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Joanna Connor / 4801 South Indiana Avenue

この動画をこちらの記事で知って度肝を抜かれたバンド。

2021年、新譜がリリースされたので聞いてみました。Allmusicの評価も★4.5(新譜で★4.5は凄い!)、期待が高まりますね。

では聞いていきましょう。

1 Destination 3:31 ★★★★★

ドラムからスタート、そこから彼女の代名詞のような音が飛び回るスライドギター。ハードロック好きなのかなぁ、奏法が独特。ただ、そもそも昔のブルースの人ってそれぞれ独自奏法を編み出したりしていたよね。今だとヒューマンビートボックスの人がそれぞれ新技を繰り出す、みたいな。ブルースもいわば一人芸、黒人がプランテーションの休憩の時にふと慰みに一芸(歌)を披露する、みたいな形でスタートしているから、観客の度肝を抜こう、とか、それぞれ持ち技があった。ブルースではないがジャンゴ・ラインハルトなんかもひたすら自分の得意技を追求していったらいつの間にかえらく早弾きになっていた、とか。ギターを前にしてどれだけ自由に創造性を発揮できるか、そういうことを問われるのがブルースなのだと思う。プリミティブな形だと一人でやるものだし。

この人にもそうした「自分なりの得意技」を感じる。好きで掘り下げてるんだろうなぁ。あと、アメリカはやっぱり広いし音楽市場も大きいから、エンタメとして生き残るのはプロ意識が必要だし、プロ意識があってしっかり掘り下げていけば食っていける。土着でしっかり根付いているバンドの印象。以前紹介したカントリーのファミリーバンド、The Petersensも思い出した。ひたすら心地よいしかっこいい。



2 Come Back Home 4:19 ★★★★

オーソドックスなブルース、ソロではギンギンに歪んだスライドギター。ドラムが軽やかで脱力した感じながらしっかりシャッフルしている。なんか投げやりでルーズな感じだけどオンタイムでカッコいい。何気ないというかすごくシンプルに叩いているだけなんだけど。そこに呼吸するようにギンギンのギター。ボーカルが強すぎないのもいい。ルックス知ってるからアレだけど、音だけだとそんなにパワフルでもない。か細い、とか、繊細というわけでもないが、ブルースとしては普通で聞きやすい部類。かといって演奏全体には粗さ、「完成されていない魅力」がある。エンタメというかプロフェッショナルであることは分かるのにルーズな感じというのは凄い。完全にブルースで、めちゃくちゃ保守的(形式的で冗長)なのにどこか空気感がパンク。

3 Bad News 6:26 ★★★★☆

「I Woke Up This Morning」からスタートかな。このフレーズ、ブルースでは常套句。朝からスタートして何があったか、的なことを言う、いわば定型の一発ネタというか、そこで愚痴を並べて「あるある」的な共感を得るというか。そういうフォーマットがある。ロバート・ジョンソンのドキュメンタリーがNetflixにあって、それを見ると当時の様子が良く分かる。

話を戻そう、ベタベタな展開ながらギターが泣きまくるな。音色はピンクフロイドデヴィッドギルモアのような、けっこうリバーブがかかって一音一音が強い。ギルモアよりは手数多めだけれど、ゲイリームーアほど弾きまくっていない。ギターソロの途中でピアノソロへ、ピアノはかなりジャジー、それほど不協和音は強くない、適度。そこのうしろでサイケな、ファズがきいたギターサウンドがなっている。本当にギターサウンドはピンクフロイドっぽいなこの曲。Dark Side Of The Moonのころのフロイドに近い。オーソドックスなブルースなのに、サウンドメイクとかバランスが良くて緊迫感を保ったまま聞ける、つまらない感じ、冗長な感じが無い。最後、けっこう強めのシャウトで終わり。熱量が上がるな。

4 I Feel So Good 3:35 ★★★★☆

Black Sabbathのような不吉な鐘の音でスタート。そこから軽快なリズムに変わる、シャッフル。そしてギター早弾きというか、カントリー的なハンマリング多用のフレーズ。そのままの勢いでボーカルが入ってくる、けっこう圧巻の声を張り上げる歌い方、ボーカルにややディストーションがかかっている、50年代の録音のような、自然に音が割れた感じ。かなり勢いがある。シャウトを一通り続けてギターソロへ、ドラムとギターだけ、飛び回るギター、スライドで音階移動が激しい、なんだろうなぁ、よく聞くと全然違うんだけど、個人的にはエディ・ヴァン・ヘイレンを思い出したんだよなぁ。左手がフレット上を飛び回るという視覚的なものだろうけれど。それにハードロックほどアクロバティックではない、ブルースの範疇にはある。ただ、革命というか、なんだろう、王道なのにちょっと枠を外れた感じがする。一度終わったかと思ったら激烈性を増してまた入ってくる、パンキッシュだな。


