、反復フレーズ
いくつかのループするフレーズが重なり合ってレイヤーを形作る
Blood Incantationの長尺曲でもこんなループフレーズが出てきた、ブルデスとかブラックと相性がいいのだろう
あまり変拍子を使うとアンビエント感が薄れるし
このバンドが先駆者なのかもしれないが
★★★★

8.Storms of Utgard
ミドルテンポでゴシックな始まり、ギターが寄せては引く波のように響く
クリアトーンでゴシックなメロディ
ドラムが疾走をはじめ、タンタカタンの騎馬がけリズムになる
騎馬がけだとメイデンのRun To The Hillsを思い出す
ちょっとメロディアスなツインリードが入り、ベースも刻み感が強い、このバンドならではのメイデン風か
ボーカルはグロールなので全然雰囲気は違うが
変拍子が入り、ドリムシなどのプログレメタル的な感じが入ってくる
展開していく楽器隊、クワイアが入り、別のメロディになる、荘厳な雰囲気
黄金の砂漠、ピラミッド、メソポタミアの古都ウルク、その中を進んでいくような
やや乾いたメロディだがオリエンタル色が強いわけではない
風の吹き抜けるSE、砂が飛ぶイメージなどが砂漠感を出している
★★★★

9.Distant Seasons
静かなコードカッティング、ただ、ギターのコードハーモニーはあまり変わらない
轟音感はないが寄せては返していく、メロディアスなギター、ボーカル
ディストーションが入り少し音の波が強くなるがリズムは控えめ、メロディアスなギターが乗る
ボーカルはコーラスで穏やか、Ocean Machineのころのデヴィンタウンゼントのようでもある
轟音ギターのアンビエント、この曲はテンポもミドルテンポでメロディにデヴィン感がある
クリアトーンでボーカルが進み、メロディが展開する、ハーモニーが重なる
メロディアスなギターソロへ、後ろは音の塊、ハーモニーが聞こえる
何かの終焉か黄昏か、ラグナロクの後の鎮魂歌か、あるいは嵐の前の静けさか
ドラムの打音は手数は少なくシンプルながら力強く胎動を感じる
アコギのカッティングだけが残り終曲
★★★★

全体評価
★★★★
全曲クオリティが高い、作りこまれている
突出した曲はないが、退屈な曲もない
どの曲もさまざまな音楽要素が取り入れられ、滂沱の感動的な瞬間はないがずっと注意を惹かれる
ブラストビートの音の塊、トレモロでのメロディ、轟音アンビエントみたいなパートと
ギターの刻みがくっきり出てくるパートの使い分けが面白い
プログレ的な手法もクラウトロック的な反復フレーズからドリムシ的な変拍子まで使い分けている
引き出しが多く、それらをうまく組み合わせている印象、統制された音楽
全体的に余裕を感じる素晴らしい出来だが、抑揚が効いているのでもう一歩感情の振れ幅が大きいと良かった

リスニング環境
夕方・家・ヘッドホン

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