5 For The Love Of A Man 4:20 ★★★★

勢いがある、ブルース、ホーンセクションも入ってくる。ただ、音が熱い。ここに至るまでのアルバムの流れもいいが、なんだろうなぁ、このギター、ギンギンしてて音が飛び回る感じがスリルを出している。ハードロック的、メタル耳に刺さる音。いいね。リフ。なんだかんだロックンロールが好きなんだな。完全なブルースより、UKで再解釈された音楽(いわゆるブリティッシュ・インベンション、4大ビートバンド)が好きというのが根本にあって、その影響下にあるサウンドが好き。これはフォーマットはかなりルーツ・ブルースだけれど、パフォーマンス、特にギターがハードロックやロックンロール的。

6 Trouble Trouble 3:40 ★★★★

ノリがいいリフ、からのかなりイナタいブルースへ。ピアノも入ってくる、後期B.B.Kingとか、クラプトンとやったRiding With The Kingみたいな「洗練されてポップロック的なブルース」をやっている。が、あくまで「ブルース」。しっかり骨子がある。ピアノやドラムのリラックスしながらもけっこう派手に弾いてる感じもいい。やっぱりギターが飛び回って音を埋めるから、そこにさらに足しやすい、合いの手を入れやすいのかな。緊迫感がある、音の余白を神経を研ぎ澄ませて埋めていく、みたいなことより、ギター、ボーカル、とにかく手数・口数が多くて発信量が多い、ぐいぐい引っ張っていく。だからほかのメンバーが自由にやれている感じ。おしゃべりなおばちゃん力というか、有無を言わせずぐいぐい引っ張っていく。肝っ玉。

7 Please Help 4:14 ★★★★☆

60年代ロックンロール的な、いやもうちょい前の50年代ロックンロールか。とにかくロックンロールのリズム。チャック・ベリーあたりを連想。ベースのリフが印象的、王道ブルース一辺倒ではなく、さまざまなリズムパターンが次々と出てくるのがいいなぁ。きちんとスロウに聞かせるブルースもやりつつ、軽快に攻めてくるナンバーも多い。ギターソロは弾きまくっている。ああ、スライドギターを使っているからカントリー的な要素もあるのか。アメリカ音楽の豊饒さを感じるなぁ。

8 Cut You Loose 4:09 ★★★★

ややスロウテンポのナンバー、途中でテンポチェンジ、というかBPMは変わらないが手数が減ってタメが入る、ボーカルがハードロック的。ギターサウンドが気持ちいいなぁ。音作りの時点で快感性が高い。スロウで聞かせるパートと軽快に進む(といっても散歩ぐらいの速度だが)。散歩と千鳥足が交互に出てくる感じ、か。曲構成はオーソドックスなブルース。オーソドックスな入れ物の中に編曲、プレイでいろいろな遊び心を足している。偶然だろうが、アウトロ近くのギターだけになるところで最初一瞬Deep PurpleのBurnのリフみたいに聞こえる。あれも確かに、運指的にはブルースギタリストがやってもおかしくないものなぁ。曲全体としてみるとクラシックを取り入れたロックンロールに仕上げてるけど。

9 Part Time Love 5:06 ★★★☆

後半、一息ついてきた感じか。終わりに向けてやや落ち着いた曲。ホーンも入ってくる、ブルース・ブラザース的。ポップで聞きやすいブルース。ギターも弾きまくり、肩の力の抜けた一曲。

10 It's My Time 4:19 ★★★★

語るような、トーキングブルース。低音でギターがうごめく、そこから幽玄なボーカルが入ってくる。ほー、また違う感じ。ベルベット・アンダーグラウンド&ニコのような、なんだろう、古い時代のNYアンダーグランド的というか。ベースの音が曲の輪郭を作り、ところどころメロディアスなコーラスが入り、スペーシーなキーボード音が乗る。そこにギターが入ってくる。UKで話題のDry Cleaningにも少し近いかも。楽器隊はあそこまでフリーキーではないが。

総合評価 ★★★★☆

素晴らしい、聞いていて心地よいし、楽しい。ルーツ、ブルースの典型に収まりながら、音はちょっと煌びやかというか、娯楽性が高いハードロック的な装飾もされていて、だけれどルーツに根差しているしプレイヤーのプロフェッショナリズム、それは独自の個性を持っているというレベルまで含めて、を感じる。US音楽シーンの広さ、凄さを感じる1枚。こういう人がいるのが凄いですね。

Joanna Connor(ジョアンナ・コナー)は1962年生まれで、2021年時点で58歳。シカゴで活動しておりシカゴ・ブルースの流れの人。1987年に自分のバンドをはじめ、1989年にデビュー。今まで14枚のリーダーアルバム(ライブ盤含む)を出しています。ベテランの風格があります。


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